~ファイル46 大怪獣ブライアン~
ブビュウウンッ! ガシャアンッ! ドバシャアァンッ!
ぐわぁっ! ガシッ! ブビュウンッ! ドガシャアァンッ!
まるで大怪獣が暴れているかのように、公園では物が飛び交い粉々に砕け飛んでいる。
アルミ製の一斗缶、廃棄された自転車、ビールの一ダースケースなどなど、あらゆる物を投げつけてくるブライアン。彼の近くにある物は、全て投擲による凶器と化していた。
ジャングルジムを楯にし、小紅とみかんは、その暴雨風のような攻撃から身を守っている。
「HAHAHA! HAAAAA! HAHAHA! ドウシタァ? カクレンボカ!?」
太い声が、公園に響く。近隣の住宅や建物に反射し、ステレオサウンドのように聞こえる。
「な、なんなんだこいつは! 早乙女、どうすればいいんだ?」
「めちゃくちゃな攻撃だけど・・・・・・。これじゃ、あたしたち、どうにもできない!」
「じゃあ、どうする?」
「とりあえず、このまま防ぎつつ、警察呼んじゃおう!」
「そ、そうだな。それが一番手っ取り早いな!」
小紅とみかんは、ポケットから携帯電話を取りだした。
ブライアンはそれに気づくと、足下の砂をかき集め、思い切り二人に投げつけた。
「「 うああっ? 」」
ジャングルジムの隙間を抜け、砂粒と砂ぼこりが猛烈な勢いで二人の視界を遮り、動きを一瞬止めた。
・・・・・・ずしりっ ザシャッ!
「「 あっ! 」」
「FUHAHAHAHA! 携帯電話カイ? コザカシイマネ、スルンジャネーヨ!」
ブライアンは、その巨体に見合わぬ動きで素速く移動し、二人の眼前に立っていた。
・・・・・・バキャアッ! ドグアッ! メシャッ
「う、うああぁーっ!」
「うわーっ!」
みかんは、ブライアンの豪腕によって薙ぎ払われるように殴り飛ばされ、サザンカの植え込みの中へ吹っ飛ぶ。小紅も、もう片方の豪腕で力任せに殴られ、叩きつけられるように地面へと転がされた。
二人は瞬間的に両腕を重ね、その豪腕による打撃を和らげようとしたが、そのまま威力をあまり弱められずに弾き飛ばされてしまった。
「(し、しまった! あたしの携帯が・・・・・・)」
ベキャアッ!! グリグリグリ・・・・・・
「(なっ! け、携帯を壊されてしまった。まだ今月分払ってないのに!)」
小紅の携帯は遠くに放り出され、みかんの携帯はブライアンの足で粉々に踏み砕かれた。
「い、いたた・・・・・・。み、みかん? だいじーっ?」
「な、なんとか。痛ぅっ・・・・・・。な、なんて力だ!」
唇を切って口元に血を滲ませた、砂まみれの小紅。
みかんは、服に葉っぱや小枝をいくつもつけ、頬の傷からうっすら血を滲ませながら、植え込みの中から這い出てきた。
「それに・・・・・・わ、私の携帯が! な、なんてことを!」
「HAHAHAHA! オ嬢チャン、悪ク思ウナヨ? 関ワッタカラニハ、オマエモダ!」
ブライアンは、みかんに対して腰をくねくねとさせながら、奇妙な動きでポーズをとる。
常に、ボディビルの何らかのポーズを決めながら、豪快に笑っているのが不気味なくらいだ。
「早乙女・・・・・・。お前の携帯も、やられたのか?」
「いや・・・・・・。あいつの後ろの方に飛ばされたけど、だいじだと思う」
「そうか。どっちにせよ、あの男の後ろに行かない限り、助けも呼べないし逃げることもできないってわけか・・・・・・。道は、正面突破しかないか・・・・・・」
「みかん。・・・・・・相手は、物を投げつけてくるのは驚異だけど、あとは怪力だけ警戒すれば、動き自体は、余裕であたしたちが反応できるスピード。・・・・・・言いたいこと、わかる?」
小紅は、ブライアンから目を離さず、横にいるみかんにそっと小声で話す。
「なんとなく、な・・・・・・。物を投げるには、ある程度の間合いが必要。ならば、至近距離に持ち込む。そして集中力を高め、あの男に捕まるのを避けつつ攻撃を入れる、だろ?」
「さすがだね。わかってんじゃん! ・・・・・・よぉし! みかん! 集中しようっ!」
「しゃあっ! 早乙女、こうなった以上、やるしかないな!」
・・・・・・ざざっ! ・・・・・・ざしっ!
小紅とみかんは腰を落とし、両拳をブライアンに向け構えた。
奇しくも、左拳と左足を前にした小紅と鏡写しのように、みかんは右拳と右足を前にした構え。
二人で背中を合わせるようにし、四つの拳がブライアンへ砲塔のように向けられた。
* * * * *
公園に風が吹き込み、小紅とみかんの耳元をひゅるうっと抜けてゆく。
「HAHAHA! ヤット戦ウ気ニナッタヨウダガ、ソンナ貧相デ脆弱ナカラダデ、コノオレニ何ヲスルツモリダ? HAHAHAHA!」
「てえぇああぁーーーーーーっ!」
「せえぇやああぁーーーーーっ!」
一気に二人は、ブライアンの真っ正面から突っ込んだ。
余裕綽々で、何も構えずにポーズを決めているブライアン。
突っ込んでくる二人に対し、身構えもせずに笑っているのみ。
ヒュウンッ ドバババァンッ! バチバチバチインッ! ズババババァンッ!
ヒュウンッ ズパパパパパァンッ! バチインッ! ドガガガガッ!
