~ファイル81 紅き炎 vs 黒い煙~
ズガッシャアァンッ! ・・・・・・ごろごろごろん ずしゃ
「う、うあぁ・・・・・・っ!」
五メートルほど吹っ飛ばされ、転がる苺。
毒島を相手に、腕を壊そうと「辻車」を仕掛けようとした。
だが、逆にそのまま片手で吊り上げられ、地面に叩きつけられるように投げ飛ばされてしまった。
「ほっほっほ。・・・・・・そんなお遊戯みたいなもの、このボクに通じるわけないでしょう?」
「ハアアァーーイッ! ハアイィィーーッ!」
バチインッ! ドガアッ! パァンパパァンッ!
「てえぇああぁーーーーーーっ! 毒島ぁーっ!」
ヒュンッ ズドオッズドオズドオンッ!
華蓮と小紅の連携打撃が毒島に炸裂。
華蓮は手刀や縦拳での打撃、回転しての蹴りを浴びせる。
小紅は全体重を乗せた正拳の三連打を、毒島の横っ面に叩き込む。
だが、相変わらず効果はいまひとつのようだ。
「・・・・・・いい加減にしなさい? 無駄ですよ、無駄。ほっほっほ・・・・・・」
ギュワァァンッ! バアッキャアアァァーッ! ・・・・・・ごろごろごろん ずしゃ
「きゃ、きゃあぁっ!」
「か、華蓮ーっ! はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。・・・・・・こっ、こんのやろぉーっ!」
バックステップして間合いを外そうとした華蓮に、毒島の強烈な平手打ちが炸裂。
咄嗟に両腕をクロスして顔面を守った華蓮だったが、お構いなしにそのガードごと殴り飛ばす毒島。
華蓮はその攻撃の威力で地面に数回打ちつけられ、苺の隣に転がった。
「・・・・・・やれやれ。針実さんも、ボクを帰りに送っていってくれるはずが、自分であの世へ勝手に一人で行ってしまうとは。ひどいですねェー・・・・・・」
くるりと向きを変え、黒く燃え尽きた車を見てにやりと嗤う毒島。
その視線を横に動かした先には、水穂たちに救出され、身を隠す優太の姿があった。
「おやおや。ほっほっほ。まァ、ここまでよく耐えてましたねェ。・・・・・・生き餌として、いい仕事を果たしてくれたじゃありませんか? 常盤優太さん・・・・・・。ほっほっほ!」
遠くに離れた優太を、ぎらりと見つめる毒島。
「う、うひぃ! なんかあいつ、こっち見てるぅ! く、来るのかなぁー」
「優太サンを救い出したのが、バレたみたいね。ま、まずいかな!」
水穂と澪は、優太、源五郎、みかんを隠すようにさっと身構えた。
・・・・・・トッ トトッ トトトッ ・・・・・・がしぃ!
「・・・・・・待ちなっての!」
「・・・・・・早乙女小紅ぃ! まぁた、ボクの邪魔を・・・・・・」
優太に目を合わせて、そこへ走り出そうとしていた毒島。
だがその時、小紅が毒島の足を両手でがっしりと掴んでいた。
「・・・・・・行かせてたまるかっての! お前の相手は・・・・・・あたしだかんね!」
「・・・・・・ふん! 邪魔ですよっ! 貧弱なその手を、どけなさい!」
ブウンッ! どしゃあっ!!
毒島は足を軽々と振り回し、小紅を吹っ飛ばす。
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。優太にこれ以上、何かしやがったら・・・・・・どうなるかわかってるんだろうなぁ、毒島仁英ーっ! みんなを痛めつけやがって! このろくでなしがぁーっ!」
チュドォンッ ボオォワアアァァァッ ゴオオオオオォォォッ
小紅の背後で、炎の壁が勢いを増し、高い火柱となって燃え上がった。
紅色の髪留めが炎の色を受け止め、鮮やかに輝く。
紅珊瑚でできた丸いその髪留めに、渦巻く炎が光り輝いて映り込む。
「たかが小娘ごときがぁッ・・・・・・。このボクを、どこまでイラつかせる気だぁーっ!」
ズオオオォワァ ブオオオォォォッ ズゴオオォォォォオッ
毒島の背後で、黒煙が大量に赤紫色の炎と共に広がった。
その煙は、毒島の足下から身体に巻き付くように広がり、青い瞳がその煙の中でぎらりと光る。
背後に、紅蓮の炎を纏ったかのような小紅と、漆黒の煙を纏ったかのような毒島。
両者の視線が、ぴたりと合う。
稲妻のような闘気が、小紅の目から、ほとばしっている。
「・・・・・・こ、小紅ぃ・・・・・・。む、無茶だってば・・・・・・」
「小紅チャン・・・・・・。げほっ、げほっ! ・・・・・・単身でなんて・・・・・・」
苺と華蓮は、身体を震わせて上半身を起こし、小紅の横顔を見つめている。
・・・・・・すっ ぎゅっ ぎゅうっ!
