~ファイル76 針実伝とブン・タン~
・・・・・・ピーチョピーチョー ヒーヨヒーヨヒーヨ・・・・・・
ワアアアアアアアアアアアアアアア ウオオオオオオオオオオオ
小鳥たちが囀り、数羽、飛んでゆく。
その下では、かつてない大乱闘が今も繰り広げられている。
・・・・・・バサリ バサリ ・・・・・・ぶわあっ
小紅たち七人の前に立つ、ブン・タンと針実伝。
ブンが迷彩柄のジャケットを脱ぎ捨てると、無数の刀傷や弾痕のある筋肉質な肉体が現れた。
モスグリーンのノースリーブシャツを纏い、腰元には大きなナイフを携えている。
同時に、針実も、真っ黒なマントのようなコートを広げ、艶めかしく光る黒い革靴を履いた足を片方、前へ出して立つ。
そしてポケットから指輪のようなものをいくつも取り出し、両手の指に填め込んだ。
「ほっほっほ。・・・・・・ブンさん。針実さん。頼みましたよ? 面白いショーをボクの目の前で見せて下さいね?」
「はっ! お任せ下さい、毒島様!」
「針実ト自分ハ、久々ノ戦イデス。シカモ、素人デハナイ、武術家ヲ相手ニスルノハ、アノ柔術家以来カモシレマセン!」
サングラスの奥で細い目をふっと緩め、ブンはゆっくりとナイフを抜き、どっしりと構える。
針実もトゲのついた指輪を填め終えると、拳をぎゅっと握って構え、その場でゆっくりと
身体を上下に揺すりながら、リズムを取る。
「毒島様の計画を邪魔した早乙女小紅、そして、他の者共! この元ベトナム軍医の針実伝が相手だ!」
「オレハデスアダー幹部、元ベトナム軍兵士ノ、ブン・タン! コレマデニ、オ前タチノヨウナ、武術家ノミヲ相手ニシテキタ! 朝霧苺。大円流合気柔術ノマスターモ、相手シタゾ?」
ブンの言葉を聞いた苺が、目をかっと見開く。
「なっ、なにぃ! ウチのおじいちゃんやお父さんを襲ったのは、お前なのっ?」
「厳密ニ言エバ、トドメヲ刺シタノハ、自分ノ部下ダガナ。マトメテ二人ヲ相手シテ、蹴散ラシタノハ、コノ、自分ダ! ・・・・・・デスアダーニ・・・・・・」
・・・・・・だだだぁっ ダシュンッ!
「苺っ! だめっ!」
ブンがまだ話も終えぬうちに、苺の足が動いた。
小紅が叫んだ時には、苺は中指を突き出した「鏃」の握り方で拳を固め、一気にブンに向かって飛び込んでいた。
「ウチの、家族をーーーっ! 許さなーいっ! はあぁいやぁーーーーっ!」
・・・・・・シュッ ドゴオォアァァツ!
「けほぉっ! うあああぁーーっ・・・・・・」
真っ正面から突っ込んだ苺を、ブンは重い軍用ブーツで蹴り飛ばして迎撃。
飛び込む前の位置にまで、苺は吹っ飛ばされた。
「フン! コレモ、任務ダ。悪ク思ウナヨ?」
「ブン。始めるぞ。とっとと終わらせ、毒島様を連れて、宇河宮に帰るぞ」
「おやおや。ブンさんも針実さんも、ゆっくりおやりなさい? ボクは、この祭りを楽しんでいるんですからねェ?」
余裕の笑みを見せて座り、横に置かれた水槽のカエルを指に乗せて遊ぶ毒島。
「だいじ!? 苺チャン! 苺チャン!?」
華蓮が、転がった苺に駆け寄る。水穂と澪は、ハンカチで苺の腕や顔を拭っている。
「い、いまの蹴り、まったく身体の軸を動かさず無駄のない動きでしたね・・・・・・」
「空手でもキックボクシングでもなかんべ・・・・・・。軍隊格闘技かの?」
みかんと源五郎は、ブンの蹴りのフォーム一つを見て、只ならぬものを感じていた。
「おい! ズタボロ軍人! お前が、苺の親やじーちゃんを痛めつけたのは、なぜだ!」
「フン。ソレハ、理由ナドナイ。タマタマ、ソコニイタノガ、大円流合気柔術ノマスターダッタダケダナ。イチイチ、理由ナドハ、イラヌノダ!」
「り、理由無し? そんなことで・・・・・・苺の家族が! な、なんなんだよお前たちは!」
怒りで拳を震わせる小紅のもとへ、苺も怒りの表情で歩み寄ってきた。
「理由もなく、お父さんやおじいちゃんは、襲われたんだね! 許せない! 許さない! ウチが今度は、お前を大円流合気柔術の技で、倒してやるからぁっ!」
