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出動!悪行清掃人!   作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
#1 町を汚すな! ろくでなし!
3/84

~ファイル3 出動! 小紅と水穂!~ 

「おっそいなぁ、水穂! ・・・・・・じーちゃんにバレて、来らんなくなったかな?」


 小紅は公園の滑り台に座り、昼休みに校内販売で買ったチョココロネを食べている。

 植え込みの青葉が、暗い中でさわさわと揺れている。いつもはおとなしい近所の犬が、今夜はやたらと吠えている。


   ・・・・・・たたたたたっ・・・・・・


「小紅センパーイ! すいません、遅くなっちゃった。ちゃんと、スパッツ履いてきたよ」

「おつかれ! 待ってたよ! ・・・・・・じーちゃんは、だいじだった?」

「あ。そのー。早乙女先生がね、『実戦では、素手にこだわるな』だってさ?」

「? なにそれ? ろくでなしくらい、素手で十分でしょ。空手やってるんだし!」

「そーですけどー。先生が、小紅センパイにそう伝えろって・・・・・・」

「ふーん。なんだろうね? まぁ、いいや! 豪邸山公園に向かうよ! よし、行こう!」


 セーラーとブレザーの二種類がある、柏沼高校女子生徒の制服。

 ブレザーを着た小紅と、セーラーを着た水穂が、宵闇の中を、二人で歩いていった。


   ・・・・・・ぶろろろぉー・・・・・・


「(あれは・・・・・・? 小紅ちゃん、か?)」


 小型のパトカーから、警ら中の久保巡査が、闇に消えて行く二人の後ろ姿を見つめていた。



     * * * * *



 暑すぎるほどではないが、肌寒くもない気温。夜と言っても、もう、この時期は暖かい。


   ずちゃり  ずちゃり  ずちゃり・・・・・・


 暗闇の中で、重くだらしない足音が、一歩、また一歩と響く。


「(ぶふふー・・・・・・。ぶふふー・・・・・・。あの、おんなのこ、こいー。ぶふふー・・・・・・)」


   ずちゃり  ずちゃり  ずちゃり・・・・・・


 不穏な足音が響く、豪邸山公園の裏路地。

 木工所の資材置き場や、小さなオフィス、昔ながらの家々などが並ぶ、細い路地。

 表側にあたる、市役所や図書館のある大通りと比べ、人通りも灯りも少ない路地だ。


   すいーーーっ  しゃーーっ


 一台の自転車が、白く瞬くライトを灯し、その路地を走っていた。

 三つ柏の校章が胸についた、ブレザー型の制服。

 整った顔立ちの、柏沼高校の女子生徒がペダルを漕いでいる。


 「(き、きた。あの娘だぎゃ! ぶふふー。ぶふふー。・・・・・・ふふふふふ!)」


   ずちゃりっ  ずちゃりっ・・・・・・


 生温い夜の中、紺色のダウンジャケットを着込んだ、髪の薄い肥満体の男。

 闇に紛れて、その自転車が通るのを、ずっと待ち構えていた。


「嫌だな。最近、変な人につけ回されているような感じだし。この道だけ暗いから、さっさと抜けちゃおうっと・・・・・・」


   しゃーーーーっ  すいーーっ   ・・・・・・バッ!


「あっ! うわっ! あぶなっ・・・・・・」


   キキイッ!  がしゃあんっ!