小紅は毒島と対峙しながら、ポケットから薄緑色のハンカチを取り出す。
それを、二つの結い髪へ巻きつけるように、きつく頭に結んだ。
「あ・・・・・・。あれは・・・・・・。あのハンカチ・・・・・・」
優太は、小紅の頭に巻かれたハンカチを、腫れた目を見開いて、じっと見つめている。
・・・・・・ざっ ざっ ざっ
・・・・・・トッ トッ トッ
両者、足を進め、間合いを詰める。
小紅は毒島の妖しい眼力に気圧されることなく、睨みつけたまま、間合いに入った。
「む、無茶はだめだんべ! 小紅! 小紅ぃっ! よすんじゃ!!」
源五郎が、叫ぶ。必死に、叫ぶ。
「こ、小紅センパイ! だめだよぉ! 私みたいに、死んじゃうってぇ!」
「いま、加勢しますから! 小紅サン! 無茶はダメです!!」
水穂と澪も、涙目で叫ぶ。とにかく、叫ぶ。
「さ、早乙女! いくらなんでも、無理だ! 全員でやろう! 一人で行くな!!」
みかんも、焦って叫ぶ。大きな声で、叫ぶ。
「ほっほっほ! イラつきます。イラつきますよ、早乙女小紅!」
黒煙が毒島を包み込む。小紅の後ろでは、炎が大きく華開くがごとく燃え広がった。
* * * * *
「ほっほっほ! ほぉっほっほっほ! さぁ、きなさい。早乙女小紅! このボク自ら、地獄へ案内して差し上げますよぉ!」
黒煙を吹き飛ばすように、毒島が小紅へ詰め寄った。
「地獄なんて、もうたくさんだ! お前は、あたしだけじゃない。多くの人の幸せを奪ったんだ! 大切な人を殺されたあの地獄、その元凶を、あたしの手で打ち破ってやるっ!」
熱風を背に受け、小紅も前へ踏み込んだ。
ブビュウウンッ ブンッ バキャアッ! ビュアアァッ ベシイッ!
ブオオォンッ ブビュウウンッ ギュワアァンッ ブオンブオォンッ
ゴキャアッ! ブビュウンッ ゴシャアッ! ビュォォンッ ドゴアッ!
小紅は毒島の平手打ちやパンチを先読みして躱し、確実に拳を叩き込む。
「そんなもの、何発ボクの顔に入れようが、無駄ですよ?」
「無駄じゃない! お前は感覚的にはダメージを感じないんだろうけど、少しずつ・・・・・・絶対に肉体的ダメージは蓄積されているはず! うぬぼれんな!」
「・・・・・・うぬぼれるな、ですって? ・・・・・・おまえ、本当に気に入らない小娘だっ!」
ビュォォアアアァッ ブウンッ ドバキャアッ!
ブウウンッ ベキャアッ! ドビュウウンッ ドゴォッ!
小紅は集中力を切らさず、毒島の攻撃を避けては突き、躱しては突き、それを繰り返す。
ビュオォンッ ピタッ
「あっ・・・・・・!」
「いつまでも、バカの一つ覚えみたいに、ボクが動くと思いますかァ?」
毒島の拳が、ぴたりと止まる。フェイントをかけられた小紅は、毒島を迎撃する姿勢に入ってしまっている。
既に、毒島の右手は、小紅の左側面に迫っていた。
「(やばいーっ!)」
・・・・・・ギュワァンッ! ビュゴオオォォォォッ バキャアッ!
