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出動!悪行清掃人!   作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
#7 香る金木犀と、集う三つ巴!
31/84

~ファイル31 再訪! 大円流合気柔術 朝霧苺~ 

「小紅せんせー、さよーならぁ」

「お世話になりました。また来週、お願いいたします」


 稽古後、門下生たちが全員帰ったことを確認後、小紅はひとり、道場の戸締めをしていた。


「(ふぅー。今日の稽古も終わり、っと。しかし、じーちゃんも水穂たちがいないと、やっぱ変にぽっかりした感じだなぁ)」


   ・・・・・・スパパパパパパー  スパンスパパン  がちゃ


「ん? スクーターの音? ・・・・・・え! まさか!」

「やっほぉ、小紅! 一日早く、来ちゃった。ウチも今日、お母さんが泊まりの出張でー」

「い、苺ぉーっ!」


 道場の外には、リュックを背負った私服姿の苺が、ヘルメットを抱え、笑って立っていた。


「家にひとりでいても、つまんなくてさー。小紅は明日ってメールで言ってたけど、もう、来ちゃったのー。ごめんねーっ?」

「いやいや。まぁ、あたしはいいけど? どうせ、じーちゃんも東京行ってていないし」


 驚きながらも、小紅はまるで子どもが新しいオモチャを得た時のように、顔がほころんでいた。


「へへっ。おっじゃましまーす! この歳でお泊まり会的なことするの、楽しみーっ!」

「あたしも、まさか今夜、来るとは思ってなかったから! ねぇ。この後、どうする?」

「ふふふっ! どーするもこーするも、小紅はいま、道着姿だよねー?」

「・・・・・・そうね。稽古終わったばかりでさ。ねぇ苺、着替えてきてよ!」

「やったぁ! オッケーッ! じゃ、また、奥の部屋貸してねー」


 道場に上がり、苺は袴姿に着替えた。小紅はにこっと笑い、道場の玄関を閉めた。



     * * * * *



「さてと。・・・・・・苺の大円流合気柔術、まだまだ知らない技法があるとは思うんだけどさ、あたしに、また、見せてくれないかな?」

「いいけどー? 小紅もウチに、空手のいろんな技、見せてよ?」


 小紅の要望に対し、にっこり笑って請い返す苺。


「それはいいんだけどさ。あたし、あんたの技法から、空手にないものを学びたいのよねー」

「そっかー。・・・・・・うーん。小紅んちにさ、木刀とか、摸造刀ってある?」

「え? 木刀や摸造刀ー? ・・・・・・ないな。竹刀なら、じーちゃんのがあるけど?」

「あ! 竹刀でもいいや! 貸して?」

「うん・・・・・・。いいけど、なんでそんなものを?」


 小紅は道場の押し入れから源五郎の竹刀を取り出し、苺に渡した。


「ふふふっ! ・・・・・・さぁ、小紅! 大円流のもう一つの顔、見せてあげるよ!」

「え? ・・・・・・あんた、柔術でしょ? なんで竹刀・・・・・・ってゆーか、刀使うの?」


 小紅は、竹刀を持って構える苺に対し、腕組みして首を傾げた。


「やっぱ知らないか。・・・・・・柔術と剣術は、表裏一体よ? 剣の理合いを徒手に活かしたのが、基本的な柔術の理合なんだからね?」

「いや、わけわかんないよ。・・・・・・まぁ、とにかく、あんたは剣を持つとまた違った技を使うってわけだね? いいよ! 竹刀だし! あたしにまた、見せてよ!」


 そう言って小紅は、いきなり道場の床板を蹴り、苺に突っ込んでいった。

 苺は、小紅に対し、真横を向くような構えで竹刀を立て、目を見開いた。


