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出動!悪行清掃人!   作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
#17 訪れた平和。そして時は、進み出す
83/84

~ファイル83 時は動き、進み出す~ 

「小紅ちゃん。・・・・・・お疲れさま。今日は、ぼくも買いたいものがあってー」

「あら、優太。珍しいね。・・・・・・ひとり?」


 小紅は緑色の前掛けをして、花の苗箱を運んでいる。そこに、帰宅途中の優太が顔を出した。

 レジの横に掛けられた日めくりカレンダーには、バレンタインデーと記されている。


「小紅センパイ! 私とミオも、一緒だよ! やっほー。今日もバイトに精が出ますねー」

「ほんと、小紅サン、疲れ知らずなんだから。無理しないでくださいよ?」


 さらに、水穂と澪が、優太の後ろからひょこんと顔を出す。


「あははは。だいじだよ、あたしは。・・・・・・それで、なに? 優太の買いたいものって?」

「うん。実は、きれいな花束が欲しくてさー」


 優太は、たくさんの生花が入った場所を見つめ、にっこり笑う。


「花束ね。いいよ。・・・・・・それよりも、本当によかったね、優太。・・・・・・やっと、普通に曲げられるようになってさ!」

「うん! ・・・・・・だいぶ、時間はかかったけどね・・・・・・」


 あの毒島仁英との壮絶な死闘から、約二ヶ月。

 優太は毒島に折られた小指や、身体の傷も癒え、日新学院大学の一般入試を間近に控えていた。


「はーい。小紅センパイ! それで、私もミオも、花束ほしいんですー」

「小紅サンのお任せでいいので・・・・・・」

「え? 水穂と澪も? まぁ、あたしのチョイスでいいなら、すぐできるけどー・・・・・・」


 小紅は生花のガラスケースを開き、吟味してからひょいひょいと数種類の花を手に取り、慣れた手つきで花を包んでゆく。


「で? 水穂さー」

「はい? なんでしょー?」


 小紅は、花束を作りながら、にやっと笑って水穂を見た。


「だれに、この花束あげるのよー? ・・・・・・まさかあんた、彼氏できたのっ!?」

「・・・・・・。・・・・・・いひっ!」


 頬を赤くして、くるくる回りながら、水穂は何とも言えない表情を見せた。

 そして優太の後ろに隠れて、照れながらくすくすと笑っているようだ。


「え! ほんとなの! ねぇ、澪! 水穂の彼氏って、誰よ? あたし、聞いてないよ!」

「え? あれはまだというか、相手との年齢差もなぁ・・・・・・。白衣の男子でー・・・・・・」


 澪は、両手でバッグを抱えながら、困った表情を見せる。小紅はまた、水穂の方へ目を向け直した。


「白衣ってまさか、水穂が入院した時の、あの若い担当医? それ、年齢的にいいのっ!?」

「きゃあー。誰だっていいでしょ! このあと渡しに行くから、はやく包んで! きゃー」


 水穂は、優太の背中をバシバシ叩き、顔を赤くして、はしゃぎ回っている。

 毒島との死闘後、三日間だけ検査入院した水穂。

 その時に担当していたという若い研修医に一目惚れし、水穂は猛アタックをしているらしい。

 あまりの勢いに負けたのか、「高校卒業したら」という条件付きでならいいと男性側が折れ、今は友達以上の恋人未満とのこと。


「呆れますよね。入院中、ずっとその先生を追い回し、院内では有名人だったらしくて」


 澪は、眼鏡をくいっと上げ、呆れ顔。

 水穂は、きゃーきゃー言いながら、花屋の中をくるくる回って、ほわほわとした顔をして、落ち着きがない。


「ぼくもその時、安藤さんと入院して、別な棟にいたけどー。水穂ちゃん、ずーっとその先生にべったりで。ナースの人たちが、水穂ちゃんに殺気を飛ばしてたくらいだったよー」


 優太も、のろけてはしゃぐ水穂を、苦笑いしながら呆れた顔で見つめている。


「なんだっけ? 渡辺先生だっけ? ・・・・・・まったく。水穂っ! あんたねぇ、毒島に心臓止められた時、あたしたちがどれほどの思いだったか! ・・・・・・まったくあんたはー」

