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出動!悪行清掃人!   作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
#11 残念だったね! 人違いだよ!
49/84

~ファイル49 お花屋さんになりました~ 

 ~~―――。

  

「・・・・・・ひっく、うく・・・・・・。ひっく・・・・・・。わあぁぁーっ・・・・・・」

「小紅ちゃん・・・・・・。まだ、学校、行けないかなぁ?」

「すまんのぉ、優太くん。毎日寄ってくれて・・・・・・。毎日、部屋で泣きっぱなしでな」

「いえ。ぼくも、心配で。一週間もこのままですし・・・・・・」

「小紅や。もう、部屋から出ておいで? 優太くんも、大変だんべよー?」

「ご両親が・・・・・・一気にですから。それは・・・・・・。わかります・・・・・・」

「ほんと、小紅がこんなに引きこもるとは・・・・・・。すまんが、頼むわい」

「わかりました。・・・・・・ちょっと、中に入って話してきても、いいですか?」


 ―――。


「・・・・・・優太・・・・・・。・・・・・・お父さんもお母さんも・・・・・・もう、いないの。苦しいよぉ」

「ぼくも小紅ちゃんの両親には、小さい頃からお世話になったし・・・・・・。本当に辛いよ」

「ぐすっ。・・・・・・わあぁーっ・・・・・・。辛い! 悲しい! あいつらめ! あいつらめ!」

「小紅ちゃん! ・・・・・・落ち着いて? 今は辛くてどうしようもないけど・・・・・・」

「あたし・・・・・・絶対にデスアダーを潰したい! じゃないと、この気持ち、晴れないよ」

「小紅ちゃん・・・・・・。ぼくは、ね・・・・・・」

「・・・・・・なに?」

「こんな時に、あれだけど・・・・・・。ぼくは、明るく笑う小紅ちゃんが、好きだよ」

「な・・・・・・何を急に言い出すのよ・・・・・・。あたし、幼馴染みだよ? 冗談やめなよー」

「冗談じゃないよ? ぼくは、小紅ちゃんが好きだから、優しく支えてあげたいんだ!」

「ぐす・・・・・・。・・・・・・ありがと、優太・・・・・・。でもさぁ、あたしね・・・・・・」

「だからさ、ぼくが・・・・・・ずっとそばで、小紅ちゃんを一生、明るく笑わせるよ!」

「・・・・・・嬉しいな。・・・・・・でも、あたし、今の気持ちのままじゃ、だめだよ・・・・・・」

「あんな事件の後だもんね・・・・・・。ぼくも、ごめん。こんな時に・・・・・・」

「ううん・・・・・・。優太のおかげで、少しだけ、心が安らいだかも。ありがとう・・・・・・」

「小紅ちゃんには、ずっと、明るくいてほしいから・・・・・・」

「ごめんね。あたしも、優太のことは好き。でも、今の気持ちに整理つかないと・・・・・・」

「うん。小紅ちゃんの気持ちが完全に晴れたら、もう一度、ぼくから伝えるからさ」

「わかった。・・・・・・じゃあ、優太が困ったときは、あたしが助けてあげるよ。ふふっ!」

「やっと少し笑ってくれた。ほら、ハンカチで涙拭いて? これ、持ってていいからさ」


 ―――~~。


 小紅は、自分の部屋で机の引き出しを開け、その中に畳まれた薄緑色のハンカチを眺めていた。

 ハンカチには、「Y・T」と紅色の糸でイニシャルが刺繍されている。


「(中学三年から・・・・・・か。・・・・・・このハンカチも・・・・・・)」

「小紅ーっ? 風呂湧いたぞ! はやく入っちまえー? わしゃ、飲みに行ってくんぞ!」

「・・・・・・わかった、今入るよ! じーちゃん、今日こそは、飲み過ぎないでよねーっ?」


   ぽふっ  ぽふっ   ・・・・・・とんっ


 紅色の髪留めが、そのハンカチの上に置かれた。そして、小紅は引き出しをそっと閉じた。



     * * * * *



   ・・・・・・ゴキャッ  ガシャアンッ!  ドガアッ!  バキャッ!


