~ファイル8 観光PR大使~
ワオオオォーーッ・・・・・・ ミャウミャウミャウーッ・・・・・・
ブオオオォォーーーッ ガゴン! ゴゴゴォォーーーーッ・・・・・・
犬の遠吠え、猫の喧嘩声、そして、大きな国道をバイクや大型トレーラーが走る音が響く。
近くには、「那須白磯駅」もあり、JRの列車も走っている。
「か、返しておくれぇーっ! お願い。その中には、孫との旅行にいくお金が・・・・・・」
薄暗い中、銀行のATMコーナーから出てきた老婆が、か弱い声を搾り出すように、叫ぶ。
その先には、ニット帽をかぶった長身痩躯の男と、サングラスをかけた長髪で筋肉質の男が、老婆の持っていた茶巾袋を奪い取り、大型スクーターに跨がるところだった。
「へへっ! うるっせぇよ、ババー。てめーの孫なんか、知るか! くたばっちまえ!」
「おい、二十万円も入ってんぞ! こ、これなら、ブスジマさんへの上納金、余裕だぜ!」
「ひゃぁっはっはっは! やったぜ! 銀行帰りの年寄りを狙おうっていう、おめーの案、いいじゃねーか! これで今週も、ブスジマさんに殺されずに済むぜ、俺ら!」
「ひゃははは! 楽勝だぜ! おっしゃ! もっと他のジジババ、狙うべ!」
よた・・・・・・ よた・・・・・・ よた・・・・・・
「返しておくれ・・・・・・。お願いだから・・・・・・。こんなこと、およしよ・・・・・・」
老婆は必死に歩き、男たちに訴えかけながら、よろよろと近寄った。
「おい、このババー、しつけぇぞ? どーすんべ?」
「事故に見せかけて、ぶっとばそうぜ。ブスジマさんがきっと、やべーことは揉み消すよ」
男二人は、跨がっていたスクーターから降り、老婆に詰め寄る。
「返してちょうだい・・・・・・。たったひとりの孫との、思い出の旅行に行くお金が」
「・・・・・・ババー。うぜぇぞ? 死にてぇのか! うるっせぇんだよ!」
「てめーの金は、俺ら、デスアダーへのご祝儀だ! ひゃあっはぁーーーっ!」
男たちは、拳を振り上げ、老婆に向かって一気に振り下ろした。
・・・・・・ヒュバッ! ヒュンッ! バチイィッ! バチイッ!
「「 い、いってぇ! なんだ? 」」
一瞬の出来事。
男たちの顔に固いものが飛んできて、的を射抜く弾のように当たった。
「た、たわし? あぁ? なんだってんだ!」
「あ? ・・・・・・おい、なんだ、てめー? てめーか、これやったの?」
男たちの前に、すらりと背の高い一人の少女が現れた。
いつの間にか、茶巾袋は老婆の手元に戻っている。そして少女は、老婆をしっかりと両手で支えていた。
「だいじ? おばあちゃん。だから、ひとりで行かないでって言ったのに!」
「あ・・・・・・。き、来てくれたのかい。ごめんよ。ばあちゃん、おまえのためになぁー」
「うん。わかったから、線路向こうの交番で、お巡りさん呼んできて? わたくしが、このバカな人たちと、これからよーく話をしておくからさ・・・・・・」
「あんだ、てめー。・・・・・・おい、この女、犯して連れ去っちまおうか?」
「あ! こいつ、観光大使とかってやつじゃねぇか? ひゃっはーっ! 上玉だぜ!」
「わたくしは、あなたたちみたいな人に、この地を踏んでほしくないんだよね! いい? 悪いこと言わないから、二度とこの地域に立ち入らないでくれませんか?」
少女は、テレビに出ていたあの、那須野観光PR大使の三島華蓮だった。
オシャレなブラウスと、ドレスのように長いスカート。そして、背中までかかる、艶やかな黒髪。
後頭部の桃の花を象った髪飾りからは、枝垂れ桜のような髪が数本、垂れている。
那須白磯駅前のスーパーで、どうやら買い物をしていたようだ。長い箒と、野菜の入った袋を持っている。
近くに人の姿は、ほぼ見えない。時間的に薄暗く、遠くに人がいるかどうかも見えにくい。
「てめー、誰に指図してんだ? 俺らにゃ、あの『デスアダー』のブスジマさんがバックについてんのを、知ってんのか? おい、こら!」
「てめー。俺らの二十万円を、どーしてくれんだ、おらぁ!」
長髪の男は、ポケットから金属のメリケンサックを取り出し、右の拳に装着した。
ニット帽の男は、ポケットからバタフライナイフを取り出し、刃を華蓮に向けた。
「はぁー・・・・・・。わたくし、忠告しましたからね! あなたたちは、もう、許さないよ!」
華蓮は、買い物袋を横に置き、箒のみを手に持ち、ぎゅっと握る。
ヒュンヒュンヒュラァンッ! ヒュヒュヒュヒュン! クルンクルルンクルン!
その箒が、まるで曲芸のショーのように、縦に横にと回転乱舞する。目にもとまらぬ早業だ。
「なっ・・・・・・なんだ、この女ぁ!」
「薄汚い男ども。・・・・・・か弱い老人を、しかも、わたくしのおばあちゃんを襲うなんて! あと、何て言った? ・・・・・・よりによって、あのデスアダーの一味なのか、お前らは!」
キュゥンッ! ヒュルンヒュルゥンッ! ベキィ バキィ ドガァ バチィ!
「う、うごあぁー・・・・・・」
ナイフを持ったニット帽の男は、目にも留まらぬ速さの箒で滅多打ちにされ、昏倒。
華蓮は、片足立ちで箒を両手で持って、体側に沿って構え、長髪の男と向かい合う。
「た、ただの観光大使女じゃねーな、てめー・・・・・・。な、なにもんだ!」
「うるさい! お前たちみたいな奴に、わたくしのことを話す義理はないよ! 黙れ!」
「てっ、てんめぇぇーっ!」
長髪の男は、その体格と筋力に物言わせ、華蓮に向かって突進。全力で殴りかかった。
・・・・・・ガッ! ギュルンッ! バチンッ!
くわっと目を見開いた華蓮は、箒一本で男の拳と腕を受け流し、真下から男の二の腕を一気に弾き上げた。
「・・・・・・ハアァーーーッ! ハァィッ!」
ダァンッ ダシュンッ! ドッガァーッ! メキョオッ・・・・・・
腕を弾かれた男は、急所である脇腹がガラ空きになった。
そこへ、一気に腰を落として肘を突き出したまま、華蓮は高速で体当たりを見舞う。
男のアバラ骨は華蓮の肘によって、数本、砕かれた。
白目をむき、意識を失って、男はその場に崩れ落ちる。立ち上がることはなかった。
「わたくしの武術はね、お前たちみたいな人から、地域を守るためにも、磨いているの! これに懲りたら、二度と、こんなことはしないことね。八極拳『裡門頂肘』のお味は、いかがだったかなっ? ・・・・・・さぁ、お巡りさん来るから、観念しなさいよ!」
華蓮は、箒を逆さに立て、倒れた男たちから目を離さずに、佇んでいた。
しばらくして、華蓮のお婆ちゃんが、交番の警察官を呼んできた。駆けつけた警察官に、華蓮たちは二人で事情と状況を説明。すぐに、男たちは現行犯逮捕された。
たった箒一本で悪漢二人を瞬時に撃退した、三島華蓮。
その様子はまさに、第三者から見れば「悪さをする者の清掃人」といった感じだったであろう。




