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神野雹吾は魔王の息子  作者: 平野十一郎
第一章 曇天の魔王
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第七話 いざ、学園の地下ダンジョンへ!

 雹吾とルナは、慎重に洞窟を歩く。

 足場の悪い、岩場。

 野生動物が出てこなくとも、転倒して怪我をする可能性も高いのだ。


 雹吾は和男から借りた棍棒を握りしめる。

 いざとなった時に、上手く振れるか心配になってきた。

 整えられた床の上と、足場の悪い岩場では、同じ武器を振るのでも、勝手が全く違う。


 雹吾は、支給されたヘルメットと革の鎧が、こんなにも頼もしいとは思ってもみなかった。

 命の危険が伴う戦闘訓練では、武器よりも防具が何十倍も重要である。

 特に、頑丈な革で出来た鎧は、小型の動物の牙も通さず、動きやすさも妨げない、優秀な鎧。

 大型の獣が相手では、鉄の鎧でないと切り裂かれてしまうが、足場の悪い自然の洞窟を、重く動きにくい鉄の鎧で挑むのは、訓練された戦士か無知のどちらかだ。


 初心者ランクのダンジョンには、小型の獣しか出てこないため、革の鎧が最適解である。


 その時、最前列を進む松村君から、声が上がる。


「小型の(ぬえ)の群れだ!総員、戦闘準備!」


 (ぬえ)


