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出動!悪行清掃人!   作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
#9 がんばれ優太! がんばるな小紅!
42/84

~ファイル42 強くたって、女の子は、女の子~ 

 ~~―――。


「あ、安藤選手! そ、その。シビレる試合でした! 見ていて、その、オレ・・・・・・」

「? なに? 私に、何か用なんですか?」

「で、できれば、その。オレが、安藤選手をもっと支えてあげたいというか・・・・・・」

「・・・・・・あぁ、そういうこと。私はお断り。等星は全員、恋愛禁止だから。諦めて?」


 ―――。

 

「等星女子高の安藤みかんさん! おれはあの試合、無失点記録で優勝したんだぜ!」

「へぇ。それはすごいな。おめでとうございます」

「きみは栃木で一番なんだろ? だったら、おれと吊り合うし、一緒に高みを・・・・・・」

「無理。意味がわからない。私、あなたに興味湧かないし。申し訳ないが、お断りだ」


 ―――。

 

「オッス! 等星の安藤さん! 単刀直入に言います! その強さに・・・・・・」

「何言いたいか、わかってる。無理。そういうの、わが等星の空手には必要ないもの」

「い、いや。・・・・・・じゃあ、メシとかだけでも・・・・・・」

「あなたと食事する意味もわかんない。そんなことする暇があるなら、稽古するし」

 

 ―――~~。

 

   ・・・・・・ぼふっ  ぽふぽふ・・・・・・


 みかんは、自分の部屋のベッドに寝転がり、手を開いて、指先をじっと見つめていた。


「(なんだろう・・・・・・。私、常盤くんを助けた時から変だ。最近の実戦のせいか?)」


 手をぐっと握り、みかんは不良を蹴散らした時のことを振り返る。

 どうしてもみかんは、心にいつもと違う何かが引っ掛かり、気になって仕方ないようだ。


 ~~―――。


「すみません。ハンカチ、ぼくのせいで汚しちゃいましたね・・・・・・。洗って返さなきゃ!」

「いいですよ、別に、そんな。・・・・・・ここの塾に通ってるんですか?」

「あ、いえ。来週の土日だけ、特別講習があって。今日は、その申し込みで・・・・・・」


 ―――~~。


   ・・・・・・ごろごろ  ぼふん・・・・・・


 寝返りをうつ、みかん。

 レモン色の薄掛けと、ふわりとしたタオルケットに、くしゃりと皺が寄る。


「(男って、今まで私に寄ってきたのは、空手絡みの人ばかり。でも、常盤くんは、不思議な人だった・・・・・・。女子校にいるからか、ああいう男もいるのは、知らなかったな)」


 みかんは溜め息をつき、寝転がりながら、自動車教習所の教本を見つめた。


「(常盤優太くん、か。・・・・・・ほんと、不思議な男子。今度会ったら、何か、いろいろと話をしてみようか? いや、いきなりは、変か・・・・・・。でも、どうしようか・・・・・・)」


   ・・・・・・ごろん・・・・・・  ぼふっ・・・・・・


 みかんは、もやもやとした心のまま、枕に顔を埋め、そのまま寝てしまった。



     * * * * *



「(何やってんだろ、あたし。優太は、みかんに助けてもらっただけ。あたしはその場にいなかったんだから、しゃーないじゃん! ・・・・・・優太に、八つ当たりしちゃったな)」


