~ファイル64 五行節筆頭! パーコー!~
「老人・・・・・・。巻き添えを食っても、いいアルか? ワタシは、老人でも、容赦せんヨ?」
「それだけのものを持ちながら、なぜ悪事に手を染めるんじゃ! ・・・・・・わしも、孫や弟子を持つ身だからわかるが、自分が手塩にかけて育てた弟子の娘を、手にかけようとは! お前のこれまでの人生や、武の技が泣くぞ! ろくでねぇことしおって!」
炎を燃やしているかのような目で睨み合う、源五郎とパーコー。
源五郎は語気を強め、コートのポケットに両手を突っ込んだまま、パーコーを睨みつけていた。
「デスアダー、イヤ、ブスジマさまへの加担は、仕方ないことネ! 生きるため! 金のためヨ! アナタが詳しく知る必要、ナイネ! ワタシはワタシの生き方を貫いて、こうしているまで! 金がなきゃ生きられヌ、貧しき者の、宿命ネ!」
「でれすけ(大馬鹿者)めが! わしとて、デスアダーという連中は、息子夫婦の仇だべ。だが、空手に先手無し。護身のみでしか使うべきではない技ゆえ、孫にも弟子にもそう伝えてきた。 じゃが、あんな話を聞かされ、このような状況に孫たちを引き込んだからには、わしとて黙ってるわけにはいかん!」
びゅううぅぅっ! がさがさ がさがさ びゅううぅー・・・・・・
「じ、じーちゃん・・・・・・。酔って言ってるんじゃないよな? 本気ぃ?」
「小紅! 相手から目を離すな! 朝霧さんも、気を抜くな? やつは、狙ってるぞぃ!」
「はいっ! ・・・・・・このラーメン屋の人・・・・・・華蓮の構えによく似てる!」
「本当に、華蓮の親に武術を教えたっていうの? ・・・・・・気迫が、すごい・・・・・・」
虎のような威圧感で、パーコーは三人にプレッシャーを与えている。
源五郎も、負けじと、一気に拳をポケットから出してぎゅっと握り、気合いを発した。
「かああぁーっ!」
その声で、華蓮ははっと我に返り、目をぱちぱちとさせる。そして、立ち上がった。
「(こんなじーちゃん、初めて見る! あたしも、気合いを入れなきゃ!)」
「たああぁーーーーーーっ!」
小紅も気合い一閃。それを見て、苺も、掌を開いて自然立ちで構えた。
「・・・・・・悪く思うコト、無しヨ! さぁ、始めマショウ! ヒョホホホホッ!」
・・・・・・ドシュンッ!
パーコーは三節棍を頭上で振り回し、一瞬で間合いを詰めて踏み込んできた。
だが標的は、小紅でも苺でも源五郎でもなく、華蓮だった。
「あたし狙いじゃなかったの!? 華蓮ーっ! 避けて!」
「ヒャアアァーーーーーーチョォッ! ホゥアチャーッ!」
ビュンババババッ ヒュルンヒュルンッ ・・・・・・バキャアアッ! どしゃっ
「「 華蓮ーーっ! 」」
小紅と苺の声が虚しく響く。
怪鳥音を轟かせ、パーコーは棒で華蓮の頭を横薙ぎに強く打ち払った。
だが、反応はしたが防御は間に合わず、華蓮は大きく横に吹き飛ばされてしまった。
* * * * *
ひゅおおおぉぉー・・・・・・ ひゅうおおおぉぉー・・・・・・
雪を乗せて吹き荒ぶ、冷たい風。パーコーは三節棍を激しく回し、さらに追撃を仕掛ける。
「ヒョホホホォ! さぁ、覚悟するネ! 痛みなく倒してあげるアル!」
「本気で華蓮を容赦なく叩きやがった! 信じらんない!」
パーコーは、小紅の前に姿勢を低くして踏み込んだ。その斜め後ろからは、苺と源五郎が迎え撃って踏み込む。華蓮は吹っ飛ばされたまま、起き上がってこない。
「ヒャアアァーーチョォ! ホワァチャアァーーッ!」
「はっ、速いっ! でも、棒の動きは、華蓮があたしにみせてくれたからね!」
小紅はパーコーが振る三節棍に対し、正面からカウンターで足刀蹴りを放つ。
「ヒョホホ! いい反応アル! だが、甘いヨ!」
カシン カシン カシン! ギュルウンッ!
