表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神野雹吾は魔王の息子  作者: 平野十一郎
第一章 曇天の魔王
11/30

第十一話 曇天の魔王

 双頭の狼、オルトロスの大群が、雹吾に迫る。

 暗闇で良く見えないが、足音から察するに、百匹以上はいるだろう。

 あまりにも危険すぎて、大蛇学園の教師陣すらまともに探索ができない、ダンジョンの地下五階。

 今、その地下五階の牙が、雹吾たちに襲い掛かる。


 だが、雹吾は落ち着いていた。

 自分の身の内から湧き上がる、力。

 魔王として目覚めたばかりだが、この力があれば、オルトロスの大群にすら負けない。




 雹吾は、両手を広げる。

 黒い羽織の背中の『神野』の文字が、金色に輝く。




 すると、両手の指先から、肉体が雨雲に変化する。

 青い(いかずち)(ほとばし)らせて。

 ゴロゴロと、空気を切り裂き、雷鳴が響く。


 完全に雨雲へと変化した雹吾の両腕が、大きく横に広がる。

 オルトロスの集団をせき止めるように。


 オルトロスたちは、困惑の目を見せるが、たかが人間の小僧一匹の力など、大したことがないと判断したのか、広がり切った雨雲に、速度を緩めずに突っ込む。


 だが、双頭の狼たちが、黒雲に触れた途端、青い電流が弾け、一瞬で黒焦げになった。


 勢いがついてしまったオルトロスの集団の先頭は、即死する同胞の姿に戸惑うも、ブレーキが効かず、次々と雲に触れては感電死してゆく。


 先頭の二十体ほどが炭と化し、ようやく群れの勢いが止まった。

 オルトロスの第二陣は、雹吾の腕が変化した雨雲の恐ろしさを理解したのか、雲には触れず、雹吾本体へと跳びかかってきた。


 しかし、雹吾の身体は、人間の形を保ってはいるが、その性質は既に雷雲のそれである。


 オルトロスの牙や爪が雹吾に触れる端から、その部分が雲となり、触れたオルトロスたちを焼き焦がす。

 当然、雲に変化している雹吾の身体は、無傷。


 そして、雹吾の腕が変化した雨雲が、さらに上に広がり、オルトロスたちの頭上を覆い始めた。


 そこから、ぽつりぽつりと、振り出す雨。

 それはすぐさま、滝のような大雨となり、百を超えるオルトロスたちを、ずぶ濡れにする。

 ゴロゴロと頭上の黒雲から聞こえる、不吉な音。


 オルトロスたちは、野生の勘で危機を感じ取ったのか、身を反転させ、しっぽを向けて逃走する。

 オルトロスは頭がいい。

 この判断は賢明であった。

 ただし、逃げ出すにはもう遅かったが。




 天井近くの積乱雲から、大きな雷が落ちる。


 まるで、天から光のハンマーを振り下ろされたかの(ごと)く。


 あまりにも眩しすぎる光。

 あまりにも恐ろしい雷鳴。


 雷は、濡れた地面を伝播し、百以上のオルトロスたちの身を焦がす。




 雹吾の背後で全てを見ていた、一年三組のクラスメイトたち。

 雹吾の妖術は、凄まじいの一言。

 誰もが、逃げることすら忘れ、茫然としていた。

 また、教師陣や凄腕の護衛たちは、周囲への警戒は解かずとも、雹吾の技に目を見張るばかり。


 地下五階に広がっていた黒雲が、高速で雹吾の身体へと収束してゆく。

 そして、あっという間に人の姿へと戻った雹吾の目の前には、百を超えるオルトロスの死骸が横たわっていた。


 これこそが、雹吾の秘めた力の一端。

 まだ魔王としては目覚めたばかりで、力の一部しか引き出せてはいないものの、それでもなお、圧倒的な力。




 雹吾は、その身に『晴れ』以外の天候を宿す。




 『曇天(どんてん)の魔王』




 雹吾は振り向き、その場の面々に告げる。


「とりあえずは危機は脱しましたが、まだまだ多くの猛獣の気配がします。

 あと、近くにいる中にも、一匹だけ別格のやつがいますね。

 今のうちに帰還しましょう」


 その言葉を聞き、我に返る生徒たち。

 すかさず、塀無樽(ヘイムダル)の作った、地下二階までの直通の階段を登り始める。

 学級委員長のトロルの松村君が、巨体でみんなを避難誘導していた。


「慌ててはいけないよ!

