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出動!悪行清掃人!   作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
#2 スーパー女子高生、あらわる!
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~ファイル5 きれいなまちづくり同好会~ 

「「「「「 またねー。ばいばーい! 」」」」」

「「「「「 おーい。帰り、コンビニ寄ってこうぜー? 」」」」」


 いつもと変わらぬ、放課後の風景。

 部活の時間も終わり、今日も生徒たちはそれぞれの帰路につく。

 少し陽も延びたのか、まだ、夕暮れでも明るい。


「あ! 小紅ちゃんー。いま部活終わったの? 一緒に帰らない?」


 小紅の幼馴染みである常盤(ときわ)(ゆう)()が、クリーム色のバッグを持ち、正門前で待っていた。


「あら。優太が一緒に帰ろうなんて、珍しいね? いいよ。帰ろ?」

「ふふふふー。小紅センパイ、じゃっ、私とミオは、別ルートで帰るからねぇ!」

「おほん。・・・・・・小紅サン、どーぞごゆっくり。水穂、焼きそばでも買って帰るかー」


 口元に手を当て、変な笑い方で小紅を茶化す水穂。咳払いをして、なぜか照れている澪。


「なによ、あんたら? 変なのー。別に余計な気遣いなく、一緒に帰ればいーじゃないか」

「まぁまぁ、小紅ちゃん。・・・・・・水穂ちゃんや澪ちゃんたちも、一緒に帰ろうよ?」

「いえいえー。優太センパイと小紅センパイの、お邪魔虫だしー。じゃ、さよならー」

「優太サン、小紅サン。それじゃ、わたしも水穂とあっち行きますんで。さようなら」

「なんだよー。・・・・・・ま、いいか。優太、帰ろっか!」


 水穂と澪は、正門から左へ。小紅と優太は、右へ。それぞれ別れて歩いていった。


   すたすた すたすた・・・・・・  てくてく てくてく・・・・・・


 同じ歩調で帰る二人。

 制服のリボンをやや緩めにつけ、短くスカートを折った小紅は、きちんとした制服の着方とは言えないかもしれない。

 対して、優太は学生服の第一ボタンと襟ホックまで律儀に留めている。

 背は、小紅より優太の方がほんの少しだけ、低いようだ。


「小紅ちゃん。新聞に記事、載ってたね。・・・・・・危険なやつだったみたいだけど、大丈夫だったの? ぼく、今朝、親から言われて記事読んで、びっくりしたよ!」

「あたしはだいじだけどさ。あんなに派手な記事を書かれるとは思ってなかったし。まぁ、相手が、ちょっと前科のあるやつだったみたいで。今度、また、警察署が感謝状くれんのよねー」

「すごいなぁ。ほんと、すごいよ、小紅ちゃんは。自慢の幼馴染みだよ。あーあ、ぼくも、もっと強くなりたかったなー・・・・・・」

「何言ってんだ! 優太は、強いよ。強さはね、心と技と体の三種類。優太はさー、心が強いの。だって、不良にも、決して屈しないでしょ? やられちゃうけどさー」


 ケラケラと笑って、優太の胸元へ拳を軽く当てる小紅。

 優太は、複雑そうな表情をしたが、その後すぐ、口元を緩めて、にこっと頬笑んだ。


「・・・・・・ありがとう。そう言われると、嬉しいや」

「だから、あんまり気にすんなって! 優太は優太。あたしはあたし。それぞれの強さがあってこその、持ち味なんだよー」

「・・・・・・そうだね! でもぼくも、いつまでも小紅ちゃんに助けてもらってちゃ、悪いよ」

「それも、別にいーから。まぁ、優太も何だかんだで男だし? 一応女のあたしにいつも救われてちゃ、男のプライドが傷つくのかなー?」

「ま、まぁね。・・・・・・ぼくも、体育で柔道とか剣道やってる時、小紅ちゃんみたいな力があればなーって、いつも思うもの・・・・・・」


 夕暮れのグラデーションに染まった空を見上げ、優太は小紅に話を続ける。


「・・・・・・それで、一度だけ、ぼくも本屋で護身術の本を買って、何とか強くなろうと試みたこともあるよー? 小紅ちゃんの空手とは、違う方向で、強くなろうとしてねー」

