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出動!悪行清掃人!   作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
#13 平常心が大事! 優太のたたかい!
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~ファイル67 優太のたたかい!~ 

「いたぁーいっ! ・・・・・・ふぐ! いたいってば! もっと優しくやってよ!」

「ほら、動かないで下さい? あー・・・・・・歪んでるのは、左下の親知らずですねぇー?」


 パーコーとの激闘から二日後。小紅は放課後に、地元の歯医者で治療を受けていた。


「え? 親知らず? だったら、抜いちゃってくださーい。あたしは構わないんで!」

「いいんですか? まぁ、これなら、抜いても問題無いでしょう。お待ち下さいねー」


 歯科医師が道具を使ってぐりぐりと歯を動かす。そしてしばらくすると、「かぽん」という音と共に、小紅の歯が抜けた。

 三節根で叩かれて歪んだ奥歯は、それでもなお、しっかりとしていた。


「あー、すっきりした! まだ、下あごが麻酔で変な感じだけど。ま、いいや!」

「おつかれさま、小紅ちゃん! いい笑顔になってるねー」

「ある意味、あのパーコー麺のおかげかもー。あの棒で横っ面を叩かれて、親知らずが歪んだみたいねー」


 夕暮れ時の帰り道を、優太と同じ歩調で歩いていく小紅。空には一番星が瞬いている。

 その歯医者の帰り道、二人の後ろから、別な足音がゆっくりと近寄っていた。


   すたすた すたすた・・・・・・  てくてく てくてく・・・・・・   ざざ  ざざ・・・・・・


「優太・・・・・・」

「ん? なにかな?」

「後ろから、誰かずっとついてきてる! 足音は、たぶん二人・・・・・・」


 細い眉をくいっと曲げ、小紅は目に力を入れて、ばっと振り向く。

 身構える小紅の横で、優太もさっと振り返り、警戒しながら、少しだけ前に歩み出た。


「誰! ぼくたちを、つけているんですかっ?」

「変なことすると、警察呼ぶよ! ろくでなしなら、あたしがやっつけるかんね!」


 優太と小紅が、街路灯奥の影に向かって、叫んだ。


   ざざ  ざざ  ざざっ・・・・・・


「「 んっ? 」」

「・・・・・・ひどいなぁ、早乙女! 不審者扱いかよぉー」

「・・・・・・ははは。暗かったからかな。ごめんな、変な気分にさせてー」

「こ、小林くんに、杉山くん! な、なぁんだー・・・・・・」

「びっくりしたじゃん! なんだよー。小林も杉山も、驚かすなっての!」


 後ろから近寄ってきたのは、小紅や優太と同級生の元空手道部員、杉山幸徳と小林治生。

 自転車を押して歩いてくる小林の姿を見て、小紅と優太は、ほっと安堵の溜め息をつく。


「・・・・・・早乙女。ちーっと、時間、いいかな? その、話がな・・・・・・」

「は? 今から? あたしに?」


 小林は親指でくいっと近くの公園を指す。小紅の頭には、ハテナがいくつも浮かんでいた。



     * * * * *



 砂場と手洗い用の水道、あとはサザンカの植木が数本だけしかない小さな公園。

 指し示したのは小林だったが、小紅を公園に連れて入ったのは杉山だった。


「優太、ちょっと待っててー。なんか話があるみたいだから。すぐ終わるー」


 小紅は植木の横からひょこりと顔を出し、優太に手を振る。


