第13話 海鮮料理大会
温泉を見つけた結果、なぜか温泉街の開発が始まってしまった伊織。
本人は静かに暮らしたいだけなのですが、周囲はどんどん盛り上がっています。
今回は海辺らしく海鮮料理回です!
異世界ではまだ一般的ではない調理法を披露する伊織ですが、もちろん普通に終わるはずもなく……?
第13話「海鮮料理大会」、お楽しみください。
海王温泉。
そんな名前の施設が村に誕生してから数日が経った。
相変わらず私は認めていない。
認めていないのだが、村人たちは毎日温泉に入りに来ていた。
しかも近隣の村からも人が来るようになったらしい。
おかしい。
私は温泉を掘っただけだ。
それなのに村はちょっとした観光地になりつつある。
「なんでこうなるかなぁ……」
私は温泉の縁に座りながらため息をついた。
ぽちゃんと足を浸ける。
気持ちいい。
温泉だけは本当に最高だった。
すると後ろから元気な声が聞こえてきた。
「伊織ちゃーん!」
振り返るとミナが走ってきた。
今日も元気いっぱいである。
「おはよう」
「おはよう!」
ミナは笑顔で私の隣に座った。
そして突然、拳を握る。
「料理大会やろう!」
「……はい?」
意味が分からなかった。
私は首を傾げる。
「なんで?」
「だって魚いっぱい獲れるじゃん!」
「うん」
「畑もあるじゃん!」
「うん」
「温泉もあるじゃん!」
「うん」
「だからお祭り!」
論理が飛躍している。
だがミナは本気だった。
目がきらきらしている。
嫌な予感しかしない。
「私は別に……」
「村長に話してくるね!」
「待って」
遅かった。
ミナは全力疾走で村へ向かっていた。
嫌な予感しかしない。
本当に嫌な予感しかしない。
翌日。
海辺には特設会場が作られていた。
「なんで!?」
私は思わず叫んだ。
昨日提案されたばかりだ。
なのに会場がある。
屋台がある。
観客席まである。
村人たちの行動力がおかしい。
村長が胸を張った。
「海鮮料理大会じゃ!」
「開催決定してたの?」
「もちろんですぞ!」
してたらしい。
私だけ知らなかった。
その時だった。
ざばぁっ!
海面から大きな水柱が上がる。
見慣れた光景だ。
人魚姫ルナが現れた。
「海王様!」
「こんにちは」
「本日は海王様主催の料理大会と聞きまして!」
「主催してない」
「人魚族も参加いたします!」
「話聞いてる?」
聞いていなかった。
いつも通りである。
こうして海鮮料理大会が始まった。
参加者は漁村の料理自慢たち。
さらに人魚族の料理人まで加わった。
審査員は村長。
ミナ。
ルナ。
そしてなぜか私。
「なんで私も審査するの?」
「海王様だからです!」
「海王様じゃない」
誰も聞いていなかった。
最初の料理が運ばれてくる。
魚を丸ごと焼いた料理だった。
香ばしい匂いが漂う。
「いただきます」
私は一口食べた。
美味しい。
だが少し焼きすぎだ。
「美味しいね」
「おお!」
料理人が喜んだ。
続いて魚のスープ。
魚介の旨味が溶け込んでいる。
こちらも美味しい。
会場は大盛り上がりだった。
だが。
途中で私は気付いた。
「みんな生で食べるか焼くだけなんだ」
この世界の魚料理は驚くほど単純だった。
調味料も少ない。
調理法も少ない。
だから素材の味に頼る料理ばかりになる。
その時だった。
ミナが私を見た。
「伊織ちゃんも出ればいいのに」
「え?」
「料理得意でしょ?」
私は少し考えた。
確かに。
前世の知識なら多少ある。
せっかくだし作ってみようか。
「じゃあ少しだけ」
会場がざわついた。
海王様が料理を作る。
そんな認識になっているらしい。
私はため息をつきながら調理場へ向かった。
まず魚をさばく。
村人たちが驚く。
「おお……」
「手際がいい……」
前世では動画で覚えただけだ。
そこまで上手くない。
ただ、この世界基準では珍しいらしい。
最初に作ったのは焼き魚だった。
塩を振る。
炭火でじっくり焼く。