「え!」
手首を緩めて、パーコーが三節棍を引くようにすると、それは三つに分解。
そして、それをそのまま振り回し、蹴り足に巻きつくような動きで、節の一つが小紅の顔面を捉えた。
バカアアァァンッ!
「うあっ!」
それは回し蹴りのような威力で、小紅の横っ面に三節棍が鞭のように入った。
左頬を押さえながら、小紅はなんとか受け身を取り、ごろんと転がってから立ちあがった。
「い・・・・・・いったぁーっ! 奥歯が、グラグラする・・・・・・。痛っ!」
「小紅っ! ・・・・・・おのれぃ、ラーメン屋! よくも!」
源五郎がパーコーの背後に回り、その右から苺が飛びこむ。
パーコーは、三節棍の真ん中を握り、垂らした両端の節を、風切り音を立てて振り始めた。
ビュウンビュンビュウンッ ビュンババババババババババァッ
「ヒャアァーーイッ! ホワァーーーチャアァーッ!」
「ぬうぅ! ち、近寄れん! 何か、防ぐものは・・・・・・」
源五郎が公園の物置をちらりと見る。
その横には、ゴミ箱の蓋や木箱、竹ぼうき、水撒き用のゴムホースが乱雑に置いてある。
「小紅のおじいちゃん! ウチ、あいつの棒を捕まえるから!」
「待てぃ、朝霧さん! 無茶じゃ!」
苺は、横に回り込みながら、三節棍の動きが緩くなった瞬間を見切って一気に飛び込んでいった。
腕を十字に交差させ、防御重視の構えで突進。
「朝霧苺! いい根性アル! だが、何か、勘違いしてるアルね!」
・・・・・・シュバアッ ドッガアアァッ!
「きゃあっ!」
・・・・・・ドンガラガッシャァンッ!
パーコーは三節棍を囮にして苺を招き入れると、真横を向き、肘を突き出してそのまま苺に体当たり。苺は間一髪で直撃を免れたが、腕のガードごと、吹っ飛ばされた。
一瞬で、苺はゴミ箱が並んだ壁際まで転がっていった。
「・・・・・・裡門頂肘・・・・・・。朝霧苺、ワタシの肘、よく受け止めたネ!」
「くっ・・・・・・。中国拳法か! 武器術と徒手空拳を自在に使いこなしとる!」
源五郎はじりじりと間合いを取り、左拳をゆるりと開き、右拳は胸の前に置き、警戒して構える。
「じ、じーちゃん! 無理しちゃダメ! あたしもやるから!」
小紅が源五郎の横で、構えた。左目がやや、青く腫れあがっている。
「・・・・・・痛ぁっ! もしかしてたった一発で、あたしの左目、腫れちゃった?」
「この相手は、相当な腕前じゃ。・・・・・・お前がいつも、危なっかしいことから帰ってくると、服がよくよく(ぐしゃぐしゃ)なのがわかったわい・・・・・・。目は少し腫れとる。だが、心配ない感じじゃ」
「風と雪が氷嚢代わりになるから、ちょうどいいよ。・・・・・・でも、痛いわ、やっぱり!」
「(周囲にはサクラの木。敵の奥には滑り台と砂場。わしらの右には物置。三方はブロックの壁、一部分は川か・・・・・・。人目につかない、死角的な公園じゃわぃ・・・・・・)」
源五郎は、自分たちが置かれている場の様子を、静かに観察している。
カシン! カシン! カシン!
