~ファイル43 セーンパイ! ただいま戻りました~
「・・・・・・あー、重っ! 家までバスで送ってくれりゃいーのにー。歩きなんてぇー・・・・・・」
「文句言わない。だいたい水穂、お土産買いすぎだよ。バッグ、はち切れそうじゃないー・・・・・・。行商人じゃあるまいし。わたしの量でも、けっこう背中、重いのにー」
「私もミオみたく、いくつかはむこうで送っちゃえばよかったなー。ひぃー、重いよー」
日が暮れた道を、水穂と澪が大きな荷物を背負って、小紅の家へ歩いてきた。
「あー・・・・・・やっと小紅センパイの家、着いたー。明日の代休、私、全部家で寝るー」
「わたしもそうしたいけど、新人大会も近いし、どうしようかな。とりあえず、小紅サンにお土産渡そうよ」
「そうだねー。・・・・・・おーい、小紅センパーイ、いるー? お土産もってきたよーっ」
「水穂、ちゃんと呼び鈴押しなって!」
柔らかい橙色の玄関灯に照らされている、水穂と澪。
家の奥から、足音が少しずつ大きくなってくる。そして、からりからりと戸が開いた。
「あ! 水穂の声だったのー? 入ってー。・・・・・・修学旅行、どーだった?」
髪を真っすぐに下ろし、腕まくりをしてエプロン姿の小紅が現れた。
水穂と澪は少し驚いて、玄関の中に一歩、足を踏み入れる。
「わぁお! 久々に、髪を束ねてない小紅センパイを見た気がするー。それも似合ってますよー?」
「さっき、お風呂入っちゃったからさー。いま、必死に、夕飯作ってんのよー」
「夕飯の支度! 小紅サンが? あ、そうか。早乙女師範、まだ帰ってないんですね?」
「あと少しで帰ってくるってさ。・・・・・・あ! こげる! 二人とも、茶の間に上がってて」
小紅は大慌てで、台所に戻った。家の中に、燻臭さが立ちこめてきた。
水穂と澪は、靴を玄関の端に揃え、茶の間へ入っていった。
* * * * *
「「 えっ! 」」
「・・・・・・そういうわけ。ほんっと、大変だったよ! 何が何だか、わけわかんなかった」
ちゃぶ台に肘をつき、口を尖らせる小紅。水穂と澪は、目を丸くして驚いている。
「せ、千寿山公園に、忍者現る! よくその怪しい人を倒せたね、小紅センパイ!」
「華蓮と苺のおかげよ。あ、華蓮は二人とも会ったことないか。那須野高校のね・・・・・・」
小紅は二人に、五行節のジッテとアシッドに襲撃されたことや、苺や華蓮と過ごした二日間について、話をする。二人とも、驚きを隠せない様子。
「アシッドっていうタコ覆面なんかさ、希王水とかいう、わけのわかんないスプレーを撒いてさ! 見て? あたしの掌や首、ちょっと肌荒れになってるでしょ? 顔はやっと治ったんだよ。ほーんと最悪!」
「いやいやいや、小紅サン! その男が撒いたそれ、一歩間違えば深刻な状態になってたかもしれませんよ! わたし、聞いてて、鳥肌立ちました!」
澪が、眼鏡をくいっと上げ、小紅の肌をまじまじと見つめると、いつになく真剣な表情に切り替わった。
「なぁに、澪? その液体、やっぱり、やばいやつだったの? あたし、理系じゃないし、化学系は無知でさー」
「やばいなんてもんじゃありません! 王水ですよね? 希王水ってことは、それの薄いやつですよね? どんな酸か、敵はなにか言ってませんでしたか?」
「さぁ? あたし、理系じゃないもん。でも、塩酸と硝酸がどうだのとは言ってたかもー」
「王水は、数ある酸のなかでも、最強クラスの強酸ですよ! ほとんどの酸やアルカリでも反応しないあの金でさえ、王水には溶けちゃうんです! はぁーっ、小紅サンー・・・・・・」