小紅と苺が、構える。華蓮たち五人も、ブンと針実に向かって、構えた。
「さぁ、始めるとしよう! この針実、元は医者ゆえ、人体のどこをどうすれば、どれほどのダメージや損傷を与えられるかを熟知している!」
「そんな頭でっかちな知識だけで、あたしらを倒せるとでも思ってんの!? 医者は、病院で患者を診てなよ!」
小紅は針実を巧みな言葉で挑発する。針実は、小紅の挑発を軽く流し、笑っている。
「ふん! そして、この『角指』には、数多の毒虫や蛇から抽出した毒を塗っている。少しでも傷が付けば、そこからお前たちの身体を蝕むほどのな!」
「傷をつけられるもんなら、つけてみなさいよ! あたしらは、負けないから!」
力強さを秘めた目の小紅へ、ブンがサングラスの奥にある目を光らせて、語る。
「自分ガマスターシテイル、ベトナム武術『ボビナム』ト、針実ノ化学ノ知識ヲ合ワセテノ連係攻撃ニ、オ前タチハドコマデ戦エルカナ? サァ、イクゾ!」
・・・・・・ザシャアッ ギュピッ ギュピッ
・・・・・・ぶわぁっ かかっ かかっ
「みんな! 来るよ! 七人で迎え撃つんだ! 相手は刃物や毒の凶器! 触れられたら一発アウトだと思って! さぁ、ズタボロ軍人とキザ野郎、あたしたちが相手だ!」
ブンと針実は、小紅たちに向かって一気に突っ込んできた。
小紅のくりっとした目が、かっと開く。七人は同時に重心を下げ、呼吸を整えて迎撃態勢に入った。
「ウチの家族の仇、ブン・タン! 小紅っ、こいつは、ウチがぜひとも倒したいよ!」
「毒を使うなんて、あの五行節のパーコー麺みたいだ! しかも、元医者だなんて・・・・・・異質だね!」
「あの針実って人が角指なんてものを装備しても、わたくしたちが、打撃をもらわなければどうってことないと思う! 小紅チャン、油断は禁物だけど、落ち着いて迎え撃とう!」
「そうね! ズタボロ軍人とキザ野郎の初動に対して、あたしたちも同時に仕掛けよう!」
小紅、苺、華蓮は、向かってくるブンと針実の動きを、じっと集中して構えながら観察している。
「ミ、ミオ! どうする? どうする? どっちを相手すればいいかなーっ!」
「わたしは・・・・・・長髪の方を迎え撃つよ! 水穂は? 一緒に、長髪の人を相手する?」
「私、毒は、やだ! それにあの長髪も、いやーっ! 生理的にロン毛男、無理ーっ!」
「わたしだって毒は嫌よ。でも、倒さなきゃならないんだからさ? じゃ、軍人の方を!」
「ひぇーん! こんなクリスマスイブなんてぇー。帰って私、夜は絶対にケーキ食べる!」
「わたしもこれは、忘れられないイブになったわ・・・・・・。来年は、普通のイブがいいな」
水穂は、また泣き言を言っている。澪も溜め息をついて苦笑いをしているが、二人ともしっかりと両拳は構えを緩めず、ブンや針実から目を逸らしていない。
「お前たち、静かにしろ! 来るぞ! 集中だ!!」
「水穂! 澪! 軍人の方はナイフじゃ! 正面からは刃渡りが見えん。なるべく横から相手をするんじゃぞ! 横からなら、刃物の形や、長さがわかる! 打ち落としやすい!」
みかんと源五郎が、水穂たち二人へ横から活を入れる。
四人はぐっと重心を前に乗せた。ブンには、小紅、苺、みかん、水穂が迎え撃つように構えている。針実には、華蓮、澪、源五郎が冷静に構えている。
ブンと針実は、にやりと笑いながら、小紅たち七人との間合いに難なく入ってきた。
* * * * *
ボワアアアアァァッ ゴオオッ バアンッ ドオンッ
「「「「「 ウリャアアァーッ! ヒャハハハハァ! 」」」」」
「く、くくっ! すごい数だ。だが、警察が屈するわけにはいかん!」
二斗刑事たちは、デスアダーの雑兵に、苦戦していた。警官隊や機動隊を加えても、相手の数が多く、思うように確保しきれない様子。
「オォラァ!」
・・・・・・ごつんっ! ばきっ! どかっ!