「え? 優太が、そんなことを! へー。意外ーっ。・・・・・・じゃ、相手がこうしてきたら、さぁー、どうする! ほれ、優太っ! 対処してみなよー」


 小紅は白い歯を輝かせ、優太の後ろへ回り込み、両腕を掴んで笑っている。


「え? ええ? ちょっと、小紅ちゃん! 困るよ! えーと、えーと・・・・・・」

「ほれほれ! さぁ、早乙女小紅があらわれた! 優太はどうする? やられちゃうぞー?」


   ぐいぐいっ  ぎゅうー


「いてててて。小紅ちゃん! ぼく、そこまで護身術は習熟してないってば! いててー」

「あはははは! もぉー。優太! ・・・・・・今度あたしが、いくつか教えてあげるからっ」


 じゃれ合いながら帰る二人。

 小紅のその姿は、とても昨夜の気迫漲る姿とは、同じ人物であると思えないほど。


   ぽてり  ぽてり  ぽてり  ぽてり・・・・・・


「「 ん? 」」


 その時、私鉄の新柏沼駅方面から早足で近づく、革靴の足音が。


「ねぇ。聞こえたよっ! 今さっき、早乙女小紅、って言ってたよねー? 見ぃつけたっ!」

「(誰? この子? 優太の知り合い?)」

「(いや、知らない。小紅ちゃんに用があるみたいだけど?)」


 小紅と優太より、さらに小柄な背丈でショートカットの髪型をした女の子。

 白いブラウスに、深緑色のチェック柄の夏ベストとスカート。そして、深紅のリボンが目立つ制服の子だ。

 黒い革靴に、紺色のソックス。そして、緑色のリュックを背負い、ニコニコ笑っている。


「その制服・・・・・・。ごめん、誰だかわかんないけど、あなた、県立美布高校(けんりつみぶこうこう)の生徒だね?」

「お! きみ、ウチの高校、わかるのぉ? さっすがねぇ! スーパー女子高生さん!」


   ぴくり・・・・・・


 その子の言葉に、小紅は表情を一瞬変えた。


「その言い回し・・・・・・。栃葉新聞の記事を、読んだの? ・・・・・・ねぇ、あんた、誰?」

「あ! ウチは、美布高校三年の朝霧苺! あーさーぎーりーいーちーご、だよっ!」

「ますます誰だかわかんないや。『朝採れイチゴ』みたいな名前ねー。美味しそうだこと」

「ふふふっ! かわいーでしょぉ? 苺って名前、ウチ、気に入ってるんだー」

「で? 美布高校のアサギリイチゴさんが、あたしに何の用? 新聞見て、ただ話をしに来たって感じじゃないね? そのリュック、教科書以外にも、布系の何か入ってる?」

「ふふふ! 察しが良いなぁ! さっすが、スーパー女子高生のサオトメコベニさんだ!」

「・・・・・・あんたの、その姿勢と立ち振る舞い。・・・・・・ただの女子高生ってワケじゃなさそうねー」


 小紅と苺の様子は、一見すると、普通の女子高生同士が話している雰囲気。

 だが、その間にいる優太は、鋭く尖った別な雰囲気が漂っているのを感じていた。



     * * * * *



「(な、なんだ? 小紅ちゃんとこの子、雰囲気が、ピリピリというかー・・・・・・)」


 細眉をぴくりと上げて苺を見下ろす小紅と、キラキラした瞳で小紅を見上げる苺。


「へーっ! そこまで一瞬で見抜くー? すごぉい! ますます興味湧いてきたなぁ!」

「やっぱりね・・・・・・。で? あんた、どっから来たのよ? 美布町のほう?」

「そぉ! わざわざ、下栃木駅から折り返してこっち来たんだから! 柏沼高校へ寄らずとも、こんな早く見つかって、良かったぁ! 気合い入っちゃうーっ!」

「ふーん。・・・・・・澄んだ瞳をしてんのね、あんた。ろくでなしではなさそうねー」

「ふふふっ! きみと同じよ! ウチは、ろくでなしが大嫌い! ちょっといろいろあってねっ? ろくでなしを地域から一掃する、『きれいなまちづくり同好会』を率いてるの」


