~ファイル49 お花屋さんになりました~
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「・・・・・・ひっく、うく・・・・・・。ひっく・・・・・・。わあぁぁーっ・・・・・・」
「小紅ちゃん・・・・・・。まだ、学校、行けないかなぁ?」
「すまんのぉ、優太くん。毎日寄ってくれて・・・・・・。毎日、部屋で泣きっぱなしでな」
「いえ。ぼくも、心配で。一週間もこのままですし・・・・・・」
「小紅や。もう、部屋から出ておいで? 優太くんも、大変だんべよー?」
「ご両親が・・・・・・一気にですから。それは・・・・・・。わかります・・・・・・」
「ほんと、小紅がこんなに引きこもるとは・・・・・・。すまんが、頼むわい」
「わかりました。・・・・・・ちょっと、中に入って話してきても、いいですか?」
―――。
「・・・・・・優太・・・・・・。・・・・・・お父さんもお母さんも・・・・・・もう、いないの。苦しいよぉ」
「ぼくも小紅ちゃんの両親には、小さい頃からお世話になったし・・・・・・。本当に辛いよ」
「ぐすっ。・・・・・・わあぁーっ・・・・・・。辛い! 悲しい! あいつらめ! あいつらめ!」
「小紅ちゃん! ・・・・・・落ち着いて? 今は辛くてどうしようもないけど・・・・・・」
「あたし・・・・・・絶対にデスアダーを潰したい! じゃないと、この気持ち、晴れないよ」
「小紅ちゃん・・・・・・。ぼくは、ね・・・・・・」
「・・・・・・なに?」
「こんな時に、あれだけど・・・・・・。ぼくは、明るく笑う小紅ちゃんが、好きだよ」
「な・・・・・・何を急に言い出すのよ・・・・・・。あたし、幼馴染みだよ? 冗談やめなよー」
「冗談じゃないよ? ぼくは、小紅ちゃんが好きだから、優しく支えてあげたいんだ!」
「ぐす・・・・・・。・・・・・・ありがと、優太・・・・・・。でもさぁ、あたしね・・・・・・」
「だからさ、ぼくが・・・・・・ずっとそばで、小紅ちゃんを一生、明るく笑わせるよ!」
「・・・・・・嬉しいな。・・・・・・でも、あたし、今の気持ちのままじゃ、だめだよ・・・・・・」
「あんな事件の後だもんね・・・・・・。ぼくも、ごめん。こんな時に・・・・・・」
「ううん・・・・・・。優太のおかげで、少しだけ、心が安らいだかも。ありがとう・・・・・・」
「小紅ちゃんには、ずっと、明るくいてほしいから・・・・・・」
「ごめんね。あたしも、優太のことは好き。でも、今の気持ちに整理つかないと・・・・・・」
「うん。小紅ちゃんの気持ちが完全に晴れたら、もう一度、ぼくから伝えるからさ」
「わかった。・・・・・・じゃあ、優太が困ったときは、あたしが助けてあげるよ。ふふっ!」
「やっと少し笑ってくれた。ほら、ハンカチで涙拭いて? これ、持ってていいからさ」
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小紅は、自分の部屋で机の引き出しを開け、その中に畳まれた薄緑色のハンカチを眺めていた。
ハンカチには、「Y・T」と紅色の糸でイニシャルが刺繍されている。
「(中学三年から・・・・・・か。・・・・・・このハンカチも・・・・・・)」
「小紅ーっ? 風呂湧いたぞ! はやく入っちまえー? わしゃ、飲みに行ってくんぞ!」
「・・・・・・わかった、今入るよ! じーちゃん、今日こそは、飲み過ぎないでよねーっ?」
ぽふっ ぽふっ ・・・・・・とんっ
紅色の髪留めが、そのハンカチの上に置かれた。そして、小紅は引き出しをそっと閉じた。
* * * * *
・・・・・・ゴキャッ ガシャアンッ! ドガアッ! バキャッ!
