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出動!悪行清掃人!   作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
#13 平常心が大事! 優太のたたかい!
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~ファイル68 平常心、それが一番大事~ 

 柏沼高校の放課後。

 校庭の片隅では、今、静かな闘志を燃やす男子が対峙している。

 アスナロとヒバの木が植えられた庭園前の砂場には、直径六メートルほどの円が描かれていた。

 その円の中に、ジャージ姿の優太と杉山が立つ。


「いいな、常盤! 待ったなしの一発勝負! 勝った方が、早乙女とクリスマスイブの交際を申し込める権利を得る! そして、真剣交際をする! 文句ないだろ?」

「・・・・・・う、うん! ぼくも、それでいいよ! 負けないよ、杉山くん!」


 杉山と向かい合い、緊張した面持ちの優太。


「はーい。異議ありー。あたしは文句大アリなんですけどー? 勝手に話が進んでるー」


 抑揚の無い声で叫ぶ小紅。ギャラリーとして立ち会っている小林の他に、水穂、澪の姿も。


「まぁまぁ、小紅センパイ! 静かに見届けようよぉー」

「優太サン、がんばれ! でも、杉山サンも、ケガとかはしないで・・・・・・」


 水穂は完全に野次馬状態。澪は、いつになく真剣に見ている。


「篠原も稲葉も、部活行けよー。主将と副将がいねーんじゃ、だめじゃんー」


 小林が呆れたような声で、二人を促すが、まったく聞き入れてもらえない。


「小林っ! 行司役、たのむ!」


 杉山が、小林に声をかけた。


「俺でいいの? わかった・・・・・・。でも、相撲の行司役、よくわかんねーから、それっぽくやるだけだぜ?」

「ああ。それでいいよ。基本的に、円から出るか、足の裏以外が地に着いたら負けだ!」

「はいよ。・・・・・・がんばれな、恋する男子二人。・・・・・・位置についてー、よーい・・・・・・」

「ちょっと小林! それは、運動会だよ! 『手をついて、待ったなし』よ!」

「そ、そうか。詳しいな、早乙女?」

「じーちゃんと、小さい頃、テレビの大相撲見てたからー」

「わかった。・・・・・・じゃ、いくぜ? 手をついて、待ったなし!」


   どきどき  どきどき  どきどき・・・・・・


 優太と杉山は腰を落とし、両拳を地面につけた。


「(ぼくが負けるわけにはいかない! 勝つんだ! 杉山くんに、勝ちたい! 勝つ!)」

「(早乙女と付き合うのは、俺さ! 常盤。相撲とは言え、格闘技のキャリア差は出る!)」


 小林が、手をさっと上げる。


「はっけよーい・・・・・・のこったぁ!」

「わあああぁーーっ!」


   どすんっ!


