第一章:光の聖女 第一話 聖なる欺瞞
王都の教会は民衆の祈りの場であり、聖女や聖騎士達の本部でもある。
教皇は光の聖女を教会へと連れてくると、
教会の祭壇へ登った。
教会には、他の聖女や聖騎士達が既に集まっている。
皆、片膝をつき教皇に向って頭を下げた。
「光の聖女よ。神の御心に従い、汝に聖務を授ける」
いつもなら、皺の刻まれた顔に浮かぶ、穏やかな微笑を浮かべる教皇だが、今その顔に笑顔はない。
「北方の果て、地図にも載らぬ小さな村に、淫らな香りで人々を狂わせる『淫魔』が現れた。
村人たちは魂を削られ、絶望の淵にある。
聖女よ、汝の神聖魔法をもって、その邪悪を討ち果たすのです」
「はい、教皇様。迷える羊たちを救い、世界に平和を取り戻すこと……それこそが私の使命です」
聖女は顔を上げ、決意に満ちた瞳で応えた。
「お、お待ち下さい教皇様!」
「カイル!」
「私も同行させて下さい!
いくら光の聖女様がお強いといっても、そんな危険な所に行かせるだなんて…」
「カイル、あなたには王都を守るという大事な職務があるでしょう?」
「それは…そうですが」
「カイルが心配するのも無理はないですね…いいでしょう、カイルよ同行を許しましょう。」
「あ、ありがとうございます!」
「教皇様、よろしいのですか?今朝のように、魔物が現れたら…」
「何、心配はない。王都には、炎の聖女も、水の聖女も、聖騎士達もおるからな」
「それはそうですが…」
心配する聖女だったが、教皇が決めた事だ、異議を唱える訳にもいかなかった。
と、教皇がある提案をしてきた。
「それと、私の近衛兵数名も同行させましょう」
「教皇様!?」
「カイル一人では、ちと不安なのでな」
「えー…はい…」
カイルは、本当は聖女と二人きりで同行したかったのだが…教皇にそう言われては、仕方なく頷いた。
「カイルよ」
教会での話が終わり、持ち場に戻ろうとしたカイルを教皇が呼びとめる。
「なんでしょう教皇様」
「この旅で、聖女と親密になれると良いですね」
「き、教皇様!」
カイルの心臓がドキリとした
光の聖女に想いを寄せている事がばれている…と動揺してしまった。
「ほほほ、なあに昔から知ってましたよ♪
神への愛は大事です。しかし人との愛もまた大切なことです」
「は、はぁ…参ったな」
と、頭をかくカイルだった。
「何も悪い事ではありません、聖女とはいえ一人の女性です。
沢山子供を産んでもらう事は、この世界を維持する大切な仕事ですから。」
「は、はぁ」
地上界は魔物に襲われ、喰われてしまう人々が
沢山いる。
そのため沢山子供をもうけるよう推奨され、教会も性に対して柔軟で、聖職者でも子作りをするように求められていた。
旅立つ前の晩
カイルは支度を整え終えた。
「さて、後は寝るだけだな!」
そこへ…
コンコン、と部屋のドアをノックする者がいました。
「こんな夜更けに誰だろう?」
ガチャとドアを開けると、そこに立っていたのは光の聖女様だった。
「どうなさったのですか聖女様?」
「夜分にごめんなさい…ちょっと良いかしら?」
「えぇ…どうぞ」
カイルは聖女を部屋に招き入れた
すると、彼女はカイルに駆け寄り抱きついた。
「せ、聖女様!?一体どうしたのですか?」
「私、とても怖いの…」
彼女の肩は震えていた
「本当は魔物と戦うなんて、とても怖いの」
「聖女様…」
カイルは優しく聖女を抱きしめる
「大丈夫です。僕が貴女の盾になり、矛になり貴女を守りますから」
「あぁ…カイル」
聖女はカイルの顔を見つめた
瞳が潤んでいる
「…あなたが好きよ」
「え?えぇえ⁉️」
聖女の告白に、驚くカイル
「キスして」
目をつむり、キスを待つ聖女
「こんな…こんな事…」
あり得ないと分かっていても、カイルは聖女の柔らかそうな唇に引き寄せられてしまう…
「聖女様!」
「あうん♡」
