~ファイル82 忌まわしき過去を焼き祓え!!~
グリイッ・・・・・・ ギリリィッ・・・・・・
「うくっ・・・・・・。けほっ・・・・・・」
「ほっほっほ・・・・・・。こんな年端もいかない小娘が、よくここまでボクに楯突けたものですねェ? それだけは誉めて差し上げましょう・・・・・・」
毒島は、小紅の首を掴み、じわりじわりと握力を上げながら締め潰してゆく。
「・・・・・・さァ、このまま、気道と首の骨を、一気に握りつぶしてあげますよ・・・・・・」
「(ま、まずい・・・・・・。あ、あたし・・・・・・。意識・・・・・・が・・・・・・)」
小紅は毒島の手を振り解こうとするが、呼吸が止められ、指で頸動脈も締め上げられ、力がまともに入らない。
「・・・・・・ほっほっほ。・・・・・・さようなら、早乙女小紅! 来世では、ボクの忠実な部下として、生まれ変わるといいですねェ? ・・・・・・それじゃ・・・・・・」
・・・・・・ギュリイィッ・・・・・・ ・・・・・・みし・・・・・・
「・・・・・・げへっ・・・・・・。けへっ・・・・・・。ひゅーっ。ひゅー・・・・・・っ」
さらに力を強める毒島。小紅の目から、光りが薄れてゆく。
「(う・・・・・・うそ。あたし、本当に・・・・・・これは、死ぬ・・・・・・。み・・・・・・みんなぁ・・・・・・っ。ゆ・・・・・・優太・・・・・・ぁ・・・・・・)」
・・・・・・がくん ・・・・・・だらり
小紅の腕が、力なく毒島の手から離れ、だらりと落ちる。
・・・・・・どおんっ ドガドガアッ どすんっ ボカバキィ ドガアッ!
「・・・・・・ぬ! ・・・・・・?」
・・・・・・どさぁっ ・・・・・・ごろごろごろ
その時、突然、毒島は側頭部と左側面に強い衝撃を受け、数歩横へ飛ばされた。
小紅は毒島の手から首が離れて、意識を失う前にごろりと地面に転がった。
「・・・・・・まだ、性懲りもなくボクの邪魔をするとは!」
首をこきんと鳴らし、目をぎらりと光らせる毒島。
「はー・・・・・・はー・・・・・・はー・・・・・・。小紅チャンを、死なせるものですか!」
「ふぅー、ふぅー・・・・・・。小紅っ! だいじ? ・・・・・・毒島仁英、まだまだだよ!」
「くっ・・・・・・。早乙女、早く呼吸を整えろ! ・・・・・・はぁ、はぁ・・・・・・。ぐっ・・・・・・」
「小紅サン! 早乙女師範は水穂が一緒についてます! わたしたちが食い止めるので、その間に、呼吸を・・・・・・」
毒島を吹き飛ばしたのは、華蓮、苺、みかん、澪の四人。
「こほぉっ・・・・・・けほけほっ・・・・・・。はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・。み、みんな、ありがと!」
小紅は、首と喉をさすりながら、何度も瞬きを繰り返し、呼吸を整える。
・・・・・・トッ トッ トッ
「もう、アナタたちと遊ぶのは飽きましたよ。・・・・・・いらないオモチャは、廃棄処分にしますからね!」
・・・・・・ビュゴオオオォォォ ズオオオオオオオオ
強風が、黒煙をぶわりと空に舞い上げ、炎の威力をさらに強くさせる。
・・・・・・ズズズ・・・・・・ ・・・・・・ズズズズズズ・・・・・・
・・・・・・コト コトトトトト カタタタタタタ・・・・・・
微弱な地震で、地面も揺れる。ことこと、かたかたと、地面の小石や岩塊が揺れ動く。
「ハアァイィーーッ!」
・・・・・・シュバッ パパァンッパパァンッ!