 蛇の頭のような形の、毒針の尾を持つ猿である。

 尾の毒針はもちろんのこと、雑菌だらけの爪や牙にも要注意だ。

 ひっかかれた傷をそのままにしておくと、血液に雑菌が入り込み増殖し、敗血症(はいけつしょう)と呼ばれる命に関わる症状に発展することもある。


 幸いなことに、今こちらに向かっている鵺は、全て小型。

 毒針も爪も牙も、革の鎧を通すことはできないため、皮膚が露出している箇所にだけ気を付ければいい。


 ヒカルが一つ目で、洞窟の奥を見る。


「くるよ。そこそこ大きな群れだ」


 サイクロプスなどの一つ目(モノアイ)系種族は、遠近感が捉えにくい反面、視力がいい。

 雹吾の目には、まだ暗闇しか映っていなかったが、ざわざわと不穏な音が、洞窟の奥から聞こえてくる。


 その時、雹吾の隣にいたルナが、右手に持っていた唐傘を広げた。


右美(うみ)左美(さみ)。出番だよ!」


 ルナは唐傘(からかさ)提灯(ちょうちん)を、宙に大きく放り投げる。


 すると、一瞬にして二人の人影が出現し、それぞれ唐傘と提灯を手に持って着地した。


 それは、二人のギャルだった。

 唐傘を持っているのは、小豆色の髪のギャル。

 提灯を持っているのは、ベージュ色の髪のギャル。


 唐傘お化けの右美と、提灯お化けの左美だ。


 ルナが、右美と左美に指令を下す。


「小型の鵺の群れ。注意してね」

「余裕っしょー」

「お嬢様、アタシらに任せてよねー」


 右美は唐傘、左美は提灯を構える。


 彼女たちは、ルナの魔王としての力で実体化した、古道具の付喪神(つくもがみ)である。




 雹吾は、真っ暗な洞窟の奥を見る。

 そこには、一対の光る目があった。

 だが、それはもう一対、そしてさらにもう一対と、次々に増えていく。

 そして、数えきれないほどに増えた光る目は、一斉に一年三組へと跳びかかって来た。


 小型の鵺だ。


 まっさきに動いたのは、サイクロプスの王子様、佐治ヒカル。

 ヒカルが、腰に差してあった細身の剣を抜くと、剣が炎に包まれた。

 ヒカルはてっきり剣士系だと雹吾は思っていたのだが、どうやら魔法と剣の複合技の使い手のようだ。

 例えるならば、魔法剣士と言ったところか。


 ヒカルは炎の剣を、鵺の群れに向かって振るう。

 鵺の断末魔が響き渡る。

 一太刀で、三匹を葬った模様。

 ヒカルの剣の腕は、かなりのもののようである。


 次に、右美と左美が動く。


「アタシらも負けてらんないっしょ!」

「お嬢様に恥をかかせらんないし!」


 右美の唐傘が高速で回転し、チェンソーのように鵺の群れを切り裂く。

 左美の提灯が口を開き、そこから伸びる炎の鞭を振り回す。

 そして、ルナ自身も、怪力による格闘で、鵺を殴り飛ばしていた。


 オークの和男は「戦いは苦手でござる!」と言いながらも、棍棒で数匹の鵺を撲殺している。


 一年三組の全員が、それぞれの武器で戦い始めていた。

 しかし、雹吾だけは、棍棒を持っておろおろするばかり。




 その時、一匹の鵺が、雹吾に襲い掛かる。


「う、うわあっ!」


 雹吾は棍棒を振るも、鵺は機敏にそれを(かわ)す。

 そして、雹吾の首筋を狙って、噛み付こうと口を開けた。


 だが、鵺の動きがぴたりと止まる。

 鵺の表皮が、うっすらと石化していた。

 雹吾のすぐ後ろから、声がかかる。


「雹吾君!なぐって!」


 雹吾は、その声に背中を押され、表皮が石化した鵺の頭を棍棒で殴り潰した。

 飛び散る血しぶきが、雹吾の頬にかかる。


 一気に冷や汗が全身から流れ落ちる雹吾。

 雹吾の背中を、軽くタッチする手があった。


「雹吾君、ナイス!」


 ゴルゴンの虚子(うろこ)だ。

 ゴルゴン族は、目が合った相手を石化する妖術を使う事ができる。


「私、妖力がまだまだ少ないから、石化させられるのって、本当に表面の皮とか毛くらいなんだよね。

 だから、出来る事といえば、一瞬動きを止める程度なの」

「い、いや、助かったよ。危なく噛まれるところだった」


 首筋に噛み付かれれば、即死も有りえた。

 戦いが始まってから、まだ数分程度だったが、雹吾の体感では何時間も経ったかのよう。

 若干だが、怪我人も出ている模様。


「いてて。噛まれた」

「僕も、顔引っかかれたよ。」

「俺、毒針に刺された!誰か治して!」


 すると、治癒系の妖術を使う生徒たちが、駆けつける。


「刺されたのどこ?」

「腕。鎧の隙間を狙われた」

「OK。解毒と治療するね」


 一つ目の女子生徒が、毒針に刺された轆轤首(ろくろくび)の少年の腕に、手をかざす。

 少女の手が淡く光り、少年の腕の傷は、即座に消え去った。


「おお、サンキュ!」

「あんまり無理しちゃダメだよ」


 治癒部隊が負傷者を治している間にも、鵺の群れは駆逐されていく。

 最後の一匹を、雹吾が棍棒で殴り殺すと、戦闘は一旦完了のようだった。


「こ、これで終わりか……?」


 雹吾が荒い息をついて、辺りを見回した。




 傾国先生が、手を叩いて生徒たちを集合させる。


「やるじゃないか、ひよっこども。

 本当に危ない時は、アタシが出るつもりだったが、無用だったねぇ」


 サングラスをかけた山姥(やまんば)の傾国先生は、厳しいようで意外に優しい。


 委員長の松村君が、生徒たちに声をかけた。


「みんな、戦闘を継続する体力はあるかい?」


 すると、クラス全体の四分の一ほどだけが、元気に手を振っていた。

 雹吾を含めた四分の三は、今の戦闘だけでへとへとだ。

 松村君は、傾国先生へと報告する。


「先生。おそらく今の僕たちでは、ここまでが限界のようです。

 これ以上は、危険であると判断します」

「ああ。アタシも同意見だ。

 まあでも、ここまでできるとは思ってなかったからね。

 正直に言って、見直したよ」


 傾国先生は、サングラスの奥の目でニヤリと笑った。


 松村君が、号令をかける。


「よし、それじゃあみんな、帰還準備を……」


 その時、洞窟を大きな揺れが襲った。


「きゃあっ!」

「うおっ!」

「なんだっ!?」

「地震っ!?」


 そして、みんなの足元の地面が一斉に崩れる。


「うわあっ!」

「お、落ちるっ!?」


 地面の土砂と共に、落下する生徒たちの身体。

 崩れた足元の下は、急な角度の坂道になっていた。

 まるで、天然の滑り台だ。


「うおおっ!」

「滑るっ!」

「くそっ、立てねえ!」


 そのまま、地下三階・地下四階を通り過ぎ、地下五階まで、ノンストップで滑り行く三年一組。

 傾国先生が滑り落ちながら叫ぶ。


「飛行可能な生徒は、ただちに職員室に行って、他の先生方に報告!」


 姑獲鳥(うぶめ)の夏美や、鳥人間(ハーピー)の渡辺君、そして箒に乗った魔術師の狼人間(ウェアウルフ)の鈴木君が、坂道の空中を上昇し、救援を呼びに行く。


 雹吾たちは、坂道を滑り降りると、地面に尻もちをついた。


「あたっ」


 次から次へと、滑り落ちて来る生徒たち。

 雹吾は、今落ちてきた坂道を見上げる。

 急な角度の上に、天井の鍾乳石から落ちている水滴で濡れていて、とてもではないが登れそうにない。


 傾国先生が、生徒たちに告げる。


「全員、固まりな!

 自分の身を守ることを最優先とすること!

 ここは地下五階、上級ランクのダンジョンだ!

 一瞬でも気を抜くと、あっという間に死ぬよ!」


 傾国先生が『BBA』の刻印が入った出刃包丁を手に握る。

 その額は、冷や汗で濡れていた。


 全員が集合し、陣形を組み、全方位に注意を払う。

 あらゆる方向から、獣の唸り声が聞こえてきた。

 雹吾は、ルナの隣で棍棒を構える。




 ここは地下五階。

 難易度が高すぎて、まだ学園の教師による探索すらほとんどされていない、ダンジョンの最深部。

 凶暴な魔獣の住処(すみか)だった。








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― 新着の感想 ―
[一言] 更新ありがとうございます まさか仕事している間にこんなにテンポよく ストーリーが進むとは 二話まとめての感想で失礼致します 個性派ぞろいのクラスメート それぞれ魅力があっていいですね 協…
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