「「「「「 ご、ごはっ! ぐはっ! うがっ! 」」」」」
栃木県の南部、麻岡市のとある郊外で、地元の暴力団「銀連合」の事務所が、突然の襲撃を受けていた。
「ひゃっはははぁ! ちょれぇぜ! なーにが、暴力団だ! ひゃははは!」
「こんな、しょべぇ組、デスアダーにかかりゃ、楽勝だぜ!」
「や、野郎! クソガキどもがぁーっ!」
組の構成員の一人が、頭と首から血を流しながら、拳銃の撃鉄を起こした。
「あ? チャカだと? ひゃははは! 瀕死じゃねぇか!」
「オラオラオラァ! オルァ! ドルァ! くたばれや、クズヤクザが! ぎゃはは!」
「う、うげはぁー・・・・・・」
「おい、このザコヤクザ、俺らをチャカで撃とうとしたぜ? おい、てめぇ、デスアダーに銃火器は御法度だ! よって、死刑! デスアダー式ノック練習の刑だ! ひゃはは!」
ドバキャ! ゴキャ! ドキャ! ガツンガツン! ベキャ!
十五人ほどの暴力団構成員は、三十人ほどで乗り込んできたデスアダーの若手集団に、不意を突かれてほぼ全員がやられてしまった。
鉄パイプや金属バット、模造刀にハンマーに木刀など、武装したデスアダーの集団は、暴力団事務所の隅々まで荒らし、金や貴金属、覚せい剤などを盗んでいく。
「く、くそったれめ・・・・・・。こいつらが、噂のデスアダーかよ・・・・・・」
構成員のほとんどは、瀕死の重傷だった。息も絶え絶えに、皆、倒れている。
最後まで意識を保っている組長は、血だるまになりながら、立ち上がって日本刀を抜く。
「仁義も道義もねぇ、くそどもめ・・・・・・。ヤクザ舐めたら、どうなるか、思い知れ!」
「「「「「 あ? 」」」」」
組のメンツを守るために立ち上がった組長だったが、武装したデスアダーの十人以上に袋だたきにされ、その場で、息絶えてしまった。
「おい、もう、行こうぜ? そこの金も、全部持ってけ。ヤクもな! ひゃはは!」
シュポッ ぽいっ ブオッ ・・・・・・ボオオォォ!
一人が、ライターの火を点け、机の灰皿付近に投げ捨てた。火は、近くの書類に燃え移る。
「タバコの火が不始末で燃えて、事務所はえらいことになりましたとさ。ぎゃははぁ!」
「燃えちめーば、証拠は出ねーべ! あとは、金やヤクを、ブスジマさんに納めようぜ!」
黒塗りのワゴン車が、三台、走り去っていった。
暴力団の事務所は、十分後、猛火に包まれ、跡形もなく焼き尽くされていた。
翌日の新聞には、「組長含む十数名が死亡。原因は暴力団抗争か?」と記載されていた。
* * * * *
「ありがとうございましたぁー。また、寄って下さいねー」
小紅は先週から、新柏沼駅近くにある花屋で、三時間ほどのアルバイトを放課後に始めた。
きちんと許可申請をした上で、家庭環境と進路が考慮され、学校側も許可をしたらしい。
店の隣には美容室があり、ここは柏沼市内の高校生が、よくカットをしに来る。
「小紅セーンパイっ! わぁお! ほんとにバイトしてるぅー。エプロン、似合ってる!」
「水穂、どーしたの今日は? 部活は?」
「えへへー。部活はちょっと抜けて、髪を切りに来たの! ほら、伸びちゃってさー」
水穂は、青いヘアゴムで結った二つの下げ髪を、小紅に見せた。
「そんな、伸びてる? まぁ、短くもないだろうけど・・・・・・」
「私的には、伸びてるんですよー。もう少し、短くまとめたくて。小紅センパイみたいな髪型も、やってみたいけどー?」
「あたしの髪型は、適当だよ? 前髪上げて、上で二つにしてるだけじゃん」
「たまには私も、上で結ってみたいんですよー。じゃ、切ってきまーす。ファイトですよ、小紅センパイーっ? 帰りに、何かお花、ひとつ買っていってあげますよ!」
水穂は、花屋に陳列されたケース内の花を見て、上機嫌。
