十一 僕?
知らない天井だ。
なんてネタを使えるほど目覚めはスッキリしていて、思考は妙に冴えわたっていた。
黒と白のモノトーンカラー。
それがこの部屋の第一印象だった。
実にシンプルで、僕好みの部屋だ。
何も知らずに来ていたのなら、きっとこの部屋の主が女だとは思うまい。
ベッドから起き上がり、真っ先に僕は出口に向かった。
ガチャガチャ。
案の定部屋の外からは鍵がかかっていて出られない。
潔く諦めて、続いて唯一存在する窓に近づいた。
鍵は開いていて、容易に外から出られそうだ。
しかし……地上に降りる為に必要なロープの長さはどれくらいだろうか?
窓を閉めて、次にクローゼットの扉を開いた。
服をつなげてロープを作ろうと思ったのに、おかしなことに、クローゼットはクローゼットではなかった。
いや、それは確かに反論の余地もなくクローゼットなのだが、それは全くの名ばかりであって、目を疑うほどに別物として生まれ変わっていて、本来の用途を果たしてはいなかった。
写真写真写真。
画鋲、ナイフ、包丁、カッター、彫刻刀によって貼り付けられた僕の写真。
様々な凶器と狂気によってクローゼットの中は満たされ侵されていた。
もはやそこは別世界。
扉の向こうには宇宙が広がっていた。わーお、いっつふぁんたじー。
見なかったことにして戸を閉めた。
その後もしばらく部屋を徘徊して、脱出できる隙を隈なく探し続けたが、とうとう見つけることができずベッドの上に倒れ込んだ。
倒れ込んで、低反発枕に何度も何度も頭突きを喰らわす。
——先輩。ゆき先輩。
ガラスが砕け散る。
まっすぐと、狙われたかのようにおでこへ野球ボールがカーブを描き、美しい彼岸花を頭に咲かせたゆき先輩。
美しい。そう、美しかった。
一瞬だけれど、僕は、それを、美しいと、思って——
「ああああああああああああ!!」
頭を掻き毟りながら壁に拳を叩き付ける。
三回殴ったあたりで拳から血が出てきたので、殴るのをやめて頭をぶつけた。
ぶつけた。
頭。
ぶつけた。
「れん、大丈夫!? またそんなことして、自分の体は大事にしてよねっ!」
いつの間にか部屋に入ってきていたアゲハが僕の脇腹にバットを叩き込んだ。
肺の中の酸素が血反吐と一緒に排出され、衝撃でベッドから転げ落ちた。
黒色の絨毯にうずくまる僕を後ろから優しく抱きしめるアゲハに、なぜだかデジャブを感じた。
「大丈夫、大丈夫だよ。私はどこにも行かないよ、ずっと傍に居てあげるからね心配しなくていいからね。もうれんを誑かす悪い女はいないからね」
涙と鼻水と血で服を汚されるのも厭わず、胸に抱いてくれる彼女のやさしさに、僕は色々と止まらなかった。
「おご、ごぼッ、おおおおおお、ごほっ、ごほっ…………っ!」
「うん、苦しいなら我慢しなくてもいいからね。胃の中のもの全部出しちゃいなよ」
胃液と一緒に吐き出されてきたシチュー。
まだ苦しくて、喉に指を突っ込んで絡まっていた髪の毛を吐き出した。
頭が痛い。吐き気が止まらない。
瞼が重くて、全身に激痛が駆けまわっている。頭が、オカしクなリそうだ。
「あ、アゲハ、アゲハ……僕、僕は……アゲハ……っ」
「んー? どうしたのかな~?」
二の腕に突き刺さる注射器から透明な液体が流れ込んでくる。
段々と眠気が強くなってきて、体の力が抜けてくる。痛みが、和らぐ。
「次起きたら一緒にお買い物しに行こうね。おやすみ、れん」