 自転車に乗っていた女の子は、飛び出してきた「何か」に反応。

 急ブレーキと急ハンドルによって、大きな音を立てて転倒した。


「痛ぁい。・・・・・・あ。あああ。い、いや・・・・・・」


   ずちゃり  ずちゃりっ・・・・・・


「・・・・・・ぶふふー。ぶふふー。ま、まってた。ぼ、ぼぼ、ぼくの、かのじょだ!」


 近くを通る私鉄列車の明かりで、闇の中にふっと浮かんだ、男の姿。

 肥満体で、だらしない無精髭。ダウンジャケットは清潔感がなく、あちこち汚れている。

 そして、首にはビデオカメラをぶら下げ、左手には何か黒く四角い機械のような物を持ち、右手には、本物か偽物かはわからないが、小さな刃物のような物を持っている。


「騒いだら・・・・・・い、命はないからな。ぼ、ぼぼくの、かのじょ。ぼくのおんなのこぉー」


   ずちゃりっ  ずちゃりっ  ずちゃりっ


 倒れた少女は、その異様な雰囲気の男が一歩ずつ近寄るにつれ、すさまじい恐怖を感じている。

 声を出そうにも、極度の恐怖で震え、声が出せない。


「ずっと、みてた。・・・・・・東高校のおんなのこ、農商のおんなのこ、そ、そそそそそして、柏沼高校の、きみだ。かわいいな。ぼ、ぼぼぼくの、コレクションに、なれぇー」


   ブウンッ!  ビビイィッ  バチイイィッ!


「! ・・・・・・(がくっ)」


 男が四角い機械を少女の太腿に当てると、一瞬で少女は意識を失った。


「ぼ、ぼぼぼくの、かのじょ。ス、スカートなんか、あ、あああ、あついよね。ぼ、ぼぼぼくが、とってあげよう。ぶふふー。ぶふふー・・・・・・」


 伸びた爪に、茶色く汚れた指先が、少女のスカートを剥ぎ取ろうとしていた。


「パ、パンツが見えるぞ。パンツが見えるぞ。・・・・・・パンツだパンツだ。ああああーっ!」


 倒れた少女の黒いスカートを、男の汚れた手が捲り上げようとしていた。

 男はビデオカメラを片手に構え、恍惚の表情で、よだれを垂らし始めた。


   ドヒュウンッ! ・・・・・・ズゴンッ!


 突如、男の後頭部に、どこかから高速で飛んできた夏ミカンがぶつかった。


「い、いいい、いたい! な、なんだぁ! 夏ミカン? な、ななな、なんだぁ?」


 後頭部を押さえ、きょろきょろと見回す男。周辺を見回し、ある方向を向いて、その視線がぴたりと止まった。


「お、おおお、おんなのこが、ふえた?」


   すたり  すたり  すたり  すたり・・・・・・


 路地奥の闇の中から、頭頂部にちょこんと結い髪をしたシルエットが現れる。

 そして、その後ろから、二つに結った下げ髪をした小柄なシルエットが浮かぶ。


「見つけたよ! この変態野郎! お前だね? 最近、市内で女子を狙っているストーカーまがいのやつは! その青い夏ミカンで、頭を冷やせ! この野郎めっ!」

「何かと思ったら、ボールじゃなくて夏ミカンだったのか・・・・・・。小紅センパイ、ボールだと思って拾って投げたよね、さっき? ま、あいつに効果あったからいいけどさー」


 雲間から月明かりが差し、闇夜が照らされ、小紅と水穂が姿を現す。


「ぶふふー。ぶふふー。なんだ、おおお、おめーらは? ぶふふー。で、でででもももも、おめーらも、かわいいおんなのこだぁー。ちょこん髪の、おめー。美人だぁー。ぼ、ぼぼぼくの、好みの顔だぁ。後ろのおんなのこ、おめーも、かわいいなぁー。ぶふふふー」


 男は、ゆっくりと立ち上がり、夏ミカンを拾って小紅に投げつけた。

 小紅は動じることなく、飛んできた夏ミカンを掌で受け止め、闇の中へぽいと放り投げる。


「(うひー。こ、小紅センパイ。こいつ、私、生理的に無理っ! 気持ち悪いよーっ!)」

「水穂は、見てて。あたしも、吐き気がするよ。だけど、そうも言ってられない。そこに倒れてる子を、水穂は救い出して。あたしがこの変態を相手してる間に、うまく、ね?」

「(わ、わかりましたー。あー、もぉー。キモいよ、あいつー・・・・・・。あー、やだぁー)」


 水穂は、両肘をぐいっと伸ばすようにして、眉をひそめながらも準備を整える。

 小紅は、目を見開いて、男に向かって毅然とした態度で立ち向かう。


「ぶふふー。ぶふふふぅーっ。・・・・・・ビデオ、邪魔しやがって。金になるのに、邪魔しやがって。こ、こここーなったら、おめーたちのパンツ、と、とととと撮らせろぉー」


   カチッ!  ブウウゥ・・・・・・ンッ!  バッチチッ! バチバチチチッ!


