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ヤンデレに飼われた僕は、キミに溺れ堕ちる。  作者: 肩メロン社長


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五 丹代さんと。

 家に母さんの姿はなかった。



「ねぇ……酷いよ私から逃げるなんて」



 公園の近くに待機してあった黒塗りの車両に引き摺り込まれ、自宅に強制送還させられた僕は、アゲハの痛烈な平手を喰らってうずくまっていた。



「私何かしたかなすっごい不安だったんだからあまり心配させないでよ誤解されるようなこともしないでねぇ聞いてるの?」



 早口に言葉をまくしたてながら、彼女の手のひらが、拳が、蹴りが僕の体を打つ。


 恐怖に体を震わせながら、僕は亀のようにうずくまった。


 涙と冷汗で全身を染めながら、嵐が去るのを待つ。


 それしか、為す術はなかった



「イライラする。イライラするなあ! 私ね、私はね、本当はこんなことしたくないの、ねぇわかるでしょ?! なのになのにっ」


「うぐっ!? ご、ごごめん、ごめんなさい、ごめんなさいぃっ!?」



 髪の毛を引っ張られ、強引に顔を上げさせられた僕を覗き込む、黒い瞳。


 長い睫毛、大きな目、綺麗に濁った瞳孔。


 アゲハは、涙を流しながら愉しんでいた。


 頬を紅潮させて、愉悦に染まった表情で、嘯く。



「好きです。好き、好きだよ。ずっと前から、あなたと出会った日から。幸せにします。するからっ! しますからっ!!」


 私と、結婚してください。


 そして僕の唇は血と涙の味を伴って、奪われた。

 

なんの脈絡もなく放たれた告白は、呪詛めいた甘い言葉で。


 押し付けられた女の感触は酷く柔らかくて、官能的な香気に脳が痺れて……。


 ぼんやりとした意識の最中、アゲハだけが、世界の中心だった。

 



*




 ふと我にかえって、自分がいま教室で授業を受けていることを不思議におもった。


 ここ数時間の記憶が曖昧だ。よくのうのうと学校に来られたものだ、と僕のメンタルの強さに恐れ入る。


 授業中だというのにクラスメイトは僕のことを奇異な視線で伺い、ヒソヒソと何事か囁いていた。


 それも当然のことであって、僕もある程度は予想していた展開なのだけれど。



「………」



 やはり、実際そうなると居心地は最悪だ。


 当然の結果というか報いというか……。


 あるがままを受け入れるしかないと完全に諦めるほかにない。


 すべての結果は自分の行いによるもの。


 因果応報、自己責任。


 なんて、重い言葉だろう。


 泣きそうになりながら、教科書の隅に自分をモデルにしたイラストを書いた。


 うん。かわいい。



「おはよ、玖楽クン。きょうは来てくれたんだね。嬉しいなぁ。隣が空席だと寂しいもん」



 昼休みに突入した頃、通院で遅れてやってきた丹代(にしろ)なあささんが、以前と変わらない態度で挨拶をしてくれた。


 不覚にも涙目になってしまった僕は、彼女を抱きしめてトリプルアクセルを踏む妄想をしながら挨拶を返す。



「お、おはよう丹代さん。きょ、きょうも笑顔がすてきだね、かわいいよ」


「……うん? う、うん、ありがとね……? 何かあった?」


「ううん、なんでもないよ。大丈夫」


「そ、そう……?」



 首筋に垂れた髪を指先でくるくる回しながら、困惑顔の丹代さんは尖った八重歯をみせた。


 変なテンションで柄にもない言葉を並べてしまったことに多少どころか死に戻りしたいレベルで後悔した僕は、丹代さんから時計に目線を逸らした。


 午後十二時三十分。五時限目が始まるまで、まだ三十分もある。



「ところで玖楽クン。ずっと気になってたんだけど、どうしたの、その目……? なんだっけ、厨二病ってやつ?」


「あ、あぁ……違うよこれは。ものもらい……ってヤツかな? 朝起きたら腫れてて」


「そっかぁ、それって痛いの?」


「ううん、そんなに……」



 左目を覆う眼帯に触れながら、丹代さんの問いにやや不自然になりながらもそう返した。



「そうなんだ……へぇ」



 意味深長に首を傾けた彼女の目がなぜだろう、寒気がするような桃色だった。



「そっかそっか。じゃあ聞かせてくれるかな、昨日休んだ理由。せっかく校門の前まで来てたのに。まだかなぁ、まだかなぁって玖楽クンが入ってくるのを窓から見てたのに」


「え……あ、いや」



 視られて、た?

でも、どうやって?


 彼女と僕は廊下側の席で、窓際から離れた位置にある。


 僕のとてつもなく要領が悪い頭では、丹代さんがどうやって窓から僕を見ていたのかがわからなかった。


 返答に戸惑っていると、丹代さんは「ごめんごめん」と謝った。



「困らせるつもりはなかったんだ、ごめん。ただ、あのことがあったからさ、心配で」


「………」


「その目、本当に大丈夫なの?」



 再度、確認するように言って。

 僕は、またぎこちなく笑った。




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