第二十話 お前が王子様になるんだよ!
「えっ? これ、神野君?」
「うん! 小さい頃の雹ちゃん、かわいいでしょ!」
ほくほくと満面の笑みでアルバムを開いて、クラスの女子たちに見せているのは、ルナ。
雹吾とルナの、昔の写真だ。
ルナの父である山ン本五郎左衛門と、雹吾の父の神野悪五郎も写っている。
「あ、総理だ」
「山ン本さん、本当に総理大臣の娘なんだね」
「なんか急に、ものすごいお嬢様っぽく見えてきた」
内閣総理大臣である山ン本五郎左衛門の顔は、グリーンでは知らない人間は、ほぼいない。
反対に、雹吾の父の神野悪五郎は、目立たない場所で異世界間の外交の仕事をしているため、魔王としての名前は認知されているが、顔はほとんど知られていなかった。
「あ、これ雹吾君のパパ?」
「本当にホストみたいな恰好してる」
「魔王って感じじゃないね、確かに」
長い茶髪に、ストライプのスーツを着た、細身の男が、ピースサインをしている。
明らかな夜の男が、総理大臣と肩を並べて写っているのが、なんだかおかしかった。
黒野が、新作のレアチーズケーキを切り分けて、みんなに配っている。
最近はお菓子作りにハマっているようだ。
腰に差してあるオリハルコンの鞘が、銀色に輝く。
黒野は本体である聖剣はもちろん、鞘もしっかり手入れしているらしい。
ルナたちが過去の写真を見せあっている隣の席では、雹吾がヒカルと和男と一緒に、テレビを見ていた。
今、ニュースで持ち切りの話題は、つい数日前に発表になった、イエロー開発の、妖術の効かない金属である、魔封鋼。
これで作られた刃物や鈍器は、強力な結界を打ち破り、雹吾のように肉体を不定形に変化させてもダメージを与えるというのだから、かなり凄い発明である。
当然、妖術や魔法を使う人間は、触れるだけで自分自身をほぼ無力化してしまうため、肉弾戦を得意とする者にしか扱えないが。
なお、ルナや傾国先生は、妖術で肉体を強化するタイプのため、通常の妖術使いと同じく、身に着けることはできない。
「和男君、借りてた棍棒壊しちゃったから、魔封鋼で出来た棍棒作ろうよ。
お金は俺が出すから」
雹吾は、ケルベロスに噛み砕かれた、和男の棍棒のことを、未だに気にしていた。
「い、いやいや、雹吾氏!
あんなのは二束三文でござるよ!
魔封鋼製の棍棒と交換では、あまりにも金額が違い過ぎでござる!」
「いいのいいの。
俺が、見てみたいんだ。
魔封鋼の棍棒で戦う和男君」
魔法が得意ではない和男は、魔封鋼を身に着けたからと言って、デメリットは無い。
むしろ、これで圧倒的にパワーアップすることが予測される。
なにせ、雨雲に変化した雹吾すら、殴り倒すことができるようになるのだから。
ヒカルも、乗り気だ。
「いいじゃん、和男君。
僕も見たいな。
もしそれで使い勝手が良さそうだったら、僕の剣も魔封鋼にしちゃおうかな」
「あれ? ヒカル君、魔法剣士系の戦い方じゃなかったっけ?
魔法が使えなくなっちゃわない?」
「うん。でも、魔封鋼の効果がかなり強力だから、もういっそのこと魔法は使えなくなってもいいかなって」
持ち前の魔法を捨ててまでも、魔封鋼製に切り替えたい。
それほどの魅力が、魔封鋼にはあった。
すると、ゴルゴンの虚子が、三人に声をかける。
「じゃあさ、じゃあさ、ゴールデンウィーク、みんなで大蛇プラザに行かない?