再び、三節棍は一本の棒に戻った。パーコーは呼吸を整え、その棒を構える。
苺が頭を押さえながら戻ってきた。華蓮はその横でゆっくりと身体を起こし、よろりと立ちあがった。
「いたたぁ・・・・・・。さっきの技、華蓮と同じやつだったぁ・・・・・・。びっくりしたぁ!」
「だいじ、苺? やはり、そういうことなんだね。・・・・・・華蓮の母親の、師匠なのか!」
「小紅! 朝霧さん! 始まってしまったからには、もう後戻りはできん! やるしかねぇが、無理はいかん。お互いを護り合いながら、ラーメン屋を捕り押さえるんじゃ!」
「(イカ覆面、タコ覆面、変態マッチョ、ヨーヨー野郎・・・・・・。何が何だかよくわかんないやつばかりだったけど・・・・・・今回のパーコー麺は、実力が段違いだ!)」
小紅は腫れた左目を押さえ、じっとパーコーを見据える。
・・・・・・ざっ ざっ・・・・・・
「うっ・・・・・・。いたた。・・・・・・小紅チャン・・・・・・。苺チャン・・・・・・」
「「 華蓮っ! 」」
額から血を垂らし、華蓮が小紅たちの前に歩み出た。
「華蓮、血が出てるよ! さっき、棒で打たれたとこだぁ! 早く、拭くといいよ」
苺が華蓮に、ポケットティッシュを手渡した。それで額を拭って、華蓮はパーコーを睨む。
「三島華蓮・・・・・・。また立ちあがってくるとは。ハナコの娘だけあるネ!」
華蓮は拳をぐっと握り、パーコーへさらに強い視線をぶつけて、向かい合った。
「わたくしの母の名を、呼ぶなぁッ! あなたはもう、わたくしの母の師でも何でもない!」
「か、華蓮っ・・・・・・?」
小紅は、初めて見る華蓮の怒りの表情に困惑しっ放しだ。苺や源五郎も、戸惑った表情から抜けられない様子。
「フフン・・・・・・。なるほどネ。そういう選択カ! 顔はうり二つでも、性格は別物ネ!」
「いい人だと思っていたわたくしが、バカだった! 美味しいパーコー麺だったよ。でも、わたくしの中で一番は、やはり母の中華。・・・・・・母の無念は、わたくしが晴らす!」
パーコーは、指で細いひげをちょんとつまみ、鼻で笑った。
「薄葉華子の娘、三島華蓮・・・・・・。ワタシを相手に、よく言えるネ。アナタは本来二の次だけど、早乙女小紅より先に、葬ってあげるヨ! さぁ、来るヨロシ! ハナコの娘!」
「小紅チャン、苺チャン・・・・・・。わたくしの目の前にいるのは、母の師じゃない。母の仇である、デスアダーの五行節筆頭! ・・・・・・倒しましょう、みんなで!」
華蓮は、物置の横にあった竹ぼうきを握る。その穂先を外し、竹製の柄のみをすらりと抜いた。そしてその竹棒を両手でぐっと握り、腰を落として構える。
奇しくも、パーコーと華蓮は鏡映しのような相構えで向かい合っている。ほぼ同じフォームで構えて二人は睨み合う。
「(なんと! この子も、これほどの技量とは・・・・・・。こりゃ、なかなかじゃわ!)」
源五郎も、華蓮の構えと雰囲気を見て、感心している。
「・・・・・・早乙女小紅。朝霧苺。・・・・・・どうやらワタシ、ブスジマさまから頂いた情報、はき違えてたみたいアル! 三島華蓮こそワタシの中で、真っ先に潰すべき相手だったネ」
「何でもいいわ。さぁ、覚悟して! わたくしが、母の無念を晴らす! みんな、援護をお願いっ!」
「わかった! 苺っ、あたしは右に行くから、左へ! じーちゃんも、無理の無い範囲で隙を見て攻撃を仕掛けて! あいつを、一気に叩くよ!」
「了解っ! デスアダーの五行節、そのナンバーワンかぁ! 絶対倒さなきゃ!」
「みんな、無理は禁物じゃ! 相手はまだ、実力の全貌を見せておらんぞぃ。地の利を生かして、戦法にこだわることなく身を守るんじゃ!」
パーコーは再び、三節棍を振り回す。そして華蓮も同時に、竹棒を振り始めた。
ヒュンバババッ ヒュンヒュンヒュンヒュン ヒュラアッ
「ホォアタァーーーーッ!」
「ハアァイィーーーッ!」
バチュンッ パパァンッ パァンパァンパパパァンッ! カチィンッ!
