~ファイル47 技と力の大激突! 技術vs筋肉~
「・・・・・・ったくよぉー。あのクソ女、今日はいねーんか? 仕返ししてやるぁ!」
「またあの、弱ぇやつんとこじゃね? 今日は、見つけたら、やっちまおうぜ!」
「ひゃはは! 今日は、金属バット持ってきたから、いけるっしょ?」
先週、優太に絡んだ不良たちが、だらしない歩き方で周囲を威嚇し、路地を歩いている。
・・・・・・ドガッシャアアァンッ! ごろんごろん カララァンッ!
突然、不良たちの目の前に、公園から小紅とみかんが吹っ飛んできて、アルミ缶置き場へぶつかった。無数の空き缶が崩れ、軽い金属音をいくつもそれが響かせる。
「「「 な、何だぁ! 」」」
「・・・・・・くっそぉーっ! なかなか、あたしの携帯を取り返せない! このやろーっ!」
「早乙女! 私は右から攻める! いくぞ! ・・・・・・まだまだぁっ!」
・・・・・・ダシュッ! ダシュッ!
再び小紅とみかんは、何度吹っ飛ばされてもブライアンに立ち向かうべく、起き上がって公園へ飛び込んでいく。
呆気にとられる不良三人。目の前で、何が起こっているのか、全くわからない様子だ。
「な、なんだよ今の? この前の、クソ女じゃねーか? ・・・・・・なぁ?」
「あ、あぁ・・・・・・。そこの公園だぜ? なんだ? ケンカか? もう一人、女がいたな?」
不良たちは、おそるおそる公園をのぞき込んだ。
「HAHAHAHA! HAHAHAHA!」
「てぇあぁーーーーーーっ!」
「せぇやあぁーーーーーっ!」
そこには、筋骨隆々でパンツ一丁の外国人に対し、女子高生二人が傷を負いながら、高速の打撃を叩き込んで懸命に戦っている光景が。
「「「 な・・・・・・なぁんだぁぁ? わけわかんねぇよぉ! 」」」
理解しがたい状況に不良たちは、脳内の処理が追いつかないのか、固まってしまった。
「ン?」
ふと、ブライアンが、不良たちの方を振り向いた。
「Oh! No! ギャラリーダ! HAHAHAHA! カワイイベイビィダネ!」
頬を赤らめて両腕を広げ、ブライアンは不良たちに駆け寄っていった。そのあまりにも不気味な雰囲気で、不良二人は金縛りに遭ったかのように膠着。
「う、うおおぉ! なんだてめーっ! 来んな!」
残り一人の不良が、バットで思い切りブライアンに殴りかかった。足や首、脇腹などを全力で叩くが、まったくダメージを受けていない。
「HAHAHAHA! カワイイ、ベイビィ! イッツ、キュートッ! オレニハ、ソンナモノ、効カネーサ。バットハ、夜ノバットヲ、オレガ見セテヤロウ! オーケェイ?」
打撃を受け付けないブライアン。不良は、ブライアンに両手で抱きかかえられた。
「は、はなせよ! バケモンだぁ! くそやろーが! うわー、やべぇよこいつ!」
「HAHAHA! ・・・・・・ヨク見タラ、オマエ、オレノ好ミジャネーゼ! 失セナ!」
ブライアンは、不良を持ち上げ、ぎらりと小紅とみかんの方へ目を向けた。
「はっ! みかん! なんか・・・・・・やばい!」
「あ! ・・・・・・早乙女、まずいっ! 伏せろっ!」
「HAHAHAHA! FUFUFUFU! WURYAーーーーーッ!」
野獣の咆哮を轟かせ、二本の豪腕が、小紅たちへ向かって高速で不良を投げつけた。
投げ飛ばされた不良は、そのまま公園の金網と鉄柱に激突。うめき声を上げ、不良は意識を失った。
「お、おい! お前、大丈夫か! これはまずい! 救急車を呼ばないと!」
みかんは、昏倒した不良に向かって何度も声をかける。しかし、不良からの返事はない。
小紅は、そちらを意識しつつも、ブライアンからなかなか目を離せずにいる状況だ。
「ひ、人を物のように投げつけてくるなんて! な、なんてことをするやつだ!」
「ど、どうすりゃいいんだよ。あたしたちがこいつを倒すには・・・・・・。あ! これしかないか!」
「え! 早乙女、何か索があるのか!? ・・・・・・どうすればいい!」
「みかん。こいつの肉体じゃ、普通に突きや蹴りを入れても、効かない! 悔しいけど!」
「あ、あぁ。そのようだ。・・・・・・こんな相手、人生で初めてだ。恐ろしいな!」
すると、冷や汗を垂らすみかんの横で、小紅は口元をふっと緩めた。
「けどさ・・・・・・。筋肉以外の鍛えられない場所は、一般人と同じだと思わない?」
「え? まぁ、そうかも! 目とか、鼻とか、金的とか・・・・・・。要は、急所だろ?」
「うん。そう。・・・・・・あんまり、触りたくないんだけどさ・・・・・・。狙うしかないよね!」
「やっぱり、そこを・・・・・・か。ははは。触りたくはないな、確かに」
二人は腰を落とし、力を溜めこむように構えた。
小紅はどうやら、ブライアン打倒の攻略法を見出したようだ。
* * * * *
「えー、ここの読解については、関係代名詞に着目してー・・・・・・」
優太は一生懸命ノートを取り、英語の講義を受けている最中。英和辞典や英文法の参考書には、いくつも付箋やメモ書きが貼ってある。
「(いい講義だ! 申し込んで良かったー。・・・・・・小紅ちゃん、今ごろ、どこかのお店にでもいるのかな? 終わったら、帰りに、クレープでも買ってあげようかなー)」