鍛冶ギルドの出張所で、魔封鋼の装備、オーダーできるらしいよ」
大蛇プラザ。
大蛇学園の近くにある、途轍もない広さの、超巨大ショッピングモールである。
屋上にはジェットコースターや観覧車などがある遊園地や、ライブ会場も設置されている。
雹吾は、大蛇プラザにはまだ行ったことが無いのだ。
定番のデートスポットでもあるらしい、大蛇プラザ。
クラスのみんなと行って見て、面白そうなら次回、ルナとふたりでまた遊ぼう。
「いいね。みんなで行こうか」
雹吾は虚子の提案に応えた。
飛び跳ねて喜ぶ虚子。
蛇の髪が、ぴょんぴょん揺れる。
「やったぁ! って言っても、私は魔封鋼使えないんだけどね!」
雹吾に向かって、ぺろりと舌を出す虚子。
虚子は妖術主体の戦い方のため、魔封鋼を身に着けると多くの技が使えなくなり、デメリットの方が遥かに高くなる。
それなのに、わざわざ大蛇プラザへ誘いだしたのは、魔封鋼をダシにして、みんなで遊びに行きたいのだろう。
そこに、学級委員長のトロルの松村君が、寮の談話室のドアから顔を出した。
「雹吾君。なんか、君の関係者と名乗る方が来客しているんだけど」
「えっ? 誰だろう」
この寮に来るような友人には心当たりがない。
中学の同級生が遊びにでも来たのだろうか。
松村君が続ける。
「ホストみたいな人」
「父さんだ」
★
「雹吾~! 元気だったかい?」
魔王・神野悪五郎は、いつもの細身のストライプのスーツを着て、寮の談話室へ登場した。
両手に、赤い薔薇の花束を抱えて。
しかし、その両手には包帯が巻かれている。
肉体を炎に変えられる悪五郎が怪我をしたことなど、雹吾は生まれてから一度も見たことが無かった。
悪五郎は、薔薇の花束を、雹吾に渡す。
「これ、息子へのプレゼント」
「ありがとう、父さん。
談話室にでも飾っておくよ」
ルナが立ち上がり、雹吾から薔薇の花束を受け取ろうとしたところ、虚子が素早く、雹吾の手から花束を持ち去った。
「じゃあ、これ花瓶に生けておくね!」
「う、うん。ありがとう」
虚子は機嫌良さげに、薔薇の花束を持って、花瓶を探しに行く。
すっかり花束を受け取る姿勢になっていたルナは、差し出した両手が行き場を無くしていた。
雹吾は、ルナのその手を取り引き寄せ、悪五郎へと向き直る。
「父さん、ルナちゃんと会うの、久々でしょ?」
「うん。ルナちゃん、元気~?
しばらく見ない内に、すごくきれいになったねえ!
雹吾の婚約者になってくれて、ありがとー!」
「い、いえ……。私も、雹ちゃんが好きでなってるから……」
瞬時に顔を赤くするルナと、それを聞いてつられて真っ赤になる雹吾。
親の前でこれは気まずい。
急いで、別の話題を探す雹吾。
すると雹吾の目に、包帯が巻かれた父の手が目に入った。
「そ、それより父さん、怪我したの? どうやって?」
「ああ、これね。魔封鋼の矢が刺さったのさ」
魔封鋼。
今の今まで、雹吾たちも話題にしていた、新素材。
雹吾はその効果が半信半疑であったが、父の怪我を見て、魔封鋼の効果が本物だと知る。
「だいじょうぶ?」
「全治一週間。手が使えないって、こんなに不便だとは思わなかったよ」
包帯の巻かれた手を、ひらひらと振る悪五郎。
そしてそのまま、その手を雹吾の肩に置く。
急に、キリッとした表情へと変わる悪五郎。
「雹吾。言わなきゃいけない事があるんだ」
「……なに?」
滅多に見ない、父のシリアスな顔に、緊張が込み上げてくる。
まさか、離婚とか……?
「雹吾は、王子様になるんだ」
「……何の話?」
思っていた事とは違い、若干安堵するものの、全く何の話かわからない。
悪五郎は、ニタリと笑う。
「そのまんまの意味。雹吾は王子様になるんだよ!」
「えっ?」
何かの比喩ではないようだ。
とすると……。
悪五郎が、包帯の巻いた手で、後頭部を掻く。
「いやあ、大和の国王が、さんもっちゃんと俺を襲った罪で警察に逮捕されたんだけどね。
そしたら、これからは、俺が大和の国王をやることになっちゃった」
しん、と静まり返る談話室。
誰もが、目を丸く見開いていた。
そして、一瞬の後、驚愕の声が上がる。
「ええええええ~っ!?」




