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神野雹吾は魔王の息子  作者: 平野十一郎
プロローグ いざ、異世界へ!
3/30

第三話 異世界学園の入学式!

 神野(しんの)雹吾(ひょうご)は、洗面台の鏡で、寝起きの自分の顔を覗き込む。

 少し長めの黒髪を、(くし)()かして、寝癖を直した。


 高校の制服である学ランに袖を通し、ボタンは留めずに、ただ羽織(はお)る。

 文句を言われたら、その時に直せばいい。

 そんなゆるいところも、父親譲りの雹吾であった。


 大蛇(おろち)学園は、男子寮も女子寮も、学園の中に併設されている。

 まるで、戦国時代の日本の城を、何個も継ぎ足したかのような外観の大蛇学園。

 初めて見た時のの印象は『和風モンサンミッシェル』だった。


 今日は入学式。

 今日から晴れて、大蛇学園の一年生として、高校生活のスタートを切るのだ。


 男子寮の玄関で革靴を履いていると、後ろから声を掛けられた。


「雹吾君、おはよう」


 雹吾が振り向くと、サラサラの明るい茶色の髪に、陶器のような肌の顔に、目が()()

 雹吾が勝手に名付けた『サイクロプスの王子様』こと、佐治(さじ)ヒカルが、学ランを詰襟まで留め、優雅に立っていた。


「おはよう、ヒカル君。今日からよろしくね」

「こちらこそ」


 ヒカルは、涼し気な一つ目で、にっこりと笑う。

 彼は、雹吾が入寮した一昨日(おととい)から、早速仲良くなった、隣の部屋の住人。


 そこに、遠くからばたばたと足音が聞こえてきた。


「雹吾氏!ヒカル氏!待って!待ってくだされ!」


 廊下の向こうからは、緑色の筋肉質の体に、黒髪をピシっと七三に分けた、分厚い眼鏡の、オタクのオーク、毘沙門天(びしゃもんてん)和男(かずお)が、アニメキャラのキーホルダーを大量に付けた鞄を手に、猛烈にダッシュしてきた。


「あ、和男君。先に行ってたのかと思ってた」

「今日の文房具は何のキャラにしようかと悩んでたら、こんな時間になってしまったでござる」


 和男もまた、雹吾の部屋から見て、ヒカルとは逆の、隣の部屋であった。

 この二日間、雹吾はヒカルと和男の、三人で学校内を見学したり、夜は誰かの部屋に集まって、それぞれの過去の話を喋っていたりした。


 ちなみに、ヒカルと和男は二人とも、空の色が赤い異世界『レッド』の出身である。

 昨日は、同じレッド出身であるゴルゴンの虚子(うろこ)と偶然出会い、レッド出身組は話に花を咲かせていた。

 その時に、虚子や、姑獲鳥(うぶめ)夏美(なつみ)、エルフの麻子(あさこ)も、女子寮に住んでいることが判明したのだ。


 せっかく仲良くなったのだから、全員同じクラスになれるといいなと思いながら、入学式の会場である巨大な体育館へと向かう。




 雹吾(ひょうご)、サイクロプスのヒカル、オークの和男(かずお)の三人が、巨大な体育館の中を、人混みを掻き分けて進む。


 体育館の壁にクラス表が貼りだされているのだ。


 雹吾は、ドキドキしながらクラス表を見上げる。

 自分は、何組だろうか。

 みんなと同じクラスだろうか。


 すると、和男が眼鏡をキラリと輝かせ、クラス表を指差した。


「あった!ありましたぞ!

 雹吾氏!ヒカル氏!我々、みんな同じクラスでござる!」

「えっ、どこどこ?」

「あ、ホントだ!俺たち全員、一年三組!」


 雹吾が一年三組のリストの中に、みんなの名前を見つける。

 雹吾たちの他にも、ゴルゴンの虚子(うろこ)姑獲鳥(うぶめ)夏美(なつみ)、エルフの麻子(あさこ)も同じクラスであった。


 雹吾は体育館に並べられた、様々なサイズのパイプ椅子の列を眺める。

 列ごとに、クラス別になっているようだ。


 雹吾たちは「一年三組」と看板が立ってあるパイプ椅子の列に、横に並んで座った。


 すると、一つ目(モノアイ)系種族の女子の集団が、顔を真っ赤にして、ヒカルのそばに座る。

 みんな、チラチラとヒカルを見ていた。

 おそらくは、みんなヒカル目当てなのだろう。

 別のクラスのモノアイ系女子たちも、遠くからヒカルを指差しては、キャーキャーと騒いでいた。


(さすが『サイクロプスの王子様』。モテるな)