「小賢しい!!」
・・・・・・ドガアッ
「きゃあぁっ!」
「うわあっ!」
蹴りと掌底打ちを仕掛けた華蓮だったが、毒島はものともせず撥ね飛ばした。
華蓮はみかんのもとへ吹っ飛ばされ、二人は転がってしまった。
「はあいやぁーーーっ!」
「せやーーーーーーっ!」
ベシイイッ! バシイイッ! ・・・・・・ドガアッ
「うあぁ・・・・・・っ!」
苺と澪が、毒島へ蹴りを叩き込む。
しかし、毒島はものともせずに軽く腕を振り払って澪を吹っ飛ばす。
苺は何とか攻撃を避けていたが、華蓮たちの前に、澪は吹っ飛ばされ転がった。
・・・・・・がしっ
「まぁだ、しがみつくのですか? 朝霧苺さんも、しつこすぎますねェ・・・・・・」
「ふぅー・・・・・・ふぅー・・・・・・。ウチの、渾身の一発だよっ! はあいやぁーーーっ!」
・・・・・・ビシュウッ ビキイイィィッ!
「・・・・・・んんっ?」
苺は左拳をぎゅうっと鏃の形にし、毒島の額にある渦巻き型の刺青めがけ、突きを放った。
・・・・・・ギュリイッ ・・・・・・ピキッ・・・・・・
拳を捻り込む苺。
すると、毒島の表情が、一瞬、歪んだ。
「・・・・・・ぐ! ・・・・・・むぅ! ・・・・・・な、なんでしょうねェ? ・・・・・・目障りですよっ!」
・・・・・・ブンッ バキイイィィッ! どしゃ
「うわあぁーっ・・・・・・」
腕をクロスして防御した苺。しかし、毒島は、お構いなしに苺を平手で吹っ飛ばす。
苺は、澪が転がっているところまで飛ばされた。
だが、その直後、毒島は額を手で押さえながら、身体を震わせ始める。
・・・・・・がく ・・・・・・がくがくがく
・・・・・・ぶるぶるぶるぶるぶる
「(な、なんだ! ・・・・・・毒島の様子が!)」
小紅は眉間にしわを寄せ、毒島の様子を窺いながら、吹っ飛ばされた四人のもとへ駆けつける。
その様子を、四人も怪訝な顔をして、じっと見つめている。
「・・・・・・ぐっ、ぐぅあああぁ・・・・・・。ぬうぅ・・・・・・。な、なんだ、これは・・・・・・」
渦巻き型の刺青部分を何度も手で押さえ、さするように撫でる毒島。
「あ・・・・・・頭の中が・・・・・・割れるように・・・・・・。ぜ、全身も・・・・・・。ぐうぅ・・・・・・」
目を血走らせ、痙攣したように震える毒島。
「もしかして・・・・・・。さっき、苺チャンが放った一本拳が、毒島の弾痕奥まで・・・・・・」
「え? ウチの鏃で・・・・・・。まさか、あいつの頭の中の銃弾が?」
華蓮と苺は、腕を押さえながら、毒島を二人で見つめる。
澪とみかんも、毒島の異常な様子に、顔をしかめる。
「・・・・・・おい! 毒島! ・・・・・・お前、もうさすがに限界なんだよ! 諦めな! このまま警察におとなしく捕まれ! ・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」
「・・・・・・ふざけるなよ? このボクが・・・・・・」
「あたしは、お前を絶対に許さない。だけど・・・・・・。あたしは、お前みたいに、命を奪うようなことはしないからね! 諦めろ! そして、奪った命に対して償えぇっ!!」
小紅はふらふらとする毒島へ叫び、毅然とした態度で向かい合う。
「・・・・・・う、うるさいですよ、早乙女小紅。・・・・・・ぐう・・・・・・。このボクは、力で支配する国を、作るんだ・・・・・・。警察など、このボクが・・・・・・叩き伏せてくれるわぁっ!」
「毒島ぁっ! ・・・・・・お前は、あたしたちの幸せを壊した張本人! 今日のことを含め、お前のせいで、みんな忌まわしき過去を持っちゃったんだ!」
「知りませんよ・・・・・・。ボクにとっては・・・・・・。ぐうぅ・・・・・・」
「・・・・・・でも、今日でそれを打ち破って、あたしは前に進みたい! ・・・・・・もう、終わりだ! 観念しろ、毒島仁英!」
