第1話 AIで最低評価の少年たち
ネオ東京は、夜になると美しい。
それは、吐き気がするほど美しい街だった。
東京湾の上に築かれた人工島都市。
海面から突き上がる摩天楼。
空中道路を流れる無数の自動運転車。
ビルの壁面を覆い尽くす巨大広告。
空には監視ドローン。
地上には警備ロボ。
地下には、都市の排泄物のように押し込められた貧民街。
この街は、完璧に管理されている。
交通事故はほぼゼロ。
犯罪発生率は過去最低。
空気は清浄。
水は透明。
街路樹の葉の枚数まで、都市管理AIによって最適化されている。
その中心にいるのが、世界統合AI
【ガイア・マザー】
都市管理。
交通。
医療。
教育。
軍事。
防犯。
選挙。
SNS監視。
人々は朝起きる時間から、食べる物、見るニュース、怒る相手、就職先、恋愛相手まで、ガイア・マザーに決めてもらっている。
誰もが言う。
「AIに任せれば間違いない」
「人間より公平だ」
「感情がないから信頼できる」
その結果、ネオ東京は世界で最も清潔な都市になった。
同時に。
世界で最も息苦しい都市にもなった。
なぜなら、この街では人間の価値まで点数で決まるからだ。
社会貢献期待値。
犯罪予測指数。
情緒安定度。
適正職業ランク。
交友関係危険度。
将来投資価値。
全市民が、毎日、採点されている。
高評価の人間は、明るい区域で暮らす。
低評価の人間は、暗い区域へ押し込まれる。
そして、最低評価の人間は、社会のノイズとして扱われる。
◇◇◇
湾岸第七職業訓練校。
通称、七職。
進学校にも、企業養成校にも、軍学校にも行けなかった若者たちが集められる場所。
政府はここを、
【再適応教育施設】と呼ぶ。
生徒たちは、
「人生のゴミ箱」
と呼んでいる。
その朝。
七職の全生徒に、進路AI診断が行われていた。
教室の前方には巨大モニター。
そこに映っているのは、優しげな母親の顔をした教育AIだった。
ガイア・マザー AI教育端末。
通称、マザー先生。
「皆さん、おはようございます」
滑らかな声が教室に響く。
「本日は、あなた方の未来を最適化する大切な日です」
生徒たちは誰も笑っていなかった。
未来を最適化。
その言葉の意味を、みんな知っている。
AIに価値ありと判定されれば、上位職業訓練へ進める。
企業推薦ももらえる。
居住区ランクも上がる。
逆に、価値なしと判定されれば、低賃金労働。
外縁区送り。
危険区域作業。
軍の雑用。
一生、上の街へは戻れない。
人生の扉が、今日、開く。
もしくは閉じる。
いや、違う。
AIによって、静かに施錠される。
教室の一番後ろ。
窓際の席で、カイはあくびをしていた。
黒髪。
鋭い目。
制服は着崩し、机の上には授業端末ではなく、古いバイクのエンジン部品。
今どき、内燃機関のバイクに乗る者などほとんどいない。
排気音はうるさい。
燃料は高い。
整備は面倒。
環境負荷も高い。
つまり、AI社会にとって最低の乗り物だった。
だからカイは、それが好きだった。
熱がある。
音がある。
匂いがある。
壊れる。
暴れる。
人間みたいだからだ。
「カイ」
隣の席から、レンが小声で呼んだ。
細身の少年。
黒縁のスマートグラス。
落ち着いた声。
カイの幼なじみであり、レッドノイズの整備担当の一人でもある。
慎重で、頭も回る。
ただし、いつも少しだけ自信がない。
「診断、対策したのか?」
カイはエンジン部品を指で回しながら答えた。
「した」
「何した?」
「昨日、警察ドローン三機振り切った」
レンは額を押さえた。
「それは対策じゃない。犯罪履歴の追加だ」
「根性は見せただろ」
「AIは根性を評価しない」
「だから嫌いなんだよ」
カイはモニターに映るマザー先生を睨んだ。
その横顔を、レンは見つめる。
カイはいつもそうだ。
怖いものがないように見える。
大人にも、警察にも、AIにも噛みつく。
レンには、それが眩しかった。
同時に、少し苦しかった。
自分はいつも、カイの後ろにいる。
助けられる側。
呼ばれる側。
相棒と言われるのは嬉しい。
でも本当は、いつかカイの隣に立ちたかった。
名前:カイ
本作の主人公。
湾岸第七職業訓練校に通う17歳。
暴走族チーム「レッドノイズ」のリーダー。
外見
黒髪。
やや長めの前髪を無造作に流している。
目つきは鋭く、いつも眠そうにも怒っているようにも見える。
制服は着崩し、襟元は開けっぱなし。
靴のかかとは踏み潰している。
体格は細身だが、喧嘩とバイクで鍛えられていて瞬発力が高い。
性格
短気。
反骨心が強い。
理屈より先に体が動く。
考える前に殴るタイプに見えるが、実は人の本質を見る勘が鋭い。
仲間を見捨てることだけは絶対にしない。
大人やシステムを信用していない。
特にAIによって人間の価値を数値化される社会に強い怒りを持っている。
口癖
「機械に俺の人生決められてたまるかよ」
「走るぞ」
「考えるのは後だ」
「Fランク上等だ」
==================
名前 レン
レン
カイの幼なじみ。
レッドノイズのメンバー。
外見
細身で色白。
黒縁のスマートグラスをかけている。
髪は黒く、やや長め。
カイに比べると大人しそうな印象。
しかし覚醒後は目の奥に異様な光が宿り、表情が冷たく変化していく。
性格
本来は優しく、慎重で、周囲をよく見るタイプ。
機械整備が得意で、頭も悪くない。
しかし自己評価が低く、いつもカイの後ろにいる。
カイに強く憧れている。
同時に、強烈な劣等感と嫉妬を抱いている。
「カイの相棒」と呼ばれることは嬉しい。
しかし、いつまでも「カイの隣にいるだけの奴」と見られることが苦しい。
口癖
「やめた方がいい」
「お前はいつもそうだ」




