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B×B×Vampire(ビービーヴァンパイア)  作者: あまがみ
第2章 B×B×Vampire

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B×B×Vampire06

「ハイネ、グリフ!」


 名を呼んで倒れている彼の横に半ば倒れ込むようにして膝を突き、真っ青な顔に両手を添えた。


「……貴方……私、構うな、と……ごぽっ」


 ハイネグリフの口から真っ赤な血が出て来た。


「喋らないで!」


 あぁ、どうしよう。腹に穴が開いている。みるみるうちに足元が真っ赤に染まっていく。これって押さえた方が良いの? すぐに塞がるものなの? こんなの習ったことない。どうすればいいのか分からない。頭がパニックになる。アタシ、どうしたら彼を助けられるの?


「し、死んじゃ嫌だよハイネグリフ!」


 視界が霞む。涙がぼろぼろ零れる。嫌だ。嫌だ。嫌だ。ハイネグリフが死ぬなんて絶対に嫌だ。死なせたくない。


「腹に、穴、くらいで……死にません。もっとひどい、こと……アイゼンバーグ、に」


 そうだ、そうか。アタシなら、ハイネグリフを助けられるじゃないか。そうだよ。アタシは青の吸血鬼だ。アタシの血をあげれば、ハイネグリフの怪我は治るはずだ!


 ポケットに短剣を突っ込んだことを思い出した。幸いなことに短剣は落ちないで入っていてくれて、アタシはすぐに短剣を出した。鞘から抜いて刃を出そうとする。でも手がガクガク震えてなかなか抜けない。


 震えないで。止まって。早く!


 やっとの思いで出した刃を掌に突き立てた。鋭い痛みが走り、割れた皮膚から赤い液体があふれ出す。


「ハイネグリフ! 飲んで!」


 手を彼の唇まで持っていって力いっぱい握って絞った。


 おかしい。力が入らない。なかなか血が落ちてきてくれない。


「うううっ」


 ようやく降りてきた赤い液体が滴り、唇の間から彼の身体の中に入っていった。すぐ腹の穴を確認したけれど、塞がっていなかった。ドッと心臓が嫌な脈を打つ。なんで、どうして? アタシは青の吸血鬼でしょう? なんで怪我が治らないの? まだ契約してないから? 力が弱ってきているから? なんでっどうして!?


「いいねぇ!!」


「ヒッ!?」


 大きな声にビックリした。ローザンヌが叫んだんだ。目を動かすとローザンヌの顔があった。


ガッ


「うぐっ」


 顔を乱暴に掴まれ、手も掴まれた。頭が割れる! 手首が折れる! 何とか頬を掴む手を引きはがそうと自由な方の手で爪を立ててみるけれど、ビクともしない。そもそも身体に力が入らない。


「お前、その匂い! 青の吸血鬼じゃないか! ハハッ! 随分と美味そうな匂いだなぁ! 彼奴の数倍良い!!」


 黒い目がギラギラ光っている。興奮していることが表情や声から分かる。恐い。とてつもなく恐ろしい。ローザンヌは捕食者の目をして、獲物であるアタシを見ている。


 剥き出しの鋭い牙を赤い舌が舐めた。


 ど、と心臓が叫んだ。喰われる!


「ん!!」


 暴れたい。身体を思い切り動かして逃れたい。なのに身体が思うように動いてくれなかった。全身が小刻みに震えている。腕を上げたいのに重くて上がらない。足は完全に動かせなくなってしまった。たぶん、もう、普段通りに動くのは唇だけだ。なんということだ。絶望する。


ドッ


 鈍い音がしてローザンヌの身体が後ろに傾いで離れた。解放されたアタシの身体は人形のように倒れそうになった。そんなアタシの肩に腕が巻き付いた。


「近寄るな……!」


 ハイネグリフの腕だ。彼は低い声で言い放ち、光線銃を乱射した。ローザンヌの身体が霧散する。再びローザンヌは姿を消したが、頭の中に彼の恐ろしい笑顔が焼き付いてしまった。頭の中で獣のような黒い目が嗤っている。


「貴方どうしてこっちに来たんですか! もうほとんど保っていられないのに! しかも自ら血を流してローザンヌを興奮させて!! それは貴方を傷つけるために渡したものではありませんよ!? 私は赤の他人なんですから見捨てれば良いでしょう! 私が死んだって貴方は困らないでしょう!? そのはずです! それなのにどうして助けられなきゃいけないんですか! それも二度も!」


 銃を撃つ手を止めずに一息で言い切るハイネグリフ。ふとハイネグリフも血の匂いを嗅いで興奮しているのかもしれないなと考えながら、アタシはぽつりぽつりと答えた。


「回数、なんて、関係ない。誰か、なんて、関係ない。見捨てたく、なかったから、死んで、ほしく、なかったから、こうしただけ。ハイネグリフが、死ななくて、良かった」


 笑いたかったのに笑えなかった。表情が動かなくなっている。あぁアタシ、このまま死んでしまうのだろうか。灰になってしまうのだろうか。怖い。怖いよ。死にたくないよ。


 アイゼンバーグのところへ走っていっていたら、こんな恐怖を味わわなくて済んだのだろうか。


 もしそうだったとしても、後悔はしていなかった。ハイネグリフが無事だったんだから良かったと思った。あぁでも、アイゼンバーグには最後に何か言ってやりたかったかもしれない。


 ハイネグリフは「大馬鹿者」と言ってアタシをきつく抱きしめた。


「アイ、ゼン、バァァァァグ!! 逃げるな!! 向き合え!! こんな、良い女ッ、ホノカを殺したら、私が貴様を殺す!!」


 アタシの代わりに大きな声で叫ぶハイネグリフ。ハイネグリフの声は彼に届いただろうか。あぁ、もう、アタシ、声も出せない。


「……美しいってやつだろうなぁ。俺には分からないが」


 ローザンヌの声が降ってきた。どこからしているのかは分からない。目を動かして探すことも出来ない。


「貴様は呼んでない!」


 銃の音がいっそう大きくなる。ローザンヌが近くにいることが分かるから、たぶん実体化したんだろう。


 不思議だな。身体が動かない所為か、頭の中が妙にすっきりしている。あらゆる感情で複雑だった心が整理されていくような気さえする。


 鈍い音がしてアタシをきつく抱いていた腕が離れた。支えを失ったアタシの身体はそのまま地面に倒れ伏した。ほとんどが地面という視界の中に、真っ白な手が伸びて来る。ハイネグリフの手じゃない。ハイネグリフの手は大きくて、指がすっと伸びていて綺麗だった。この手はハイネグリフのように大きいけれど、節々としていて、骨張っている。


 アタシは、この手を知っている。


 指がアタシの顎を掬い上げ、頭もろとも身体を起こさせる。手の主の顔が目に入った。


「俺のために絶望しろ」


 真っ黒な瞳がアタシを捕らえている。


 ローザンヌ。


 弓なりに曲がった唇から現れた牙が近づいてきて恐怖が頭の中を支配した。こんな恐ろしいやつ、ごめんだ。みんなを傷つけるやつなんか認めたくない。心は確かに彼を拒絶している。それなのに、同じくらい、期待する気持ちも確かにあるのだ。


ぞぶっ


 首の左側に痛みが走った。生暖かくて柔らかいものが肌を撫でたと思った次の瞬間には強く吸われていた。

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