「・・・・・・黙りなさい・・・・・・。うぬぅ・・・・・・。ぐうぅ・・・・・・。このボクは、アナタたちとは違うのですよ・・・・・・」
「まだそんなこと言ってんの! この野郎ー・・・・・・っ!!」
「運命に選ばれし者は、ボクだ・・・・・・。デスアダーが牛耳る国を作れば、力と金がある者が上に立てる、わかりやすい世界になるのですよ・・・・・・」
「ふざけんな! そんなこと、させないよ!!」
「・・・・・・そのためには、何だってボクは利用するし、壊すし、使うし、捨てる・・・・・・」
毒島は、真っ赤に充血した白目と、真っ青に光る目をぎろりと小紅に向けたまま話している。
「なにが運命に選ばれし者だ! 人の心もわからず、痛みもわからず、さんざん自分のためだけに人や金を利用するだけのやつが、国なんか作れるわけない!」
「お黙りなさい! ・・・・・・ボクは、力を得た。力でこの国を支配する!」
「力だけのやつに、人はついていくわけない! ・・・・・・お前の巨大なワガママとおままごとに、あたしたちを巻き込みやがって! ・・・・・・毒島! ・・・・・・あたしが、お前を必ず倒す!」
「小生意気な小娘め! ・・・・・・早乙女小紅! このボクが・・・・・・アナタごときに・・・・・・」
・・・・・・グラグラグラアッ ズゴゴゴッゴゴゴッ・・・・・・ グラングラン!
「「「「「 わっ! 」」」」」
これまで以上に強い揺れ。立っているのも困難な揺れに、小紅たちはたまらずしゃがんだ。
だが、みな毒島からは目を逸らさずに、その場に伏せている。
近くの岩山や岩面からは、地滑りや落石も起こる。
「ひぃー。せ、先生! こっち! はやく! ひゃあぁーっ!」
水穂は源五郎の肩を支え、岩塊や小石が落ちてくる場から離れ、小紅たちの近くへ移動。
「・・・・・・ぬ、ぬうぅ・・・・・・。ぐああぁ・・・・・・。あ、頭が・・・・・・」
毒島は、強い揺れで足下が覚束ない様子。身体を震わせながら、大きくよろめいた。
・・・・・・ズボオォワアァッ ビュゴオオォォ ボオォォワアアァッ!
ボワアァンッ! ドオオオオッ! ゴオオオッ!!
「な! ・・・・・・な、何ですって・・・・・・っ!」
地震の揺れでまともに立てず、よろめいた毒島を、巨大な炎の壁が火柱を吹き上げて包み込んだ。
火柱は、毒島の足下から全身を包み込み、黒煙を上げながら紅蓮の炎を吹き上げ、激しく燃えさかる。
毒島はよろめいたまま、猛り狂う紅蓮の火柱の中に、全身が包まれていった。
「な・・・・・・っ! ぶ、毒島ぁっ! おい! 毒島ったら!」
「「 小紅センパイっ、だめ! あぶない! / 小紅、だめじゃ! もう助からん! 」」
炎に包まれた毒島へ向かって、大声で叫ぶ小紅。
慌てて、水穂と源五郎が同時に叫んで小紅の両腕を引き、炎から引き離す。
ズゥオオオアアアァァ ゴオオオオォォォォォ
風が吹き込み、音を立てながら炎の威力がさらに増す。
渦を巻き、黒煙をあげながら天へ向かって立ち上る火柱。
それは、炎の壁の向こう側にいる警察隊からも、よく見えるほどの高さになった。
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。あ、あれはっ!」
二斗刑事が、若い刑事たちと、火柱を見上げる。
「に、二斗刑事っ! 炎が強すぎます。まもなく、消防が駆けつけるそうです!」
「そ、そうか。・・・・・・デスアダーも、ほとんど確保できたようだ・・・・・・」
「いま、応援の護送車も次々来るとのことです。しかし、これほどの人数を一気に動かす毒島とは、そこまでの人物なのでしょうか・・・・・・。三十歳手前の男で、それほど・・・・・・」