「ねぇ、小林くん。杉山くんが小紅ちゃんに話って? もう部活も引退してるのに・・・・・・」

「まぁまぁ。常盤、ここは、察せよ。・・・・・・この雰囲気だぜ?」

「はっ! ま、まさか! そんなの、だめだよ!」


 優太は丸い目を大きく開き、公園に入ろうとした。それを小林は、慌てて止める。


「ちょ、ちょ・・・・・・待てよ! 常盤。今、お前は早乙女の何なんだ? 幼馴染みってだけだろ?」

「う・・・・・・。まぁ、そう言われちゃうと・・・・・・」

「まぁ、俺らは外野なんだ。ここで、見てようぜ・・・・・・」


 優太は小林と、小紅を遠巻きに見ている。


「(小紅ちゃんー・・・・・・)」


 ひんやりとした空気。いつしか、夕空から夜空になり、下弦の月と星々が煌びやかに瞬く。


「・・・・・・杉山があたしに折り入って相談? 珍しいね?」

「いや・・・・・・。相談ではないかなぁー・・・・・・」

「なんなの? あたし、帰っていい?」


 小紅は、ものすごく不機嫌そうな顔で、杉山に言葉を投げつける。


「ま、まだ何も言ってないのに、そんな怒らなくてもいいじゃないかー」

「怒ってないよ! 歯を抜いた後が痛いのよ! 麻酔が切れてきてんのっ!」

「あ。そ、そうなのか! じゃあ、早くしてやらないとな・・・・・・」

「早く言えー。なにもったいぶってんのよ? 同期でしょ? 言いにくいことなの?」

「あ・・・・・・。う、うおっほ!」

「咳払いするヒマあるなら、早く言いな! あたしも顎が痛いんだから!」


 肩にバッグを担ぎ、片足に体重をかけ、小紅は腕組みをして苛立った表情。

 小林と優太は、その様子を遠くから見ている。


「常盤。悪く思わないでな? 俺がこうしないと、お前ら、いつも帰り一緒なんだもの」

「えぇ? ど、どういうこと?」

「お前と早乙女、特に付き合ってはいないんだろ?」

「ま、まぁ。今はまだ・・・・・・」

「部活ではめっちゃ面倒なやつだったけど、何だかんだで早乙女、男女ともに人気あるの、お前、知んねーべ?」

「え! 人気って・・・・・・。小紅ちゃんが? なんでぇ!」


 優太は驚いて、小林の顔をまじまじと見る。小林は、こっそりと話を続ける。


「早乙女は、何だかんだで美人だし。しかも柏沼市内じゃ、もう有名人ポジションだろ? スポーツ万能っぽいし、多分、本気出せば文系トップクラスの成績だろうしさ?」

「そんな風にみんな、小紅ちゃんを見てるの? ぼくは、そんな見方じゃないんだけど?」

「そりゃ、常盤は幼馴染みだから。早乙女は、男女ともかっこいいって声が多いんだぞ?」

「(そ、そうだったのか! 小紅ちゃん、みんなからそんな感じで・・・・・・)」


 優太と小林は、公園の様子をじっと見続けた。

 かすかに、何を話しているか、風向きで声が聞こえるようになってきていた。


「早乙女。あのな、そろそろ、天皇陛下の誕生日の翌日や翌々日だな?」

「バカじゃん? 何その言い方? クリスマスイブとクリスマスね?」

「単刀直入に言おう! 早乙女! 俺は一年の時から、お前に恋をしていた! クリスマスイブ、この俺と、付き合ってくれないかい! 俺は、お前が心底大好きだ!」


 杉山は、部の主将時代に鍛えた号令のような勢いで、小紅に想いを告げた。


「・・・・・・は? はぁーっ? す、杉山、何つった? ・・・・・・あたしのことが、好きぃ?」


 さすがの小紅も、何度も目をぱちくりとさせ、その場に固まってしまった。


「そうだぁっ! だからクリスマスイブ、よかったら、俺と・・・・・・」


   ガササッ!


