第一章:光の聖女 第四話 血塗られた契約
教皇が語った恐ろしいまでの真実…
『人間は、神によって魔物に喰われる為の存在となっている。』
それを知ってしまった聖女はなす術なく項垂れていた。
デーモンによって刺された傷は深く、止め処なく血が流れ出ている。
胸元にあった聖女の証し、聖なる紋章は無惨にも引き裂かれ、聖衣は血に染まった…
Γ私は…何のために…
今までの…辛い修練は…
全て、無意味だったと言うの?…」
聖女は思い出していた、
幼い頃、母に連れられ教会に来たこと。
そして、その日を境に母とは二度と会えなくなったこと。
教会の庭で沢山の子供達が楽しそうに遊んでいたのを見て羨ましかったこと。
辛い修練に人知れず泣いていたこと。
聖女となり教皇から聖衣を贈られた日のこと。
その全てが、真っ赤な嘘だった…
聖女の心に広がるのは…Γ絶望」の二文字
「絶望…そうだ絶望しろ、我が愛しき聖女よ!お前の絶望こそがわしの最高の喜びぞ!」
彼女を絶望に追いやり満足したデーモンは、鎖を解き、冷たくなっていく聖女を放置した。
「その美しい身体を魔物共に食い荒らされるがいい」
そう言い残しデーモンは王都へと帰っていった。
聖女の命の灯火は、とても小さくなり、今にも消えそうなほど弱くなっていった。
暫くすると、闇の中から女が現れた。
女は血の海に沈む聖女を見下ろし、冷ややかに笑う。
「フッ…無様ね」
現れたのは、あの淫魔だった。
「聖女。神に裏切られ、魔族に喰らわれ、そのまま泥のように死ぬつもり?」
「……あ……あぁ……」
「望みなさい。
世界への復讐を。
神々の首を。
私と契約するなら、お前に『再生』と『牙』を授けてやろう。」
聖女は、震える手を伸ばした。
天に祈っても、光は降りてこなかった。
ならば、自分を掬い上げてくれるこの闇を掴むしかない。
「……お……願い……助けて……」
「良い返事だ。
今日からお前は私のもの。
名は……そう、『モモ・ルー』。
私が授けたその名が、お前の新しい呪いであり、力だ」
淫魔の姿が、黄金の装飾と深淵の闇を纏った冥界の女神ヘカテーへと変貌する。
その口づけと共に、聖女モモ・ルーの瞳に、黒い炎が宿る。
ヘカテーは血に塗れた聖女を抱き上げると、空高く舞い上がり、一瞬にして消え去ってしまったのだった。
王都…
教会では、「淫魔討伐隊からの連絡が途絶えた!」と、皆が口々に話していた。
「どうしました?」
「これは教皇様、実は…」
「なんと!光の聖女達から連絡が無いとな!?」
「はい、まさかとは思いますが…」
「ああ…すぐに調査に向かわせなさい!」
「は、はい」
教皇の命令により、急ぎ北の村に調査隊が派遣された。
『クックック…今頃どんな惨たらしい姿を晒しているのか…報告が楽しみだわい。』
魔物達に踏み躙られ食い荒らされる聖女の姿を想像し、教皇は一人悦に入っていた。
そして、その報告はすぐに教会へもたらされた。
「討伐隊は壊滅、光の聖女は行方不明だと?」
「はい教皇様…村外れにカイル殿と近衛兵達の墓が建てられておりました。」
「して、光の聖女はどうした?死体はなかったのか?」
「し、死体ですか!?」
「あ、いや…何処かに無事でいるやも知れんな」
「…残念ながら、墓の近くで大量の血が流れた痕跡がございました…たぶん光の聖女様のものかと。」
「そ、そうか…」
教皇は、どうしたものかと考えた。
『状況から聖女が死んだことに間違いない。
しかし死体が見つからないとなると、民衆は聖女はまだ生きていると言い出しかねない。
…ならばいっそのこと、光の聖女に罪の全てを背負って貰おう。』
「…おぬし、この事を誰か他の者に話したか?」
「とんでもない!真っ先に教皇様にお伝えしました。」
「そうかそうか(笑)、大義であった、ゆっくりされるが良い、隣の部屋に食事が用意してある。」
「ありがとうございます、ではお言葉に甘えて…」
飲まず食わずで王都まで来ていた伝令者は隣の部屋に向かった。
「いや、ありがたい。やっと食事にありつける。」
ガチャと部屋のドアを開け、伝令者は中に入った
バグンッ!…ムシャ、ムシャ、ムシャ…。
「美味いか?よしよし♪ワイバーンは死んでしまったのでな、お前が新しいペットじゃ」
教皇は、伝令者を部屋で飼っていた魔獣マンティコアに処分させたのだ。
マンティコアは、獅子の体に老人の顔、皮膜の翼と猛毒の蠍の尾、3列に並ぶ歯を持つ、初期中部ペルシャ語「人を食らう者」が語源の魔獣だ。
「これで聖女の行方を証言する者はいなくなった。
教皇は、聖女に罪を着せる良いシナリオを考えるため、自室へと帰っていった……
【『聖女モモ・ルーと冥界の女神』第一部 第一章:光の聖女 完】
お読みくださいましてありがとうございました。
『聖女モモ・ルーと冥界の女神』第一章完結です。
第一章は聖女の死がテーマでしたが…
続く第二章は聖女の再誕がテーマになります。
冥界の女神によって、主人公モモ・ルーがどう再誕するか…お楽しみに。