「こいつらにとっては、絶大なカリスマなのだろう。はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。しかし、金と恐怖心だけでは、人が本当についてくるかと言えば、甚だ疑問は残るがな・・・・・・」
「そうですね。・・・・・・きっとデスアダーも、毒島を失えば、烏合の衆でしょう・・・・・・」
警察隊は、デスアダーの雑兵をほとんど確保していた。
二斗刑事ほか、警官隊や機動隊は、傷を負いながらも数で勝る暴力を征圧。
炎の壁の奥にいる小紅たちを救出する準備に入っていた。
ズオオォォォ ボオオォォォ ブウゥオオオォッ
火の粉を大量に吹き上げ、黒煙とともに渦巻く太い紅蓮の火柱。
その中心には、両腕を広げたまま立つ、毒島のシルエットがうっすらと浮かび上がっている。
「な、なんてこと! あたしの仇敵・・・・・・毒島が、炎の中にっ・・・・・・」
小紅は、水穂たちと炎から離れ、ただただその火柱を見つめることしかできない。
・・・・・・ぎらりっ
火柱の奥で、その時、星型のピアスと青い目がぎらりと輝いた。
「・・・・・・ほっほっほ・・・・・・。心地よい炎です・・・・・・。ボクは誰にも支配されない・・・・・・。ボクは、誰にも負けませんからねェ。・・・・・・ほぉーっほっほっほっほーっ!!」
ドワァァンッ! ゴオオォォ ズゴオォォオオオッ!!
ボオオゥワアアァァッ!! ドオオォンッ!! ゴオオオオオオオッ!!
毒島の声が火柱の中から大きく響き渡ったかと思うと、炎は一段と火力を上げ、爆発をしながら竜巻のように渦を巻く。
紅蓮の猛火は、毒島の全てを焼き尽くし、黒煙を抱き込み、また一段とどす黒い炎となって天へ向かって燃え上がってゆく。
ガソリンの臭いと、金属や有機物が焼け焦げる臭いと、枯れ木や枯れ葉が燃える臭いが混ざり合い、一本の火柱はさらに大きく渦を巻く。
「(毒島・・・・・・仁英・・・・・・っ!)」
小紅は、黒い瞳にその猛火を映し、唇を噛みながら、黙って両手の拳をゆっくり下げる。
水穂と澪は、口と鼻を袖で押さえながら、目を細めて火柱から顔を背けている。
苺と華蓮は、小紅の横で火柱をじっと見つめ、奥歯をぎりっと噛み、黙って立っている。
みかんと源五郎は、飛んでくる火の粉を手で払いながら、立ち上る煙を見上げている。
優太は、炎に照らされた小紅の背中を、ただ黙って見つめている。
「「「「「 ・・・・・・。 」」」」」
パチリッパチリッ ズオオオオオオオォォ ゴオオオオォォ
火の粉が爆ぜる音。炎が噴き上がる音。黒煙が天に昇る音。
三種類の音が混じり合い、火柱は四方に無数の火の粉を飛ばし、次第に細くなってゆく。
小紅は、どさりとその場に、膝から崩れるようにして、座り込んだ。
「・・・・・・あたしたちの、忌まわしき過去が・・・・・・。・・・・・・炎に包まれ、消えてく・・・・・・。お父さん・・・・・・。お母さん・・・・・・。・・・・・・あたし、毒島仁英を、倒せなかった・・・・・・」
・・・・・・ぽたっ ぽたぽたっ ぽたたっ
燃える炎を目の前にした小紅の膝へ、一滴、また一滴と、清らかな雫が落ちる。
その様子を、六人は、そっと見つめている。
「・・・・・・。う・・・・・・うああああぁーっ・・・・・・。わあああぁぁーーーーーっ!」
堰を切ったように泣き崩れる小紅。そこへ、源五郎と優太がそっと近づく。
「あたしの手で・・・・・・絶対に、倒したかった・・・・・・。わあぁーーーっ! 奪った命に対して、せめて謝ってほしかったのに。・・・・・・笑って消えるなんて・・・・・・悔しい! 悔しいよ!」
「小紅ちゃん・・・・・・泣かないで・・・・・・。もう、終わったんだ・・・・・・」
大粒の涙を流し泣き崩れる小紅の頭を、優太は、震える手でそっと優しく撫でている。
