第14話 海賊襲来
海鮮料理大会も無事(?)終了し、さらに海産物の女神扱いされてしまった伊織。
しかし、平和な海辺に不穏な影が近付いていました。
今回は第二部初の本格的なトラブル回です。
とはいえ、この作品なのでシリアス一色にはなりません。
海賊たちに待ち受ける運命とは――。
第14話「海賊襲来」、どうぞお楽しみください。
嫌な予感というものは、だいたい当たる。
私は最近、それを学んでいた。
海王様扱いされたり。
温泉街を作られたり。
海産物の女神に認定されたり。
全部、嫌な予感から始まっている。
そして今。
私は海辺の岩の上に座りながら、沖を見つめていた。
「やっぱり増えてる……」
水平線の向こう。
黒い帆を掲げた船団が見える。
昨日見た時より近い。
しかも数が増えている気がする。
触角がぴくぴく動く。
完全に警戒モードだった。
「絶対ろくでもないやつだ……」
私はため息を吐いた。
面倒ごとの匂いしかしない。
関わりたくない。
全力で関わりたくない。
そんなことを考えていると。
「伊織ちゃーん!」
元気な声が聞こえた。
ミナである。
今日も元気だ。
私の憂鬱なんて知らずに駆け寄ってくる。
「どうしたの?」
「船」
私は沖を指差した。
ミナは目を細める。
そして。
「あっ」
顔色が変わった。
珍しい。
いつも元気なミナが真面目な顔をしている。
「まずいかも」
「知ってる船なの?」
「うん」
ミナは頷いた。
「海賊船だよ」
「やっぱり」
予想通りだった。
少しも嬉しくない。
「この辺の村を襲ってる海賊団」
「へぇ」
「へぇじゃないよ!?」
ミナが慌てる。
だが私は冷静だった。
いや。
諦めていたと言うべきか。
どうせまた何か起きる。
最近の流れ的に確実だ。
「村長呼んでくる!」
ミナは走り去った。
私は空を見上げる。
平和な青空だった。
どうして平和な景色の中で問題ばかり起きるのだろう。
その日の午後。
村は大騒ぎになっていた。
村人たちが慌ただしく動き回る。
漁船を避難させる。
荷物を運ぶ。
簡易的な柵まで作り始めた。
村長の顔も険しい。
「まずいですかな……」
「強いの?」
私は聞いた。
村長は頷く。
「数年前から近海を荒らしておる」
「へぇ」
「商船も襲われた」
「ふーん」
「村も焼かれたことがある」
「それは嫌だね」
私は素直にそう思った。
せっかくのスローライフだ。
家を焼かれたら困る。
だが。
だからといって戦うのも嫌だ。
非常に嫌だ。
面倒だから。
「どこか避難しようかな」
私は本気で考えた。
山の方に隠れていればいいのではないか。
海賊が帰った後に戻ればいい。
完璧である。
そう結論を出した私は、さっそく荷物をまとめ始めた。
すると。
ざばぁっ!
海から巨大な水柱が上がった。
「海王様!」
「こんにちは」
人魚姫ルナだった。
いつものことで驚かなくなった自分が怖い。
ルナは真剣な顔をしている。
「海賊が来ています」
「そうみたいだね」
「ご命令を!」
「ないよ」
即答だった。
「え?」
「私は逃げる」
ルナが固まった。
「逃げる?」
「うん」
「海王様が?」
「うん」
「なぜです?」
「面倒だから」
本音だった。
ルナはしばらく沈黙した。
そして。
「深い……」
「違う」
「戦いを避けることで無益な争いを防ぐお考えなのですね!」
「違う」
「さすが海王様!」
話が通じなかった。
いつも通りである。
夕方。
海賊船はさらに接近していた。
もう肉眼ではっきり見える。
黒い旗。
武装した男たち。
見るからに悪そうである。
私は荷物を背負った。
準備完了。
山へ避難する。
それだけだ。
「じゃあ行こう」
私は村の裏手へ向かった。
すると。
ぴくっ。
触角が反応した。
海の異変を感じる。
「ん?」
私は振り返った。
その瞬間だった。
どごぉぉぉぉん!