「違うよー。渡辺じゃなくて、(わた)()()(りょう)()先生だってば! もう、超イケメン! すごくかっこいいの! ひゃー。もう、夢みたい! しかも、カレ、南柏沼在住なんだよーっ」

「・・・・・・すごいよね、水穂ちゃん。七つ上の人に、猛烈アタックなんてさ・・・・・・。しかし、はしゃぎっぷりは、もっとすごいね・・・・・・」


 優太の回りを子犬のように走り回る水穂。さすがの優太も、困っている。


「・・・・・・ほら、できたよ水穂。これでいい? 澪のやつも、こんな風にしてみた。どう?」


 小紅は、青いリボンで結んだ花束を二つ、レジ前のテーブルに並べた。


「わぁおー。おっしゃれーっ! さすが小紅センパイ! すごくいいセンスですねー」

「素敵! これなら、喜んでもらえそう! ありがとうございます!」


 水穂と澪は代金を支払い、優しく花束を腕に抱えた。


「優太のも、いま作るから、待っててね!」


 再び、生花を数種類選び、手に取る小紅。

 優太は、店内にある鉢植えの花をまじまじと眺めている。


「じゃ、優太センパイ、小紅センパイ、私たちはおっさきにーっ!」

「ハッピーバレンタイン! お二人とも、よいバレンタインデーを! では、お先にー」


 二人は花束を抱え、小紅たちに手を振って、店から去っていった。


「・・・・・・優太。ちょっと来て・・・・・・」


 小紅は水穂たちが帰ったのを確認すると、周囲をきょろきょろと見てから、優太を呼んだ。


「ん? なにかな?」


 優太が近寄ると、制服のポケットに、赤いリボンのついた小さな箱を小紅が突っ込んだ。


「あ! ・・・・・・こ、小紅ちゃん!」

「誰か見てると恥ずかしいからっ、家で開けてよ!? 昨夜、作ったんだからさ・・・・・・」

「あ、ありがとうー。・・・・・・うわー、嬉しいなぁ!」


 優太は照れ笑いしながら、ぽりぽりと頭を搔く。


「・・・・・・はい。できたよ、花束。これでいい?」

「小紅ちゃんがいいのなら、それでいいよー」

「え? だって、注文したの優太じゃん。なんであたしがいいなら、いいの?」

「だって、それ、小紅ちゃんへのプレゼントの一つだもん。そして、はい! これ!」


 優太は、小紅の手に、白い小箱を花束の代金と一緒に渡した。


「え?」

「お誕生日おめでとう、小紅ちゃん! やーっと、これで同じ十八歳だね!」

「ありがとう、優太! ・・・・・・あたし、すっかり自分の誕生日のことは忘れてたよー」


 真っ赤になって照れる小紅。お釣りを返し、白い小箱と花束を見つめ、にっこり微笑んだ。



     * * * * *



   スパパパパパパー・・・・・・ キイッ

   ・・・・・・からからからから  ぴしゃ


「たっだいまぁ! 今日も、たくさんやりましたっとぉ!」


 苺は美布町の図書館で自主学習を終え、スクーターで帰宅。

 現在、柔道整復師の専門学校を受けるために、毎日四時間ほどの猛勉強中らしい。


「お帰り、いちごちゃん。・・・・・・あら? 何持ってるの?」

「はい! お母さんに、ウチからプレゼント! チョコだよっ!」


 母親に、玄関先で、赤と緑のリボンがついた袋を渡す。


「あらぁ? いちごちゃん。お母さんに渡していいの? 冬月整骨院のお兄ちゃんには?」

「うん。今から渡しに行くよっ。・・・・・・また、いろいろ教えてもらいたいからね」


 苺は、にこにこと微笑んで、背負っていたリュックを玄関に置く。


「そう。よかったね。いろいろ、進路のことに役立つお話、聞いておいで」

「うん! あ! お母さん、そのチョコは、中にお酒が入ってるらしいからね?」

「そうなの? チョコレートボンボンなのね。ありがとう。おいしくいただくね!」


 苺の母は、優しくほっこりとした笑顔を見せ、割烹着の前ポケットに袋をしまった。


「いちごちゃん。そういえば・・・・・・柔術のお稽古は、最近やらないの?」