皮はぱりっと。
中はふっくら。
香りが立ったところで完成だ。
「はい」
審査員たちが食べる。
数秒後。
固まった。
「……え?」
村長が目を見開く。
「同じ魚じゃよな?」
「同じだよ」
「なぜこんなに美味いのじゃ!?」
ただ丁寧に焼いただけである。
次は煮魚。
醤油の代用品と砂糖代わりの果実を使って味付けする。
ぐつぐつ煮込む。
照りが出たところで完成。
ルナが一口食べた。
そして。
「海王様ぁぁぁ!」
泣いた。
なぜ。
「魚が口の中でほどけますぅぅぅ!」
「大げさだなぁ」
「海の恵みが祝福されています!」
「ただ煮ただけなんだけど」
誰も信じなかった。
そして三品目。
天ぷらだった。
前世の知識を頼りに衣を作る。
魚。
海老。
野菜。
それを油へ投入する。
じゅわぁぁぁ。
会場中に音が響いた。
観客たちがざわつく。
「揚げてる?」
「なんだあれ?」
「初めて見るぞ」
やがて黄金色になった。
完成である。
私は皿へ盛り付けた。
「どうぞ」
村長が恐る恐る食べる。
サクッ。
次の瞬間。
「うまいぃぃぃぃ!」
叫んだ。
会場がざわつく。
ミナも食べる。
「何これ!」
ルナも食べる。
「神の食べ物です!」
「そこまでは言ってない」
しかし観客たちは興奮していた。
未知の料理だったのだ。
そして最後。
干物である。
これは私のお気に入りだ。
魚を塩漬けにし、干して旨味を凝縮する。
地味だが強い。
焼いて提供すると、香ばしい匂いが広がった。
村人たちは感動していた。
「保存もできるのか!」
「長持ちするぞ!」
「すごい!」
こちらは実用性で大好評だった。
気付けば会場全体が大騒ぎになっていた。
「海王様万歳!」
「海王様の料理だ!」
「海王様の知恵だ!」
私は頭を抱えた。
違う。
本当に違う。
ただの前世知識だ。
そんな私の前へ村長がやってくる。
なぜか神妙な顔だった。
嫌な予感しかしない。
「伊織殿」
「なに?」
「我々は気付きました」
気付かなくていい。
本当に気付かなくていい。
村長は天を見上げた。
そして高らかに宣言する。
「海王様は海産物の女神だったのじゃ!」
「違う」
即否定した。
しかし遅かった。
会場は爆発した。
「海産物の女神様だ!」
「魚を究極の姿へ導く御方!」
「海の料理神だ!」
「豊穣の女神だ!」
称号が増えている。
しかも悪化している。
私は海王様だけでも困っているのに。
そこへルナが目を輝かせながら言った。
「海王様!」
「なに?」
「人魚王国でも料理大会を開催しましょう!」
「やらない」
「世界海鮮祭典ですね!」
「話を聞いて」
ミナも負けていなかった。
「伊織ちゃん!」
「なに?」
「次は各村対抗戦やろう!」
「やらない」
「面白そう!」
私の意見は完全に無視された。
その時だった。
海の向こうに見慣れない船影が見えた。
大きい。
かなり大きい。
漁船ではない。
商船でもない。
黒い帆を掲げた船団だった。
村人たちはまだ気付いていない。
だが私の触角はぴくりと反応していた。
嫌な予感がする。
とても嫌な予感が。
どうやら次の面倒ごとが、海の向こうからやって来ているらしかった。
第13話を読んでいただきありがとうございました!
今回登場した焼き魚、煮魚、天ぷら、干物はどれも海産物の定番料理ですね。
特に干物は保存食としても優秀なので、海辺の村との相性は抜群です。
伊織としては「知っている料理を作っただけ」なのですが、異世界の人たちからすると未知の技術に見えてしまいました。
その結果、海王様から海産物の女神へと称号が増えることに……。
本人の知らないところで伝説だけが積み上がっていきます。
そしてラストに現れた黒い船団。
次回はいよいよ海賊襲来です。
平和な海辺に訪れる新たな面倒ごとをお楽しみに!
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