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神野雹吾は魔王の息子  作者: 平野十一郎
第一章 曇天の魔王
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第六話 聖剣は誰が抜く?

 雹吾たち一年三組のメンバーが教室に戻って来ると、黒板に座席表が貼ってあった。

 定番の、出席番号順。

 男女が隣り合っているようだ。


 神野(しんの)雹吾(ひょうご)の前には、サイクロプスの佐治(さじ)ヒカル。

 そして、雹吾の左隣は、山ン本(さんもと)瑠那(ルナ)

 苗字の五十音順が近かったとはいえ、雹吾にとっては嬉しい偶然だ。

 ただひとり、オークの毘沙門天(びしゃもんてん)和男(かずお)だけが、席が離れてしまった。

 出席番号順のため、こればかりは仕方がないのだが、和男は悲し気に雹吾たちに手を振っている。

 雹吾は、和男に手を振り返した。


 クラスの全員が着席すると、教室のドアを勢いよく開けて、担任の老婆、傾国(けいこく)清姫(きよひめ)先生が、鞘に入った巨大な出刃包丁を担ぎながら登場した。


 傾国先生が、教壇に片脚を乗せて、教室を一瞥(いちべつ)する。

 そして、サングラスを外し、『BBA』と書かれた着物の胸元へとしまった。


「ようし、揃ってんな。いい子だ、ひよっこども。

 入学式でも言ったが、私は傾国清姫。このクラスの担任だよ。

 緑世界(グリーン)出身の山姥(やまんば)さ」


 そして、人差し指を高々と上げ、告げた。


「今から全員サクッと自己紹介!