「(! 剣道の構えとは違う! ・・・・・・野球みたいな構え? なんか、やばい!)」


 小紅は、踏み込みを止め、苺の射程距離ギリギリで立ち止まった。


「・・・・・・はいやぁーーーっ!」


 苺は、低空で踏み込み、なんと竹刀の刃部ではなく、柄尻で小紅の脇腹へ打撃を放つ。

 小紅は半歩分だけ身を引き、掌で、その柄尻を叩き落とす。

 苺は追い打ちをかけ、そのまま肘を突き出して、小紅の胸元へ打ち込む。

 小紅はそれを、内腕で叩きつけるような「中段横打ち」で弾き飛ばす。

 それでも苺は踏み込み、右の肘をさらに小紅へ叩き入れる。これには小紅も、間合いを切ることもかなわず、両腕を使って紙一重でブロックした。


「なっ、なんて連続攻撃! 竹刀の柄に、左肘、右肘の連続打撃なんて!」

「大円流合気柔術、『(いら)(くさ)』だよっ! 武器術と体術の融合技だねーっ!」


 小紅は、目と口を丸くして、「ほぉー」っと声を上げる。


「武器と体術の融合・・・・・・。あたし、そういう技法を見たかったんだよなぁ!」

「逆にウチは、当て身に特化した小紅が羨ましいけどねー。もっと、強力な当て身、見せてほしいなぁ? 小紅が持ちうる空手の技が見たいなー」

「・・・・・・生意気ね! あたしの学んだ糸恩流空手は、打撃だけじゃないんだぞ!」


 小紅は、腰を落として一気に苺へ踏み込んでいった。そして、苺に、上段突きを放つ。


「こんなストレートな当て身で、ウチを・・・・・・」


 その手を、苺は両掌で掴もうとする。しかしその瞬間、小紅は拳を引いてその場にしゃがみ込み、苺の右足に、両手を添えた。


「え! 小紅! 空手なのに・・・・・・組み技っ?」


 そして、苺の右膝の外側に右掌、右足首に左掌を当て、一気に両掌を内側に動かした。


   ・・・・・・ぎゅん!  グラアアーッ!  


「! え! こ、これは!」


 すると、力なく、苺はその場にがくんと崩れ落ちた。思わず、手にしていた竹刀も床に落ちる。

 そして矢継ぎ早に、小紅はその苺の右足に、自分の右足を絡める。左足も絡め、真下に座り込むように腰を落とす。それは、足首、アキレス腱、ふくらはぎにあるツボの三点責めに。


「! ・・・・・・っ! い、いたたたたぁーっ! こ、小紅ぃ! ギブ! ギブーっ!!!」


 突如、右足に走った電撃のような痛みに、たまらず苺は掌で床を叩いた。

 足をほどき、小紅は白い歯を見せ、にかっと笑う。実に満足そうな笑顔だ。


「な、なぁに、今の! 空手にも、こんな足関節技が? あー、痛かったぁー」

「クルルンファって形に含まれている、関節技だよ。じーちゃんにやられたときは、バカじゃないのってくらい痛くて嫌な技だったけど、いざ使うと、なかなか使えるもんだね」


 苺は、空手が主体の小紅に足関節技をかけられたことが、驚きでもあり屈辱でもあるような表情だった。



     * * * * *



「小紅ー、さすが! ウチをこんなに燃えさせてさ! 面白いよぉー!」

「あたしもだよ。楽しいね!」

「まだまだ、いろいろやってみようっと! 大円流の技は、いっぱいあるよー」

「ねぇ、苺? あんたさー、もし打撃技だけで戦ったら、どんな戦い方になんの?」


 ふと、小紅が苺に問いかけた。


「当て身だけってこと? ・・・・・・試してみる? 大円流の、当て身技のみの動き! 驚くと思うよー?」

「いいよ! 来な! モノは試しってことでさ! よーし! さぁ、やってみな!」


 小紅は腰を落とし、両拳を苺に向けて構えた。理想的な、空手の組手構えだ。


   ・・・・・・すうっ  ささっ   しゅらあっ!