「うーん。まぁ、勉強も忙しいしね! あと、整骨院のお兄ちゃんに、最近は柔道も教わってるの! 大円流とは、また違った技や楽しみ方があって、面白いんだ!」

「そう。運動不足になってないか心配だったけど、それならよかったわ」

「じゃっ! 冬月整骨院へいってきまーす! あ。明日の朝、お豆腐の仕込み手伝うね!」

「ありがとう。夕飯までには帰ってきてね? 今日は、かんぴょうの卵とじ作るわね」

「やった! ウチ、お母さんの作るかんぴょう料理、大好きだよぉ!」


 笑顔で両手を挙げて喜ぶ苺。手には小さな袋をもう一つ持ち、元気よく玄関を出る。


「あれ? ・・・・・・そういえば。バレンタインデーって、確か・・・・・・」


 家の門を出て、歩いている途中、苺はふっと空を見上げた。粉砂糖を吹き散らしたかのような真っ白い雪雲が、一面に広がっている。

 苺は、首のマフラーをくるりと巻き直し、白い息をふっと吐いてから、上着のポケットに入れた携帯電話を取り出し、高速でメールを打ち始めた。



     * * * * *



「お姉ちゃん。紅茶買ってきたから、一緒に飲もうよ?」

「悪いね。・・・・・・あんたが紅茶なんて、珍しい」

「そう? あと、お姉ちゃん、これあげる。たぶん、この紅茶に合うよ」

「なにこれ? まな板?」

「・・・・・・チョコだよ! もっとも、製菓用のやつ、そのまま買ってきただけなんだけど」

「へぇ? 誰か、男の子にあげないの? ・・・・・・てか、固い。みかん、拳で割って?」

「(ばきゃ!)・・・・・・はい。割ったよ。・・・・・・私は、あげる男子なんて、いないからさ」

「ふーん。・・・・・・ま、いいや。いつかあんたも、いい人できるよ。ありがとね!」

「私、恋愛ベタだからな。どうだろうね・・・・・・」

「・・・・・・私は、みかんがてっきり、去年はいい男ができたんだなぁと思ったんだけどね?」

「え! なんで?」

「だって、けっこう、変わったもの。空手一辺倒だったみかんが、オシャレとかさ?」

「・・・・・・やめてよ。私だって、その、本気を出せば・・・・・・」

「本気を出せば、女子としてそれなりに? ・・・・・・ってか。あははは!」

「お姉ちゃんだって、はやく彼氏作ればいいのに!」

「・・・・・・私はもう、実はいい人できたもの。・・・・・・頑張りな、みかんー」

「え! えええ? あの、研究一辺倒だった、安藤くるみが? うっそでしょ!」

「今度、研究も兼ねて、温泉宿に行くことにしたの。来週末、家にいないからよろしく」


 みかんは、姉と自宅で紅茶を飲みながら、雑談トークで談笑中。

 マグカップを片手に、窓の外へ目を向けるみかんは、柏沼市方面を見つめて紅茶をすする。


「(常盤くん・・・・・・。いい経験を、ありがとうね。早乙女と、ずっと仲良くな・・・・・・)」


 窓はゆっくりと、紅茶の湯気によってみかんの目の前で白く曇っていった。



     * * * * *



「「「「「 お疲れさまでしたーっ! お疲れでーす! 」」」」」

「じゃ、カレンちゃん! お疲れさまでしたー。今日も、よかったよ!」

「はい! また、よろしくお願いします!」


 華蓮は、とちのはテレビのスタジオで、ローカル音楽番組の収録を終えたところだった。

 その後、那須野町観光PR用のプロモーション映像を撮影し、そのまま車を運転して自宅近くの洋菓子店へ向かった。


   ・・・・・・ブロロロロロ・・・  ドルンドルルン  ・・・・・・がちゃ


「こんにちはー。三島華蓮でーす。おじさーん、いますー?」

「いらっしゃい華蓮ちゃん! いつもテレビ見てるよ! 今日は、彼氏へのチョコかな?」

「そんなぁー。わたくし、彼氏いませんものー。・・・・・・えーと、今度、わたくしの祖母が喜寿なんです。誕生日迎えて、七十七歳。そのお祝い用のケーキを注文にー・・・・・」


