中流貴族の男
今宵は大きな『赤い月』が血のような月明かりを照らしていた。フォートレス家をこっそり抜け出し、わたしはクレマチス帝国の街中を駆けていた。
ハルバードを手にし、素顔を隠すために仮面も拝借した。これで正体はバレない。
イクス様には申し訳ないと思いつつも、わたしはネモフィラの情報を受け――帝国の南に位置する酒場へ向かった。荒くれ者が集まる治安が良いとは呼べない場所。一般人でも立ち入らないという。
扉の前に立ち、気配を探る。
いる。三人の人間が中にいるようだった。わたしは扉をハルバードで破壊し、正面から堂々と侵入した。
「……!」「なんだ?」「誰だ?」
男たちがこちらへ振り向く。
「……」
情報通り、中流貴族のカールがいた。彼はヒッグスと繋がっていると聞いた。他の二人の男も仲間でしょう。彼らは貴族を相手に取引を持ち掛け、騙していると聞いた。そのお金が流れているとか。机には帝国の貨幣『ヴェラチュール』が山のように置かれていた。
ネモフィラの言っていた事は本当だったようね。
「なんだテメェ!」
「仮面? 怪しいぞコイツ」
「痛い目を見たいらしいな」
三人がこちらへ向かってくる。とりあえず、カールだけ残れば十分。わたしは一心不乱にハルバードを振るい、邪魔者を排除した。
茶髪の不良男には槍の穂先を肩に突き刺し、重症を負わせた。すぐに体勢を整え、筋肉質な男の左腕に斧を叩き入れ、吹き飛ばした。
「ぎえええッ!!」
「うあぁぁぁっ!!」
邪魔な二人は床に転がり悶え苦しんでいた。コイツ等はどうでもいい。そのままカールの前へ立つ。
「……ひぃっ! な、何なんだアンタ!」
「カールだな」
「そ、そうだ。命だけは……どうか」
「ふざけるな。少し前にスターグローリー家が奇襲された事件があった。その時、お前は命乞いする彼らに慈悲すら与えなかったはずだ」
「知らねぇよ……証拠がないだろ!」
「証拠ならある」
わたしはハルバードでカールの頭を叩き割った。彼はそのまま即死。……証拠は、この家だ。