「ウチも、華蓮も、小紅も・・・・・・。敵わない相手だったのが悔しいよ・・・・・・。毒島、最期は炎の中で笑ってた。・・・・・・勝ち逃げされたみたいで、本当に、悔しい・・・・・・」
「でも・・・・・・。この炎は、わたくしたちの、毒島に対する憎悪、恨み、怒りを、すべて焼いて灰にし、焚き上げるようにして天に昇っていく気がする・・・・・・。忌まわしき辛い過去も、すべて、この炎が、焼き尽くしてる・・・・・・」
苺と華蓮は、収束してゆく炎の煙を見上げながら、とめどなく涙を流していた。
「・・・・・・さ、最後まで・・・・・・とんでもないやつだったぁ・・・・・・。ひぃぃー。怖かったぁ!」
「・・・・・・まさに、地獄の業火に焼かれる、鬼のような、悪魔のような・・・・・・そんな男だった」
水穂と澪は、頭に舞い落ちる灰を振り払いながら、小紅たちを見つめている。
「早乙女・・・・・・。お前の執念勝ちだよ。あいつの悪行は、運命が許さなかったんだよ」
みかんが、小紅の横へ腰を下ろす。そして、煤で黒くなった指で、小紅の涙を一粒、そっと拭った。
「・・・・・・毒島は、消えた。・・・・・・あたしは、思ったように、仇討ちは出来なかったけれど、これで、デスアダーは・・・・・・消えると思う。・・・・・・でも、命を奪われた人や、壊された幸せは、もう、元には戻らない・・・・・・」
「早乙女・・・・・・」
「毒島が、跡形もなくいなくなったからと言っても、亡くなった人は還ってこないんだよ。・・・・・・それは、あたしもわかってるんだけど・・・・・・」
小紅は涙を拭い、火柱を見つめながら、哀しい目をして呟く。
・・・・・・ゴオォ パチリパチリ ゴオォ・・・・・・
黒い煙が立ち上り、風に散らされ、消えてゆく。
赤い火柱は細くなり、周囲の炎も小さくなってゆく。
それに合わせるように、小紅たちを取り囲む熱気も次第に下がっていった。
「あ・・・・・・。みて、みんな・・・・・・」
澪の声と同時に、風が吹く。
その風で煙がぱあっと散ったあと、空からは風に乗って白い雪が舞い落ちてきた。
・・・・・・ほわり ほわり
・・・・・・ふわり ふわり ふわり
「早乙女さん! みんな! 大丈夫かねっ!」
二斗刑事ほか、若い刑事たちが炎の間を抜けながら駆け寄ってきた。
「ぶ、毒島仁英はっ?」
きょろきょろと周囲を見回す刑事たち。
小紅は、水穂に抱き起こされながら、顎でくいっと今にも消えそうな火柱のほうを指した。
「・・・・・・もう、いません。・・・・・・高笑いして炎に巻かれながら・・・・・・。跡形もなく・・・・・・」
「な、なんと! ・・・・・・報告だ。首謀の被疑者、死亡だ。首謀者は死亡と、本庁に伝えろ!」
「はっ!」
刑事の一人が、急いでパトカーへ向かった。
「・・・・・・とんでもない奴らでした。デスアダー・・・・・・。あたしの両親の仇だし、苺や華蓮の家族の仇。・・・・・・こいつらに苦しめられた人々、虐げられた人々、痛めつけられた人々、すべての元凶は、灰になって、消えましたよ。・・・・・・二斗刑事・・・・・・」
小紅は、片手で頭のハンカチと紅色の髪留めをさっと外し、ぱさりと髪を下ろした。
無言で目を潤ませる小紅を、傷だらけの優太がぎゅうっと抱きしめる。
少し間を置いて、小紅はまた、感情を抑えきれずに、大声で泣きだした。
水穂とみかんは、優太に抱かれて泣く小紅の様子を、目を潤ませて眺めている。
源五郎、澪、華蓮、苺の四人は、毒島が消えていった場所を、ただ、黙って見つめていた。
* * * * *
消防車が数台到着し、放水による消火活動が終わった。
重傷者や心肺停止の者は次々と救急車で運ばれ、病院へピストン輸送状態となった。
運良く軽傷で済んでいた小紅たち五人だが、大ケガを負った優太や腕を完全に折られたみかんは、そのまま救急車で病院へ運ばれた。