唇を重ね合う二人
そして、段々と激しく求め合う
『あぁ…夢のようだ、聖女様が僕を好きだなんて…』
聖女は舌をカイルの口内に差し入れた
『あぁ…聖女様の舌が僕の口の中に…うぐっ!?』
舌ではない!何かもっと太くて大きな物がカイルの口内に押し入って来たのだ。
「ぐうぅ‼️」
あまりの苦しさに、カイルは聖女から離れようとするが、聖女はまるで岩のようにカイルを抱き締めたまま動かない。
「!」
カイルが目を開いて聖女を見ると、そこにはカイルを抱きしめたまま動かなくなった泥人形がいた。
「うぐぐぐうぅ!」
そして泥人形の口から出てきたそれは、とうとうカイルの口内に入り込み、喉をこじ開け体の中に入っていった。
泥人形がボロボロと崩れ、カイルはその場に倒れ込み、苦しみ悶えている。
「あ…が…!…」
喉を塞がれ、息ができない、声も出せない。
首元を掻きむしり、身体は痙攣している。
しかし…
やがてカイルは動かなくなった。
その身体の内側からは、バリバリ、ガリガリと音がしていた。
…暫くすると、カイルは何事も無かったかのようにすっくと立ち上がった。
「…中々良い身体だ…多少魔法も使える様だな」
と、具合を確かめる様に身体を動かすカイル。
いやそれは元カイルだった者だ。
「泥人形と人間の区別もつかんとは…まったく情けない奴だ」
「フフフ…だからこそつけ入る隙が出来たのだ、ラルヴァよ。」
部屋の中にフードを被り顔を隠した何者かが入ってきた。
「まぁアンタが作った泥人形よりはマシだな、デーモンさんよ」
「…調子に乗るなよ、若造」
「凄むなよ、老体」
元カイルの手から魔法による光が溢れ出る
「ふん…まぁ良い、コントロールは完璧にできている様だな」
カイルの身体を乗っ取ったそいつは、ラルヴァと呼ばれる魔物だった。
ラルヴァは悪魔の幼体で、下級悪魔の素となる人頭の蛆虫、人間の身体に入り込み、乗っ取ってしまうのだ。
「ラルヴァよ、あの聖女を喰ってしまえ、骨も残すな!」
「いいのか?あの聖女、魔王様への貢ぎ物にするんじゃねぇのかよ?」
「あの女、わしの大事なワイバーンを殺しおったのだ!」
フードの男はそう吐き捨てた。
「なるほど、まぁ美味そうな女だしな。
女の始末はこのラルヴァ様に任せろ」
そうしてカイルに成りすましたラルヴァは淫魔討伐隊一行に紛れ込んだのだった。
光の聖女一行が旅立つ日になった。
「聖女よ、渡したい物があります」
そう言って教皇は聖女に近づくと、聖女に何かを渡しました。
「これを貴女に授けます。」
「これは?」
「聖水で清めた輝石です。
この石は『聖なる加護』を宿しています。
きっと貴女の助けとなるでしょう」
「ありがとうございます、教皇様」
教皇から授けられた、聖なる加護を宿すというペンダント。
それを胸に、彼女は教皇の近衛兵数名と共に、霧深い辺境の村へと旅立った。
「さあカイル、出発しましょう!」
「はい、聖女様!
皆出発だ!グズグズするな!」
「あら、いつになく張り切ってるわねカイル?」
「聖女様、からかわないで下さい。」
「フフフ、頼りにしてるわ」
「お任せを…」
そう言いながら、前を歩く光の聖女を、足の先から頭まで舐めるように見るカイル
(魔力タップリのいい身体だ…死ぬほど弄んで魔力を吸い尽くしてから喰ってやるぜ)
カイル、いやラルヴァがそんな事を考えているとは全く思ってもいない聖女様だった。
「神のご加護があらんことを…」
旅立つ聖女を見送る教皇
しかし…その瞳の奥に、濁った紅い光が潜んでいることに、純真な彼女は気づかなかった。
『聖女モモ・ルーと冥界の女神』 第一話 聖なる欺瞞 完
第一話です。
ラルヴァに喰われてしまったカイル君
元々の設定は光の聖女の幼なじみだったのですが…
良いエピソードが思い浮かばず、聖女に恋焦がれる衛兵に格下げ。
ゴメンねカイル君。