 苺は、ウインクしてくるりとその場で回り、可愛らしいポーズを決めた。


「・・・・・・あたしと、似たようなことをしてるってことなのか? 美布の朝霧苺、ねぇ」

「・・・・・・小紅ちゃん、ぼく、どうすればいいかな?」

「え? あ! ご、ごめん優太! もう話済ませるから、ごめんっ!」


 優太は、小紅と苺のやりとりの間、近くに生えていたアサガオの花をつついていた。


「えー? スーパー女子高生の早乙女小紅、彼氏持ちなのぉー? うっらやましぃーっ!」

「まだ彼氏じゃない! 幼馴染みなのっ! もー。あんたがいきなり現れたから、優太と帰る足が止まっちゃってたじゃないかー。さ、もういいよね? 帰ろう、優太っ!」


 小紅は苺に背を向け、優太の手を引いて足を進めた。


「ふふっ! ねー、早乙女さん? きみの家、糸恩流空手の道場だってね? ウチ、きみの腕が、本当にあの記事どおりか、体験したいんだけどなーっ? 強いんでしょぉ?」

「! ・・・・・・やっぱり、そうか・・・・・・。そういう狙いだったかー・・・・・・」


 咄嗟に振り返る小紅。その視線の先には、屈託無く笑っている苺がいる。


「ねー? きみんち、ちょっとお邪魔しても、だいじかなぁーっ? 早乙女小紅さん!」

「・・・・・・いいよ。・・・・・・今日は道場も稽古日じゃないし。・・・・・・じゃ、ついてきなよ!」

「やったぁーっ! わーい! ウチ、すごくワクワクしてきたぞーっ! いえーい!」

「(なんだ、この子? 美布からわざわざ、あたしとの腕試しに? 得体が知れないけど、あたしも、この朝霧苺って子が何の技法を身に付けてるのか、少し興味が湧いてる)」


 苺の目的は、小紅との腕試しのようだ。

 優太と並んで帰る小紅の後ろから、リュックを背負って笑顔でついていく苺。それはまるで、純粋な目を輝かせながら遠足で歩く子供のよう。


「ただいまー。じーちゃん? おーい、じーちゃん! ・・・・・・また、飲みかー」

「おじいちゃん、また行きつけの『さやま』じゃない? だとすると、戻りは夜だよね」

「おっじゃましまーす! わー。昔ながらの家って感じ! 渋いねー。ここが、スーパー女子高生の家かー。うーん、昔ながらの家の匂いだー。おばあちゃんちみたいー」

「その、スーパーって呼び方、やだよ。普通に、小紅って呼んでいいから。あたしも、あんたのこと、苺って呼ばせてもらうけど、いい?」

「はいはい! オッケー。小紅ね! ウチも、気軽に苺って呼んでいーよっ!」


 小紅は、優太と苺を連れて帰宅。源五郎はまた、飲みに行っているらしい。

 いつものように、茶の間にバッグを放り投げる。そして、道着を部屋から持ってきた。


「時間がそんなに無いだろうから、とりあえず、道場案内するよ。来て?」

「ふふふー。楽しみだ! ウチ、ワクワクドキドキが止まらないや!」

「こ、小紅ちゃん。だいじなの? おじいちゃんの不在中にー・・・・・・」


 心配する優太も一緒に、小紅は二人を早風館道場へ案内した。


「上がってて。・・・・・・あたし、着替えてくるから。苺は? 何かに着替えるんでしょ?」

「ウチも、着替えるよ。あの奥、借りていい?」

「どーぞ。何に着替えるか知らないけど、奥の空き部屋を好きに使って。じゃ、また」


 小紅は道場を出て、自分の部屋に行き空手着へと着替える。苺は道場の奥にある部屋へ、着替えをしに入っていった。

 それから数分後、純白の道着を身に纏い、漆黒の帯を締めた小紅が道場に戻ってきた。


   からり・・・・・・  ぴしゃ


 道場奥の部屋から、苺も着替えて姿を現した。制服から着替えたその姿は、別人のよう。


「え! 朝霧さん。その服装って? な、なんだぁ?」

「! 紺色の道着に黒袴? 朝霧苺。あんた、いったい・・・・・・。剣道ではないよね!?」


 優太と小紅は、着替えた苺の姿に、驚いている。


「やっぱり、道着はいいものねーっ! そっちの空手着もかっこいいじゃん、小紅っ!」

「(あたしのより、分厚い道着。そして、黒袴。・・・・・・朝霧苺、何をやっている子だ?)」


 道場の中央にて、二メートルほどの間合いをもって向かい合って立つ二人。


「よろしくお願いします! いきなり押しかけてごめんねっ、早乙女小紅っ!」

「(! この子、一気に気迫が変わった!? 目つきも違う!)」


 小紅のこめかみに、薄く一滴の汗が光る。

 

「さぁて、では、改めて! ()()藩大円流合(はんだいえんりゅうあい)()柔術(じゅうじゅつ) 、この朝霧苺と手合わせ願いますっ!」

「(大円流って、まさか、古流柔術っ? ふふっ・・・・・・面白いじゃないか!)」


 小紅の黒目がきゅうっと小さく引き締まり、うなじの髪がふわりと揺れる。


「いい度胸だね、苺! あたしは糸恩流空手道 早乙女小紅! 受けて立つからっ!」


 なんと苺は、大円流という古流柔術使いだった。

 その正体に驚きながらも小紅は、苺と目を合わせたまま、口元に笑みを浮かべていた。


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