 美形のヒカルはきっとモテるだろうなとは、思っていた。

 だが、実際に目の当たりにすると、予想以上にヒカルは注目を集めていた。

 特にモノアイ系の女子からの熱い視線が凄まじい。


 雹吾の左隣に座っている和男が、雹吾に小声で囁く。


「ヒカル氏、モテるとは思っておりましたが、ここまでとは」

「うん。俺もそう思ってたとこ」


 すると、体育館の入り口が、突如として騒がしくなる。

 雹吾が後ろを振り向き、入り口を見ると、数人の黒スーツを着た大人に警護をされている、長い黒髪の美少女がやってきた。

 雹吾の真後ろに座っていた、姑獲鳥(うぶめ)の夏美が、謎の美少女を翼で差した。


「あ、あれ、緑世界(グリーン)の日本帝国の、内閣総理大臣の娘さんだよ」


 グリーンの日本は、雹吾が生まれ育ったブルーとは歴史が異なり、日本帝国と呼ばれている。

 ただし、政治形態はブルーと全く一緒で、皇帝陛下は政治には口を出さず、政治は内閣が行っているのだ。

 なお、グリーンの政治家は、普通選挙で選ばれた者ではなく、貴族が(にな)っている。


 日本帝国は、都道府県が無い代わりに、幾つかの国があり、それを帝国が統括しているのだ。

 この大蛇(おろち)学園がある大和(やまと)の国も、そのうちの一つである。


 雹吾は、内閣総理大臣の娘を眺める。

 たしか、グリーンの総理大臣は、昨日ニュースで確認したところ、山ン本(さんもと)五郎左衛門(ごろうざえもん)という魔王の一人だったはず。


 雹吾は、首を(かし)げる。


(さんもと……。はて。どこかで聞いた覚えが)


 昨日のニュースのことではない。

 はるか、ずっと昔から、聞き覚えがあった。

 雹吾がブルーにいた時から。

 それこそ、幼少の頃から。

 山ン本(さんもと)などという珍しい苗字は、ブルーで聞くことは滅多にないはずだが。




 その時、山ン本の娘が、雹吾を見た。

 最初は何気なく見ただけだったのだろう。

 しかし、黒髪の美少女は、雹吾を見たまま、硬直していた。

 周りの護衛たちも、少女の異変を感じ取る。

 少女の後ろに控えていた、メイド服の女性が、少女に声をかける。


瑠那(ルナ)お嬢様、いかがなさいました?」


 ルナと呼ばれた少女は、じわりと目に涙を浮かべる。


 その左の目尻には、十字の形の痣があった。




 自然と、ぽつりと雹吾の口から、少女の名前が飛び出した。


「……ルナちゃん?」


 雹吾の脳裏に、過去の記憶がフラッシュバックする。


『ルナちゃんをお嫁さんにしたい』


 それは、まだ小学校低学年のころ。

 夏休みに、神野家へと遊びに来ていた山ン本ルナに、雹吾が幼いなりに紡いだ、精一杯の愛の言葉。

 泣いて喜ぶルナの顔。




 そして今、目の前では、高校生になったルナが、駆け出していた。

 ルナを掴もうとする護衛たちの手を振り切って。

 パイプ椅子へ座る、雹吾の元へ。


 ルナは、細い体のどこにそんなパワーがあるのか、並べられたパイプ椅子を吹き飛ばしながら、雹吾へと突撃してきた。


 ルナに殴り飛ばされ、宙を舞う幾つものパイプ椅子。

 ルナは、雹吾に向かって喜びの声を上げる。


「雹ちゃん!」


 雹吾の背後に座っていた夏美は、暴走列車のようなルナの突撃の巻き添えを食らうまいと、急いで退避する。

 パイプ椅子を殴り飛ばしながら、雹吾の目の前までやって来た、ルナ。

 左の目尻の十字の痣。

 まちがいなく、雹吾の幼馴染のルナだった。


 雹吾もその場で立ち上がる。


「ルナちゃん」

「雹ちゃぁぁんっ!」


 ルナは涙を一筋流し、砲弾のような勢いで、雹吾の胴体に抱きついた。

 あまりの衝撃に、内臓が飛び出しそうになる雹吾。


「ぐほぇっ!」

「雹ちゃん!会いたかった!」


 ルナは、頬を赤らめて、雹吾を抱きしめる。

 比喩ではなく、身体を千切りそうなほどの怪力で。


「ぐええええ!」


 そこに駆けつけて来る、ルナの護衛たち。


「お嬢様!ストップ!」

「彼、死んでしまいます!」


 それを見ていたルナの護衛たちが、慌ててルナの腕を、数人がかりで雹吾から引き剥がした。








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― 新着の感想 ―
[良い点] サイクロプスの王子様 エドワードという名の親戚いそう 和風モンサンミッシェル やっぱりサイバーパンクと スチームパンクとの融合か [一言] 更新ありがとうございます レビュー喜んで戴け…
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