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B×B×Vampire(ビービーヴァンパイア)  作者: あまがみ
第2章 B×B×Vampire

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B×B×Vampire05

「王という存在は何かしらの方面に秀でているんですよ。我がマスターも屈強な体と自制心は誰にも引けをとりません。黒の王はそれが特殊能力じみた方面に秀でているというだけですよ。言っておきますが、腕力や脚力などの身体能力なら青の王が最も優れていますからね」


「えぇ!? そうなの!? アイゼンバーグってローザンヌよりも馬鹿力でレオより足が速いの!?」


「そうですよ。加えて戦闘経験が豊富です。ローザンヌもですが」


 あの追いかけっこの時の戦いは素人目でもアイゼンバーグとローザンヌが抜きんでていると分かるものだった。とにかく戦い慣れしているのかと思っていたが、まさかそんなアドバンテージがあるとは思わなかった。


「そんなのどうするの?」


「何とかするしかないでしょう」


 言いながらハイネグリフはアタシを降ろした。


「こちらの物理攻撃が効かないということは、向こうも霧になっている状態ではあらゆるものに触れられないということです。狙い目は霧から具現化して身体を得る瞬間ですね」


「そんなピンポイントに狙えるものなの?」


「狙うしかありません。幸い目的がはっきりしているので何とかなるでしょう。良いですか、小娘。ローザンヌが姿を現したら、なりふり構わず走って青の王の元へ行きなさい。何があっても決して振り返ったり立ち止まったりしないように。貴方が青の王の元へ行く時間は私が稼ぎます」


「ハイネグリフは大丈夫なの?」


「他人のことより自分を優先しなさいと何度も言っているでしょう」


 金色の瞳で睨まれた。そんなことを言われたって心配なものは心配だ。アタシのために誰かが傷つく姿はできるだけ見たくない。


 見つめているとハイネグリフは仕方ないといった様子でため息を吐いた。


「大丈夫です。私はマスターの血を分けた黄の吸血鬼です。身体は頑丈ですよ。大抵のことでは意識も手放しません。レオを見たでしょう。あれくらい出来るのが黄の吸血鬼なんです。安心して青の王を追いかけなさい」


 レオの姿を思い出して肺がぎゅっとなった。あそこまでしてくれるというのが分かっているからこそ不安なのだけれど。ハイネグリフまであんなボロボロの姿になってほしくなかった。


 でも、アタシがアイゼンバーグと契約出来なければこれは終わらない。何も策を思いつかないアタシに代わってハイネグリフが提案してくれたんだから、それに乗るのが良いんだろう。何が得策かなんて、アタシには分からない。いや、得策なんて誰にも分からない。アタシが後悔しない選択をするしかないのだ。


 唇を噛んで渋々頷くと、ハイネグリフは「良い子ですね」とふと笑った。ずるいと思うのと同時に「サンダーさんみたい」と慰めてくれたサンダーさんを思い出して思わず口に出してしまい、ハイネグリフの顔は一気に不機嫌になった。


「今度同じことを言ったら二度と話せなくしてやります」


 低い声で言い放つ。ごめんと謝っても許してくれなさそうだった。


「ローザンヌが現れるまでは一緒に行きます。黙ってついて来なさい」


 ハイネグリフはアタシの腕を掴んで引っ張って歩かせた。アタシは黙ってついていく。ハイネグリフの足が長い所為か何なのか、追いつけなくて小走りだ。


「お前に俺の相手が務まるかねぇ」


 くつくつと嗤う声が四方八方から聞こえて来る。変な感じがする。夢の中に迷い込んでしまったような感じだ。


 ローザンヌは中々手を出してこない。こうしてアタシたちが会話しているのを聞いたり、右往左往するのを見たりして楽しんでいるんだ。たぶん彼にとってアタシたちはいつでも蹂躙できる相手なんだろう。弄ばれている。


「ひっ!?」


 突然首の後ろに何かが当たった! と思ったら首を掴まれ、ハイネグリフが引っ張っている方とは逆の腕も掴まれた。


「捕まえたぁ」


 どろりとした声が耳元でした。心臓が跳ね、総毛立ち、そして、身体と心の一部が湧いた。


キュンキュンキュンッ


「走りなさい!」


 光線がアタシの脇を通り過ぎていった。ハイネグリフは放り投げるようにアタシの腕を引っ張って前に出した。アタシはつんのめきながらも足を出し、何とか体勢を整えて転がらないように走った。


 何だろう。思ったより前に進まない。何だか身体が重い気がする。


 足がもつれるようになってようやく気づいた。身体が動きづらい。力が入らない。


「わっ!」


 何もないところでつまずいてこけた。どうしてこんなところで、どうして上手く走れないの、と混乱しそうになる。それでも何とか平常心を保って立ち上がろうとした。


 でも、立ち上がれない。


 足がガクガクして力が入らない。


「うそ……」


 信じたくなかった。嘘だと思いたかった。


 こんなところでタイムリミットなの?


 顔を上げて前を見る。五十メートルくらい先にアイゼンバーグが立っている。走れば数秒で彼のところへ行けるはずなのに、アタシの足は震えて動かない。


 アタシ、もう、走れないの? 彼の元へ行けないの? 嫌だ。何で、どうして、あとちょっとなのに。


「あとちょっとなんだから頑張れよ足!」


 アタシは力いっぱい自分の足を叩いた。震えが一瞬だけ止まる。その一瞬をついて立ち上がり、ぐらぐらする足を踏み出した、瞬間。


「がはっ!」


 くぐもった声が聞こえてきて心臓が跳ねた。後ろから、びちゃびちゃという水音がする。


 ダメだ。振り返ってしまう。あんなに言われていたのに、どうして。


 アタシは振り返った。そうして目に飛び込んで来た光景に絶句した。ハイネグリフの身体がくの字に折れ曲がり、彼の、背中から、真っ赤な手が生えていた。


「黄の吸血鬼は硬いねぇ」


 背中から突き出している手が上がり、ハイネグリフの身体が持ち上がる。手が振られると身体は大きく揺れて、何メートルか飛んで地面に落ちた。


 なりふり構わず走って青の王の元へ行きなさい。何があっても決して振り返ったり立ち止まったりしないように。ハイネグリフはそう言った。アタシはそれに同意して首を縦に振ったのだ。


 何が得策かは分からないから、アタシが後悔しない選択をするしかない。


 アタシが走れるのは、もう、一度きりだ。


 アタシは唇を噛んで走った。足が大きく揺れて真っ直ぐ走れなくて、傍から見るとだいぶ不格好な形だったろう。それでもアタシはそんなことなんか気にしないで、必死に走った。


 数秒で走っていきたかった人の元にたどり着いた。

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