 小紅は、はぁと息を吐き、緩く履いたサンダルを、足を振ってぽいっと庭先に放った。


「ねー、小紅チャン? 優太クン、帰るってよー?」

「え? あ! ご、ごめんね優太! ・・・・・・何も構ってやんなかったー」

「いやいや、上がり込んじゃったの、ぼくだし。こっちこそ、ごめんね」

「ちょっとの時間だったけど、わたくしも苺チャンも、いろいろ話せて楽しめたよーっ!」

「また、会ったときヨロシクね! ウチも華蓮も、優太クンと話すの、和むわー」


 華蓮と苺は、玄関で優太に向かって、にこやかに話しかける。

 小紅は、サンダルを履き直し、縁側から玄関側に回って、優太を見送る準備をする。


「華蓮。苺。そして、優太。あたし、ちょっとイライラしちゃって。さっきは、ごめんよ」


 小紅は、苦笑いをしながら、華蓮と苺に頭を下げた。


「いいのよー。ねぇ、小紅チャン? わたくしと苺チャンで、朝食作っておくからさ、優太クンを、この先まで送ってあげたらー?」

「そうそう! ウチと華蓮で、美味しい朝ごはん作るよ! 小紅だと、超ヘルシーでシンプルすぎる朝食になっちゃうしー。行ってきなよー」

「は? 二人で、朝食を? そりゃいくらなんでも、悪いって! あたしの家なのにー」

「いいから、行ってきなさいな。ほら、優太クンと並んで、一緒にさー」


 華蓮と苺は、含み笑いをしながら、二人に手を振る。


「なんだよー。絶対、面白がってるな・・・・・・。まぁ、それなら、華蓮たちに任せるか。じゃ、行こうか優太。このまま家に戻るの?」

「あ、いや。そっちの角の郵便ポストまで行くとこだったんだ。そのあと、家に戻るよ」

「そっか、わかった。行こっ!」

「じゃあ、華蓮さんに、朝霧さん。ぼくはこの辺で。また、どこかでね。さようならー」


 笑顔で華蓮と苺に手を振る優太。


「はいはーい。小紅と仲良く行ってらっしゃーい。またねっ!」

「優太クン、また、わたくしたちと、雑談しましょーね! またね!」

「じゃ、二人ともごめん。あたし、優太送ってくるわー」


 小紅は優太の手を引き、玄関の戸を閉めて出て行った。


   ・・・・・・ひた  ひた  ひた   とて  とて  とて


「・・・・・・まったく、どーみても、恋人同士っぽいのになぁー」

「何か理由があるみたいだね。でも、それは二人の秘密。確かに、踏み込んじゃダメねー」

「小紅はあんなチャキチャキなのに、優太クンは、ほんと平凡な男子だよねー?」

「そこがいいんじゃない? 優太クン、優しそうだし。さぁ、苺チャン、始めようかー?」


 華蓮と苺は、玄関を背にして、二人楽しそうに笑いながら台所に向かっていった。



     * * * * *



   ・・・・・・リーリロリロリー  ・・・・・・リロリロリロロロー


 虫の声が、近くの原っぱから聞こえてくる。控えめな声で、鳴いている。

 いつもと同じ歩調で、小紅は優太と歩いていた。


「ねぇ、優太さぁ・・・・・・」

「ん? なにかな?」

「ごめんね。その・・・・・・。あたしのせいでさぁ・・・・・・」

「なにが?」

「いや、華蓮や苺に突っ込まれたこと。・・・・・・優太の気持ちもあるのにねー」

「あー、それね。ぼくは、きちんと小紅ちゃんのこと、わかってるから。待つよー」


 二人の目の前を、二匹のイナゴがぴょこりぴょこりと跳ねて、横切っていった。


「あたしもね、早く気持ちに整理つけて、自分の中で心を真っ新にしちゃいたいの。あたしのことがきちんと片付いたら・・・・・・。優太、その時は、ね・・・・・・」

「だいじ。それもわかってるから。ぼく、今はね、小紅ちゃんとこうしているだけでもさ、すごく楽しいし、和むよ。だから、気にしなくていいからー」

「・・・・・・デスアダーの件、あたし、早く何とかするから。あたしだって、優太のことはね、いつまでも待たせちゃだめだって思ってるからさ? だから、もう少し待ってね・・・・・・」

