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第二十九話 新たなる火種

「多夫多妻制? 大和にかい?」


 電話の声の主は、大和の国王、神野悪五郎。

 雹吾は、ゴールデンウィークで休みを取っている悪五郎に、相談を持ち掛けていた。


「うん。希望する人がいてさ。是非、欲しいって」

「雹吾は欲しいと思う?」


 突然の父からの問いに、瞬間的に虚子の顔が浮かぶ。


「……えー」

「あ、もうだいじょうぶ。今の返答でわかったから」


 父の声音は、こころなしか、ニヤついている様子。

 雹吾は、一気に熱くなった身体を、首元をぱたぱたとあおいで冷やす。


「ま、まあ、できたなら、活用はするかも……」

「わかった! 息子からの熱烈な要望に応えようじゃないか!」


 そう言って、悪五郎は電話を切った。




 いつの間にか、雹吾の希望ということになってしまった、多夫多妻制。

 訂正しようと思ったが、虚子のことが頭から離れない。


 昨晩、共有スペースの屋上の神社の片隅で、虚子が雹吾に言ってくれたひとこと。


『私がそばに、いてあげるから、ね?』


 あれは、きっと本気なのではないだろうか。

 もしそうだとすれば、ルナとしか婚約できない今、虚子にはとても辛い思いをさせてしまっていることになる。


 もちろん、ただ付き合うだけならば、彼氏彼女が何人いようが、法的には問題がない。


 だが、多夫多妻制が導入されなかった場合、最終的には、誰かひとりを選ばなくてはいけなくなる。

 一夫一妻の場合、結婚した後は、他に彼氏彼女を作るのは不法行為なのだ。




 雹吾も、男である。

 ものすごく正直言うと、ルナも虚子も、ふたりとも彼女にしたい。

 当然、ふたりとも大事にするつもりだ。


 だから、心の奥底では、多夫多妻制が成立してくれないかなと、悶々としている。




 すると、雹吾のスマートフォンが振動する。

 悪五郎かなと思って画面を見るが、知らない電話番号からだ。

 迷惑電話の類だったら嫌だなと思いながら、電話を取る。


「もしもし」

「あ、神野さんですか?