「・・・・・・よし、ここの文をー・・・・・・。八番席の、常盤さん。訳してみて!」
「あ。はいっ! そこはー・・・・・・」
優太の他にも、真面目そうな高校生の男女がたくさん教室内にいる。みな、黒板に向かって真剣に講義を受けている。
主講師は日本人だが、補助員としてイギリス人の男性講師も教室内に二人いる。そのイギリス人の先生が見回りながら、生徒に細かいところを教えてくれるシステムのようだ。
「がんばるぞ! この講義、わかりやすいなぁ。小紅ちゃんに、優しい外国人の先生たちに教わったって、話してあげようかなー」
窓の外を眺めて、ふっと笑う優太。そしてまた、ノートに鉛筆を走らせていった。
* * * * *
・・・・・・ずしり ずしり ずしりっ
白い歯と青い目を輝かせ、大木のような褐色の男が近寄る。
「HAHAHA! 三千万円、イタダキダナ! サァ、モウ、終ワリニシヨウゼ!」
むんむんとした、男の匂いと熱気を漂わせ、腰や股間をくねらせるポーズのブライアン。
「(みかん!)」
「(! なんだ?)」
「(この足下じゃ不安定になるから、なるべく蹴りは使わない方がいいけど、あいつの動きが止まったら、一気に二人で蹴り込もう! まずは、あいつの頭を下げさせなきゃ!)」
「(確かに、この砂場や、滑りそうな落ち葉の上では、高く蹴るのは不利だな。了解っ!)」
「(あいつがあと一歩、前に出たら、その瞬間にあたしが潜り込むから! 援護して!)」
「(わかった! ・・・・・・早乙女、気をつけてな!)」
「(うん。・・・・・・さぁ、来い! 来い!)」
小紅とみかんは、後ろ足に重心を置き、バネにして力を溜め込んでいる。
瞬きもせず、ブライアンの動く瞬間を狙って、待ち構える小紅。
みかんも、ゆっくりと呼吸を整え、下腹部に意識を集中させ、腰を落とした。
・・・・・・ピチュチュチュ チュチュチュン パタタタタッ!
静寂の間を切るかのように、植え込みの中からスズメが数羽、一斉に飛び立った。
「FUHAHAHAHA! サァ、ラストダゼ!」
「来たぁ! 今だぁっ!」
丸太のように太い筋肉質の足が一歩踏み出される瞬間、小紅は野球のスライディングをするかのように、ブライアンの足首を掴んで潜り込んだ。
「ヌォ? ナンダァ! WHAT? HAHAHAHA! コザカシイゼ!」
「・・・・・・これでも・・・・・・そう言えるのかーっ?」
ドベシャッ! ベキィンッ!
小紅は、ブライアンの股間の真下から勢いを付けて立ち上がるのと同時に、急所である金的に縦回転の肘当てを思い切り打ち込んだ。そして、指先で相手の目をぴしっと打った。
「!!! ア、アオォォーォ! オマイガーァ! ヌオオオオ! アオオオオ!」
ブライアンはたまらず片手で股間を押さえ、もう片方の手は目を押さえ、無意識のうちに腰を屈めていた。
「よし! 今の一撃で、姿勢が前屈みに! ・・・・・・みかんーっ! いけーっ!」
「しゃあっ! せええぇやああぁぁーーーーーっ!」
キュンッ! ベシイイィィッ!
「てえぇああぁーーーーーーっ!」
ギュウンッ! ベキイイィィッ! ギュンッ! バキイイィッ!
前屈みになったことで頭の高さが下がったブライアンのこめかみに、みかんの上段回し蹴りがクリーンヒット。
そして続けざまに、小紅は前蹴りでブライアンの金的へ再び強烈な打撃を入れ、顎を真下から蹴り上げた。
「あたしとみかん、女の子二人へこんなことしやがって! ろくでなしの変態めーっ!」
ダダダダダァンッ! ドガアッ! ドガアッ!
小紅の両拳が、ブライアンの顎先や鼻先へ、七発、寸分違わぬ位置へ叩き込まれていった。
「ゴヘァ・・・・・・。バ、バカナ・・・・・・。任務・・・・・・ガッ・・・・・・」
とことん急所ばかりを攻めた、二人の攻撃。
さすがのブライアンもこのダメージには耐えることができず、泡を吹いてその場に失神して倒れ込んだ。
「はぁー・・・・・・はぁー・・・・・・。や、やったぁ! 見たか! あたしらの技を!」
「さ、早乙女・・・・・・。倒した・・・・・・よな? 怪力に、技術で勝てたのか!」
「うん、何とかね・・・・・・。みかんも、バッチリのタイミングで蹴ってくれて、ありがと!」
「いや、お前が、あの攻め方を思いつかなかったら、できなかったよ。すごいな!」
「もう、必死だったよ・・・・・・。あ、みかん。顔、拭こうか。あたしも、汚れちゃったしさ」
小紅はポケットティッシュで自分の口元や手を拭く。その後に、みかんの頬も傷や血の跡が目立たぬよう、拭いてあげた。
「・・・・・・私、まだまだ実戦に慣れてないな。早乙女みたいな判断は、すぐできない」
「そーんなの慣れなくていいって。みかんは普通に、きれいな空手の道を進めばいーんだよ」
「私だって・・・・・・。大切な人がピンチなら、お前みたく、守ってやりたいんだよ」
みかんは、小紅に対して微笑み、小さくピースサインを見せた。
それを見て小紅も、みかんの肩をぽんと叩き、落ちていた自分の携帯をやっと拾い上げたのだった。