「え、ありがと! じゃあ、シクラメンとか胡蝶蘭とか、用意しとく。高いの買って?」
「そんな高いのは、買えないよー。むしろ、小紅センパイが優太センパイにあげれば?」
「はははっ! 優太にあたしが花をあげるなんて、想像も出来ないやー」
「もうすぐ優太センパイ、誕生日でしょー? 祝ってあげなってー。じゃ、またね!」
「はいよ。切ってすっきりしておいでー」
水穂はにこにこしながら、美容室の中に入っていった。
「(そういえば、もう、今週金曜から十二月かー。土曜は、優太の誕生日だもんなー)」
小紅は富貴菊の鉢を持ち、その花をじっと眺めたまま、ぼーっとしている。
「こべにちゃーん? あっちの苗箱、そろそろ倉庫に入れちゃってくれるー?」
「・・・・・・あ! はぁい、わかりましたぁ!」
小紅は店長の指示を受け、はっと我に返った。そして、せっせと店内で仕事に励んでいた。
* * * * *
「こちら、おにぎり、温めますか?」
「いや、いらねぇよ。早くしてくれよ! おせーよー」
「失礼しました。では、こちら、お品物です。ありがとうございましたー」
小紅が花屋でアルバイトをしている同時刻、美布町内のコンビニエンスストアでは、苺がレジ打ちを終えたところ。そして、棚の商品を先輩スタッフと、きれいに並べていた。
「苺ちゃん、仕事、だいぶ慣れてきたねー?」
「ありがとーございます! 先輩がいろいろ丁寧に教えてくれたおかげですね!」
「おれは、大したこと・・・・・・してるけど? ふはははははぁ!」
気さくな感じで話し、苺の面倒をよく見てくれる先輩スタッフ。話しやすいお兄さんという感じだ。
「そういえば、先輩って、変わった趣味お持ちでしたよね? 集めるの、何でしたっけ?」
「あー、モデルガンや、模造刀ね。とにかく、好きなんだよ。苺ちゃんも、集めっかい?」
「い、いえ。ウチはー・・・・・・。でも、ウチ、先祖はこの美布藩の武家だったんですよー?」
「おー? そりゃ、すげぇな! じゃ、でっけぇ武道場とかあんの?」
「今は、小さなお豆腐屋さんですけどー。ほら、朝霧豆腐店ですよ。家は大きいけどね!」
「すげーじゃん、苺ちゃん。サムライの子孫か! 家に刀とかある? ぜひ、見てぇな!」
「さすがに、ないですよぉー。先輩、ほんと、刀好きなんですねー?」
棚の商品を整理しながら、苺はテンポ良く会話に乗ってあげている。
「好きだね! 戦国武将の持ってたレプリカとか、あとは、レアな模造刀とかさー」
「あはははは! そこまでコレクターの先輩じゃ、手に入らないもの、ないですよねー」
「あ! それがよぉ、この前、那須野のほうで質屋に、すっげぇレアな模造刀があってさ! ほとんど本物同様に作られた、鋼鉄製の『同田貫』ってのを見つけたんだよ!」
先輩スタッフは、刀剣の話になるとますます会話のテンポが上がる。生粋の刀剣コレクターらしい。
苺も、頷きながら楽しそうに会話をしていた。
「へー。どうたぬき、って、カワイイ名前ですね! いくらしたんですかぁ、それ?」
「それがさー。せっかくバイクで次の日もその店行ったのに、ねーんだよ! 質屋のオヤジに聞いたらさ、その店にあった模造刀や武具のレプリカ、一気に売れちまったんだと!」
「? ふぅーん。そんなものを大人買いする人、いるんですかねー?」
「知らねぇー。同田貫、欲しかったのによー。おれ、ショックだったぜー・・・・・・」
苦笑いしながら、パンを並べる先輩スタッフ。苺はきょとんとして、手を動かし続けた。
「・・・・・・すいませーん、レジー。あと、それ、四番のタバコね」
「あ! すみません! お待たせしましたー。四番ですねー・・・・・・」
笑顔でレジ打ちをして、接客をする苺。
その頭の中には「どうたぬき」という響きがずっと、残り続けていた。