ガアンッ! カツゥンッ! カァンカァンカァンカァンッ! バシィンッ!
一進一退の攻防。高速回転するパーコーの棒術に対応し、先端と末端を交互に入れ替えながら華蓮も攻める。防ぎ、また攻め、防ぎ、回転して受け捌き、また攻める。
「(尋常じゃない打撃の重さね! わたくしの技と、質がまるで違うっ・・・・・・)」
「ヒョホホホ! なかなかやるネ? ワタシが教えた動き、そのものヨ!」
「あなたに教わった覚えはない! わたくしの技は、母に教わったんだ!」
カシン! カシン! カシン! キュルゥンッ! パパァンッ!
棒状だった三節棍が分離し、華蓮の竹棒に巻きついた。
そのままパーコーは三節棍を上に振り上げ、竹棒を大きく撥ね飛ばしてしまった。
「てええぇあぁーーーーっ!」
「はいやぁーーーっ!」
「ええいぃぃーーーーーーあっ!」
三方向から、小紅、苺、源五郎が同時に仕掛けた。中段回し蹴り、手刀の当て身、中段前蹴りがパーコーへ放たれる。
「ヒョオホホホ! 空手に、ジュウジュツの打撃ネ? ワタシ、防ぐのは朝飯前ヨ!」
小紅は、回し蹴りを手で掬い上げられ、そのまま背中から地面に叩き落とされた。
苺は、当て身をそのまま体当たりで防がれ、強烈な縦拳の突きを入れられてしまった。
源五郎は、足底でぴたりと前蹴りを受け止められ、逆に腹を蹴り返されてしまった。
「な、なんてやつだべ! わしの蹴りに・・・・・・足を吸いつけおった! 驚きじゃわ!」
「ヒョホホ! 斧刃脚ネ! 老人・・・・・・。ワタシに、半端な蹴り、通じないアルよ?」
「(あのじーちゃんの蹴りを、足の裏で軽く受け止めるなんて・・・・・・。なんて技術だ!)」
小紅は源五郎の腰をさすりながら、隠れている優太も気にかけ、あずまやに目を向けた。
「デ、デスアダーとは、こんな武術家をも揃えておるのか・・・・・・。反応が遅れたわぃ」
「こ、このやろぉーっ! よくも、じーちゃんを!」
源五郎はよろよろと立ち、サクラの木に片手をついた。
「わ、わしも歳だんべか・・・・・・。スタミナの差だけは、埋められんのー・・・・・・」
「じーちゃん、ちょっと休んでて! あとは、あたしたちで!」
小紅は、ゴミ箱の蓋を持ち、パーコーの前に躍り出た。華蓮も苺も、一斉に構える。
「華蓮。あの三節棍って、棒になったり分離したり本当に厄介だけど、弱点ってないの?」
「あれは特殊なタイプみたい。本来の三節棍に、あんな機能はないの。・・・・・・一発の威力はそこまでではないのが救いね・・・・・・。あれの弱点って、いったい・・・・・・」
「小紅。華蓮。どう攻めよう? あの棒を封じても、拳法がまた厄介だよぉー」
その時、パーコーは片手を袖に突っ込んだ。その手を袖から出すと、小さなダーツのような刃物が姿を見せ、その先端がきらりと光った。
「「「 あれは! 」」」
三人は、一瞬で危険なものと判断。同じ五行節のジッテが使ったものを彷彿とさせる、小型の刃物だ。
「ホォワァチャアァーーーッ」
シュバアッ! シュカカンッ シュカカカァンッ シュカカァンッ
パーコーが投げた刃物を避ける三人。それはそのまま飛んでいき、あずまやに刺さった。
「(と、飛び道具まで! 間合いを遠間にしても危険なのか! どうしよう!)」
武器、飛び道具、拳法。死角の見当たらないパーコー。攻略の突破口はあるのだろうか。