 その後は支給された革鎧(かわよろい)とヘルメットを装着して、さっそく地下二階のダンジョンで戦闘訓練だ!」







「ふんっ!」


 オークの和男が、岩に刺さった伝説の聖剣の柄を掴み、歯を食いしばり、思い切り抜きにかかる。

 柄に時計が嵌め込まれた、黒い刀身の、片刃の聖剣。

 だが、聖剣はびくともしなかった。


「ぶはぁっ!ダメでござる」


 諦めて、柄から手を離す和男。

 戦闘訓練の前に、誰かが聖剣を抜けるかもしれないと、クラス全員が試しているのだ。

 傾国先生も「面白い。やってみな」と、訓練開始までの猶予をくれた。


「じゃあ、次は私ね!」


 ルナが、聖剣の刺さった岩の隣に備え付けられた階段を登る。

 怪力の持ち主のルナ。

 抜けるとしたら、大本命だった。


 聖剣の柄を握るルナ。


「せーのっ!」


 ルナは、気合と共に、柄を引き抜こうとする。


「ふぐぐ……!」


 だが、和男と同じく、全く抜ける素振りが無い。


「ぷはーっ!もうダメ!」


 両手を離し、ブラブラと振る。

 ある意味、単純なパワーだけならば、一番可能性が高かったルナ。

 しかし、選ばれし者しか抜けないという伝説は伊達ではなかったようだ。


「最後は雹ちゃん!がんばって!」

「うーん。無理だと思うけどなぁ」


 雹吾は、階段を上り、岩の上を踏み、聖剣の柄を握る。


「どりゃぁっ!」


 あらんかぎりの力を込めて、岩から剣を抜こうとする。


「うりゃあっ!」


 だが、やはりびくともしない聖剣。


「あ~っ!むりむり!一ミリも動いてないもん!」

「雹吾氏でもダメでござるかー」

「山ン本さんで無理なら、誰にも抜けないよね」


 和男とヒカルが、雹吾を慰める。


 その時、雹吾の耳に、ややしわがれた男性の声が、かすかに聞こえた。




「……お願いです。私を抜いてください」




 雹吾は背後を振り向く。

 声は、背後から聞こえたからだ。

 しかし、雹吾の後ろには、黒い刀身の聖剣が鎮座するばかり。


「雹ちゃん、どうしたの?」

「いや、今、後ろから声が聞こえた気がして……」

「誰もいないでござるよ?」


 雹吾は首を(かし)げ、友人たちとその場を去る。


 後ろには、柄に時計の()め込まれた聖剣を残して。







 クラスの委員長に抜擢された、四角い眼鏡をかけた巨体のトロルの松村君が、クラスのみんなを先導している。


「これより、戦闘訓練に(のぞ)む。

 諸君。油断は即、命取りになる。

 組織的行動を、崩してはいけないよ!」


 お堅い口調の松村君は、見た目と口調に違わず、お堅い性格のようだ。


 雹吾は、巨体の松村君よりもさらに巨大な、ダンジョンの入り口を見上げていた。

 学園の地下二階にある、石レンガで作られた、巨大な門。

 ここを開けると、凶暴な野生動物が跋扈(ばっこ)する、命懸けの世界となる。


 雹吾が周囲を見渡すと、一年三組のクラスメイトたちは、それぞれの武器を手に持っていた。

 サイクロプスのヒカルは、細い鋼の剣。

 オークの和男は、柄にアニメキャラのストラップが幾つも付いた、棍棒。

 エルフの麻子は、弓矢。

 そしてルナは、右手に唐傘(からかさ)、左手に提灯(ちょうちん)を下げて登場した。


 ルナが、雹吾の元へと駆け寄る。

 雹吾は、和男と同じく、柄にキャラクターのストラップの付いた棍棒を手に持っていた。


「雹ちゃん!お待たせ!

 あ、雹ちゃん、武器は棍棒?」

「いや、俺、武器なんて持ってないからさ。

 和男君に予備の棍棒を借りた」


 雹吾は、平和なブルーの日本で生まれ育ったため、武器など扱ったことが無かった。

 父からは戦闘訓練があることは知らされていたが、中学でも授業でやっていた、柔道や剣道のようなものを想定していた。

 まさか、いきなりリアルの戦いに駆り出されるとは、思ってもみなかったのだ。


 なお、一年三組には、ブルー出身は雹吾ただ一人である。

 みんなからは「あれ?火炎放射器とトゲトゲの肩パッドは?」と聞かれ、その都度、ブルーの誤解をとかねばならなかった。


「そうなんだー。でも、このダンジョンは一応、地下二階は初心者ランクのダンジョンだっていうから、この人数だったら負けることはないと思うよ。

 油断は禁物だけどねっ!」


 ダンジョンには、凶暴な野生動物が巣食っている。

 その動物の強さや、地形の厳しさによって、ランクが決められているのだ。


 この学園のダンジョンは、地下二階は初心者ランクで、深い階層に行くほどランクが上がるらしい。


 しかし、初心者ランクと言っても、甘く見てはいけない。

 そもそも、野生動物というのは、基本的に人間よりも強いのだ。

 素人が数人程度で挑戦するなどの愚を犯せば、間違いなく全員命を落とすだろう。


 今日は、クラス全員でひとつのグループとなり、なおかつ強力な山姥である傾国先生も付いているからこそ、ダンジョン内に入ることが許されているのだ。


 トロルの松村君が、傾国先生に合図をする。

 傾国先生が、首から下げたダンジョンの鍵を、巨大な扉の下方に付いている鍵穴に差し、ひねる。

 すると、重たい音を立てて、扉が開いた。


 傾国先生が、大きな出刃包丁を鞘から抜いて戦闘態勢を取る。

 出刃包丁にも『BBA』の刻印が入っていた。


「お前たち。初心者ランクだからって、油断するんじゃないよ。

 授業中の死亡事故は、どの学校でも毎年発生しているんだ」


 それほどまでに危険な授業を、犠牲が出てもなぜ止めないかというと、やはり必要だからである。

 ブルー人の雹吾には実感が無かったが、それ以外の異世界出身のクラスメイトたちは、日常に戦いが潜んでいることを身をもって知っているのだ。


 自前の武器を持っていないのは、ブルー人である雹吾と、魔法や妖術を使うタイプの人間のみ。

 妖術も使えず、武器も持って来なかったのは、雹吾ただひとり。


 雹吾は、ごくりと唾を飲み込む。

 開かれた巨大な扉の向こう側は、もはや人の手が入っていない、自然の洞窟であった。








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