~ファイル9 インターハイ予選なんだよ、小紅?~
ワアアアアアアアアアーッ ワアアアアアアアアアアアーッ!
「「「「「 等星ーっ! 必勝ーっ! 常勝ーっ! 」」」」」
パパァンッ パパァンッパパァンッ! スパァンッ!
「止め! 赤、上段突き、技有り! 赤の、勝ち!」
「「「「「 安藤先輩、ナイス上段でーすっ! 優勝おめでとうございまーす! 」」」」」
ワアアアアアアアアアアアー ザワザワザワザワザワザワ
体育館内に声援が飛び交い、純白の道着を纏った高校生たちが、8メートル四方のコート内で気迫十分にぶつかりあっている。
小紅は空手道部員として、平成十二年度のインターハイ栃木県予選大会に出場していた。
今年のインターハイは、岐阜県。そこへ出場できるのは、個人はこの予選での上位二名。団体は一校のみ。とても厳しいトーナメントだ。
形を演武して点数で競う「形競技」では、澪が三位入賞。水穂がベスト8入賞。小紅は、もともと形競技には出場していない。他の部員は一回戦負けだった。
「小紅センパイも、形試合出ればよかったのにーぃ。あのキレっキレな形、見たかったのにぃ」
「あたしはいいんだってば。組手で適当に暴れて、適当にストレス発散すりゃーいいの」
相手と攻防する「組手競技」では、個人戦は小紅と水穂が三位。澪がベスト8入賞。
女子団体組手は、等星女子高校と決勝戦で当たり、2対3の勝ち星数で敗れ、準優勝。
小紅は個人組手の準決勝で、今さっき優勝を決めた等星女子高空手道部主将の安藤みかんに、0対0からの延長戦による先取り一本勝負で敗れての、惜しい三位だった。
「あ、小紅センパイ。やっぱり安藤さんが優勝だよ。ねぇセンパイ。さっきの準決勝、本気でやってたのぉ?」
「・・・・・・別に? だって、万が一、岐阜行きになったら、面倒なんだもん・・・・・・」
「なんだそりゃーっ。もぉー、小紅センパイ、インターハイまであと僅かだったのにー」
「まったくです。ほんと、小紅サンは、欲が無いというか、適当すぎるというか・・・・・・」
水穂も澪も、小紅の気の抜けた返事に、呆れて溜め息をついていた。
「本当に、納得いかない! 早乙女小紅。手抜きなんて、どういう気だ!?」
「・・・・・・みかん。どーしたのさ、目を吊り上げて。あたしよりきれいな顔が台無しよー?」
目を吊り上げた等星女子高の安藤みかんが、小紅に強い口調で問いかけた。
「ふざけるな、早乙女! お前、準決勝の先取り勝負、真剣にやらなかったってのか!」
「・・・・・・なにそんなに怒ってんのよ。あたしはね、一応、真剣にやったつもりだけど? ただ、こういう『競技試合』じゃ、本気の気合いが入らないだけよー」
「なっ、なに! お前、いくら凶悪犯を撃退してるからって、それは我々への冒涜だぞ! この名門、等星女子高をバカにする気か! 手を抜かれたんじゃ、勝った気がしないよ!」
「だーかーらー、みかん! あんたの勝ちだって! いーじゃん。優勝なんだし!」
「お前は、空手道競技を軽く見てるだろ! 実戦のほうが、そんなに面白いのか!」
「まぁ、そうね。だって、競技空手じゃ、実戦とは緊張感がまるで違うんだもんー」
「なんっだそれ! ダメだ! やり直せ。もう一度、真剣に私と勝負しろっ!!」
納得がいかず怒る、みかん。だが、何を言われても意に介さない小紅。
みかんがいくら言っても、小紅は適当な受け答えで、流すだけ。ますます、火に油を注いでいった。
「ばっかものがぁっ! 安藤っ! わが誇り高き等星女子の主将だぞ、貴様は! そんな者にいちいちこだわるなぁっ! 貴様の優勝だ。胸を張れい! もう行くぞっ!」
「あっ。か、監督! も、申し訳ありませんっ! いま、行きますっ!」
みかんは、監督の瀧本熊夫の声で、はっと振り向く。
そして、小紅へ対しナイフで刺すような強い視線をぶつけ、監督と共に表彰式の準備に向かった。
「まったくー。監督もうるさいけど、みかんもうるさいねー。あたしがどういう試合をしようと、いーじゃないかーっ」
「いや、小紅サンー。そーいう、適当な返事が、安藤サンには我慢ならないんですよー」
「あーあ、小紅センパイだって、インターハイレベルのはずなのにーっ・・・・・・」
「まぁ、もーいいじゃん! 水穂も澪も、秋の新人戦、頑張りなよ。あたしはその頃はさ、もう空手道部員じゃないから、悠々自適だーっ」
「小紅サン? 受験生じゃないんですかぁ? 知りませんよ、わたしも水穂もー?」
笑う小紅。頭を抱える澪と水穂。そんな様子を、みかんはちらりと振り返り、不思議な表情をして見つめている。
「(競技空手じゃ、実戦と緊張感がまるで違うだと? そんなことが、あるわけない! 街の素人相手にすることが、我々との試合より、緊張感があるなんてことが・・・・・・)」
水穂たちと笑っている小紅の様子を見つめながら、渋い表情のみかん。
小紅は、ふざけているようでも、今この時間中に悪さをしている奴が町のどこかにいるかもしれないと思っていた。
「あーあ、終わったんだし、早く帰りたいよー。ねー。水穂、澪、はやく帰ろうー?」
とても、スーパー女子高生と称された感じには見えない。だが、それこそが、小紅クオリティなのだ。
県央地区の柏沼市には、早乙女小紅。
県南地区の美布町には、朝霧苺。
そして県北地区の那須白磯市には、三島華蓮。
三人のスーパー女子高生が今、それぞれの場で、同時刻にそれぞれが活躍している。
これから彼女たちの運命の歯車はどのように噛み合い、化学変化のような出逢いを生み出すのだろうか。




