~ファイル48 桜色に染まってゆくみかん~
・・・・・・ファンファンファンファン ファンファンファンファン
「被疑者確保にご協力、感謝いたしますっ!」
「いーえー? あたしらはもう、身を守るのに必死でー。ケガは大したことないんで、あと、よろしくお願いします」
ブライアンは、意識を失ったまま、器物破損と公然わいせつ、そして傷害と殺人未遂の容疑で緊急逮捕された。
投げ飛ばされて意識を失っていた不良は、首と腰の骨が折れる重体で、救急隊が緊急搬送していった。
小紅とみかんは、その場で警官や刑事たちに状況を説明。
残り二人の不良も、ブライアンが小紅たちを襲っていたと証言。その後、なぜか小紅とみかんに何度もぺこぺこと頭を下げ、不良たちは一目散に帰ってしまった。
「あーあ。せっかくの土曜なのに、服も汚れるし、痛いし、なんなんだよー・・・・・・」
「こういうこともあるとはな。・・・・・・早乙女、お前、本当に大丈夫か? これ以上は危ないんじゃないのか、あんなやつに狙われるなんて!」
「まぁ、だいじだよ。あたしはね。それよりも、みかんさぁ・・・・・・。携帯・・・・・・」
「ああ、あの男に壊されちゃったな。最悪だ! 電話がかかってくるかもしれないのに、また買
い直しじゃないか。今月分の支払いもまだなのに」
みかんは前髪をさらりと指で整え、不機嫌そうな顔で、壊れた携帯電話を見つめている。
「あたしのも、壊れてはいないけど、さっき警察にかけたら電池切れになっちゃったのよー」
「早乙女のが壊れなくてよかった。でも、電池がないんじゃ、誰かとすぐ連絡取るなら公衆電話でだな」
「あ! そうだ! 優太が塾の講義終わって、もう待ってるかもしんない!」
「え? あ、そうか! いつの間にかもう、そんな時間か?」
小紅は服についた汚れを払い、髪を結い直して、みかんと共に優太の元へと向かった。
紅色の髪留めは、陽の光を受けてきらりと赤く輝いていた。
* * * * *
「〔おかけになった電話は、電波の届かないところに・・・・・・〕」
「おかしいなぁ。小紅ちゃん、電源切ってるのかなぁ。・・・・・・安藤さんもいないし、電話繋がらないし、どーしちゃったんだろう?」
優太は、塾の前で携帯電話のアンテナを伸ばし、何度も小紅たちにかけ直していた。
「・・・・・・優太ーっ! ごっめぇん! はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」
「あ! 小紅ちゃん! どこ行ってたのかと・・・・・・って、あれっ?」
「こ、こんにちは、常盤くん。・・・・・・先週は、どうも・・・・・・」
「安藤さん! なんで小紅ちゃんと? しかも、なんで二人とも、そんなに汚れてるの?」
優太は、小紅とみかんが一緒にやってきて、さらに、なぜか身体のあちこちに傷をいくつもつけている姿に、わけがわからない感じだ。
「え! あ、これはねー・・・・・・。かくれんぼしてたのよ、二人でさ!」
「(バっ、バカか、早乙女! そんな適当なこと・・・・・・)」
みかんは「何言ってるんだ」という表情で小紅の脇腹を、肘でつついた。
小紅は「話合わせてよ」という表情で、みかんを指でつつき返す。
「あー・・・・・・うん。そうなんです。実は、この早乙女小紅とは、知り合いでー」
「そうだったんですか! 小紅ちゃんと安藤さんで、かくれんぼかぁ。楽しそうだなぁ!」
「そりゃぁね! だって、みかんとだもん! あたしも、つい夢中になって、いっぱい遊んで汗かいちゃったなー。あははっ!」
「(すごいな・・・・・・。常盤くん、それ、信じちゃうんだ・・・・・・。天然すぎるな)」
みかんは、優太と小紅のやり取りを見つめながら、くるっと後ろを向いた。
「あ! 安藤さん、これ! ありがとうございました! きれいに洗ったつもりですけど」
優太はみかんに、きれいに折りたたまれた山吹色のハンカチを手渡す。
丁寧に両手で受け渡される際にみかんは、一瞬だけ沈黙。その後すぐ、頬を真っ赤にし、小さな声で「こちらこそ」と呟いた。
「・・・・・・常盤くん!」
「え? なんでしょう?」
「私、これを機に・・・・・・その・・・・・・」
「? えーと?」
とても、インターハイ準優勝をした等星女子高の元主将とは思えないほど、もじもじ姿のみかん。優太を前に、まともに言葉が出てこない。
「・・・・・・あなたと・・・・・・」
「だーっ! ストップ! みかん、あんた、ハンカチ返されたなら、用は終わりでしょっ! ほらぁ、優太も、疲れてるんだしさー。はい、終わりね!」
小紅はみかんと優太の間に割って入り、両手で二人を引き離す。
「な、なんで水を差すんだ早乙女! 私は、常盤くんと、ちゃんと友達になりたくて!」
「だーめ! 優太は、あたしの大切な優太だもん! みかんに、やんないよ!」
「ふざけてるのか! 束縛すると嫌われるぞ早乙女! 私は、そんな横取りしないぞ!」
「もぉーっ! こーなったら、みかん! 優太に近づきたかったら、あたしを倒してみろ」
「なんだよそれ! 上等だ。覚悟しろ、早乙女小紅! 等星の空手を甘く見るなよ!」
ぽかんとして立っている優太の目の前で、笑ってドタバタと取っ組み合う女子二人。
「そういうことか! いいですよ、安藤さん! ぼくも、新しい友達として、よろしく!」
「え! 優太ー。もぉー、人がいいんだからぁ。・・・・・・みかん、そういうことだってさ?」
優太がにっこりとみかんに握手を求めた。
やや引きつった顔の小紅をよそに、みかんは照れくさそうに握手を返す。それを見て、小紅も表情を緩め、みかんと拳を軽く合わせてにっこりと笑った。少し、引きつってはいたが。
それから三人は、近くのクレープ店内でスイーツ食べ放題メニューを頼み、フリータイムを過ごした。
優太と対面で座ったみかんは頬を薄く赤らめ、それは桜色のようになっている。
三人は雑談を混ぜながら様々なジャンルの会話をしているが、その中で、優太は小紅とみかんに今日の塾の話を揚々と話したが、二人は「しばらく外国人は嫌」と、半泣きになっていた。
「え? なんで?」と首を傾げる優太を前に、小紅とみかんはクレープを頬張りながら「英語が嫌いになりそう」と呟いた。




