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出動!悪行清掃人!   作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
#15 怒りの小紅! 余裕の毒島!
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~ファイル77 水穂、散る~ 

「苺! 早くやろうよ! どうしたの?」

「こ、こいつ。変だよ! 殺気というか、何というか・・・・・・」

「行けないなら、先にあたしが突っ込むから! チャンスを見て仕掛けて!」

「! だめっ、小紅! 待って!」


 ブンへ蹴りを仕掛けようとする小紅を、苺が止めた。


「・・・・・・ヴォオオオオオオオ・・・・・・・・。ガァアアアアアアアアア・・・・・・」


 大型の獣が吠えるかのような、人とは思えない唸り声。

 ブンは、割れたサングラスを投げ捨て、目を真っ赤に血走らせ、口からは大量の赤いよだれを垂らし、背を丸めて周囲の臭いを嗅ぎ始めた。


   ふんふんふんふん  ふんふんふんふん  ふんふんふんふん・・・・・・


「ヴァーーーーーーーア!」

「ひ、ひいいぃー。うひぃぃ! な、なんなのぉ、こいつぅー? ど、動物だぁー」

「な、なんだ、これは!」


 たまらず、みかんの後ろに隠れる水穂。そのみかんも、顔が引きつっている。


「や、薬物です! 何か、強力な薬物で、おかしくなっています!」


 澪は眼鏡をくいっと上げ、冷静さを保とうと必死だが、冷や汗をダラダラと垂らしている。


   ・・・・・・ズズンッ  ズズズズズズ  グラグラグラァ・・・・・・


 その時、やや強い揺れの地震が起こった。周囲の木々や岩場も、音を立てて揺れる。

 小紅たち七人のほか、警官隊やデスアダーもみな、その揺れを体感できるほど。


「まったく! わけわかんない相手に地震に、いそがしいなぁ、ここは!」


 そう言って小紅が足下へ目を向けた瞬間、獣のようになったブンが、小紅の足首を掴み、片手で振り上げた。


「うあ! し、しまった! やばっ!」

「早乙女! 頭を守れ! この岩の地面に叩きつけられたら、まずい!」

「ヴァーーーーッ! ウグホウグホォ! グハハハハハ!」


 小紅は、かつてブライアンに持ち上げられた時を思い出し、咄嗟に頭と脇腹を腕で守る。

 ブンは、そのまま、苺めがけて小紅を思い切り投げ飛ばした。


   ・・・・・・ギュインッ  ブウンッ ドゴッシャァンッ  ゴロンゴロン  ゴシャアッ


「うああぁーっ! い、痛ぁーっ・・・・・・。だいじ、苺?」

「なんとか、だいじ! ・・・・・・とんでもない怪力だなぁ!」


 小紅は、苺、みかん、水穂、華蓮の四人になんとか受け止められ、ケガを負わずに済んだ。


「むうぅ! 薬物での変異と怪力・・・・・・。こりゃ、多少の痛みは感じないかもしれん!」

「早乙女師範! それじゃ、どうすれば・・・・・・」


 源五郎と澪は、姿の変わったブンを見て、攻め処を探っている。


「澪。・・・・・・いかに薬を使おうが、身体に積み重なるダメージには、変わりは無いはず」

「あ! そ、そうか!」


 澪は何か閃いたような顔をして、小紅の横へ。


「小紅サン! ここは、全員で、一斉に急所を打ち抜きましょう!」

「急所・・・・・・って! あんな、熊みたいになったズタボロ軍人に、効くの?」

「わかりませんが、でも、普通の攻撃で痛みを感じそうにない相手には、一気に急所へ総攻撃を仕掛ければ・・・・・・」