 華蓮は、店のご主人とにこやかに話しながら、ショーウィンドウのケーキを眺めている。


「おばあちゃん、それはおめでたいね! よぉし、それじゃ、何のケーキがいいかなっ?」

「お願いします。それじゃ、祖母が好物の、チーズケーキで。えーと、受取日はー・・・・・・」


 華蓮はケーキを注文し、レジの横に掛けられたカレンダーを、ふっと見た。


「(あ! そういえば、バレンタインデーって・・・・・・)」


 店を出て、華蓮は車のシートに座り、携帯電話で誰かにメールを打ち始めた。



     * * * * *



   ・・・・・・こぽっ  とぷとぷとぷぅ


「ささっ、源さんや! ぐいっといくべよ!」


   ・・・・・・ずず  ・・・・・・ごきゅ  ごくりっ・・・・・・


「うーい。あー、うまい酒だなやー・・・・・・。うい。もっと、くんな!」

「だいじなのぉ、源さん? だいぶ飲むの早いし。今日はずいぶん、ごきげんね?」

「今日は、孫が、やーっと十八になったんだぁ。祝い酒だべや! ふぁふぁふぁ!」


 源五郎は、昼からずっと、行きつけの小料理屋「さやま」で飲み続けている。


「孫・・・・・・って、小紅ちゃんだっけ? もう十八歳か。もうそんなになってんだなやー」

「おてんばな孫だけどな、最近やっと、それなりっていうかな・・・・・・。年相応の女性っぽくなってきたわなー。顔立ちは・・・・・・死んだ妻に、よぅ似てきたわ。・・・・・・大学とかも行かず、就職して家計を助けたいとか言ってなー?」

「そーりゃ、たいしたもんだなや!」

「まーったく・・・・・・。わしゃ、気にせず進学しろぃと言ったんじゃが、残念じゃわー」

「んなこと言って! ゲンさんや、ほれ、もっと飲むべ! 顔がほころんでるべよ!」


 源五郎は、一緒のカウンターにいる店の常連たちと、焼いたホッケや煮物をつまみながら、白い髭をふさふさ揺らし、日本酒をぐいっと飲む。


「ゲンさんの孫、たいしたもんだべ! 花屋にいる、あの子だべ?」

「いつも、明るくて愛想良くて、人気よねー。草間花苗店の、看板娘だわよ!」

「そうかの? そうかそうか! ふぁふぁふぁ! わしの、自慢の孫じゃ。おてんばでバカタレだけど、みーんなが、そうやって可愛がってくれりゃ、よかんべ!」

「でも、いいの? 源さん、今日はお孫さんの誕生日なんでしょう?」


 店の女将が、源五郎の前に小鉢に入った大根おろしを置く。


「なぁに、だいじじゃ! ・・・・・・小紅にゃ、もう、わしじゃなくて・・・・・・」

「え! なんだべ? カレシけ? ばれんたいんだしな? いるんだべ!」

「・・・・・・彼氏・・・・・・じゃなく、まぁ、何だべなぁ。まだ、幼馴染みだけどなぁー」

「まぁ、何でもよかんべ! 飲むべ、ゲンさん! ばれんたいんだ!」

「おぅ! 飲むべ! 飲むべ! うーぃ! ありがとさんなぁー」


 源五郎の酒飲み仲間たちが、小紅のことを話題に出し、笑顔で酒を注ぐ。

 頬を紅色に染め、源五郎はさらに上機嫌で酒を飲み、歓談を続けた。

 