 転倒事故で死ぬ人だって多いんだ!」


 ダンジョンは、ひとつの階層が非常に巨大である。

 地下五階から地下二階までの階段は、かなりの長さだ。

 数回、野衾(のぶすま)が飛来してきたが、ドラゴンの増田先生の火炎放射や、傾国先生の出刃包丁で撃退されていた。


 生徒たちが地下二階まで上がるのを見届けると、教師陣と雹吾は、階段へと向かう。


 その時、その場に居た全員の背筋に、一気に鳥肌が立った。

 何かが来る。


 教師陣は、息絶えたオルトロスの群れの向こう側を見る。

 暗闇の中から、ゆっくりと、巨大な影が姿を現した。




 見上げるほど大きな、白い毛の、猿。

 蛇の形の尾が、九つ。


 長い年月を生き、途轍もない妖力を持ってしまった、大妖怪。


 九尾(きゅうび)(ぬえ)だ。




 巨大な白毛の鵺が、口を開く。


「あなや。何やら騒がしいと思うたら、久方ぶりの人間であるか。

 人の肉は、量が少ないながらも、なかなかの珍味でな。

 どれ、我が食ろうてやろうぞ」


 九尾の鵺は、そう言うと四足歩行で、洞窟の岩を砕きながら、雹吾たちへと駆け寄って来る。

 ヘイムダルが、地面に手を突くと、鵺の眼前に、大きな石の壁が生えた。

 だが、九尾の鵺は、いとも簡単に石の壁を砕く。


 雹吾が、右手を帯電した雨雲に変化させ、鵺に放つ。


 凄まじい雷鳴と共に、鵺の表面に、青色の電流が走る。

 しかし、鵺には傷一つ付かない。

 鵺は笑う。


「ほほほ。くすぐったいのう。

 我が結界に、その程度の妖術が通じると思うかえ」


 結界。

 鵺の体表をよく見ると、半透明の何かに覆われていた。

 おそらく、あれが九尾の鵺を守る結界。


 傾国先生が叫ぶ。


「総員、退避ぃっ!」


 その場の全員が、ドラゴンの増田先生の背に乗る。

 ヘイムダルは、生徒たちが登った後の階段を、猛獣たちが使えないよう、わざと崩壊させてから合流した。


 幸いなことに、雹吾以外の生徒全員と、教員の半数は、既に地下二階まで退避済みだ。

 増田先生は、翼をはばたくと、牽制として一度だけ鵺に火炎を吹き、地下二階まで続く穴を、飛んで逃げた。


 増田先生の背に乗った雹吾が後ろを見ると、鵺が火炎をものともせずに、大きく跳躍し、大穴の空いた地面を通り抜け、地下四階、そして地下三階へと、飛び移って来るのが見えた。


 傾国先生が、サングラスに付属された通信機能を使い、地下二階に退避済みの職員へ叫ぶ。


「全員、地上に逃げな!でっかい(ぬえ)が登って来てるよ!」


 途端に地下二階から生徒たちの悲鳴が上がる。




 雹吾は焦っていた。


 このままでは、九尾の鵺が、地上まで登って来てしまう。

 そうなれば大惨事だ。

 奴が地下にいるうちに、決着をつけなくてはならない。

 しかし、雹吾の雷も、増田先生の火炎も、鵺の体表の結界に阻まれて効かなかった。

 一体どうすれば……。


 その時、雹吾の耳に、聖剣の声が聞こえた。

 誰も抜けない、聖剣の声が。


「傾国先生!サングラスを貸してください!」

「なんだい、急に!」

「大至急、ルナちゃんに確認したいことがあるんです!」


 雹吾は、半ば奪うように傾国先生のサングラスを取り、装着した。


「ルナちゃん!?そこにいる!?」


 数秒後、通信機器を渡されたルナが、応答する。


「雹ちゃん!だいじょうぶ!?」

「だいじょうぶって言いたい所だけど、かなりマズい!

 ルナちゃんたちは、地上に逃げて!」

「雹ちゃんはどうするの!?」

「何とかする!

 ルナちゃん、教えて!

 魔王になった今の俺に、…………はできると思う?」

「えっ。で、できると思うけど、そんなこと聞いてどうするの?」

「それができるなら、切り札があるんだ!」


 雹吾はルナとの通信を終えると、サングラスを傾国先生へと突き返し、雹吾たちを乗せた増田先生に叫ぶ。


「増田先生!お願いがあります!

 俺を、聖剣のところに連れて行ってください!

 聖剣なら、あの鵺の結界も斬れる可能性が高い!」

「聖剣!?君も抜けなかったんだろう!?」

「俺は抜けません!でも、抜けるかもしれません!」

「な、なにを言っているんだ!」

「……を、……します!」

「そんなことができるのかい!?」

「わかりません!でも、魔王の力が使えるようになった今の俺なら、出来る気がします!」


 増田先生は、それだけ聞くと、大きく翼をはばたいた。


「わかった!行こう、聖剣の間に!」








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