「え! お、おい! 常盤ぁっ!」


 その時、優太が小紅に向かって一直線に駆けだした。


「な! と、常盤! 何だお前! いきなり・・・・・・」


 優太は無意識のうちに、両手で小紅の肩を掴み、杉山と目を合わせていた。


「はぁ、はぁ・・・・・・。杉山くん、それは、だめーっ! クリスマスイブは、ぼくも小紅ちゃんと過ごしたいんだ! だから、それは諦めてっ!」

「ちょ、ちょっとぉ! 優太ぁ? あたしはまだ返事を・・・・・・」


 わけがわからないといった感じの小紅をよそに、優太は杉山と目を合わせたまま動かない。


「お、面白いじゃないか、常盤! 俺は、早乙女が好きだ。お前は幼馴染みとして好きなのか、それとも恋心として好きなのか?」

「どっちもだよ! 小紅ちゃんは、ぼくにとって、いなくちゃならないんだ!」

「なんだと! 俺だって、早乙女のことをこの三年間ずっと想ってたんだ!」

「ぼくは、保育園からずっとだ! 杉山くんとは、小紅ちゃんといる時間がちがうよ!」

「ぐ・・・・・・。だけどお前、英語部だろ? そんな非力なお前じゃ、早乙女を守れないぞ?」

「守れるよ! 心配ない!」


 優太の目は、熱き魂が燃えているかのような力強さになっている。


「こ、この! 言い切りやがったな?」

「ぼくは小紅ちゃんや杉山くんたちみたいに、空手や格闘技はできない。でも、それでも、気持ちの強さで、ずっと小紅ちゃんを守るんだ!」

「い、言うじゃんか! 俺だって、早乙女が他校の不良にもし襲われでもしたら、この拳で守ってやりたい! だから、中学まで打ちこんだ卓球も捨て、空手道部に入ったんだ!」

「杉山くん・・・・・・。小紅ちゃんは、そこらの不良には負けないと思うよ?」

「なにぃ? なんだと! じゃあ、どんな奴に襲われた時に守ってやればいいんだ?」


 優太と杉山は、絶妙な間合いを保ち、まるで決闘でも始めるかのような雰囲気で、夢中になって語り合っている。


「え、えーと、それは・・・・・・。すごく強いラーメン屋さんとか・・・・・・」

「は? いやいやいやいや! 何言ってるかわかんないぞー? なんだそれ!」

「と、とにかく、小紅ちゃんとクリスマスイブを過ごすのは、ぼくだ!」

「何言ってるんだ! 俺だ! 常盤! これは、何かで白黒つけなきゃだめだな!」

「・・・・・・ぼくは、小紅ちゃんへの想いは、十五年間変わってないんだ!」

「な、なんてやつだ! 俺の五倍とは! しかし、年数は関係ない!」

「杉山くん! ぼくは、小紅ちゃんを守るんだ! 杉山くんには渡さないから!」

「お、おもしろい! で、どうするんだ? 俺だって早乙女への想いは諦めないぞっ!」


 いつの間にか優太と杉山は、力比べをするかのように激論を交わしていた。


   すたすた  すたすた・・・・・・


「がんばれ杉山・・・・・・って、え? あれ? 早乙女!」


 小紅はいつの間にか、小林の横まで歩いてきていた。


「まったくー・・・・・・。小林。あの二人、止めてよー? でもまぁ、人から好かれるって、悪い気はしないね! 優太があんなに感情を前に出すなんて・・・・・・嬉しいな!」


 小紅は頬を薄く赤らめて、杉山と真っ向からぶつかる優太を、にっこりと眺めていた。

 その様子を、横で小林は溜め息をついて見ている。


「はぁ・・・・・・。杉山ー・・・・・・。だーめだこりゃ! 脈ナシだ・・・・・・」

「あら? そんな顔しないでよ小林! あたしだって、杉山もいいやつだとは思ってるよ? 主将としての姿も知ってるし、一年の時はクラスも一緒だったしさ? ・・・・・・でもねー、あたしは、優太以外は考えられないな。二人で、約束もちゃんとしてるしさー・・・・・・」

