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『聖女モモ・ルーと冥界の女神』第一部  作者: Toru


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第一章:光の聖女 第二話 霧の村の邂逅

その村には、生命の鼓動がなかった。

立ち込める霧は、甘く、どこか腐敗した果実のような香りがする。

村の広場に辿り着いた聖女が見たのは、累々と横たわる村人たちの姿と――。

中心に立つ、一人の女だった。

露出の多い漆黒の衣を纏い、紫煙を燻らせるような気怠い色気を放つ女。

その周囲には、不気味な魔力の波動が渦巻いている。


「貴女が、人々を苦しめる淫魔ですね!」


聖女は杖を掲げ、最上位神聖魔法『光輝の裁断』を展開する。


「光の刃よ、魔を切り裂き闇を祓え!」


まばゆい光の刃が女を襲う。だが――。


「ふふ、威勢がいいわね。でも、その光……アタシに届くかしら?」


淫魔と呼ばれた女は、指先一つで光の刃を霧散させた。


「な…っ!?光の刃を…一瞬で?」


驚愕で固まる聖女の耳元で、甘い声が囁かれる。


「聖女様。お前、自分が何を身に着けているか、分かってる?」

「ひっ!」


いつの間にか聖女の後に回り込んだ淫魔が、弄るように聖女の胸元に手を伸ばす。


「この輝石…アタシの可愛い娘をハメ殺した奴らと同じ、胸糞悪い神の呪いの匂いがするねぇ」

「離しなさい!」


聖女が淫魔を薙ぎ払う様に杖を振った。

だが、淫魔はあっという間に移動して、聖女の肌に触れた指先の匂いを嗅いでいる。


「…モルモーと同じ魂の匂いを感じる…お前本当に聖女か?」

「な、何を言ってる!」


始めて出会った強敵に手足が震える。

しかし、ここで引き下がる訳にはいかない。


「光の矢よ、魔を射抜け!」

ドグン!!

叫んだ瞬間、胸元のペンダントが、熱く、黒く脈打ち始めた。


「うぐぅっ!」


それは魔力を増幅させる加護などではなく、聖女の魂を「捕食」しやすくするために弱らせる、呪具だったのだ。


「な、何なのこれ?」


その場にへたり込んでしまう聖女様

それを見てカイルと近衛兵達が駆け寄って来た。


「聖女さま!」

「…カイル…近寄ってはいけませ…」

「…よくやった淫魔よ、後はオレ様に任せろ」

「⁉️」


いつものカイルとは違う、野蛮な表情…

まるで獲物を前にした猛獣の様だ。

そしてそれは同行した近衛兵達も同じだった。

全員、濁った紅く光る目をしている…それは魔物に乗っ取られた者の特徴だった。


「カイル…皆も、まさか…」

「あぁ…オレ様はカイルじゃねえ…ラルヴァ様よ」

「淫魔…あなたの仕業ね…」

「アタシ?まさか、こんな小細工しないわよ(笑)」


淫魔は何が起きるのか、高みの見物をしている様だ


「カ、カイル…皆、目を覚まして」

「無駄だよ、カイルってガキもこいつらも、ここに来るまでに全員オレ様が喰ってやったからなぁ(笑)」

「何ですって!」


聖女の身体が怒りに震えている

そんな聖女にラルヴァは近づき、彼女の顎を持ち上げ自分の方に向かせた


「そんなに怒るなよ、お前も喰ってやるからさ(笑)」

「くっ!」

「まあ、その前に、その身体死ぬほど弄んで、オレ様が魔力を吸い取ってやるからよ!」

「!?」


思わず後ずさる聖女

するとカイルと近衛兵達の身体から大量の蛆虫が湧き出し始めた


「やめて…やめて…やめてーーーっ!」


目の前で人の形を無くしてゆくカイルと近衛兵達

そうして湧き出した大量の蛆虫達が一斉に聖女に襲いかかった。


「いやあーーっ!」

「ケケケ、お前の穴という穴から入り込んだ俺達がお前の魔力を吸い取って、その全てが俺様の物になる…そして俺様は魔王を越える魔族になるのさ!」

「お前の狙いはそれか…」


今まで黙って見ていた淫魔はそう言うと、ヒュンッと指を振った。

どこかで「パキィンッ!」と音がした。


「…興醒めだ」


それだけ言うと淫魔は消えてしまった。


「あ、なんだあの野郎、気に入らねぇ…が、今はそれどころじゃねえ…」

バヂバヂバヂッ!

ラルヴァが振り返るより先に、聖女に纏わりつく全ての蛆虫達が吹き飛ばされていた。


「な、何だ?何が起こった?」


そこにいたのは怒りに打ち震える光の聖女だった。

そして彼女は神聖魔法である光の矢を放つ


「よくも我が身を穢したな!光の矢よ、悪しき者たちを貫きなさい」

ズドドドドドドドド…………!


天から無数の光の矢が振り注ぐ

その数は大量にいた蛆虫達の数を遥かに超え、ただ一匹の蛆虫だけを残し、蛆虫達は消滅した。

この小さな蛆虫がラルヴァの本体、魔物の核だ


「バカな!こんなバカな事があるか!呪具を付けて神聖魔法を使える筈がない!」

「…呪具というのはコレですか?」


見るとペンダントの呪いが込められた輝石が粉々に砕けている。


「…お前!どうやって!」

「そんな事より」


聖女は杖を向けラルヴァを問いただした


「あなた、カイルを殺しましたね?」

「ああ?あんなガキ喰ったくらいが何だって?魔力の足しにもならなかったぜ」

「何ですって!」

「普通の人間なんて、俺達魔族からすればただの食い物だ!」

「!」

「飯を喰って何が悪い!お前らは『家畜』なんだよ!」

「…もういいです。あなたに改心を促すのは辞めにします。」

「うるせー!死ね死ね!皆喰われて死んじま」ブチ

「……………………。」




「カイル…ごめんね。」


聖女は、カイルと近衛兵達のため質素な墓を作り、彼らに祈りを捧げた。

そして破壊されたペンダントを見つめた。


「このペンダントが破壊されていなかったら、私は今ごろ…」


考えるだけでも恐ろしくて、聖女は身震いした。


「…たぶんこれを破壊したのは、あの淫魔…でも何故?…それに…」


このペンダントを授けてくれたのは教皇様だ、

まさか教皇様まで?…いいやそんな事はあり得ない、と頭を振る聖女だった。


「とにかく今は、村の人達を助けなければ…」


そう言って、聖女は生き残っていた村人の元に歩いていった。


『聖女モモ・ルーと冥界の女神』 第二話 霧の村の邂逅 完

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