「ぼくは、だいじだよ。・・・・・・だってさ、小紅ちゃんの心が整理ついたらでいいって言ったの、ぼくなんだしさ?」


 優太は少し頬を赤らめ、小紅の方をちらっと見た。

 小紅も、数秒、優太と目を合わせ、にこりと笑ってから、がしっと肩を組む。


「やっぱり、優太は、優しい! ありがと! あたしね、優太がいると、本当に気持ちが楽になる。あたしの、よき理解者だよ、優太は!」

「・・・・・・そう言ってもらえて、嬉しいや」

「ところで、それ、なに? 願書?」


 小紅はふと、優太が手にしていた封筒に視線を移した。


「ああ、これ? 大学の資料を、郵送請求で頼むんだ。日新学院大学のやつをさー」

「ふぅん。あたしも、頑張らなきゃな。とりあえず、働き口、急いで探さなきゃ・・・・・・」

「ぼくも、もし、何か就職に役立つ情報があったら、小紅ちゃんに教えるね」

「ありがと! あたしも、いろいろ頑張る! デスアダーのことも必ずケリつけるから!」

「危ないことは、ほんと気をつけてね? 小紅ちゃんがケガするのは、ぼく、嫌だよ?」

「・・・・・・優太まで、じーちゃんみたいなこと言うね。でも、ありがと! 気をつけるよ!」

「ぼく、強い小紅ちゃんには、ずっと憧れてるんだ。ぼくも、頑張るから!」

「優太は、無理しちゃだめだよ? 何かあったら、すぐ、あたしを頼ってね?」


 それからしばらく、二人は朝の空気を吸いながら、散歩を続けた。

 秋空は、青く、広く、高く、二人の心全てを吸い込むかのように、どこまでも続いていた。



     * * * * *



   ・・・・・・ずぞ  ずずぅ・・・・・・


「おいしい! なにこれ! 苺、どうやって作ったの?」

「どうって、普通に、かつおと昆布で出汁をとって、溶き卵と菜っ葉を入れただけー」


   ・・・・・・ぱくん  もぐもぐ・・・・・・


「! え! 朝食で、この味! 華蓮、これ、お店の味じゃん!」

「あらぁ、嬉しい! 冷蔵庫の食材、ちょこっと使っちゃったけどー、良かったかな?」

「(もぐもぐ)いいよいいよ(もぐもぐ)なんでも(ごくん)使ってくれていいからさ!」


 小紅が優太との散歩を終えて帰ってくると、苺と華蓮による特製朝食が用意されていた。

 苺が作ったお味噌汁と、華蓮が作った八宝菜に、小紅は大喜び。箸が止まらないようだ。


「「「 ・・・・・・ごちそうさまでした! 」」」

「さて、お腹もいっぱいになったし、二人とも、今日はどーしよう? 時間は、だいじ?」


 小紅は腕まくりをし、三人分の食器を台所ですすぐ。スポンジが、たくさん泡立っている。


「えっとー、ウチは今日、午後四時には帰るようかなー。お母さん帰ってくるしー」

「わたくしも、電車の時間もあるから、苺チャンと同じ頃に帰るね。それまでは、フリー」

「そっか。じーちゃん帰ってくるのは夕方過ぎだろうし、じゃあ、三人で今日は、普通に遊ぼう! 天気がいいから、外で何かする? それとも、中で過ごす?」

「・・・・・・ねー、小紅? テレビの下にあるこれって、ゲーム?」


 苺は、テレビ台の下に入っている灰色の機械を見つめている。


「んー? あぁ、それ。最近やってないけど、ゲーム機だよ。みんなで、やる?」

「やるやる! あ! 有名な対戦格闘ゲームじゃないかー。小紅らしいねー」

「ふふふっ! 苺チャンに小紅チャン? このゲーム、わたくしも持ってますよー?」


 手に泡を付けたまま、台所から小紅が茶の間に戻ってきた。


   ・・・・・・びーっ  びびーっ


「あー、なんか、鼻が出る。・・・・・・華蓮、それ、持ってんのかー? じゃ、三人でちょこっとやってみる? 洗い物やっちゃうから、セッティングしてていーよ?」

「わぁ、楽しみ! ウチ、これ、やりたかったんだ!」

「じゃ、小紅チャンもすぐ来るだろうから、電源入れて待ってようかー」


 華蓮はゲーム機のスイッチを入れて、静かにお茶を飲んでいる。

 苺は、コントローラーを握って目を輝かせている。小紅は茶の間に戻ってきて、長座布団に座った。

 さっそく三人は、テレビ画面に映ったゲームを開始。対戦格闘アクションゲームのようだ。


「・・・・・・とりゃーっ! 小紅、覚悟! 必殺、竜巻波動アッパーッ! おりゃーっ!」

「な、なんで苺もこんなにうまいの? くっそぉ。負けないよ・・・・・・って、また負けた!」


 小紅は格闘ゲームが苦手らしい。華蓮と苺に二十連敗。何度やっても、あっけなく負ける。


「「 とても、あの実戦の姿からは、想像もできない下手さだわー!!! あははぁっ! 」」


 華蓮も苺も、大爆笑。三人の明るい声は、早乙女家の小さな家の茶の間から、しばらく響いていた。



     * * * * *



「大変な経験もしたけど・・・・・・すっごく楽しかったよ、小紅! また、来るね!」

「また三人で、楽しく遊びましょ! いつでも誘って? わたくしからも誘うから!」

「華蓮も苺も、ありがとね! おかげで、あたしも助かったよ! いつでも、また来て!」

「うん! 小紅も元気でね! 華蓮も、また、会おうね!」


 苺はヘルメットをかぶり、スクーターのエンジンをかけた。


「小紅チャンと苺チャン。わたくしたち三人で、また、技術交換もしたいね! あと、デスアダーにはみんな、細心の注意を払って、気をつけようね!」

「そうだね。・・・・・・昨日のあいつらにはちょっと驚いた! まだまだ警戒しなきゃだめね。二人も、気をつけて? あたしも、気は緩めないようにするからさ!」

「そうね。五行節とか言うからには、たぶん、あと三人いるんだと思う。わたくしも、何かあったらすぐに二人に連絡するね! じゃ、またね! お邪魔しましたー」

「バイバーイ! 小紅も華蓮も、楽しかったよー。まったねぇー」


 苺は元気な声で、手を大きく振りながらスクーターを走らせ、帰ってゆく。

 華蓮も、JR柏沼駅の方へ向かって早足で帰っていった。

 二人の姿が小さくなるまで、小紅はずっと手を振って見送っていた。

 見送るその小紅の目は、陽の光によって黄金色に潤っていた。


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