B×B×Vampire04
「くっ!」
ギリギリのところで誰かがレオを捕まえた。良かった! あのがたいの良い男前はフェリックスさんだ! 乱れた髪と破れているうえに血で汚れている衣服が壮絶な戦闘があったことを物語っている。
「レオ、良くやりました。小娘! ローザンヌから離れなさい!」
キュンキュンキュンッ
光線がアタシの鼻先に飛んで来て、ローザンヌは思わずといった様子でアタシを放した。アタシはどぎまぎしながら建物に膝を突き、ほとんど転がるようにしてローザンヌから離れた。
ドンッ
「!?」
瞬間、何か大きなものが飛んで来てローザンヌに当たった。
バゴォォォォォン!
鈍い音の後に頭が割れそうなくらい大きな音が弾け、凄まじい爆風が襲って来た。ちょっと! 体勢が悪くて踏ん張れないんだけど!? 身体が飛ぶ!
「どわぁぁぁぁ!?」
ずりずり建物の上を滑っていた身体が誰かの足にぶつかって止まった。長い金色の髪が目に入って、それがハイネグリフだと分かった。ハイネグリフは身体をアタシに被せるように屈めてくれる。アタシは身体を丸くして爆風が収まるのを待った。
数秒もすると爆風は収まり、辺りにもうもうと煙が立ち込めた。鼻がもげそうなくらいの焦げた匂いと火薬の匂いがする。煙が濃い所為かローザンヌの姿は見えない。
「何なの……」
「彼奴ですよ。遠くからバズーカで狙わせているんです。遠慮なく撃てと指示もしてあります」
「バ、バズーカ……」
彼奴というのはサンダーさんだろう。ハイネグリフはサンダーさんの名前を頑なに呼ばない。それにしてもさっきから何度かしている凄まじい音はバズーカの音だったのか。バズーカを所持していてそれを遠慮なく撃たせるってどうなの。
「怪我してるかな」
「さぁ。生きてはいるんでしょう?」
「死んではないと思うけど」
まだアタシのご主人様センサーは生きている。彼が死んでいないことは何となく分かるのだが、今どうなっているかまでは分からない。それより。
「レオはどうなの?」
黄の吸血鬼なら分かるはずだ。
「あれくらい私たち黄の吸血鬼なら大丈夫です。しばらく動けないとは思いますが大事にはならないでしょう」
大事にはならないということなので少し安心した。吸血鬼は割とすぐに怪我が治ると分かっているので、ハイネグリフの言葉も信じられる。
たぶんローザンヌも怪我をしていてもすぐに治るだろう。
「ローザンヌ! 我々は君を傷つけることも厭わない! いい加減手を引け!」
フェリックスさんの良く通る声が響き渡った。フェリックスさんと彼が抱いているレオの姿は確認できる。でも、ローザンヌの姿はどこにもない。ローザンヌはどこに行ってしまったんだ? 不思議なことに気配もない。
「アイゼンバーグは?」
「え? たぶん行っちゃったと思う」
「どの方向ですか?」
「あっち」
ローザンヌの気配は分からないけど、アイゼンバーグの気配は少し離れているところにあるのが分かる。遠くもなさそうなのでこちらの様子を伺っているのかもしれない。ちょっと悲しい。いや、だいぶ悲しい。
「はぁ。あの男は堅物なんですかね。あの殺し文句を無視できるなんて」
ハイネグリフがため息を吐いてからぼそりと呟いた言葉に引っ掛かった。殺し文句とは何なのか質問しようと口を開いたが、身体を掬い上げられたのでそれは小さな悲鳴に変わってしまった。
「もう一度連れていってあげます。今度こそ色仕掛けでも何でも使ってあの男を落としなさい」
「言い方!」
ハイネグリフは言いながら煙を抜けて走り始めた。さっきアタシが指をさした方向だ。
「無理矢理は嫌なんでしょう? 残っている手段で貴方が何とかできそうなのはそれくらいだと思いますよ。もっともそれも出来るかどうか怪しいですがね」
ちら、と視線を下げてアタシの容姿を確認するハイネグリフ。最低! 絶対今色気がないって思ったなこいつ! サンダーさんとは似ていないと思っていたけど、こういうところは似ているな! 似てほしくないところだ!
「出来なくないよ! やってやろうじゃないの!!」
正直自分に出来るとは思わないしやろうとも思わないのだが、悔しくて言ってやった。するとハイネグリフはふ、と表情を和らげた。
「しけた顔をしているより、その方が貴方らしいですよ。もう少し頑張りなさい。いくらでも支援はしてあげますから」
うわー! 不意打ちだった! ホントもうっ! この野郎めっ!
「そういうとこっ! ずるいと思う!」
「急に何ですか」
すぐにむっとした顔に戻る。こう、普段全然笑顔も見せてくれなくて厳しいことしか言わない人が不意に笑って優しいことを言うのってずるいと思うんだよね。しかもハイネグリフは美人だ。顔も良いなんてずるすぎる。
「今度いかにハイネグリフがずるいのか解説してあげるよ」
「いりませんよそんなの」
建物を飛び降りながらきっぱり断るハイネグリフ。
緊迫した状況だというのに、ハイネグリフがいつもの調子だからか緊張が和らいでいくのを感じた。たぶんこれはハイネグリフの配慮だ。
落ち込んでいた気分が上昇してきた。よし、もう少し頑張ろう。アタシはまた自分を鼓舞した。
視線を上げるとアイゼンバーグが立っているのが見えた。そんなに遠くないところで立ち止まっているようだ。これなら何とかもう一度話が出来そうだ。
そう思った矢先に、背中がピリッとするあの感覚に襲われた。
「ハイネッ」
アタシが声を出すのと同時に気がついたハイネグリフは足を止めてアタシを片手で抱き、空いた方の手で光線銃を撃った。
光線の先にゆらゆら揺れる影があった。光線は真っ直ぐにそれを通過する。光線が影を貫いたようにも、影が割れて光線を避けたようにも見えた。不思議だった。影が形を保っていないように、輪郭がぼやけているように見える。
「どこに行くんだぁ? ホ ノ カ」
ゾ、と肌が泡立った。影が……いや、靄がアタシの名前を呼んだ。ローザンヌの声で。ローザンヌの姿はないのに声がする。どういうことだ? 理解が追い付かなくて口が開いた。
「ローザンヌ、あんた、一体……」
「そういうことですか」
アタシは訳が分からなくて茫然としていたが、ハイネグリフは何かに気づいたようだった。眉間にしわを寄せて彼の顔を見ると、彼は説明してくれた。
「ローザンヌは霧になれるんですよ。レオが猫になるように」
「えっ!? 生き物じゃないものにもなれるの!?」
無茶苦茶だな吸血鬼の世界って!
「そうです。私もマスターから稀にそういう存在もいるということしか聞いていませんでした。まさか黒の王がそうとは思いませんでしたよ。だからローザンヌは気配を完全に消してどこからともなく現れることが出来るんですね。あの姿には物理攻撃も効かないでしょう」
「そんなの反則だよ!」
うそでしょ!? ただでさえ残虐な性格に馬鹿力が上乗せされていてどうしようもないのに、そのうえ霧になって気配を完全に消せて物理攻撃も効かないなんて! ほとんど最強じゃないか! 誰がローザンヌに勝てるって言うのよ!?