背を反らせるようにして、小紅は紙一重で毒島の平手打ちを回避。
そして、身体を後ろに大きく反らしながら、毒島の下顎をブレイクダンスのような動きで蹴り上げた。
・・・・・・カキャッ カツン カツンッ ころん
「・・・・・・。・・・・・・なんですって!?」
小紅の蹴りで、毒島の犬歯が一本、折れた。
軽く乾いた音を立て、赤い炎と黒い煙が渦巻く場に、白い歯がころりと転がる。
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。どうだ、毒島? うぬぼれてるから、そんな目に遭うんだよ!」
「・・・・・・。ボクの歯・・・・・・」
「さぁ、どーすんの!? 自前の歯は、廃棄処分にするのか? それともボンドでくっつけんの? はははっ!」
小紅は起き上がり、皮肉を込めて毒島を笑い飛ばした。
「・・・・・・。」
・・・・・・トトッ ドギュウウッ! ドゴオオォァッ! ごろごろん どしゃ
「うあぁっ!」
何も言わず、毒島は落ちた歯を見つめたまま、小紅へ向かって高速で猛ダッシュ。
そのまま体当たりをして、一撃で小紅を吹っ飛ばした。
「う・・・・・・ぁっ! くっそぉ。力が・・・・・・うまく入らない」
車に撥ねられたような衝撃を受け、震える小紅。
ダメージによって、なかなか起き上がれない。
・・・・・・トッ トッ がしいっ ぐいいぃっ!
「うぁ! ・・・・・・い、痛ぃ! やめろ、このぉっ・・・・・・。痛ぃってば!」
毒島は倒れた小紅の結い髪を掴み、力任せに引き上げる。
「・・・・・・ボクの歯を折るなんて。お前、このボクに、消えない傷を負わせましたねェ!」
「ふざけんな。消えない傷を負わされて怒ってんのは、あたしたちだ! お前のそんな程度、傷のうちには入らないね! ろくでなしのくせに、ふざけたこと言うなっての!」
・・・・・・ブウンッ! ぶつんっ!
ごろんごろん どしゃあっ ことんっ!
「い・・・・・・った! あっ! ・・・・・・あ、あたしの髪留めが!」
小紅の結い髪がひとつ、毒島に捻り切られた。
それを結っていた髪留めは、ことんと音を立て、地面に落ちた。
「ふんっ・・・・・・。頭の皮ごと毟り取られなかっただけ、ありがたいと思いなさい!」
毒島が、尖った紫色の爪と宝石のついた指輪を光らせ、掌をぱらりと開く。
すると、小紅の細い栗色の髪が、ぱらぱらと松葉のように何本も落ちる。
それは一瞬で熱風に飛ばされ、黒煙の中に散っていった。
・・・・・・ぱしっ
小紅は髪留めを拾い上げ、服のポケットにしまった。
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。あたしの髪を引きちぎりやがって・・・・・・。ふざけた野郎め!」
きゅきゅっ ぎゅっ きゅいっ!
結い髪のひとつは、ちぎられて小紅のうなじ付近へさらりと下げ髪となる。
小紅は間合いを切って、残った結い髪を解いた。すると、もう一つの髪留めと薄緑色のハンカチを使って、大きな結い髪に直し、毒島へ力を込めた視線をぶつける。
・・・・・・トトトッ ドギュウンッ! ブオオォンッ!
毒島は無言のままダッシュし、小紅へ拳をフルスイング。
半歩退いて、攻撃を躱す小紅。その場で足を止め、左右の掌を何発も振り回す毒島。
「(う、後ろはもう、炎がある・・・・・・。ま、まずい!)」
目の前の毒島と、後ろの炎に挟まれ、絶体絶命の状況に陥った小紅。
ブオオオオォッ ゴオオォ ・・・・・・ガッシイイィッ!
「(・・・・・・けほっ! け、煙が・・・・・・。し、しまったぁ・・・・・・)」
「ほっほっほ・・・・・・。さぁ、このまま、首を握りつぶすか、へし折ってあげますからね!」
小紅は黒煙に巻かれ、一瞬だけ気を取られた。
その隙を突かれてしまい、毒島に首を掴まれてしまった。
超人的な毒島の握力によって、小紅の首は、ぎりりぎりりと締めあげられてゆく。