「「「「「 ご、ごはっ! ぐはっ! うがっ! 」」」」」


 栃木県の南部、麻岡市(まおかし)のとある郊外で、地元の暴力団「銀連合(しろがねれんごう)」の事務所が、突然の襲撃を受けていた。


「ひゃっはははぁ! ちょれぇぜ! なーにが、暴力団だ! ひゃははは!」

「こんな、しょべぇ組、デスアダーにかかりゃ、楽勝だぜ!」

「や、野郎! クソガキどもがぁーっ!」


 組の構成員の一人が、頭と首から血を流しながら、拳銃の撃鉄を起こした。


「あ? チャカだと? ひゃははは! 瀕死じゃねぇか!」

「オラオラオラァ! オルァ! ドルァ! くたばれや、クズヤクザが! ぎゃはは!」

「う、うげはぁー・・・・・・」

「おい、このザコヤクザ、俺らをチャカで撃とうとしたぜ? おい、てめぇ、デスアダーに銃火器は御法度だ! よって、死刑! デスアダー式ノック練習の刑だ! ひゃはは!」


   ドバキャ!  ゴキャ!  ドキャ!  ガツンガツン!  ベキャ!


 十五人ほどの暴力団構成員は、三十人ほどで乗り込んできたデスアダーの若手集団に、不意を突かれてほぼ全員がやられてしまった。

 鉄パイプや金属バット、模造刀にハンマーに木刀など、武装したデスアダーの集団は、暴力団事務所の隅々まで荒らし、金や貴金属、覚せい剤などを盗んでいく。


「く、くそったれめ・・・・・・。こいつらが、噂のデスアダーかよ・・・・・・」


 構成員のほとんどは、瀕死の重傷だった。息も絶え絶えに、皆、倒れている。

 最後まで意識を保っている組長は、血だるまになりながら、立ち上がって日本刀を抜く。


「仁義も道義もねぇ、くそどもめ・・・・・・。ヤクザ舐めたら、どうなるか、思い知れ!」

「「「「「 あ? 」」」」」


 組のメンツを守るために立ち上がった組長だったが、武装したデスアダーの十人以上に袋だたきにされ、その場で、息絶えてしまった。


「おい、もう、行こうぜ? そこの金も、全部持ってけ。ヤクもな! ひゃはは!」


   シュポッ   ぽいっ   ブオッ ・・・・・・ボオオォォ!