 小紅と澪のやり取りを聞いた苺が、頷く。


「小紅! ウチ、両拳の鏃を使って、あいつの顔面にある、急所のツボを突くから! みんなも、あいつの急所という急所を、一気に狙おうよ! お願いっ!」


 そう叫び、苺はぐっと両手を鏃の握りにし、目の前のブンに向かい合った。


「きゅ、急所ぉ? どこ? 私、どこ狙おう? ・・・・・・もーっ、膝の皿狙いにする!」

「水穂が膝なら、わたしは、こめかみを叩く! 脳をそのまま揺らせば、きっと!」


 水穂と澪も、両拳をブンに向けて構えた。


「私は、肝臓のある右脇腹へ集中放火するよ! アバラも・・・・・・砕いてやる!」

「わたくしは、右脇を狙って、裡門頂肘を叩き込みます!」


 みかんは、左にさっとステップし、斜めからブンに向かって構える。

 華蓮は右にさっと移動し、棒を置いて掌を立て、腰を落として構える。


「わしゃ、背が低いからのー。・・・・・・男のシンボルを、ぶっ叩かせてもらうわい!」


 源五郎は、猫足立ちとなり、すっと正拳を腰元に引いて、力を溜めている。


「よぉーしっ・・・・・・。あたしは、顎先から下にある、正中線の急所を全狙いだ! さぁ、ズタボロ軍人! あたしは、逃げないからねっ! かかってこいーっ!」


 小紅は、ブンへ気合いをぶつけ、腰を落として両拳を力強く握り込んだ。


   ・・・・・・ギュピィッ  ギュピィッ  ギュピィッ


 ブンは、軍用ブーツの底を、地面にねじ込むようにして、一歩ずつ前に出た。


「ウウウウウウウウ! ヴォアアアァー。ゴアアアアァヴァァァーッ!」

「「「「「 来たぁっ! 」」」」」


 両腕を大きく広げ、ブンは一気に飛びかかってくる。その動きは、まさに、熊のよう。


「みんな、一気にやるよ! てえぇああぁーーーーーーっ!」

「はあぃやあぁーーーーーっ!」

「せええぇやああぁぁーーーーーっ」

「ハアアァィィィーーーーーーッ!」

「やあぁーーーーーーーーーっ!」

「せやーーーーーーーーーーーっ」

「ええぇいいーーーーーーあっ!」


 七人の気合いが一斉に響き、周囲の空気を一気に爆ぜさせた。


   ギュアアアァッ  ババババチュンッ! ドゴォ ドゴドゴォ バチイィィン

   ベキイィッ ザクンザクンザクンッ バシュンッ ババババッ! ベチィッ!

   ドパパパパパパパパパパパァンッ! ズドドドドドドドドッ! ドドドスッ!

   ダンッ  ドギュウアッ!  ザクウッ ドガアッ  メキョオオォォッ!

   ギュンッ  グアアァッ  シュッ  バキインッ!  バキイィンッ!

   シュバッ  ドスウッ バキンッ  ベキィンッ  メシッ!  ドガアッ!

   グンッ  ギュバアッ   ドギュルゥンッ  グシャメシャアァッ!


 まさに、集中砲火。それはまるで、戦闘機が一斉に海に浮かぶ大型艦へ攻撃を仕掛けるかのよう。

 ブンの頭部、顔面部、顎、側頭部、頸部、胴部、脇腹、金的、膝、急所という急所へ、打撃の一斉砲火が行われた。

 七人の攻撃を叩き込まれ、ブンはその場で断末魔のような声をあげ、激しく痙攣をして崩れ落ちた。

 しかし、まだそれでも、腕を伸ばし、苺の足を掴もうとしてくる、ブン。


「くぅ! ・・・・・・しぶとい! お前は、ウチの平和な家庭を、壊したんだ! 最後は、ウチが仕留めるから! お前は、ウチのおじいちゃんやお父さんを襲ったことに、理由はないと言ったよね? ウチは、お前を倒すことに、きちんと理由がある! これで、終わりだよっ!」