     * * * * *



「お先に失礼しまーす。お疲れさまでしたー」

「はーい。今日も助かったよ! お疲れさまー。気をつけて帰ってねー?」


 小紅は店長や他の店員にぺこりと一礼し、アルバイトを終えて帰路につく。

 もうすっかり日は暮れており、綿のような雪がゆっくりと空から落ちてきていた。

 店のすぐ隣では、優太が雪の積もった傘を差し、小紅を待っていた。


「小紅ちゃん、お疲れさま。・・・・・・待ってたよー」

「え! 終わるまで、ずっと待っててくれたのっ? ごめーんっ! ありがとね、優太!」


 優太は、さっと傘を小紅の上に出し、頭や肩の雪を払ってあげた。

 そして、自分のマフラーを解き、小紅のマフラーの上からくるりと優しく二重に巻く。


「え? いいよ、優太が冷えちゃうじゃんか! あたしは、だいじだよ?」

「いいからいいから。誕生日の、プチサービスだよ、小紅ちゃん」


 首に二重のマフラーを巻いた小紅と、隣に並ぶ優太が、一つの傘に入って同じ歩調で帰る。


「あたしも・・・・・・十八歳か。・・・・・・みんな、クラスの友達とかはそれぞれ進学だけど・・・・・・。なんか、聞いた話によれば、学年内であたしだけっぽいんだよね、就職組はさ」


 小紅の顔の前で、雪がふわりと渦巻くように動き、息がふうっと白く舞う。


「そうかぁ。・・・・・・でもさ、小紅ちゃんはきちんと、自分の考えがあってのことでしょ? だから、それは気にしなくていいよ。いまの花屋さんも、このまま正式に店員さんになってほしいって、言ってるんでしょ?」

「うん。まぁ、そうねー。・・・・・・本当は、警察でも受けてみようかなとも思ったんだけど、なんか、今の仕事も慣れてきたし、好きだしさ? 花屋さんを頑張ろうかなーって思う」