 わたくし、鍛冶ギルドの大蛇プラザ出張所の者ですが」







 雹吾は、談話室でテレビを見ていた和男を見かけると、手を振った。


「和男君!」

「あ、雹吾氏。おはよう!」

「おはよ! 今、鍛冶ギルドから連絡があって、魔封鋼の棍棒、納入日が決まったって」

「昨日オーダーしたばかりなのに、早いですな」

「早いよね。で、届くのが、ゴールデンウィークの最終日だって言ってたから、棍棒を取りに行きがてら、またみんなで遊びに行きたいなって思って」

「おお、いいですな!」


 和男の隣に座っていた、学級委員長の松村君が、提案する。


「じゃあ、みんなに通達をしようか。

 中間テストの勉強に専念したい人もいるだろうから、希望者のみとすべきだと思うが、どうかな?」

「そこは、個人ごとの自由意思でいいと思いますぞ」

「そうだよね。では、後で出欠確認をしておくよ」


 松村君のきっちりとした性格は、こういうとき頼りになる。

 まだ高校生になって一ヵ月ではあるが、文武両道の松村君は、これぞ学級委員長としての風格を持ち合わせていた。

 一組の学級委員長の恵比寿君は、苦労人と言った感じだが。


 雹吾は、広い談話室を見渡してみる。

 知らない生徒も多い。

 先輩や、同学年の他のクラスの生徒たちだろう。


 昨日の大蛇プラザの遠足を経て、一組のメンバーとは仲が接近したが、他のクラスは知らない人ばかり。

 その内、何かのイベントで仲良くなれたらいいなと思う。




 すると、和男が何かを思い出したようだ。


「あ、しまった。傾国先生から、戦闘スタイルの訂正を命じられておりましたが、すっかり忘れておりましたぞ。

 書類の書き直しをせねば」

「そっか。これからは、魔封鋼の棍棒になるから、戦い方も大きく変わって来るもんね」


 戦闘技能の教師である傾国先生は、各生徒の戦闘スタイルを把握しなくてはならない。

 その上で、生徒ごとの長所を伸ばすよう指導する必要があるのだ。

 こういうことを聞くと、教師とは本当に大変な仕事なのだなと雹吾は思う。


 和男は、ピシッと決めた七三分けの頭を掻きながら、立ち上がる。


「いかんいかん。うっかりしておりました。

 雹吾氏、松村氏、ちょっと職員室まで行って来るでござる」


 そう言って、和男は寮から飛び出して行った。








 私立大蛇学園は、あまりにも広大にして複雑怪奇。

 寮を飛び出して行った和男は、あっさりと迷っていた。


 和男は、スマートフォンで学内の地図を見ながら、何とか職員室の場所を探す。


「ええと、ここが家庭科室なので……。

 職員室は、この階段を上がったところですかな?」


 階段の一段目を踏んだところで、頭上から声がした。


「きゃあっ!」


 女性の叫び声。

 誰かが、階段を踏み外したようだ。

 彼女が持っていた書類の束が、紙吹雪のように宙を舞う。


 和男は咄嗟に、女性を受け止める。

 オークの筋力を持つ和男は、よほど重い人種でなければ、軽々と持ち上げる事すらできるのだ。


 書類の舞い散る中、長い緑色の髪の毛の、小柄な体躯が、和男の胸に抱き留められた。


 女性は、和男の腕の中で、目をぱちくりとさせている。




 錬金術の教師、アルラウネの森先生だった。




「あ、あれ? わ、わたし……」

「おお、どなたかと思っていたら森先生だったのですか。

 お怪我はございませぬか?」

「毘沙門天君? た、助けてくれたの?」

「そんな大げさなものではないですぞ」

「あ、ありがとう。たぶんだいじょうぶ……」


 森先生は、和男の手を取り、階段に立とうとする。


「……痛っ!」


 しかし、脚をくじいたようで、あまりの痛みに立つことができなかった。


「捻挫しているみたいですな。

 保健室まで送って行きますぞ」


 和男は、バラバラに散らばった、森先生が持っていた書類を、床から掻き集める。


「び、毘沙門天君! だいじょうぶ! だいじょうぶだから!」

「ご無理はいけません。生徒に遠慮なさらず……。

 おや?」


 和男は、授業で使うと思われた書類の束の中に、薄めの書籍が混ざっているのを発見した。


 表紙には、美男子ふたりが、半裸で絡み合ったイラストが描かれている。




 森先生は、心の底からの叫びを放った。


「ぎゃああああーっ! ダメえええっ! 見ないでええっ!」




「ああ、BL本ですか。

 やはり、女性には人気なのですな」


 和男は、特に気にせず、書類を集め続ける。

 森先生は、捻挫した脚で立てないながらも、和男のBL本に対する反応が薄い事で、逆に戸惑っていた。


「あ、あれ?

 毘沙門天君?

 私の事、その、気持ち悪いとか思わないの?」

「え? なぜですかな?」

「だってぇ、そのう、そういう本とか、普通の人だったら、なんか、キモイって思うんじゃ……」

「拙者が普通の人かはわかりませぬが、拙者もオタクなので、腐女子の知人も多いですぞ」


 和男はただそれだけ言って、BL本と書類をまとめた。

 ちゃんと、BL本は書類に紛れ込ませて、外からは見えないようにしている。

 そして、その書類の束を、森先生へと渡す。


「では、先生はこれを持っててくだされ。

 拙者は先生を運びますので」

「え?」


 和男は、書類を抱えた森先生を、そのままお姫様だっこで持ち上げた。


「きゃあっ!」

「ええと、保健室はどこでしたかな?」

「一階の、ここをまっすぐのところ……」

「では、そこまで行きましょう」


 そして、森先生を抱えた和男は、ずんずん廊下を歩き出す。




 恋愛に命をかけるレッド人。


 しかし、森先生は、レッド人でもあるにも関わらず、恋愛を諦めていた。


 自分の趣味を許容してくれる男性など、いないと思っていたからだ。




 (もり) 芽衣子(めいこ)


 二十四歳。アルラウネ。




 この日この時、森先生の胸に、今までに感じたことが無いほどの、熱い火が灯る。








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― 新着の感想 ―
[良い点] ●「……えー」だけで愛息の  意を汲み取る雹吾パパ  さすが魔王! ●薄いイラストばらまいた挙げ句に  教え子に一目惚れする森センセ  可愛い [気になる点] …このマンモス学園、ポンコ…
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