第二話 異世界の女子高生たち
火車バスは、すぐに見つかった。
というよりも、見つからなければおかしいほど。
なにせ、バスがごうごうと燃え盛っているのだ。
ブルーの常識に照らし合わせてみれば、大惨事以外の何者でもないだろう。
しかし、火車バスに乗っている客は、炎など全く意にも介していなかった。
おそるおそる、火車バスに歩み寄る雹吾。
確かに、近づいても熱は感じない。
思い切って、乗車口の階段に乗ってみた。
全く熱くなかった。
火車バスの運転席を見ると、二足歩行の猫が、サングラスをかけてハンドルを握っていた。
雹吾は猫の運転手に声をかける。
「あの、大蛇学園って、このバスで合ってます?」
猫は、やたら渋い声で答えた。
「おうよ。大蛇学園前までなら、二千円だぜ」
雹吾は革の財布から千円札を二枚取り出し、自動支払機に投入する。
どうやら、ブルーの紙幣でも問題なく使えるようだ。
もし使えなかったら、今から両替屋を探さなくてはならなかった。
ほっとする雹吾。
雹吾が車内を見渡すと、座席は半分ほど埋まっていた。
だが、車内の異形の乗客は、雹吾と目を合わせると、何か恐ろしいものでも見たかのように、ビクッと肩を震わせ、雹吾から目を外す。
(……?)
雹吾は首を傾げながら、車内後方の空席に座った。
足元にボストンバッグを下ろすと、首を回して肩凝りをほぐす。
窓の外は、燃え盛る炎に包まれている。
その時、背後から指先で肩を叩かれる感触。
雹吾が後ろを向くと、三人の少女がいた。
雹吾の肩を叩いたらしき少女は、興味津々といった感じで、雹吾に話しかけて来る。
「ね、ねえ。大蛇学園までって言ってたよね。もしかして、大蛇学園の新入生?」
「うん。そうだけど……」
その少女は、髪の毛が何匹もの蛇になっていて、目は瞳孔が縦に長い。
残りの二人の少女は、なにやら雹吾に怯えていた。
二人の種族は、エルフと姑獲鳥のようだ。
エルフは金髪碧眼の背の高い種族。
姑獲鳥は、両腕が翼になっている、半分鳥の人間だ。
エルフの少女が、蛇髪の少女を引き留めていた。
「う、虚子。やめなって。その人、ブルー人だよ……」
「だいじょうぶだって」
虚子と呼ばれた蛇髪の少女は、雹吾との会話を続ける。
「私たちも大蛇学園の新入生なんだ~!
私、大石虚子。
赤世界のゴルゴン族だよ」
雹吾は、うっかり虚子の目を見つめてしまう。
ゴルゴン族と言えば、有名なメデューサを始め、目が合うと石にされてしまうことで知られているではないか。
しかし、雹吾は目が合っても無事である。
「あれ?目が合うと石になるんじゃないの?
俺、何ともないけど……」
「やだもう!石になんかしないって!犯罪じゃん、それ」
どうやら、目が合うと問答無用で石になる訳では無いらしい。
きちんと制御が出来る模様だ。
虚子は続ける。
「そ、それよりもさぁ。
ブルー人って、みんな銃持ってるんでしょ?
それで、ちょっとでもムカついた相手、撃ち殺すってホント?」
虚子の隣の女子二人も、怯えながら言う。
「銃どころか、気に食わない人の家とか爆破するんでしょ?ブルー人」
「私、ブルー人はみんなトゲトゲの肩パッド着けてて、火炎放射器が標準装備って聞いたけど……」
なんだそれは。
雹吾は、問い返す。
「まさか、ブルーって、そんな風に見られてるの?」
三人の少女は、揃って頷く。
ブルー人から見れば、他の異世界人の方が恐ろしいのだが、どうやら異世界人側では、ブルー人は何でも暴力で解決する戦闘民族として恐れられているようだ。
異世界列車の中や、駅の中では、このような反応はされなかったため、学生の間だけの噂話に過ぎないとは思われるが。
よくよく周りを見ると、火車バスの中で雹吾に怯えている人間は、みんな若そうであった。
この火車バスの中に居るのは、もしかしたら、みんな学生なのかもしれない。
雹吾は、虚子たち三人に弁解する。
「しないって、そんなこと。銃も持ってないし」
「え?銃ないの?」
「ないない」
「火炎放射器は?」
「もっとない」
ここでようやく、少女三人の緊張が、少しだけやわらいだようだった。
「よ、よかったぁ!」
「ほら、やっぱりただの噂だったじゃん!」
「虚子だってビビってたでしょ!」
そこで、雹吾は虚子に改めて挨拶をする。
「俺は、神野雹吾。
一応、ブルー人とグリーン人のハーフ。
よろしくね」
虚子は、隣に座っている二人を雹吾に紹介した。
「姑獲鳥の夏美と、エルフの麻子」
長い黒髪の姑獲鳥の夏美が、右の翼をぶんぶん振った。
「よろしくー!」
金髪をお団子にした、エルフの麻子が会釈をする。
雹吾は、夏美に手を振って、麻子に会釈を返した。
さっそく、かわいい女の子の友達が三人もできてしまった。
新しい学園生活に思いを馳せ、少し浮かれる雹吾。
エルフの麻子は、首を傾げていた。
(神野……。神野って、たしか魔王の一人にいたよね?
まさか……。
い、いや、たまたま同じ苗字なだけだよね?)
そんな麻子の心配を後目に、虚子と夏美は、燃え盛る火車バスの中で、雹吾と夢中でお喋りをしていた。