 苺は、右足を前にして真横向きになった。右腕を鎌のように曲げ、脇腹前に置く。

 左腕は、額の前に置き、ずんっと腰を落とす。両拳とも握り方はあの「(やじり)」だ。


「大円流合気柔術、連綿(れんめん)当身(あてみ)四箇条、『曲枝(まがりえだ)』・・・・・・。いくよ!」

「れんめん、何だって? まぁいいや! 来い、苺! 打撃技だけで、あたしにどこまで通用するか、見せてみーっ!?」

「覚悟しなね、小紅! ・・・・・・はああぁいやぁーーっ!」


 苺は、その独特の構えで、床を思い切り蹴って小紅に突っ込んでゆく。


「てえぇあぁーーーっ!」


 その出鼻を狙って、小紅は強烈な上段突きをカウンターで放った。しかし、その突きは、凄まじい勢いで真下から、何かが爆ぜたような衝撃で弾き飛ばされた。


「(い、いったぁ! ・・・・・・な、何、いまの! 振り打ち?)」


 苺は、右腕をそのまま円を描くように振り回した。小紅の腕を弾き飛ばし、体勢を一瞬で崩す。

 するとすかさず、横向きになった小紅の脇腹へ左の鏃を飛ばすと同時に、独特な軌道で左の中段蹴りを放った。無駄のない、流れるような連続技だ。


「(くぅっ! 普通に、空手の連続攻撃と遜色ない打撃だね! こりゃ、想像以上だ!)」


   ・・・・・・ババッチィンッ! バチインッ!


「へー! すごいな小紅! 初見でこれも防げるなんて!」


 左上腕を真横から苺の左拳に当て、左膝も苺の蹴りにタイミングを合わせて、すっと当てた。

 それによって、苺の当て身は、突きも蹴りも軌道をずらされ、流された。


「あぶなかったー・・・・・・。変な軌道だったけど、苺もこんな蹴りをやるのかーっ!」

「大円流の足技十五箇条の、『円蹴(つぶらげり)』だよ! 空手では、なんて言う技? 回し蹴り?」

「回し蹴り・・・・・・ではないね、今のは。しいて言えば、三日月蹴り、ってやつかな?」

「へー。三日月なんて、なかなか風流な技名ねーっ! おもしろーい!」


   ・・・・・・シュルンッ  キュルッ  ピタアッ!


「え! き、軌道がかわった! ・・・・・・寸止めじゃなかったら、確実に入ったよ、これ!」

「どぉ? これが三日月蹴りだよ。いまの苺の蹴りに、なんか、似てるでしょ?」

「・・・・・・確かにね。微妙に軌道は違うけど、狙いどころとフォームはソックリだねっ!」

「よく、そんな袴で蹴りが出せるよね? ・・・・・・でも、さすがに、これはできないだろー」


 小紅は、腰を前にスライドさせるような動きで、一気に苺へ間合いを詰めた。そして、膝と足先を高く振り上げ、直角に近い角度で蹴りを叩き落とす。


   ・・・・・・キュウンッ  ドガアッ!


 苺は、ハサミのように腕を頭の上で交差させ、小紅の蹴りを受け止めた。


「いったぁ・・・・・・。何だこりゃー! やっぱ、蹴りは、小紅にかなわないやぁー」

「マッハ蹴りとか、ブラジリアンキックと呼ばれてるタイプの蹴りだよ。まぁ、これ、糸恩流独特ってものではないけどさー」

「と、とんでもない蹴り! 小紅と手合わせすると、ほんと勉強になるぅーっ!」

「あたしもね! ・・・・・・明日、また、別な友達が合流するからさ、三人でまた、やろうよ」

「え! その子も、なにか武術やってるの? ウチ、ワクワクしてきたよーっ! いったい、どんな子なのぉ?」


 苺は目をさらに輝かせて、小紅との手合わせ稽古を続けた。

 小紅も、新たに苺が見せた打撃技に対処しながら、笑顔で汗飛沫を散らせる。

 二人はまた、時が経つのも忘れて、道場の床板を鳴らし続けていった。


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