 男は、何やら手に持った機械のスイッチを入れた。すると、その機械から青白い稲妻のような火花が、音を立てて、小さく光った。


   ずちゃりっ  ずちゃりっ


 一歩ずつ、男は小紅と水穂に近寄ってくる。その距離は、およそ三メートル。



     * * * * *



   サワサワサワサワ・・・・・・

   ササササササァー・・・・・・


 生温い風が吹き、闇夜の中で木々の葉がざわめく音がする。


「(青白い火花? ・・・・・・まさか、スタンガン持ってるのか? ・・・・・・なんてやつだ)」


 小紅は、男が持つ機械に、ちらっと目を向けた。


「(小紅センパイ。あいつ、ナイフっぽい物も持ってます。接近戦は、まずいね・・・・・・)」

「(そうね。・・・・・・スタンガンか。・・・・・・どうしよう。初めて相手するな・・・・・・)」


   ずちゃりっ・・・・・・  ずちゃりっ・・・・・・


 男の足音が、しだいに大きくなる。

 闇夜で、しかも、男が着ているダウンジャケットの色もあってか、遠近感が掴みにくい状況に小紅たちはいる。

 間合いは三メートル弱だと思うが、遠いような近いような感覚だった。


「水穂! あたしが動いたら、同時に横からあの子を救出! いいねっ!」

「や、やるしかないんですね、やっぱり! りょ、了解ーっ!」


   スッ  ススッ


 小紅と水穂は、少し重心を下げ、前傾姿勢をとった。


「ぶふふふぅーっ! ぶふふー。・・・・・・ぶきゃああああああぁーーーーーーっ!」


   ドダダダ ドダダッ  ドスンドスンドスン!


 月が再び雲に隠れ、一瞬、ふっと辺りの暗さが増した時、男はナイフとスタンガンを向け、重々しい足を動かし、猛突進。


「! 真っ正面から来たなぁっ! 始まるぞ、水穂っ! 戦う準備っ!」

「はいっ! 整ってますっ!」


   バババッ!   ダダダッ!