「・・・・・・ウグググ・・・・・・。ヌガアァァァッ・・・・・・」


 ブンが、震える腕を苺の足へ伸ばす。それを苺はさっと躱し、手首と肘を引き搾るように両手で巻き上げた。


「い、苺っ・・・・・・!!」


 小紅が、苺の背中へ声をかける。ゆっくりと、苺は小紅や他の五人と目を合わせ、にこっと微笑んだ。そして、また、ブンへ鋭い視線をぶつける。


「・・・・・・大円流合気柔術・・・・・・奥ノ手! ・・・・・・殺法『破城門(やぶりじょうもん)』っ!」


   グイッ メシャアッ! ベキイィッ!  グルンッ  ギュイッ グギュウウゥゥゥ

   ガスウゥッ!  ググググッ  メシイィッ!  グギンッ!   ・・・・・・どさり


「ひ、ひぃーーーっ! し、死んだよね? ぜったいこれ、死んだって!」


 水穂が、下げ髪を揺らし両手で顔を覆う。ちらりと、指の間からは目を覗かせているが。


「ばかたれ! 縁起でも無いこと言うんじゃねぇべ! 水穂、ありゃ死んだんじゃないわ。武道家なら、死んだのと『おちた』のとの区別くらい、見極めなきゃだめだんべ!」

「え? 死んでないの? ・・・・・・はぁー。よかった! 意識がおちただけかぁー」

「いくら相手が悪人でも、死んじゃまずいでしょうよ。後ろに、警察もいるんだしー」


 澪は、呆れて苦笑い。源五郎も、「まったく」と言って、呆れている。

 苺が仕掛けた技は、まさに、城を攻め落とすかのような、えげつない技の連続だった。

 それによって、ブンの腕は手首と肘が折れ、肩関節は脱臼。腕の付け根と大胸筋を繋ぐ筋も断裂。

 腕を壊した後に、無駄のない流れるような動きでブンの背後へ回り込み、顎を外し、喉に腕を巻きつけて呼吸を止めさせ、そこから挟み込むようにして首を捻り上げた。

 腕を破壊され、喉と顎と首も壊されたブンは、白目を剥いて泡を吹き、その場にどさりと意識を失って倒れ、沈黙したのだ。


「す、すさまじい技だ・・・・・・。あんなもの、私がもし食らったら、どうすれば・・・・・・」


 その一連の技を見たみかんは、改めて、苺の後ろ姿を見つめながら、青ざめて驚いている。


「・・・・・・ふうぅぅ・・・・・・。お父さん、そして、おじいちゃん・・・・・・。ウチ、大円流の看板、しっかり守ったよっ・・・・・・。仇のひとりを、討ったよ・・・・・・」


 苺は、倒れたブンを見下ろし、じっと動かない。

 小紅が「お疲れ」と言って肩をぽんと叩くと、苺の目から大粒の涙が零れた。涙は頬を伝って、顎先でぴちょんと一つの雫となり、地面へ落ちる。

 袖で目をごしごしと拭う苺。華蓮と小紅は、苺の頭をゆっくりと掌で包んでいる。


     パチ・・・・・・  パチパチ・・・・・・  パチパチパチパチ!


「毒島っ・・・・・・!」


 乾いた拍手の音。周囲で燃える炎の音に混ざり、毒島の拍手が小紅の耳へ届く。


「お見事です。・・・・・・アナタたちはとにかく癇に障る者たちですが、まさかこうも簡単に針実さんとブンさんを退けるとはねェ・・・・・・。素晴らしい戦闘センス。大したものですねェ!」