水穂も、一度、心肺停止状態になったということで、精密検査をするために優太やみかんと共に、救急車で運ばれていった。
警察、消防が多数出動する大事件。
報道ヘリも飛び交い、大矢地区は、騒然となっていた。
デスアダーは残党の雑兵が数名逃走したものの、毒島仁英の死亡により、実質的な消滅となった。
史上類を見ないほどの逮捕者の数に、警察もかなり苦戦を強いられたようだ。
「・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。あたしも、さすがに・・・・・・参ったよ・・・・・・。痛っ・・・・・・」
「小紅・・・・・・。だいじ? ウチも・・・・・・ダメージが・・・・・・すごいなこりゃー・・・・・・」
「・・・・・・でもこれで、デスアダーは・・・・・・消えた。わたくしたちの手で・・・・・・」
小紅を先頭に、苺、華蓮は、歩いて戻ってゆく。
その後ろから、澪と源五郎もゆっくりと歩いてゆく。
「・・・・・・早乙女師範。これで、小紅サンの心は、晴れたのでしょうか・・・・・・?」
「さぁな。わからん・・・・・・。じゃが、小紅の仇は、炎が焼き尽くしていった。それで、小紅の止まっていた時間が少しでも前に進むなら、よかんべ。・・・・・・小紅の心は、振り子の止まった時計のようなものじゃったかんなぁ・・・・・・」
源五郎は、先を行く小紅の背中を見つめながら、澪へ語る。
「小紅サンは、あの毒島という男が消えたことで、今後、どうするんでしょうか?」
澪が隣から、源五郎へ再度、問いかける。
「小紅は、ここからは両親の分まで、過去を乗り越えて生きるべな。・・・・・・わしもこれで、毎日のヒヤヒヤが少しでも減るかと思うと、気が楽じゃわ・・・・・・」
「過去を乗り越えて・・・・・・ですか。小紅サンは強い人ですから、それならきっと大丈夫ですよね」
「小紅と同じ仇を持っていたあの子たちも、きっと、ここからが新たな一歩じゃの」
苺や華蓮と歩く小紅を、後ろから見つめている澪と源五郎。
それぞれの想いを胸に抱き、足をゆっくり進めていった。
「(デスアダーは・・・・・・消えた。・・・・・・毒島も、消えた。・・・・・・これであたし、今後は普通の女の子として・・・・・・暮らせるかなぁ・・・・・・。なんか、疲れたな・・・・・・)」
「(お父さん。おじいちゃん。・・・・・・これで、きれいな世の中になるかな。ウチ、全力で、戦ったよ・・・・・・)」
「(お母さん・・・・・・。みんなで力を合わせて、悪い人を一掃したよ。終わったのよ・・・・・・)」
小紅は、苺、華蓮とともに、雪の舞う空を見上げ、足を止める。
・・・・・・ぶろろろろぉー ききぃっ!
「小紅ちゃん! な、なんて姿だ! い、いったい、その傷は・・・・・・」
「え! く、久保さぁん! ・・・・・・もう、あたしたち、全てが終わりましたから・・・・・・」
小さなパトカーで、久保巡査が現場に遅れて到着。
管轄外の場所だが、応援の一人として、駆けつけたようだ。
「お、終わった? そ、そうか。遅くなってしまったなぁ! 二斗刑事は?」
「まだ、向こうでデスアダーのザコたちを、いろいろとやってます・・・・・・」
「そ、そうなのか。しかし、みんな、その傷と汚れ具合は、いったいどういう・・・・・・」
久保巡査は、煤で汚れ、傷だらけになった小紅たちの様子に驚いていたが、すぐに急いで二斗刑事のもとに向かっていった。
「あたし・・・・・・なんだか、疲れたなぁー・・・・・・。終わったんだ、これで」
この事件はしばらく、マスコミや各メディアを騒がせた。
女子高生たちが中心となって犯罪集団を壊滅させたことが話題となり、どのメディアでも「悪行清掃人」というフレーズが使用され、全国でもトップ話題のひとつに持ち上がっていた。