 小紅は男に向かって左手のスタンガン側に、水穂は少女が倒れている右手側の方へ、同時に散る。

 二人とも身体の正中線を保ち、姿勢を上下させることなく、安定した重心移動だ。


「は、ははは、はやいー。な、なんだ、このおんなのこらはぁーっ!」


 男は、二人のスピードに翻弄されるように、血走った目玉を左右にぎょろりと動かす。


「こっちだ! お前の相手は、あたしだよ! この変態め! あたしの町で、とんでもないことしやがって! お前みたいなやつは、絶対許せない! 女の敵だーっ!」

「ぐふふぅー。ぐぬぬー。ば、ばばばば、ばかにしやがってぇー」


 的を絞らせないように、ジグザグに小紅は動き回る。

 男はナイフとスタンガンを振り回し、細い路地の中、鈍い動きで小紅を追い回す。

 なぜか水穂には、目もくれていないようだ。


「だいじ? だめか。まだ、意識を失ってる。・・・・・・よいしょっと・・・・・・。えいっ!」


 水穂は、少女を抱きかかえ、軽い当て身で気合いを入れて、活を入れた。


「・・・・・・けほっ。・・・・・・あ。え? わ、わたし・・・・・・。あれ? 柏沼高校の制服?」

「よかった! あなた、この近くの一年生だね? 怖かったでしょ! もう大丈夫!」

「わ、わああぁーん。ほんと、怖かったです! ・・・・・・あ、あの男は?」

「だいじだよ。いま、やっつけて警察に突き出すから! 小紅センパイが、ちゃちゃっと退治してくれるからね! さ、あなたは、もうここから逃げたほうがいいよ。ね?」


 水穂は、少女に白い歯を見せて明るく笑みを見せる。


「は、はい! で、でも・・・・・・。みなさんは・・・・・・?」

「私らのことは大丈夫。まかせといて! だいじだから。さぁ、急いで、行ってー?」

「わ、わかりました! ・・・・・・怖かった。あ、ありがとうございました!」


 少女は、水穂にぺこりと頭を下げ、自転車を起こして一目散に別道から去って行った。


「ぶふふふー。ぶおおおーっ! うにゅわぁーーっ! ぶふふー・・・・・・」

「・・・・・・女子を、こんな卑劣な道具と凶器で襲うなんて! この、ろくでなしがーっ!」


   キュンッ!  ダシュッ!  ドガアッ!


 小紅の強烈な蹴りが、男の右手首を蹴り上げた。そしてその手から、白刃が闇夜に飛ぶ。


   ・・・・・・カランッ  カララァンッ


 ナイフが、路地の脇にある側溝へ落ちる。

 次の瞬間、小紅の左足は、男の右側頭部へ上段回し蹴りを放っていた。

 黒く短いスカートが、漆黒の闇の中で風を生み出し、ふわりと花開く。


   ギュンッ ・・・・・・ベシイイィッ!


「ぶきょぉー・・・・・・。ぶべぇーっ・・・・・・」

「自分のやったことの罪を、このあたしの蹴りで思い知れ! 変態めーっ!」


   ・・・・・・どしゃっ・・・・・・


 男は、声にならぬ声をあげ、小紅の回し蹴りを受け、その場に膝から崩れ落ちた。


「水穂ー、終わった。こいつ、警察に突き出そう。とんでもなく気味悪いやつだったねー」

「あーもう、夢に出そう! 小紅センパイの鮮やかな蹴りで、気持ちよく終わったけどー」

「狙った子をつけ回すだけじゃなく、スタンガンで意識飛ばして、エロいビデオまで撮ってたなんてな。すっごく最悪だよ! こんなやつが、あたしらの近くにいたなんて・・・・・・」

「ビデオがお金になるとか言ってましたよね? えぇー。キモいーっ! 完全に、犯罪じゃないかー。このブタみたいな男、最低ーっ・・・・・・」


   ・・・・・・ずずず  ・・・・・・ずいっ


「「 え! 」」


 小紅と水穂が話していると、倒れていた男は、その場でふらふらと立ち上がった。


「んぐふふぅー・・・・・・。ぼ、ぼぼぼくのかお、蹴ったな。で、でももも、お相撲をやってたぼ、ぼぼくには、軽いもんだぎゃ。ぶふふー。ぶぐふふー・・・・・・」


   カチッ!  ブウウゥンッ!  バチチッ! バチバチチチッ!


 再び、男はスタンガンのスイッチを入れる。

 そして、ジャケットの懐から、何か小さなスプレー缶のようなものを取りだした。


「こ、このおデブ。小紅センパイの蹴りを受けても、立ち上がるなんて・・・・・・」

「なんだろう、あの缶。・・・・・・水穂、悔しいけど、じーちゃんの言った通りだ。何か、あいつに投げつけるもの、近くにない?」

「小紅センパイ・・・・・・。確かに、得体の知れない物と、スタンガン相手に、素手は無理ね。えーと、投げつける物、投げつける物・・・・・・。わー、暗くて見つけにくいー。やばっ!」

「水穂、早く! 何かない? 何でもいいから!」


 小紅と水穂が、少し焦りを見せる。その隙に、男はスプレー缶のトリガーに指をかけた。


   ・・・・・・ぶしゅわぁーーーーーっ!


「「 うあっ! けほけほっ・・・・・・。な、なにこれ! 」」


 怪しいものを噴霧され、闇夜で苦しむ二人。

 男は足を引きずり、小紅と水穂に向かって不気味な笑みを浮かべ、重々しくゆっくりと近づいてくる。


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[一言] 敵がきもちよいくらいに気持ち悪すぎるね。
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