Act 2-7:思いも寄らぬ接点
ぼくたちはすぐ、首都近くの衛兵詰所へと向かった。
この世界では、やはり規律がゆるい、とぼくは思った。
衛兵は、すんなりと、逮捕者の記録を見せてくれた。
それぞれの住居も記入してあるが、はたして、いまもおなじところに住んでいる人間が、何人いることか。
「コーイチ」
記録を読んでいたピュグマが声を上げた。
「これ、見るのだ」
ぼくは、横から記録をのぞきこんだ。
「ここ、ここなのだ」
ピュグマが指さす名前を見る。
全身に、電流が走ったようだった。
「どうしてここに、この名前があるのだ?」
「……いや」
すこしも、おかしなことではなかった。
幻覚作用をもつ花──ペペの所持と使用による逮捕者の一覧。
そこには、シヅヤ、という名前がつづられていた。
QたちがアンサブBの正体であるとして捜索している男の名だ。
どうして、いままで思いいたらなかったのか、とぼくは自分を恥じた。
薬物乱用は、〈無秩序型〉の犯人に多い特徴の一つだ。
待て、とぼくはさらに思考を進めた。
地理的プロファイリングからして、アンサブB=シヅヤという男は、この近辺に住んでいる可能性が高い。
だとすると、ペペを常用するうえで、この地域一帯でペペを売っていた女性、アリステアとマリアン、そしておそらくは、もう一人のジェーン・ドウ(身元不詳の女性)……アンサブAの手にかかった被害者三人のだれかからペペを購入していたとしても、なんら不思議はない。
思わぬ接点の発見に、ぼくはわずかに混乱した。
「二つの事件は、関係ない?」
ピュグマの問いに、ぼくはゆるゆると首をふった。
「事件を起こした人間は──殺人者は、ぜったいにべつです。だけど、その背景は共通しているのかもしれない。なにか、関係があるのかもしれない。そもそも、おなじ地域で、二つも殺人が同時に起こるというのが、まず異例なんです。それは、確率的にも、ほとんどありえないことです。ぼくは、世界が異なればそういうこともありえるのだろうと、あえて見過ごしてしまっていました。けれど、これは……」
ピュグマの杖が振動した。
「向こうのチームからなのだ」
ピュグマが言って、杖で地面をとんとたたいた。
「もしもし?」
「……やられた」
Qの声が聞こえてきた。
「新たな死体だよ」