~ファイル44 がんばれ優太! がんばりすぎるな小紅!~
・・・・・・ガタゴトト ガタゴトト ガタコン ガタコン
「今日は電車、混んでるねー。ぎゅうぎゅうだね・・・・・・」
「そうね、優太。ほら、そっち、ドアが近いから、こっち来なよー」
JRの列車内は、珍しく満員に近かった。
小紅と優太は宇河宮に向かう列車の中で、寿司詰め状態に近い感じの中、立っている。
「外国人の観光客も、いっぱいいるね? ぼくの後ろも、外国の人だらけだー」
「日光東照市へ直通だもんね、この路線。きっと、その帰りじゃないかな? あと一駅だから、頑張ろうね、優太ー」
・・・・・・もぞ ・・・・・・もにゅ
「(! え! 何?)」
・・・・・・すすす ・・・・・・もぞ ・・・・・・もにゅ
「(! 嘘でしょ! こ、こんなとこで!)」
小紅は、何か違和感を感じた。
ぎゅうぎゅうに詰まった車内で、思うように身動きは取れない。優太も、小紅の表情を見て、何かを察した。
「ど、どうしたの。小紅ちゃん?」
「(くっそぉ、最悪! どいつだよ? ・・・・・・ろくでなしがいるな!)」
「優太・・・・・・(くいっ)」
小紅は、優太に、斜め右下に視線を向け、目でサインを送った。
「(あぁっ!)」
優太は小紅のアイサインで、何かを発見。
すると、あろうことか、乗客の隙間からうっすらと、この密着状態の中で小紅の下半身をいやらしく撫でたり揉んだりする手が見えた。
だが優太も、周囲の乗客に四方から押しつぶされるような状態で、身動きが出来ない。
「(こ、小紅ちゃんのお尻を触ってる? ど、どの人だ!)」
「(こんのやろぉー・・・・・・。くそぉ、腕が動かせない。どいつだよ!)」
・・・・・・もにゅ ・・・・・・もにゅ
ガタゴトト ガタコン ガタコンッ!
宇河宮駅に着く直前、一瞬、車体が揺れ、隙間が広がった。
「! チャンス!」
・・・・・・むにゅ ・・・・・・ガシイッ!
ホームに着き、電車のドアが開くと、雪崩のように乗客が一気に降りて行く。
小紅は、自分の下半身を触っていた卑劣な手を、掴んで離さなかった。
その手を捻りあげながら、人波の中、優太と二人でホームの端へ。
「・・・・・・この野郎! あたしのこと、ずーっと触りやがって! 痴漢め!」
ホームの壁に叩きつけるようにして、腕を放し、小紅は痴漢の男へ詰め寄る。
対峙しているのは、長髪で明らかに不健康そうに太った、ちょび髭でサラリーマン風の男。おどおどして、挙動不審だ。
「な、なな、なにを言っているのですか、あなたは? 濡れ衣も甚だしい。まったく!」
「あたしが掴んだ手は、あんたの手だよ。間違いない! さぁ、警察いこうか!」
「ふ、ふざけるな、まったく! 名誉毀損で訴えるぞ? これだからガキは、まったく!」
「じゃあ、何だってのよ! どういう間違いなら、あんな触り方すんの? 観念しなよ!」
紺色のジーンズにベージュ色のアウター姿の小紅は、腕を組み、仁王立ちで構える。
「おまえら二人、む、むむ、むしろ、ボクを陥れて、お金でも巻き上げる気だろ?」
「はぁ! 何言ってんの? あんたがあたしに痴漢行為したから、こうして問い詰めてんでしょうよ! この、ろくでなし!」
どこか余裕を見せながらも、怒りを露わにする小紅。相手の男も、問い詰められても否認し逃げようとしている。
「いや、ぼくも、見たよ! あなたの手が、小紅ちゃんを触ってた! 間違いないです!」
突然、優太が拳をぎゅっと握って、男に対して強く叫んだ。
「ゆ、優太!」
「嘘ついても、だめです! ぼくは、見ました! 痴漢の現行犯です! 許しませんよ!」
「お、おいおいおい、ぼっちゃんさぁ? デタラメはいかんねぇ。まったく、これだから、ガキの相手は面倒なんだ・・・・・・。いい加減に、してくれないかなーっ?」
・・・・・・どんっ!
「うわっ! い、いたた・・・・・・」
男は、優太を突き飛ばすと、一目散に駆け出した。全力で、エスカレーターへ向かって走る。
「優太っ! ・・・・・・こ、このーっ! よくも優太を! とっ捕まえて、懲らしめてやる!」
「こ、小紅ちゃんーっ! 無理はしないで! やりすぎないでよーっ?」
小紅は、目を吊り上げて猛ダッシュ。男はエスカレーターにすら辿り着くことなく、小紅に捕まった。
動揺しているのか、男は呼吸が荒く、獣のような息づかいだ。しかし、小紅は息一つ切らせていない。獲物を仕留める鷹のような目で、男を睨みつける。
「ボクは、やってない。だいたい、おまえみたいなメスガキの尻、触っても得しないわ!」
「・・・・・・バカね! 自分から言ったな? あたし、尻を触られたとは言ってないけど?」
「あ・・・・・・。うぅ! く、くそぉ・・・・・・」
既に周囲には、乗客の姿はない。ホームと改札口へ向かうエスカレーターのところで、痴漢の男と小紅、そして優太がいるのみ。
「・・・・・・くそおおぉーーー」
・・・・・・パァンッ! パパァンッ! ドシャアアァーッ
男は、追い詰められたと思ったのか、小紅の首元へ掴みかかってきた。だが、一瞬で往復ビンタを見舞われ、壁に勢いよく吹っ飛ばされた。
「すみません、こっちです! 痴漢です!」
「なんだなんだ! 痴漢だと? その男か! きみたち、説明してくれないか?」
優太が、鉄道員を呼んできて、小紅たちと男は事務室へ。
一連の流れを小紅が話し、さらに優太の証言で男は観念したのか、「やりました」と自白。
鉄道員が警察官を呼び、小紅と優太も話を終えて解放。男は痴漢の容疑で引き渡された。
その男のポケットから、名刺が一枚、ひらりと落ちる。男は下田太助という証券会社の社員だったようだ。
「ありがと。・・・・・・やるじゃん、優太! 頑張ったね! さ、遅れちゃう。行こっか!」
「ぼくも黙ってられなかったからさ! いつものように小紅ちゃんが頑張りすぎないように、ね?」
「なによそれー。あたし、別に頑張りすぎてないと思うけどなー」
くすっと笑って小紅は優太の手を引き、西の出口から、二人は外から射し込む光の中へと歩んでいった。