「はぁー。早乙女ぇーっ。・・・・・・あーっ。・・・・・・なぁんだよ、もーっ!」


 小紅は小林へ、ふっと微笑む。小林も、「だめだこりゃ」と呆れて笑う。


「杉山のおかげで、優太のあんな真剣な姿、見たの初めてかもしれないよー。ふふっ!」

「あーぁ。杉山、かわいそーに。返事聞かねーまま、フラれてやんのー・・・・・・」

「ごめんよー。・・・・・・あたしが返事する前に、優太が割りこんじゃったからさー? ねぇ、あの二人、あたしとのクリスマスイブを賭けて、どういう勝負する気だろうね?」


 小紅は、親知らずを抜いた左頬を押さえながら、にんまりと笑った。

 

「ひでーなー。・・・・・・杉山に、無理ですって言ってやれよー。かわいそーじゃんか!」

「あたしは、優太があんなに真剣に、あたしのこと想って杉山と話してるのが嬉しいの! それに、男と男の間に、女のあたしがどーこー言う筋合いは、ないでしょ?」

「そうだけどよ。・・・・・・まったく。掴みどころのない女だなー、お前はさー・・・・・・」

「ふふふっ! それとさー、杉山はまだ、別方面からの気持ちに気付いてないんだよねー」

「え? な、なんだそれ? 別方面からのって・・・・・・杉山を好きな子が、他にいんの?」

「あたしからは、言えなーい。まぁ、後輩・・・・・・とだけ言っとくー」

「はぁー? なんだよそれ。おい、早乙女! 教えろって!」

「やーだよ! 自力で気づきなって! あははは!」


 小紅から何とか聞きだそうとする小林。そんなことは気にも留めず、優太と杉山はいまだ討論を続けていた。



     * * * * *



「・・・・・・で? なんでそーなんのよ! 優太ー、熱くなりすぎたね? はぁーっ・・・・・・」


 翌日、小紅は朝から呆れている。歩きながら、溜め息をついていた。


「な、なんか、成り行きで・・・・・・」

「バカじゃないの、優太! よりによって、激論して決めた勝負内容が、相撲ーっ?」

「い、いや・・・・・・。杉山くんが、空手の勝負とかじゃ不公平だからって・・・・・・」

「当たり前じゃん! でも、相撲だって格闘技でしょ? ・・・・・・優太ーっ・・・・・・」


   たたたたたたっ  すたすたすたすた


「おはよーございまぁす! 小紅センパイ! 優太センパイ! 相変わらず、ラブラブね! このこのーっ!」


 水穂が小紅に後ろから飛びついてきた。そして、肘で優太の脇腹をつつく。


「おはようございます。小紅サン、優太サン。・・・・・・どうしたんですか、朝から?」


 登校途中で、後ろから澪も合流。

 小紅は溜め息をついて、一部始終を話した。


「「 は、はぁーっ? 」」

「ね? あり得ないよー。あたしがやるなら別にいいけど、優太じゃ確実に不利じゃん!」

「ご、ごめん小紅ちゃん。でも、ぼくが杉山くんに勝てばいいだけなんだからさ?」


 優太は、苦笑いしながら、拳をぐっと握っている。


「ねぇ、澪。・・・・・・そういうことだから・・・・・・さ?」


 小紅は呆れた顔をして、澪へ視線を投げかけた。


「優太サン! ・・・・・・それは、何が何でも勝つべきです! だって、負けたら小紅サンを奪われますよ? もしかすると、二度と取り返せないかも。いいんですかっ!」


 ものすごい剣幕で、澪は優太に詰め寄った。


「み、澪ちゃん、怖いよ! だ、だいじ! ぼくは杉山くんに勝って、小紅ちゃんとのクリスマスイブ、文句なく勝ち取るから!」

「よろしい! 優太サン、負けは許されません! 勝って、杉山サンにも諦めをつけさせてあげなきゃ、ダメです! 勝ってください!」

「わ、わかった! ・・・・・・い、いつになく気合い入れてくれたね、澪ちゃん?」


 そんな澪の様子を、小紅はくすっと笑い、さりげなく横目でちらりと見ていた。


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