 一人が、ライターの火を点け、机の灰皿付近に投げ捨てた。火は、近くの書類に燃え移る。


「タバコの火が不始末で燃えて、事務所はえらいことになりましたとさ。ぎゃははぁ!」

「燃えちめーば、証拠は出ねーべ! あとは、金やヤクを、ブスジマさんに納めようぜ!」


 黒塗りのワゴン車が、三台、走り去っていった。

 暴力団の事務所は、十分後、猛火に包まれ、跡形もなく焼き尽くされていた。

 翌日の新聞には、「組長含む十数名が死亡。原因は暴力団抗争か?」と記載されていた。



     * * * * *



「ありがとうございましたぁー。また、寄って下さいねー」


 小紅は先週から、新柏沼駅近くにある花屋で、三時間ほどのアルバイトを放課後に始めた。

 きちんと許可申請をした上で、家庭環境と進路が考慮され、学校側も許可をしたらしい。

 店の隣には美容室があり、ここは柏沼市内の高校生が、よくカットをしに来る。


「小紅セーンパイっ! わぁお! ほんとにバイトしてるぅー。エプロン、似合ってる!」

「水穂、どーしたの今日は? 部活は?」

「えへへー。部活はちょっと抜けて、髪を切りに来たの! ほら、伸びちゃってさー」


 水穂は、青いヘアゴムで結った二つの下げ髪を、小紅に見せた。


「そんな、伸びてる? まぁ、短くもないだろうけど・・・・・・」

「私的には、伸びてるんですよー。もう少し、短くまとめたくて。小紅センパイみたいな髪型も、やってみたいけどー?」

「あたしの髪型は、適当だよ? 前髪上げて、上で二つにしてるだけじゃん」

「たまには私も、上で結ってみたいんですよー。じゃ、切ってきまーす。ファイトですよ、小紅センパイーっ? 帰りに、何かお花、ひとつ買っていってあげますよ!」


 水穂は、花屋に陳列されたケース内の花を見て、上機嫌。


「え、ありがと! じゃあ、シクラメンとか胡蝶蘭とか、用意しとく。高いの買って?」

「そんな高いのは、買えないよー。むしろ、小紅センパイが優太センパイにあげれば?」

「はははっ! 優太にあたしが花をあげるなんて、想像も出来ないやー」

「もうすぐ優太センパイ、誕生日でしょー? 祝ってあげなってー。じゃ、またね!」

「はいよ。切ってすっきりしておいでー」


 水穂はにこにこしながら、美容室の中に入っていった。


「(そういえば、もう、今週金曜から十二月かー。土曜は、優太の誕生日だもんなー)」


 小紅は富貴(ふうき)(ぎく)の鉢を持ち、その花をじっと眺めたまま、ぼーっとしている。


「こべにちゃーん? あっちの苗箱、そろそろ倉庫に入れちゃってくれるー?」

「・・・・・・あ! はぁい、わかりましたぁ!」


 小紅は店長の指示を受け、はっと我に返った。そして、せっせと店内で仕事に励んでいた。



     * * * * *



「こちら、おにぎり、温めますか?」

「いや、いらねぇよ。早くしてくれよ! おせーよー」

「失礼しました。では、こちら、お品物です。ありがとうございましたー」


 小紅が花屋でアルバイトをしている同時刻、美布町内のコンビニエンスストアでは、苺がレジ打ちを終えたところ。そして、棚の商品を先輩スタッフと、きれいに並べていた。


「苺ちゃん、仕事、だいぶ慣れてきたねー?」

「ありがとーございます! 先輩がいろいろ丁寧に教えてくれたおかげですね!」

「おれは、大したこと・・・・・・してるけど? ふはははははぁ!」


 気さくな感じで話し、苺の面倒をよく見てくれる先輩スタッフ。話しやすいお兄さんという感じだ。


「そういえば、先輩って、変わった趣味お持ちでしたよね? 集めるの、何でしたっけ?」

「あー、モデルガンや、模造刀ね。とにかく、好きなんだよ。苺ちゃんも、集めっかい?」

「い、いえ。ウチはー・・・・・・。でも、ウチ、先祖はこの美布藩の武家だったんですよー?」

「おー? そりゃ、すげぇな! じゃ、でっけぇ武道場とかあんの?」

「今は、小さなお豆腐屋さんですけどー。ほら、朝霧豆腐店ですよ。家は大きいけどね!」

「すげーじゃん、苺ちゃん。サムライの子孫か! 家に刀とかある? ぜひ、見てぇな!」

「さすがに、ないですよぉー。先輩、ほんと、刀好きなんですねー?」


 棚の商品を整理しながら、苺はテンポ良く会話に乗ってあげている。


「好きだね! 戦国武将の持ってたレプリカとか、あとは、レアな模造刀とかさー」

「あはははは! そこまでコレクターの先輩じゃ、手に入らないもの、ないですよねー」

「あ! それがよぉ、この前、那須野のほうで質屋に、すっげぇレアな模造刀があってさ! ほとんど本物同様に作られた、鋼鉄製の『同田(どうた)(ぬき)』ってのを見つけたんだよ!」


 先輩スタッフは、刀剣の話になるとますます会話のテンポが上がる。生粋の刀剣コレクターらしい。

 苺も、頷きながら楽しそうに会話をしていた。


「へー。どうたぬき、って、カワイイ名前ですね! いくらしたんですかぁ、それ?」

「それがさー。せっかくバイクで次の日もその店行ったのに、ねーんだよ! 質屋のオヤジに聞いたらさ、その店にあった模造刀や武具のレプリカ、一気に売れちまったんだと!」

「? ふぅーん。そんなものを大人買いする人、いるんですかねー?」

「知らねぇー。同田貫、欲しかったのによー。おれ、ショックだったぜー・・・・・・」


 苦笑いしながら、パンを並べる先輩スタッフ。苺はきょとんとして、手を動かし続けた。


「・・・・・・すいませーん、レジー。あと、それ、四番のタバコね」

「あ! すみません! お待たせしましたー。四番ですねー・・・・・・」


 笑顔でレジ打ちをして、接客をする苺。

 その頭の中には「どうたぬき」という響きがずっと、残り続けていた。


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