「え! そうなの! やばかったんだ、あれ・・・・・・。さすが、澪! あたしより博識だ!」
「いま、目とか鼻は、大丈夫ですか? ちゃんと見えてますか? 鼻は利きますか?」
澪は、小紅の目や鼻に両手で触れ、じっと見つめる。
「見えてるし、嗅げるし、だいじだって。何ともないよ。直撃は受けてないからさ」
「それなら、よかった。・・・・・・はー、びっくりした。化学的な物を使う戦いなんて、肉弾戦よりもある意味、怖いですよ! そんな人もいるのか、デスアダーって組織は・・・・・・」
「先生が知ったら、小紅センパイ、また大変だよ! いくら向こうから仕掛けてきたって言ってもさぁー・・・・・・。また心配かけちゃうだろうから、私は、黙ってますからね?」
水穂は、見ざる言わざる聞かざるの彫刻のように、目と耳と口を手で覆っている。
「わたしも水穂も、小紅サンとは幼児期からもう姉妹同然の付き合いゆえ、あんな事件によって小紅サンの家族が奪われたのは許せません。それゆえ、わたしたちもデスアダー討伐はしたいですが、そこまでの相手がいるなんて、ちょっとまずい状況ですよね?」
澪は、眼鏡の縁をきらりと光らせ、真顔で小紅へ問う。
「それはそうだけど・・・・・・。あたしだって、まさか、あんなのが千寿山公園に現れるなんて思いもしなかったなぁ。あ、それで? 水穂たちからのお土産って?」
水穂は、ちょっと出しにくそうに、小さな袋を小紅に渡した。
小紅が喜んで袋を開けると、中から、お土産用の手裏剣が二枚と、もみじ饅頭が出てきた。
「み、水穂! 結局、手裏剣を買ったの? わたし、あの時、釘刺したのに・・・・・・」
「ご、ごめんねぇ。小紅センパイがまさか、そんな相手と戦ってたとは思わないからー」
小紅は手裏剣を見て顔が引きつっていたが、水穂に一言「ありがとね」と笑顔を見せた。
もみじ饅頭は、大好物だったらしく、その場で何個も食べてしまった。
・・・・・・がらり からからから
「おぉーい、帰ったぞい。うぃー、ひっく」
五分後、源五郎が帰宅。ふらふらに酔っていて、帰ってくるなり玄関先で寝てしまった。
「うひゃー。玄関中、お酒のにおいだ。早乙女先生、どんくらいお酒飲んだんだろうー?」
「あらら。わたしたちの靴の上に寝ちゃったな、早乙女師範・・・・・・」
「あー、もう。ほれ、じーちゃん! 水穂たち帰るんだから、どいて! 部屋で寝てよ!」
「じゃ、とりあえず、私たちはこれで。お土産も渡せたし!」
「小紅サン。今後、何かあれば、わたしたちも力になりますから、言って下さい?」
「ありがと! 水穂も澪も、本当に、ありがとね! できることなら、二人に迷惑かけたくないんだけどさ、どーしようもなくなったら、力借りるかも・・・・・・」
小紅は片手で源五郎を抱えながら、二人にぺこりぺこりと軽く頭を下げた。
「何言ってんのー。小紅センパイ! 私とミオ、センパイと何年来の付き合いだと思ってんですかー? 困ったら、お手伝いするってば!」
「よっぽどの時は、警察もいるんですし、大丈夫ですよ。小紅サンひとりで抱え込んだりはしないで下さいよ? では、おやすみなさい」
「ありがとね! 気をつけて帰るんだよ? またね。水穂、澪!」
「はーい。小紅センパイも、ゆっくり休んでくださいねー。おやすみなさーい」
水穂と澪は、玄関の戸を閉め、帰っていった。
「じーちゃんも、お疲れ。ほら、もう今日は、寝ちゃいなー」
「うむむ・・・・・・zzZ なんじゃぁ・・・・・・zzZ 前蹴りはー・・・・・・zzZ なぁ、ちぐさー・・・・・・z zZ」
小紅は源五郎を部屋の布団に寝かせ、じっと暗い部屋を見つめたあと、そっと襖を閉めた。