阿吽の呼吸で、小紅とみかんは電光石火の正拳突きをブライアンの身体に打ち込んでいった。
小紅が三発突けば、みかんが四発。さらにみかんが五発突けば、小紅が六発。
地面の落ち葉や砂ぼこりを巻き上げながら、小紅とみかんは攻撃を続けながら前進。ブライアンの身体には、正面から二十発以上の拳が叩き込まれた。
「てえぇああぁーーーーーーいっ!」
「せやああぁぁーーーーーっ!」
ドスウッ! ドバババァンッ! バチインッ! バチバチインッ!
二人が打ち込む猛連撃で、ブライアンの身体が、次第にその場からじりじりと後ろに押されている。
胸元、みぞおち、脇腹など、一気に多数の打撃を受けるブライアン。
小紅とみかんは、三十発以上突き込んだところで、拳を引いて、横から回り込もうとした。
「(よし! 今なら、後ろに回り込める! あたしの携帯、拾わなきゃ!)」
「(こいつ、私たちのスピードに、まったく反応できてないじゃないか。よしっ!)」
小紅は左側、みかんは右側から回り込もうと、両翼に散った。
・・・・・・ブゥンッ! ドパアァーーーンッ! ドンガラガッシャン!
「うぐ・・・・・・っ! な、なん・・・・・・だって?」
「え!! みかんっ? みかぁーんっ!」
丸太のような腕がそのまま斜め下から振り回され、みかんの胴体に直撃。
ブライアンはそのまま腕を振り抜き、みかんを四メートルほど吹っ飛ばした。
みかんは凄まじい威力で飛ばされ、段ボールが積んであった場所に叩き込つけられた。
激しい音と共に崩れた段ボールの中からは、みかんはなかなか立ち上がってこない。
・・・・・・むんずっ! グイイイッ
「あ! や、やめろ! この変態め! やめろーっ!」
みかんに気を取られた小紅は、後ろからジーンズの腰元を掴まれ、片手で持ち上げられてしまった。
子猫が首を持たれた姿のようになった小紅。手足をバタバタさせ、抵抗する。
「FUHAHA! ・・・・・・ナンナンダァ、サッキノハ? 全然、効カネーナァ?」
・・・・・・ブウンッ バチインッ!
「うあっ! ・・・・・・い、いったぁ・・・・・・。この野郎! 何するのよっ!」
歯を光らせ、にかりと笑うブライアン。片手で持ち上げたまま、重い平手打ちを一発、小紅の頬に打ち込んだ。
「HAHAHAHA! HAHAHAHAーッ!」
大声で笑い、目をぎらりと光らせるブライアン。
次の瞬間、小紅の視界がぐにゃりと歪んだ。目の前が一瞬でマーブル模様になったかのよう。
「(なにこれ! え! ま、まずいっ・・・・・・)」
咄嗟に両腕で頭を抱えた小紅は、持ち上げられたまま、ブライアンにものすごい勢いで振り回される。そして二メートル先の砂場に向かって、力強く叩きつけられてしまった。
その衝撃は、まるで家の二階から落ちたかのような強さ。
「けほっ! うぷっ・・・・・・。あ、あたしを・・・・・・そのまま、片手で!」
強い衝撃を受けたが、なんとか小紅はよろよろと立ち上がる。
だが、軽い脳しんとうを起こし、視界が定まらない。小紅はぐにゃりと歪んだ視界の中で、ブライアンが一歩ずつ、目の前で近寄ってくるのが見えていた。
「HAHAHAHA! コンナモンカ? 所詮、ガキダナ! オレハ、女ガ大嫌イデナ! ホカノ男トチガッテ、マーッタク、容赦モ遠慮モ、シネーカラナ! HAHAHA!」
「はー・・・・・・はー・・・・・・。女が大嫌い? ・・・・・・何言ってんの?」
「オレハナ、相手ヲスルノハ男ガイイノダ! HAHAHAHA! サイコーダ! オレノヨウナヤツコソ、男ノナカノ男! オーケェイ! ヘェイ! ムウンッ!」
首を押さえてふらつく小紅の前で、ブライアンは両腕を上げ、股間を突き出すようなポーズをして、満面の笑みで声高らかに笑っている。
「何が男の中の男よ! お前みたいなやつは、男の風上にも置けない奴っていうんだよ! この変態め! はー・・・・・・はー・・・・・・。あたしは、負けないかんね!」
「・・・・・・生意気ナガキダ! オーケェイ! ナラバ、早乙女小紅。二度ト、逆ラエナイヨウニシテヤンゼ! オレノパワーデ、YOUヲ、ボロ雑巾ニシテヤル!」
「はー・・・・・・はー・・・・・・。あたしは、お前たちデスアダーなんかに、やられてたまるかっての!」
砂と埃にまみれながら、ブライアンに立ち向かう小紅。
みかんも、しばらくして段ボール置き場からよろりと起き上がり、ふらふらと小紅の横へ。
「ふぅ、ふぅ・・・・・・。さ、早乙女。お前、口元から血が・・・・・・」
「平気だよ、こんくらい! ・・・・・・みかんも、ダメージは、どう?」
「私は、腰と背中を強く打ったが、これくらいなら・・・・・・」
「HAHAHA! キメタ! 任務遂行モイイガ、オマエラ二人、消ス前ニ、地下ノSMクラブニデモ売リ飛バシチマオウ! オマエラノ身体ヲ、隅々マデカワイガッテクレル野郎ドモガ、キット、地下ノ店ニハ、タクサンイルゼ? HAHAHAHA!」
青い目をぎょろつかせ、下品に笑うブライアン。
小紅とみかんは、眉をひそめ、拳をぎゅうっと強く握り込んで相手を睨みつけていた。