 二人は先のことを話しながら、ゆっくりと歩き、帰り道にある公園に立ち寄った。


「雪が大きくなってきた。冷えるねー。優太、ほんとに、だいじ?」

「・・・・・・ちょっと寒いかも」

「ほれ見ろ! だから、あたしが言ったじゃん! はい。巻いて? ほれほれー」


 小紅は、優太のマフラーを返し、あずまやの中にあるベンチへ座った。


「そういえばさ・・・・・・。小紅ちゃんがくれたやつ、開けてもいいかな?」

「え? まぁ・・・・・・いいけど・・・・・・。家で開ければいいのにー」

「いや、嬉しいし、気になってさ。小紅ちゃんも、それ、開けてみていいよ?」


 優太は、小紅が手に持つ白い小箱を指差し、微笑む。


「あ。これ? ・・・・・・ここで、いいの?」

「いいよ。開けてみて? ・・・・・・じゃあ、一緒に開けようか?」

「あはは。そうだね。じゃあ・・・・・・いち、にの・・・・・・」


   ー♪♪  ー♪  ー♪♪  ー♪♪♪  ー♪


 二人で小箱を開けようとしたとき、小紅の携帯が、大きく音楽を奏で始めた。


「だー、もぉーっ! 誰よ、このタイミングでーっ! ごめん、優太・・・・・・」

「いいよいいよ。確認しちゃって? だれかな?」


 小紅は携帯をポケットから出し、画面を見る。

 それは、苺と華蓮からのメールだった。


―――『小紅、今日が誕生日だったよねっ? 以前、優太クンに教えてもらったよ! おめでとう! 今度、小紅の花屋さんに、ウチもお花買いに行くね』―――


―――『小紅チャン、お誕生日おめでとう。今度、わたくしのおばあちゃん、誕生日で喜寿なの。その時に花束、ぜひお願いしたいな! よろしくね!』―――


 小紅はそのメールを読み終えるとまた、携帯をポケットにしまった。


「・・・・・・ふふっ。苺と華蓮からだったわ。相変わらずのノリだねー」

「二人とも、変わらず元気なんだね。よかったよー」

「じゃ、改めて。開けるとしよっか! いち・・・・・・にの・・・・・・さんっ!」


 小紅と優太は、揃って小箱を開ける。

 すると、小紅の白い箱の中には、アルファベットの形をしたホワイトチョコレートが、六つ入っている。

 優太の箱の中には、丸くてピンク色をしたチョコレートが、三つ入っている。


「「 わぁ! 」」


 思わず、二人は瞳をきらりと輝かせ、同時に声を上げた。


「すごい! これ、優太が? えー。ほんとすごいんだけど!」

「小紅ちゃんへの誕生日プレゼント、バレンタインデーだし、今年はチョコ作ってみたよ」

「K・・・・・・O・・・・・・B・・・・・・E・・・・・・N・・・・・・I? あ! あたしのローマ字名かぁ!」

「ぼくのは、三つ・・・・・・。あ! 一個ずつ、ゆ・う・たって平仮名が入ってる。すごい!」

「ケーキ用のチョコペンで、あたし初めてやってみたの。すっごくムズかったぁー」

「・・・・・・これはいいね! ありがとう、小紅ちゃん! 嬉しいなぁ!」

「あたしからは、優太の快気祝いでもあるけどね。・・・・・・ねぇ、食べてみて?」


 小紅は照れながら、マフラーで顔を覆う。

 優太は、丸いチョコを、ぱくり。もうひとつ、ぱくり。そして最後の一つも、ぱくり。


「・・・・・・おいしい! 爽やかな味がするね! ぼくの好きな味だー」 

「そう? ほんと? よかったー。・・・・・・じゃ、あたしも、いただこうっかなー」


 小紅は、アルファベット型のホワイトチョコを、Kから順に、ぱくりぱくりと頬張る。


「んー。とろける、いい甘さ! やるじゃん、優太! おいしいー。いいねっ!」

「よかった。ありがとう・・・・・・」


 紅色の髪留めで結った髪をぴょこぴょこ二つ揺らし、小紅は嬉しそうに、次々とチョコを頬張る。


   ・・・・・・ほわり  ほわり・・・・・・

   ・・・・・・しんしんしんしん・・・・・・

   ・・・・・・ほわん  ほわん  ほわん・・・・・・


 雪は、周囲の音を吸い込みながら、深々と降り積もってゆく。


「・・・・・・小紅ちゃん・・・・・・」

「ん? なぁに?」

「・・・・・・。・・・・・・あれから、変われた?」


 優太は、最後のチョコを咥える小紅の横で、舞い落ちる雪を見つめながら、呟いた。


「・・・・・・うん。・・・・・・もう、あたしは、だいじ。・・・・・・心も、整理がついた。昔の記憶は消えないけど、あたしは、いま、未来へ進んでる。デスアダーのことも、ケリがついた!」

「・・・・・・そっかぁ。よかった!」


 小紅はベンチから立ち上がり、びゅうっと拳を一発、振る。


「あれから稽古してないから、突きも鈍ってるな。・・・・・・なんか、あたし、だんだんと普通の女の子になっていってるのかもね・・・・・・」


 小紅は目を細め、ふっと笑いながら自分の拳を見つめて、あずまやから外の雪を見つめる。


「雪ってさぁ・・・・・・きれいだよねー。・・・・・・ねっ? 優太・・・・・・」


 大粒の雪が、音も立てずに舞い落ちる。小紅は掌を伸ばし、雪を優しく受け止めている。


「・・・・・・小紅ちゃん! ・・・・・・ぼくさぁ、改めて・・・・・・」


   ・・・・・・すたっ  すたっ  すたっ  ・・・・・・ぴたっ


「え?」


 真剣な顔で、小紅へ何か伝えようとした優太の顔に向かって、小紅は目の前まで迫って足を止める。 

 そして、じっと目を見て、優太の前髪をさっと上げ、額を手で覆った。


「わかってるよぉ。・・・・・・約束してるんだもん。・・・・・・今まで待たせて、ごめんね?」


 小紅は、優太の顔をぐいっと引き寄せた。二人は、赤く頬が染まっていく。


「え・・・・・・? ・・・・・・。・・・・・・こべ・・・・・・。・・・・・・」

「・・・・・・。もう少し、このまま・・・・・。・・・・・・。・・・・・・。・・・・・・」


 公園の街灯は、滔々と舞い落ちる雪を照らすと共に、あずまやの二人も仄かに照らす。

 二人の影は、白く降り積もる雪の上に長く伸び、しばらく一つに重なっていた。

 ふわりとあずまやに舞い込んだ雪は、二人の傍でしゅわりと溶けていった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 読み返したが、この場面があったから紅葉が産まれたんだなー! 重要な場面だ!!
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