第二十三話 魔封鋼製の武器、オーダーですぞ!
一組の学級委員長、三つ目の少年・恵比寿君は、キリキリと痛む胃を押さえながら、雹吾にどうやって弁解しようかを考えている。
(だ・か・ら!
山ン本さん、婚約者がいるっつったろーが!
よりにもよって、神野君の目の前で連れ去るとか!
佐村は頭がいいくせに、なんで行動がアホなんだ!)
恵比寿君は、佐村マサタカとは中学時代からの友人である。
ブルーからの留学生であるマサタカは、中学の頃から、なぜか彼氏のいる女子ばかりを好きになる。
そして今回のように、悪びれず口説くのだ。
おかげで恵比寿君は、トラブルの鎮火に、いつも東奔西走するはめになる。
マサタカは、この悪癖さえなければ、友情にあつい、いい奴なのに。
この性質のせいで、何もかもが台無しなのだ。
恵比寿君は、ちらりとマサタカとルナを見た。
マサタカは手を繋いで離さない。
その背後では、黒スーツを着た、くるくるの口髭の筋肉質のおじさんが、ものすごい圧力でマサタカを睨みつけている。
ルナの後ろをついてくる、くるくる髭の男と、若い執事と、メイド。
彼らは、ルナの護衛らしい。
護衛である彼らがマサタカに手出しをしないということは、今はまだ、ギリギリ見逃して貰えている範囲なのだろう。
どこかでタイミングを見計らって、マサタカからルナを引きはがし、雹吾の元へと戻さねばなるまい。
神野雹吾は魔王として覚醒済みの上、先日からこの大和の国の王子となった。
絶対に機嫌を損ねてはならない人物なのだ。
雹吾がその気になれば、マサタカなど簡単に強制帰国させることができる。
ますます重たくなる、胃。
ああ、どうやって謝ろう……。
★
「あっ! 雹吾君、見て見て!
ヒカル君のパパ開発のアームズオーブ!
もう一般販売してたんだ!」
虚子が、雹吾の腕に絡みつき、商品棚に置かれている銀色の小さな板状のキーホルダーを指差す。
今、雹吾たちが来ているのは、鍛冶ギルドの大蛇プラザ出張所。
壁の棚には、ずらりと魔法の道具が並べられてある。
一見したら、どうやって使うのかが分からない物ばかり。
雹吾はドワーフの店員に声をかけた。
「すみません。魔封鋼の武器、オーダーできますか?」
「はい。承っております。サイズや形状により、お値段が変動致しますが」
雹吾は、和男を手招きして呼ぶ。
彼の背中には、樫の棍棒が背負われていた。
「和男君、棍棒見せて」
和男は、背中からすらりと、丸太のような棍棒を抜いて掲げた。
雹吾は、店員に向き直ると、棍棒を指差す。
「あんな感じのがいいんですけど」
「あれをそのまま魔封鋼にすると、重すぎて持てないですよ。
お試し用の武器がありますので、持ってみてください」
雹吾は和男を引き連れて、店員の後に続く。
その間もずっと、虚子は雹吾の腕に抱き着いていた。
虚子の胸は、ルナよりも大きい。
さっきから、雹吾の腕には虚子の胸が当たりっぱなしだ。
顔が熱くなる、雹吾。
ルナに悪いとは思いつつも、ルナだって別の男と手を繋いでどこかへ行ってしまったのだ。
今くらいは虚子の感触を楽しんだってバチは当たらないだろう。
今日のルナに対しては、怒りも悲しみもあった。
平静でいられるのも、虚子のお陰だ。
思えば、虚子にはいつも助けてもらってばかり。
どこかで恩返しがしたいものだ。
雹吾がそんな事を考えていると、魔封鋼のコーナーへと辿り着く。
そこには、何本かの大きさが違う魔封鋼の棒があった。
店員が、雹吾たちを促す。
「お持ちになってみてください。
一番適した重量で作りましょう」
和男が、大きめの棒を持ってみる。
「うおっ! 雹吾氏、これ、見た目よりもずっと重いですぞ!」
「どれどれ。えっ? 重っ!」
和男の現在の棍棒のサイズの魔封鋼などは、とてもではないが持ち上げられない。
ちょうど中くらいのサイズの棒が、和男が振り回すのに適している重量のようだ。
「拙者、この重さがいいでござる」
「この重量ですと、現在の棍棒よりもだいぶスリムな形状になりますが、よろしいでしょうか?」
店員が腕時計型の機械に触れると、宙にホログラムの棍棒が、映像で浮かび上がる。
「おお、だいぶスマートになりますな。
拙者、これがいいですぞ」
「お値段は、税込みで五十万円です」
「……え?」
値段を聞いて、固まる和男と虚子。
雹吾は顔色すら変えずに、財布からクレジットカードを抜く。
「カードで」
「かしこまりました」
さらりと支払う雹吾に、またもや固まる和男と虚子。
和男が、雹吾にあわあわと物申す。
「ひょ、雹吾氏!
いくら何でも、高過ぎますぞ!
これをさすがに、貰うのは……」
「いいのいいの。
妖術も結界も、何もかも殴り飛ばせる棍棒だよ?
これぐらいするって」
笑顔で和男を宥める雹吾。
和男は、渋い顔をしながらも、どうにか承諾してくれたみたいだ。
すると、和男の肩越しに、棚に陳列されている、キーホルダーの形のアームズオーブが目に入った。
「虚子。アームズオーブ買ってあげる」
「えっ? いやいや、あれも十万円するよ?」
「いつもお世話になっちゃってるから。そのお礼」
そのまま雹吾は、虚子のアームズオーブも追加購入する。
虚子も和男も、なんだか恐縮している模様。
雹吾は店員から受け取った銀色のキーホルダーを、そのまま虚子に手渡す。
「はい。妖力込めて」
「う、うん……」
虚子がキーホルダー型のアームズオーブに妖力を流すと、小さな銀色の板に『大石』の姓が刻まれる。
「あ、ありがとう、雹吾君。
ちょっと、いきなりでびっくりしたけど……。
私、これ大事にするね!」
虚子は、思い切りの笑顔で雹吾に応えた。
少々高額ではあるが、雹吾からの初めてのプレゼントだ。
ついつい心が浮かれてしまう。
どこに着けようかと迷っている時に、虚子の心に魔が差す。
鞄の内側にしよう。
そして、この場所ならば、誰にも見られる事は無いだろう。
虚子は、キーホルダー型の銀の板に、こっそりと妖力を流す。
すると、『大石』の姓が『神野』に変わる。
(えへへ……。こ、これくらいはいいよね?)
虚子は周りをきょろきょろと見回すが、雹吾は和男と喋っている。
この瞬間、誰も虚子に注目していなかった。
もう一度、『神野』に変わった、銀の板の文字を見て、思わずニヤニヤしてしまう。
今日だけは、私は雹吾君のもの。
明日からは、また戻すから。
心にそう言い訳して、虚子はまた雹吾の元へと向かった。