轟音が響いた。
海面が大きく揺れる。
村人たちの悲鳴。
海賊たちの叫び。
私は目を丸くした。
「なに?」
沖を見る。
そして固まった。
海賊船が傾いていた。
一隻ではない。
二隻。
三隻。
次々と。
「え?」
どごん!
ばきばきばきっ!
木材が砕ける音。
船底が岩礁にぶつかっていた。
どうやら座礁したらしい。
しかも盛大に。
海賊たちは大混乱だった。
「な、なんだ!?」
「岩礁なんてなかったぞ!」
「舵が効かねぇ!」
「助けろぉ!」
私はぽかんと見ていた。
何もしていない。
本当に何もしていない。
その時。
村人の一人が叫んだ。
「海王様だ!」
嫌な予感。
ものすごく嫌な予感。
「海王様が海を操ったんだ!」
「違う」
「海賊を裁いた!」
「違う」
「神罰だ!」
「違うって!」
しかし誰も聞いていなかった。
海賊船の方でも異変が起きていた。
海賊たちがこちらを見ている。
そして。
一人が叫んだ。
「白髪の少女だ!」
「海王だ!」
「海王様だ!」
「え?」
なんで知ってるの。
海賊たちの顔が青ざめていく。
「噂は本当だった!」
「海を支配する神獣!」
「怒らせたんだ!」
「だから違う!」
私の声は届かない。
海賊たちは完全にパニックになっていた。
さらに運の悪いことに。
ざばぁぁん!
ルナが派手に登場した。
背後には人魚族の戦士たちまでいる。
「海王様!」
「今じゃない!」
「ご命令通り海賊船を迎撃しました!」
「命令してない!」
だが海賊たちは聞いていなかった。
いや。
聞く余裕がなかった。
顔面蒼白で震えている。
「人魚軍だ……」
「海王軍だ……」
「終わりだ……」
勝手に絶望していた。
そして海賊船の船長らしき大男が叫ぶ。
「逃げろぉぉぉ!」
海賊たちは一斉に海へ飛び込んだ。
泳いで逃げ始める。
完全敗走だった。
私は呆然と立ち尽くす。
戦ってない。
何もしてない。
ただ避難しようとしていただけだ。
なのに。
村人たちは歓声を上げていた。
「海王様万歳!」
「海王様が海賊を追い払った!」
「英雄だ!」
「救世主だ!」
私は頭を抱えた。
違う。
本当に違う。
その時。
逃げていた海賊たちの叫び声が聞こえた。
「海王様の怒りだぁぁぁ!」
「神罰だぁぁぁ!」
「もう悪いことはしませんー!」
海賊たちは泣きながら海の向こうへ消えていった。
私は空を見上げた。
今日もいい天気だった。
本当にいい天気だった。
なのに私のスローライフだけが、どんどん遠ざかっている気がした。
そして翌朝。
村長が満面の笑みで私の家へやって来た。
「伊織殿!」
「なに?」
「近隣の村から使者が来ております!」
嫌な予感。
「海賊退治の英雄に会いたいそうですぞ!」
私はそっと家の扉を閉めた。
だが。
その程度で面倒ごとから逃げられるなら、今まで苦労はしていなかった。
第14話を読んでいただきありがとうございました!
海賊襲来というとバトル展開を想像するかもしれませんが、この作品の主人公は「戦いたくない」「働きたくない」「面倒ごとは嫌」というタイプです。
そのため今回も全力で逃げようとしました。
結果として海賊たちの方が勝手に大混乱してしまいましたが……。
本人は本当に何もしていません。
たぶん。
そして海賊たちが残していったものは、実は次回の重要アイテムになります。
第15話は「海賊船をもらった」。
伊織が新たな移動手段を手に入れるお話です。
今後の冒険にも繋がる回になりますので、ぜひお楽しみに!
面白かったらブックマークや評価をいただけると、とても励みになります!