「うぐっ! くそぉ! ・・・・・・うるるぉあああぁっ!」
角材などで殴られながらも、二斗刑事は柔道技や逮捕術を駆使し、雑兵を逮捕してゆく。
「(はぁ、はぁ。なんという数。これを率いているのが、あそこにいる毒島だというのか)」
二斗刑事は、若手の警察官たちと、毒島のほうへ目を向ける。
そこには、ブンと針実を相手に動き回っている、小紅たち七人の姿が。
「・・・・・・我々も、挫けてはおれん! まだまだ、こいつらを全員捕り押さえるんだ!」
警官隊や機動隊を活気づけ、二斗刑事は息を切らせながら、再び戦い始めた。
その向こうでは、小紅たちがブンと針実の二人と激闘中。
ギュピッ ドギュンッ シュバシュバ! シュシュシュッ!
「ひいーっ! 危ないっ! 危ないってば! なんでこっちにーっ!」
「水穂! 正面はダメ! 横に! あたしについてきて! 右行くよ!」
「早乙女! 私は左に跳ぶ! そっちを頼むぞ!」
「ウチも、安藤ちゃんと左から狙う! 小紅と水穂ちゃん、右攻めよろしく!」
バババッ バババッ ババッ ババッ
ブンの白刃は、ものすごいスピードで横一文字に振られ、器用にくるりと回されてすぐに斜め上から切り下ろされる。そしてまた、くるりと手先で回転させ、薙ぎ払うように縦に振り上げられる。
小紅と水穂は、ブンの右へ回り込む。苺とみかんは、左から間合いを取って攻め処を窺う。
「フン! 無駄ダ!」
・・・・・・クルリッ ギュピッ ビュオオオオッ! バシイイィッ
「うあっ!」
器用に振り回されるナイフと別に、重いブーツでの蹴りがみかんの足下を払った。
みかんは尻もちをつくように、地面へどすんと落とされる。
ヒュオオオォッ!
そこへ、流れるような動きで振り降ろされる大きなナイフ。
「危ない、みかんっ!」
・・・・・・ギュンッ ダシュンッ バキイッ! キキキィィィンッ!
小紅がブンの腕を横から蹴り込む。
白刃は、高い音を響かせ、転がったみかんの右脇腹からわずかの地面に当たる。その白刃の切っ先は、地面の一部を砂礫に変えて舞い上げていた。
「くっ!」
みかんは、ブンの顎へ下から軽い突きを入れ、その隙にごろりと横に転がって立ち上がる。
「安藤ちゃん、だいじ?」
「ああ、何とか。早乙女に助けられたな!」
「みかん! 相手はナイフだけじゃない! 蹴りや、体術にも注意しなきゃまずい!」
「悪い、早乙女! そうだな! 刃物にばかり意識が行ってしまった」
みかんはすぐに構え直すが、再びブンの正面には立たず、横から攻めようとする。
「ナカナカノ素速サダッ! コレハ、厄介ナ・・・・・・」
クルン ヒュオンッ シュピイィーッ! クルン シュバアッ バシュッ
クルン ヒュヒュウンッ クルン ヒュラッヒュオォォォンッ!
くるりくるりと両手にナイフを入れ替え、四方八方から振り回す、ブンのナイフ術。
小紅は、その動きを、じっくりと高速移動しながら観察を続ける。
苺も、小紅とは逆回りで動き回りながら、ブンのナイフの軌道を見定めている。
「ん! いいもの、みっけ! ・・・・・・これなら・・・・・・」
水穂は、地面に落ちていた銀色のものを両手で拾い上げた。
「え? 水穂? 何を・・・・・・。一斗缶じゃん、それ!」
「小紅センパイ! これは実戦だもん、何したっていいんでしょ? このーっ! えいーーっ!」
・・・・・・ぶんっ ガッツゥンッ!
「ヌヌヌ!」
ブンのサングラスに、水穂が投げたアルミ製の一斗缶がぶつかった。
・・・・・・がしいっ ギュイィッ!
「ヌ!」
その瞬間を見逃さず、苺が一気に踏み込み、ブンの手首をねじり上げる。
「せえぇやあぁーっ!」
シュバアッ! パキャアアァァンッ
苺が相手の手首を捕ったのとほぼ同時に、みかんの右足が半円をきれいに描き、ブンのナイフを撥ね飛ばす。
「早乙女! 稲葉! 苺さん! ナイフは吹っ飛ばした! これで、素手同士だ!」
「ナイスだ、みかん! 水穂がぶん投げた一斗缶から、見事な連携だね!」
「ナ、ナント! ・・・・・・コレホドマデノ腕前ダトハ・・・・・・。ヌヌヌゥ!」
ばばばばっ ばあっ ヒュヒュヒュウンッ!