 優太は、杉山に思い切りぶつかり、腰を抱きかかえるように組みついた。


「よし! いいよ優太! そこなら重心はそう崩れないさ!」


 小紅が指をパチンと鳴らす。水穂と澪も「へぇー」と感心している。


「(くっそ! 空手なら、蹴りでカウンター取れたのに!)」


 杉山は優太に組みつかれ、振りほどこうとするが、うまくいかない。


「(は、離すもんか! 小紅ちゃんを、ぼくは守るんだ! あれ? ・・・・・・でも組んだら、どうするんだっけ? どうすればいいんだろう?)」


 組みついたが、その先の攻め方がわからず、そのまま力で杉山に振り回され始めた優太。


「(お、思ったより常盤、根性あるな! ・・・・・・でも、これは相撲だ。このまま外に!)」


 杉山は、腰を落として、ぐいぐいと優太を押していく。


「(え! 力いっぱい押してるのに! なんでぼくが押されちゃうんだろう!)」

「(やっぱり常盤は、格闘技は素人だ! 腰が低くて重心は下がってるが、押しやすい!)」


 優太は一気に押し込まれる。杉山は、空手の移動基本のように前へ前へ押していく。


「ひゃーっ! 小紅センパイ! 優太センパイが、一気に押されてるー」


 優太の押される姿を、頬杖をついて体育座りで見ている小紅。


「こぉらぁ、優太! 根性出しなさいよーっ! このままじゃ、あたしが杉山とイブ過ごしちゃうよ? それでもいいのーっ! 平常心だよ、戦いのコツは! 平常心ーっ!」

「はっ!」


 小紅のその声を聞いて、線ギリギリで優太は踏ん張った。

 思い切り力を込め、トマトのように真っ赤な顔をしながら。


「(平常心か。でも、取っ組み合いの時・・・・・・本当にどうすれば・・・・・・。はっ!)」

「(常盤! 根性あるじゃないか! くそー、あと一歩! なかなか出せないな)」


 杉山はぐいぐいと押しこむ。完全に、優太が受け身、杉山が攻めの展開に。

 その時、優太は何かひらめいたような表情になった。


「(そうだ! あ、朝霧さんだ! 朝霧さんは、たしか、こんな時に腕を握って・・・・・・)」


 優太は、杉山の腕を掴んだ。


「(な、なんだこいつ! 腕を!)」

「(つ、掴んだはいいけど・・・・・・。どう投げてたっけーっ?)」


 杉山の腕を掴んだまま動かない優太。それを見逃さず、杉山は一気に重心を前にかけた。


「(わ、わあっ! 杉山くん、攻めに出てきた!)」


 やぶれかぶれで優太は、掴んでいた杉山の腕を後ろに放り投げるように振り払った。


「(あ・・・・・・。う、うそだろぉ!)」


 優太が放り投げた勢いと、杉山が前に出る勢いが、偶然にも噛み合った。

 そのまま、杉山は円の外に放り出されるような形で、出てしまった。


「えっ? え? あ? ええ???」

「や、やったじゃん、優太! 優太っ! 勝ったんだよー。よくやったーっ!」


 思わず優太に駆け寄り、小紅は飛びついた。優太はしばらく何が起きたかわからない様子だったが、顔を真っ赤にして飛びついた小紅を受け止める。

 優太が偶然にも決めた技は、相撲の「網打ち」という決まり手だった。

 杉山は、優太と小紅のその様子を見て、ふっと息を吐き「始めからかよ」と声を漏らした。



     * * * * *



「・・・・・・いやぁ、負けた負けた! 常盤! やっぱり早乙女には、お前が一番なんだな!」


 杉山は爽やかな笑顔を見せ、優太と握手した。


「すまなかったな、早乙女ー。もともと、お前、俺と付き合う気はなかったんだろ?」

「ごめんっ。そういうこと、かな。・・・・・・しっかし杉山、相撲もできるんだね! でも、まさか優太があんな技で返すなんてねー」

「すごいよ、常盤は。根性あるし、やる時はやるなー。俺、ちょっと、ナメてたわー」


 杉山はタオルで汗を拭き、感心している。そして、優太に笑顔で握手を求めた。


「あ、ありがとう、杉山くん! ぼ、ぼくー・・・・・・」

「(胸張れよ、常盤! 早乙女と、ずっと、仲良くな?)」


 杉山は優太の耳元でそう呟き、ジャージ姿で、ゆっくりその場を去っていった。

 なぜか澪が、その後ろを、急いで追いかけていく。


「優太っ! がんばったね! ・・・・・・網打ちなんて、珍しい決まり手で勝つなんてさっ!」

「小紅ちゃん・・・・・・。見ててくれてありがとう! イブ、勝ち取ったよ! えへへ!」

「もともと・・・・・・あたし、イブは日曜だし、優太と過ごしたかったんだ。その前日は、両親の命日でお墓参りだからさ。湿っぽくならずに、気持ちを前向きにしたいもん!」

「もう、あれから三年経つんだ。早いね・・・・・・。でも、よかった! ぼく、小紅ちゃんと一緒で!」

「あー。暑い暑い! 冬なのに暑いよー。ひゃー、あっつぅ! あれ? ミオ、どこー?」


 水穂は小紅と優太の雰囲気に耐えきれず、顔を真っ赤にしてその場から駆けだしていった。

 その水穂とは逆方向に向かって、一歩一歩力んで歩いている杉山。


「す、杉山サン!」


 その後ろから、澪が声をかけて、足を停めさせた。


「・・・・・・篠原? 悪かったな。部活前に、主将にまで変なものに立ち会わせちゃって」

「いいんです・・・・・・。あの・・・・・・。杉山サンですから!」

「??? 篠原?」


 澪はもじもじしながら、目線を杉山から外す。


「小紅サンには、優太サンがいます。・・・・・・そういうことですから・・・・・・」

「・・・・・・あぁ。そういうことなんだよな。参った参った・・・・・・」

「ですからっ! 杉山サンと小紅サンは、もともとなかったんです。その代わりっ・・・・・・。わたしじゃ、だめですか・・・・・・ね? ・・・・・・杉山・・・・・・前主将!」

「え・・・・・・? 篠原?」

「わたし・・・・・・タイミングは逃したくないんです! ・・・・・・杉山サン・・・・・・」


 澪は、顔を赤らめながら、杉山に対して深々と頭を下げていた。

 杉山は、頬を指でポリポリと掻いて、五分ほど黙り込んだ後、すっと澪に手を差し出した。


「・・・・・・少しずつで、よければ・・・・・・。いいのか、俺で?」


 明るい笑顔を見せ、杉山は澪の手を引く。澪は顔を上げ、ずっと目と目を合わせていた。



     * * * * *



「うわー・・・・・・。なんか、背中や腕が痛いよぉー」

「普段使わない筋肉を開放したんだよ。筋肉痛だから、だーいじだって!」


 帰り道、小紅は優太と一緒に家へ向かって歩いていた。


「優太っ・・・・・・。強いとこ見せてくれたじゃん! 頼もしい感じだったよー?」

「今年は何が何でも、小紅ちゃんとクリスマスイブ、過ごしたかったから・・・・・・」

「・・・・・・うん。ありがと! あたしも、ね!」


 優太は、筋肉痛の腕をぐるぐると回し、小紅へ爽やかな笑顔を見せる。


「じゃ、イブ空けとくね。一日中ずっとね! ・・・・・・優太、夜まで一緒でもいーよ?」

「え?」

「だーかーらぁ! 一日中空けとくって言ってんのぉ! ・・・・・・朝から晩まで!」

「あ、あぁ! ありがとう、小紅ちゃん! ・・・・・・じゃ、えーと、せっかくの日曜イブだし、お昼も美味しいの食べてさ、夜もどこか良いお店に、ご飯食べに行かない?」


 優太は照れながら、バッグで顔を半分隠して、小紅の表情を窺った。


「夕ごはんかぁ・・・・・・」

「ケーキバイキングとかの方がいいかな?」

「夕ごはん・・・・・・かぁ・・・・・・」

「それか、イタリアン? お寿司? それとも、ハンバーグとか・・・・・・」

「全部っ! 美味しく楽しもう? 優太と、今年は一日中、クリスマスイブを過ごす!」


 小紅は、紅色の髪留めを輝かせ、目をきらきらさせながら、満面の笑みを見せた。

 優太はその笑顔を見て、うっすらと目を潤ませながら、小紅の手を引き、夕空の下を歩いていった。


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