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第12話 温泉を見つけた

前回、海老畑を作った伊織。

本人は普通に肥料を撒いただけなのですが、なぜか海王様の奇跡扱いされてしまいました。

今回はスローライフのお約束イベントその2。

温泉回です!

海辺で畑を作り、温泉まで見つける。

だいぶ理想のスローライフに近付いてきた気がしますが、果たして本当に平和に終わるのでしょうか。

海王農法。

そんな謎の名前が村で定着してから三日が経った。

もちろん私は認めていない。

認めていないのだが、村人たちは勝手に畑を増やし、勝手に野菜を育て、勝手に感謝していた。

おかしい。

私はただ肥料を撒いただけだ。

それなのに最近では、

「海王様の農業革命」

などという意味不明な呼び方までされている。

勘弁してほしい。

「はぁ……」

私は家の前でため息をついた。

今日も天気は快晴。

波は穏やか。

スローライフ日和である。

なのに心は穏やかじゃない。

「どこか静かな場所ないかなぁ」

私はそう呟きながら海岸沿いを歩き始めた。

こういう時は散歩に限る。

のんびり歩いていれば気分も落ち着く。

そう思ったのだが。

ぴくっ。

突然、頭の上の触角が反応した。

「ん?」

ぴくぴく。

ぴくぴくぴく。

何かを感じ取るように触角が動く。

私は立ち止まった。

最近分かってきたことだが、この触角は妙に便利だ。

魚群を察知したり。

潮の流れを感じたり。

危険を察知したり。

もはやレーダーである。

「何かある?」

私は首を傾げた。

触角は山の方を向いている。

海ではない。

珍しい。

私は気になって歩き始めた。

しばらく進むと、小さな岩場へ辿り着く。

海岸から少し離れた場所だ。

すると。

ぴくぴくぴくぴくっ!

触角が激しく反応した。

「うわっ」

思わず頭を押さえる。

なんだろう。

地面の下から何かを感じる。

流れ。

水。

そんな感覚だった。

「地下水?」

私は地面にしゃがみ込んだ。

前世の知識がふと思い出される。

地下水脈。

もしかして。

「掘ったら水が出たりする?」

ちょっと面白そうだった。

私は近くに落ちていた木の棒を拾う。

そして地面を掘り始めた。

ざくっ。

ざくっ。

ざくっ。

土は意外と柔らかい。

私は夢中になって掘った。

すると。

ざばっ。

「お?」

地面が少し湿った。

さらに掘る。

ざくっ。

ざくっ。

ざばぁっ!

突然、水が吹き出した。

「うわぁ!?」

私は飛び退いた。

地面から勢いよく水が噴き出している。

まるで小さな噴水だ。

「すごっ」

私は思わず目を輝かせた。

成功である。

地下水脈を当てたらしい。

しかし。

そこで違和感に気付いた。

「ん?」

私は水に手を入れる。

温かい。

かなり温かい。

むしろ。

「これ、お湯じゃない?」

私は目を丸くした。

もう一度触る。

やっぱり温かい。

間違いない。

お湯だ。

天然温泉だった。

「温泉だぁぁぁ!」

思わず叫んだ。

異世界転生してから初めての温泉である。

お風呂文化が恋しかった私としては大事件だ。

私は急いで穴を広げ始めた。

二時間後。

簡易温泉が完成した。

石を並べて湯船っぽくする。

湧き出したお湯を溜める。

完璧だ。

私は服を脱ぎ、温泉へ入った。

ちゃぷん。

「あぁ~~~~~……」

思わず声が漏れた。

最高だった。

温かい。

気持ちいい。

疲れが溶ける。

畑作業の疲労も。

海で泳いだ疲労も。

全部消えていく。

「温泉最高……」

私は完全にだらけていた。

その時だった。

「伊織ちゃーん!」

聞き慣れた声がした。

私は嫌な予感がした。

振り返る。

ミナだった。

「何して――」

ミナは固まった。

温泉を見る。

私を見る。

また温泉を見る。

数秒後。

「えええええええええっ!?」

大絶叫した。

山に木霊するほどの声だった。

「な、なにこれ!?」

「温泉」

「温泉!?」

「うん」

「なんで!?」

「掘ったら出た」

ミナは理解不能という顔になった。

「掘ったら出たって!」

「出たんだもん」

事実である。

するとミナは温泉に触れた。

そして目を輝かせる。

「あったかい!」

「でしょ?」

「すごい!」

嫌な予感しかしない。

案の定だった。

一時間後。

村人たちが集まっていた。

「温泉だ!」

「本当に温泉だ!」

「こんな場所に!?」

みんな大騒ぎである。

私は端っこでお湯に浸かっていた。

平和である。

だが。

村長が現れた瞬間に終わった。

「なんと……」

村長は震えていた。

私は知っている。

この反応は危険だ。

非常に危険だ。

そして。

「海王様が大地の恵みを呼び覚ました!」

「違う」

即否定した。

しかし遅い。

「奇跡だ!」

「海王様の御業だ!」

「神跡だ!」

「だから違うって!」

誰も聞いてくれない。

そこへ海からルナも現れた。

ざばぁっ!

水柱と共に上陸する。

相変わらず派手だ。

「海王様!」

「こんにちは」

「なんと素晴らしい!」

ルナは温泉を見るなり感動していた。

「海王様はついに海底の温泉脈まで操られるのですね!」

「操ってない」

「さすが海王様です!」

「話を聞いて?」

聞いてくれなかった。

その日の夕方。

村人たちは温泉を囲んで宴会を始めた。

野菜。

魚。

酒。

歌。

踊り。

もはや祭りである。

私は湯船に浸かりながらぼんやり空を見上げた。

「まあ、温泉ができたならいいか」

これで毎日入れる。

スローライフがさらに快適になる。

私は満足していた。

その夜。

幸せな気分で眠りについた。

そして翌朝。

私は家を出た。

そこで固まった。

「……は?」

目の前には立派な建物があった。

昨日まで存在しなかったはずの建物だ。

木造。

巨大。

看板付き。

湯気まで出ている。

入口には大きく書かれていた。

『海王温泉』

「なんで?」

私は呆然とした。

さらに周囲を見る。

露天風呂。

休憩所。

食堂。

売店。

更衣室。

全部完成していた。

たった一晩で。

村人たちは誇らしげに胸を張る。

「海王様!」

「完成しました!」

「皆で徹夜しました!」

私は頭を抱えた。

おかしい。

絶対におかしい。

すると村長が笑顔で言う。

「次は宿泊施設ですな!」

「次?」

「温泉街を作りましょう!」

「待って」

嫌な予感がする。

とても嫌な予感がする。

だが。

誰一人として私の制止を聞かなかった。

どうやら私のスローライフは、今度は観光地開発へ向かっているらしい。


第12話を読んでいただきありがとうございました!

異世界スローライフ作品を書いていると、なぜか温泉イベントは避けて通れません。

そして伊織も無事に温泉を発見しました。

……発見しただけのはずだったのですが、翌日には温泉施設が完成していました。

この村の住人たち、行動力だけは本当に高いです。

次回は「海鮮料理大会」。

伊織の前世知識が、また新たな勘違いを生み出します。

面白かったらブックマークや評価をいただけると、とても励みになります!

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