「「「「 ! 」」」」
ブンのナイフを撥ね飛ばした矢先、横からコートを翻しながら、針実が側転をするように跳んできた。ブンに加勢し、針実は小紅たち四人の前で構える。
「くっそぉ、身軽なやつじゃわい! いきなり、あっちに跳びやがったべ!」
「わたくしたちを相手にしながら、横跳びして、あの軍人側に加勢するなんて!」
「早乙女師範。華蓮サン。わたしたちも、そっちへ!」
針実と戦っていた源五郎、華蓮、澪の三人も、四人と再び合流。
軽やかな動きでブンのもとへ跳んだ針実は、一気に小紅へ攻め始める。
その攻撃を、紙一重で躱し続ける小紅。
「ズタボロ軍人にキザ野郎ーっ・・・・・・。二人がかりで、いきなり、あたしへ集中とは!」
「これも、我々二人が毒島様の国内征服計画を遂行するにあたり、貴様が邪魔と判断したためだ。この国を、根本的に洗い直し、毒島様が力でまとめる。必ずや、それによって、今の国とは見違えるほどの、良い国になる。わかりやすい、力の国にな! ふはは!」
・・・・・・シュッ バチイィンッ ガガガッ
ブンの拳と、角指のついた針実の拳を受け流す小紅。
「ふざけんな! なにが力の国よ! バカじゃないの? そんな、宗教みたいな話、本気で盲信してる方がおかしいわよ! そんなもののために・・・・・・傷つけられたり、殺されたりした人がいるなんてーっ! ふっざけるんじゃないってのーっ!」
・・・・・・パパァンッ ドギャアッ ドゴオォッ
ブンの頬へ掌底打ちを叩き入れ、小紅は膝蹴りを頭部に見舞う。
そして、針実の腕を受け流すと、強烈な中段回し蹴りで、針実の左脇腹を蹴り抜いた。
「ヌグッ・・・・・・。ヌウゥ!」
「ぐはっ・・・・・・。な、なんと・・・・・・」
小紅は、よろけるブンと針実から目を離さず、鋭い視線で睨みつけている。
「てえぇああぁーーーーーーっ!」
バキイッ! バキィバキィッ! ドドドドンッ ドスンッ バシイィッ!
「グ、グオアアァ・・・・・・」
「うぐおぉー・・・・・・」
「デスアダーは、誰だろうと許さない! この、ろくでなしめ!」
ブンの顔面へ、小紅は回し蹴りからの後ろ回し蹴りを浴びせ、横にいる針実へは凄まじい連続の突きを叩き込み、側頭部を回し蹴りで振り抜いた。
「ひゃー。小紅センパイ、つっよ! さっすがぁーっ! いぇーい!」
「じ、尋常じゃない感じだな・・・・・・。相手、片方は元軍人だぞ! し、信じられない!」
きゃぴきゃぴと喜ぶ水穂。みかんは、小紅の鬼のような攻めに、ただ驚愕。
「苺っ!」
小紅は、苺に視線を投げかけ、こくりと無言で頷く。
「・・・・・・うん! やってやる! ウチの、家族の仇!」
「ウヌヌ? ・・・・・・朝霧苺! オモシロイ! 自分ノ、ボビナムヲ、ソノ大円流合気柔術デ、打チ破レルカ?」
「できるかできないかじゃなく、ウチは、やる! はあぁぃやぁーっ!」
苺は、ブンに向かって、踏み込んでいく。その時、針実が内ポケットから何か取り出した。
「くそっ・・・・・・。これで・・・・・・っ!」
「待ちなさい! わたくしたちを、忘れないでよねっ!」
キュルウンッ ドパパパパパァンッ パカァンッ
「わたしたちが、あなたの相手をしますから!」
ギュルッ ベシイイッ
苺へ何かを投げつけようとした針実の腕を、華蓮の棒が打ち払う。
そこへ、澪が回転力を加えた後ろ回し蹴りで、針実の右脇腹を蹴っ飛ばした。
「ご・・・・・・ごああぁっ・・・・・・」
・・・・・・チャリィンッ カラァン・・・・・・
針実の手から落ちた何かを、源五郎が拾い上げる。それは、細く尖ったダーツだった。
「こ、これは? うっすらと、先端に何か塗られとるべ! 間違いない。毒じゃな!」
「「 ええ! 」」
華蓮と澪は、源五郎の驚く顔を見て、慌てて針実へ目を向け直した。
