第五話 校長と担任と伝説の聖剣
大蛇学園入学式、開幕。
雹吾の右隣には、ルナが座っている。
サイクロプスのヒカルが、ルナのために雹吾の隣の席を譲ってくれたのだ。
当のヒカルはと言うと、少し離れた席に移動していた。
彼の美しさの虜になった、一つ目の女子たちと一緒に。
ルナは雹吾と同じ、一年三組だった。
一年生は、一組から五組まである。
そのド真ん中で、雹吾はルナに、愛の告白をぶちかましてしまったのだ。
恥ずかしさのあまり、まだ顔が熱い雹吾であった。
なお、ルナの護衛のヘイムダルたちや、他の生徒の護衛は、体育館の入口付近に陣取っている。
ルナ以外にも、要人の子女は多い。
自宅から通学すると、その途中で誘拐などの事件に会う可能性が高くなるため、金銭に余裕がある家庭の生徒も、寮ぐらしをあえて選んでいることも少なくないのだ。
ルナもまた、寮で生活をしていることを、雹吾は教えてもらった。
その時、館内アナウンスが流れる。
「これより、私立大蛇学園、入学式を始めます。
まず最初に、この大蛇市の市長でもある、校長・八岐大蛇先生からの挨拶です」
すると、体育館の舞台に降りていた幕が上がり、巨大な八つ首の大蛇が、姿を現した。
その大蛇、ヤマタノオロチ先生は、八つの首すべてに、蝶ネクタイを着けている。
八つの首のうち、ひとつが、舞台に設置されたマイクに向かって喋りだす。
「みなさん、入学おめでとうございます。
あまり話が長くなるのもよくないので、手短にいきましょう。
我が校のモットーは『長所をひたすら伸ばせ。短所は気にするな』です。
自分の得意なこと。
そして、自分の好きなこと。
それを、何よりも大切にしてください」
ヤマタノオロチ先生は、別の首にマイクを渡す。
「また、学園生活を、思い切り楽しんで頂きたい。
それは、いずれ社会に出たときに、人生そのものを楽しむことにも繋がるはずです。
君たちは、これから少しずつ大人になっていきます。
学生の本分は勉強ですが、これは自立した大人になる準備であるということ。
しかし、それは学生の本分のうちのひとつに過ぎません。
私が言いたいことはこれです。
よく学び、よく遊び、いい恋愛をしてください。
すべてが、君たちのかけがえのない財産となるでしょう。
以上」
校長ヤマタノオロチ先生はそれだけ言うと、体育館の新一年生を見渡し、微笑みながら舞台端へと去って行く。
そして、校長と入れ替わりに、一人のファンキーな老婆が壇上へ立った。
彼女の逆立った白髪は、毛先だけ紫に染められている。
サングラスに、大きな鼻ピアス。
着ている麻の着物の胸元には、大きく『BBA』と書かれていた。
老婆の教師は、マイクスタンドを握り、ロック歌手のようにマイクに向かって叫んだ。
「オラァ!ひよっこども!アタシは『戦闘』の科目の教師、傾国清姫だ!
校長からの夢のある話の後で、リアルな話をして悪いが、アタシからは、無事に生き延びるために必要な事を伝達させてもらうよ!
特に、グリーン出身じゃない奴は、耳の穴かっぽじって、よーく聞きな!
この大蛇市は、お世辞にも治安がいいとは言えねえ!
まあ、人が多く集まる所には、悪人も多く集まる運命だ。こいつばかりは仕方ねえけどな。
まず、昼間でも人気のない場所には行かない事!
特に女は、ひとりでは出歩かない事!
また、集団だろうが、夜の外出なんざ自殺行為だ。絶対にすんな!
寮で暮らす奴らは、滅多に学校の敷地外には行かないとは思うが、油断するとヤベェ犯罪に巻き込まれるぞ。
何かあったら、即、教師を頼りな!
以上!質問は、いつでも受け付けるよ!
知りたいことがあれば、職員室に来やがれ!」
傾国先生は、マイクスタンドを乱暴に戻すと、そのまま舞台裏へと去って行く。
この大蛇学園には『戦闘』の科目がある。
犯罪者や、自然発生するダンジョン、そして人を襲う野生動物などから、身を守るためだ。
雹吾の故郷のブルーでは、ダンジョンも無ければ、治安もいい。
野生動物に関しては、熊や猪などの襲撃による死亡事故がまれに起きるが、その程度。
しかし、このグリーンでは違う。
都市部の周りの山林からは、獰猛な獣が姿を現す。
また、犯罪者も異能力を使う危険人物ばかり。
魔王である父からは聞いてはいたが、自分の身は自分で守らねばならないのだ。
とは言えど、物騒な話は全て、この大蛇学園の外で起きている事。
大蛇学園の敷地内では寮を含め、監視カメラがあらゆる場所についており、何かがあれば、戦闘系の教師やガードマンたちが集結する。
寮生活の雹吾たちには、あまり関係のない話であった。
気を付けるとしたら、ルナや友人と街中に遊びに行くときくらいか。
その後は、カピバラの顔をした教頭先生から、これと言って特徴のない話を聞かされた後、入学式は閉幕となった。
その後は、各クラスごとに担任の教師について、教室に戻る。
雹吾もルナや友人たちと一緒に、教室へと足を向ける。
そして、なんと一年三組の担任は、あのファンキーな老婆の傾国先生が担任であった。
傾国先生は、ぞろぞろと体育館から出ていく三組のメンバーを見渡し語る。
「ああ、そうそう。この学校の地下一階には、選ばれし者しか抜けないという伝説の、岩に刺さった聖剣がある。
誰でもチャレンジOKだから、興味があったら頑張って抜いてみな!
あと、地下二階より下はダンジョンになってるから、勝手に入ったら死ぬから入るんじゃないよ!」
聖剣。
ダンジョン。
まさに、異世界というラインナップに、魔王の息子のはずの雹吾は、気圧されるばかりであった。




