第二章:黒き聖女 プロローグ〜第一話 冥界の屋敷と冷ややかな瞳
冥界の女神ヘカテー…
天界、地上界、魔界、冥界に力を持つ。
知識、成功、富そして魔術の知識を人間に授ける一方、死や霊の世界を導く存在。
「魔女の女王」「死の女神」「救世主」と呼ばれる。
3つの体(あるいは3つの首)を持つ姿で表されることが多く、これは十字路の守護者であることや、月の満ち欠け(三相女神:少女、母、老婆)を表すと言われてる。
古の昔より、死者の魂を導き、知識や魔術を人間に与えてきた。
ある時、その冥界の女神に、この世界の創造主である神々の長は【神の掟】を伝えた
『地上界の出来事に神は手を出してはならない』
この掟のため、ヘカテーは人間に何もする事ができなくなった。
「何もしない神など必要ないだろう」
こうして冥界の女神ヘカテーは神の座から降りたのだった。
第二章:黒き聖女
第一話 冥界の屋敷と冷ややかな瞳
死の淵から蘇り、モモ・ルーとなった彼女が次に目を覚ました時、そこは血の臭い漂う霧の中ではなく、静謐で、どこか非現実的なほど豪奢な寝室だった。
「……ここ、は……」
まぶたを開いた瞬間、モモ・ルーは息を呑んだ。
天井は夜空のように深い藍色で、星のような金の紋様が静かに瞬いている。
寝台は絹のように滑らかで、触れた指先が沈み込むほど柔らかい。
だが――。
窓の外に広がる景色は、地上界のどこにも存在しないものだった。
紫色の月が浮かび、見たこともない黒い樹木が不気味に枝を伸ばしている。
黒い霧が地平線まで渦巻き、巨大な影がゆっくりと蠢いている。
空は裂けたように歪み、紫と黒の稲光が絶え間なく走っていた。
まるで世界そのものが呻き声をあげているような、不気味な静寂。
「目覚めたか…」
寝台の傍ら、影から染み出すように一人の少女が姿を現した。
「意外としぶといものだな、人間というのは」
フリルの付いた黒いエプロンドレス。
一見すると可憐なメイドだが、その腰には不釣り合いな二振りの刀が下げられている。
そして何より、その瞳には隠そうともしない嫌悪の色が浮かんでいた。
「私はエンプーサ、冥界の女神ヘカテー様に仕える者だ。」
「わ、私は…」
モモ・ルーが喋ろうとするとエンプーサはそれを遮った
「……それ以上喋るな、鼻が曲がる。
お前には、神に媚びを売る聖女の臭いが染み付いている」
「なっ…痛っ!」
「エンプーサ、そう邪険にするな。」
暗闇から声が響く
「彼女は今日から私の大事な『愛玩物』なのだから。」
「…ご主人様」
扉が開き、淫魔の姿をしたヘカテーがゆったりと入ってきた。
「淫魔?!あ゙あ゙ぁぁッ!」
モモ・ルーは反射的に起き上がろうとしたが、全身を走る激痛に呻いた。
「かはぁっ!…はぁ…はぁ…」
「無理はしないことね。
お前の体は一度死にかけ、私の魔力で無理やり繋ぎ止めた状態なのだから。」
『そうだ…そうだった。
私は、淫魔と…いや冥界の女神ヘカテーと契約を結び、命を繋ぎ止めたんだった。』
「やっと思い出したようね…見なさい、それが契約の証よ」
「!」
ヘカテーが指し示した姿見の中。
モモ・ルーの胸元、かつて聖なる紋章があった場所には、茨のように赤黒い紋章が刻まれていた。
清純だった聖女の肌を汚す、逃れられぬ呪印。
モモ・ルーは、震える手で、その紋章をなぞった。
「私は……もう、聖女ではないのですね」
「いいえ。お前は聖女よ。
神を殺し、世界を塗り替えるための――私の『黒き聖女』」
震えるモモ・ルーを優しく抱きしめるヘカテー
エンプーサは、その姿を忌々しく見ていた。
「モモ・ルー…私はアンタを認めない、絶対に!」
そう呟くのだった。
『聖女モモ・ルーと冥界の女神』第二章:黒き聖女
第一話 冥界の屋敷と冷ややかな瞳 完
第二章始まりました。
『光の聖女』だったモモ・ルーがどう成長してゆくか、楽しんで頂けたら幸いです。