「ダーツにも毒なんて・・・・・・。まさか、これまでの相手が使っていた化学武器はっ・・・・・・」
ゆっくりと、針実は立ち上がる。すると、口角をにやっと持ち上げ、コートをぶわっと開いて笑いながら力強く語り始めた。
「・・・・・・ぐ、ぐふっ・・・・・・。そうだ、三島華蓮。かつて、柿田信好へ渡した催涙ガス。ジッテの手裏剣にも、この私が精製した毒を塗っていた。そして、アシッドの持つ酸も、パーコーの金票も、みな、私が毒を塗り、提供したもの!」
「な、なんですって! あの、五行節のイカの人も、手裏剣に毒を塗ってたなんて!」
「元医者の知識と技術を、凶器の方へ使うなんて! 狂った理系頭脳、恐ろしいですね!」
華蓮と澪は、針実の乱れ狂ったような目を見て、ぞっとする。
「・・・・・・ジョーが飼い慣らしていた、多加田芳美。あれに打ち込んだ薬も、私が実験的に独自調合し、精製した薬物! ふはは・・・・・・。ふはははははは! 医は仁術! しかぁし、世の中、白黒は表裏一体! 医は、殺人術にもなるのだぁぁぁ! ふははははははは!」
「くっ! ・・・・・・このぉっ!」
ヒュウンッ バキャアァッ
狂ったように笑う針実の顎を、華蓮が棒で打ち上げた。だが、効果は今ひとつのようだ。
「・・・・・・ふふ。ふふははは。デスアダーでは、毒島様への忠誠心をより高めるため、傘下の者へはな、大陸より仕入れた薬に私が配合したドラッグ混ぜた陶酔薬を渡してあるのだぁ! ふぅははははははははははは!」
壊れ狂ったように、針実は笑い始めた。その横では、ブンの前で戦慄の表情を浮かべる小紅たちがいる。
「(な、なんだ? キザ野郎が、本当におかしくなっちゃった! なんなのよ!)」
「ふぅははははは!」
すると、針実はコートの内ポケットから、注射器のようなものを取り出した。
「ソレハ・・・・・・マサカ。・・・・・・針実ィ! ソレハ、マダ、実験段階デハ・・・・・・」
「ふははははははは! ブン! あとは、命尽きるまで、暴れろ! ・・・・・・頼んだぞ!」
・・・・・・どんっ プスリ ちぅー・・・・・・
「「「「「 なっ! 」」」」」
小紅たちの前で、針実はブンの二の腕へ、注射器を刺して謎の薬品を注入した。
その様子を遙か後ろで、毒島が笑いながら見ている。
「ほっほっほ! 針実さんもブンさんも、手こずってますねェ! 命に替えても、その手段を選ぶ心意気、素晴らしいですけどねェ!」
毒島は左手を動かさず、そこへ右手を当てるような叩き方で、ゆっくりと拍手をしている。
「苺! なんか、雰囲気がやばい! はやく、倒しちゃおう!」
「う、うん!!」
「みんなも! 一斉に!!」
小紅が全員へ声をかけた。呻き声をあげて、頭を両手で覆いながら暴れるブン。
針実は、よろよろと覚束ない足取りで、毒島の前へ戻っていった。
「も、申し訳ございません・・・・・・毒島様・・・・・・。ブンに、あとは・・・・・・」
「ほっほっほ。針実さん・・・・・・。なぁに・・・・・・面白いアトラクションでしたよ・・・・・・」
「やはり私では、力が足りなかったようです。・・・・・・逃走用の車。エンジンかけます」
毒島は「やれやれ」と言い、針実へ制裁を加えるようなことはせずに、鼻で笑ってそのまま車のエンジンをかけさせる。そして毒島の座っていた椅子とカエルの入った水槽を、車内に積ませた。
針実は、蓄積したダメージによるためか、呼吸を荒くして、運転席でぐったりとしてしまった。
「こ・・・・・・こべにちゃん・・・・・・」
優太は、目をうっすらと開け、ブンと向かい合う小紅たちの姿を、見ていた。
「ほほほ。常盤優太さん? 見てごらん! ・・・・・・こんな過激なことは、二度と見られないショーですよ!」
毒島は車に乗り込むことはなく、両手を白いスーツのポケットに突っ込み、青い目を細く歪めながら、不気味な笑い声を響かせていた。