   ・・・・・・トッ   ・・・・・・トッ   ・・・・・・トッ   ・・・・・・トッ


 靴の音が、近づく。

 一歩ずつ。また、一歩ずつ。軽く、高く、乾いた靴音が、近づく。

 優太は、その後ろで、縛られたまま転がっている。


「(ね、ねぇ、ミオ! いま、あいつの横から、優太センパイ救えないかな?)」

「(そうね・・・・・・。相手は一人だし。うまく横を抜けていけば、二人でならいけるかも)」


 水穂が澪に小声で話す。それを小紅も聞いている。


「(待って、二人とも! 相手は毒島仁英よ? 無茶だけはやめて。優太はすぐ助けたいけどさ!)」

「(私とミオで、やってみる! 小紅センパイは、あの親玉を何とか引きつけて!)」


 そう言って、水穂と澪は、毒島の横から大きく回り込むように、一気に走り出した。


「・・・・・・うん? なんですか、この二人は?」

「毒島! あんたの狙いはあたしだろ! さぁ、勝負だよ! ぶっとばしてやるからね!」


 小紅は、挑発するように毒島へ叫ぶ。しかし、毒島の視線は水穂たちから離れない。


「水穂チャンと澪チャン、無茶だわ! 毒島に気づかれてる! 小紅チャン、まずいわ!」


   たたたたたっ・・・・・・  たたたたたっ・・・・・・


 水穂と澪は、優太に向かって一気に駆け込む。


「ミオ! あいつに気づかれたかもぉ! 急いで優太センパイを救出して、戻ろう!」

「水穂、待って! あいつが! ・・・・・・まさか、こっちへ!」


   ・・・・・・トッ  トッ  トトッ  トトトッ

   トトトトッ ・・・・・・ドギュゥンッ!


「いっ!? ・・・・・・ひ、ひぃーっ! 速い! なんなの、こいつ!」

「ほっほっほ。・・・・・・甘い甘い。ボクにはお見通しだよ」


 毒島は、水穂たちの方へ足を向けた瞬間に、一気にトップスピードに乗り、水穂と澪の目の前へ一瞬で迫った。そして、何も言わずに水穂をじっと見つめている。

 その青い瞳の中には、蛇の目のように、一本の縦線となった黒目が妖しく光っている。


「(ひいいいぃぃ! なに、この目! まるで蛇じゃん! うそぉ! キモいよぉーっ)」

「水穂! 毒島からすぐ離れろっ! やばいって! こっちに戻りな!」


 小紅は叫んで、その場から急いで水穂のもとへ駆け出した。


「・・・・・・まったく、イタズラ好きな小娘ですね。ボクを無視して、常盤優太さんを救おうとしたんですか? ほっほっほ・・・・・・。・・・・・・残念ですねェ。ボクの方が、速かったかな?」

「(え! う、うそぉー? ・・・・・ま、待ってよ! 足が竦んで、身体が動かせない・・・・・・)」


 毒島は、指輪をごろごろと填めた掌をゆっくり開き、後ろに大きく振りかぶる。

 毒島の異常な殺気と妖しさを前に、水穂も澪も、金縛りに遭ったように震えて動けない。


「水穂ぉ! 逃げるんだーっ! 水穂ーっ! 毒島から離れろってのーっ! 水・・・・・・」


 小紅は駆けながら叫ぶ。水穂は、目を震わせて立ったまま。そして、毒島が掌を振った。


   ドヒュゥンッ! ベチイイィッ!  ドクンッ・・・・・・  ドゴドッシャアァッ!


「みっ、水穂ぉーーーーっ!」


 毒島は平手で水穂の胸元を強く叩いた。その衝撃で水穂は、車に撥ねられたかのように地面を数回転がり、横の大岩へ叩きつけられた。

 その衝撃音で、澪ははっとして我に返る。毒島から離れ、澪は急いで水穂に駆け寄った。そして、何度も両手で水穂の身体を揺すっている。


「・・・・・・え! ・・・・・・み、水穂? ねぇ! ねぇっ! ・・・・・・水穂! 水穂ーっ?」

「み、澪! はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。水穂は、どう? だいじ? ・・・・・・えっ! 水穂?」


 駆け寄った小紅がそこで見たものは、目を開けたまま、息をせずに横たわる水穂の姿。


「こ、小紅サン! ・・・・・・水穂が・・・・・・息してないんです。・・・・・・脈も、止まって・・・・・・」

「ほっほっほ。・・・・・・加減したんですがねェ? 柔い身体ですことォ! ほっほっほっほ」

「ぶっ・・・・・・毒島ぁーーっ! お前、よくも水穂を! 水穂をーーっ! よくもぉーっ!」


 怒髪天を突く小紅と、妖しく笑う毒島。

 水穂は一撃で、生命の鼓動を止められてしまったのだった。

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