Lonely×Blue×Vampire02
「え!? それって、棺桶!?」
大きな黒い箱が棺桶であることはすぐに分かった。よく絵なんかで見る典型的な六角形の形をしていたからだ。ご丁寧に蓋には十字架まで掘ってある。
サンダーさんは丁寧な動作で棺桶を床に置いた。なんだかシュールだ。リムジンから棺桶が出て来たのもだけれど、こうしてコンクリート張りの車庫に棺桶が置いてあるのも不釣り合いに見える。
「マスターマスター、着きましたよ」
コンコン
サンダーさんが手の甲で棺桶をノックする。するとゆっくりと棺桶の蓋がずれ、中からハリウッド級のハンサムが出て来た。
「フェリックスさん!?」
「やぁ、ホノカ君。ハイネグリフ、レオも無事で何よりだ。サンダージャックもご苦労だった」
柔和な微笑みを向けてくれるフェリックスさん。まだ上半身を起こしたところなので棺桶の中に入っている状態だ。三人は慣れているのか、それぞれ「マスターこそ、お変わりなく」「やっほーご主人サマ」「いえいえ、滅相もございません」などと普通に挨拶をしている。
めちゃくちゃシュール! というかあまりにそれらしすぎる! 吸血鬼が黒い棺桶から出て来るなんて!
「すごい! 漫画みたい!」
「オレも思った」
ハイネグリフは呆れた顔をしているが、この辺りはレオと感覚が一致する。
「ふふふふ。それらしいでしょう! 実際は人一人が入れて外から光を遮断できる物としてなかなか使い勝手が良いだけなのですがね!」
何故かサンダーさんは腰に手を当て、誇らしげに胸を張っている。
「存外に心地の良いものだよ。ホノカ君もどうかね?」
「遠慮します!」
棺桶の中には赤いベルベットのクッションが入っているので気持ち良さそうだが、どこからどう見ても棺桶だからな。心理的な問題で入りたくない。
「使いたくなったらいつでも言ってくれたまえ」
フェリックスさんは言いながら棺桶から出て来た。一生ない気がすると思ったが口には出さないでおく。
「さて。着いて早々だが、今後のことについて話をしよう。時間が惜しい。地下の談話室へ」
アタシたちはフェリックスさんの指示に従って車庫から地下の談話室へ移動した。
地下の談話室は階段を降りてすぐのところにある部屋だった。
フローリングの床に、壁にはぎっしり本の詰まった背の高い本棚が並んでいる。照明は簡易的なもので、温かそうな橙色の光を放っている。アタシの目には書庫のように映ったけれど、一応ローテーブルとソファが用意されているので談話室なのだろう。
フェリックスさんが上座に座った。向かって右奥の一人掛けソファにサンダーさん、左の三人くらい座れそうなソファの奥にハイネグリフが座る。
「レオは彼奴の隣です」
レオがハイネグリフの隣に座ろうとすると、ハイネグリフはレオを追い払った。レオは露骨に嫌そうな顔をした。
「えーっ。サンダーの隣はヤだ。まだハイネの方がマシ。というかハイネがサンダーの隣に行きなよ。オレとホノカでおっきいソファに座るから」
「彼奴の隣なんて私も嫌ですよ。レオが座りなさい」
「おやおや!? 私嫌われてるんですかね!? いやぁ、ショックですね! 私はこんなにもこぉんなにも愛しているのに!!」
サンダーさんが突然立ち上がって両腕を広げ、前からハイネグリフを抱きしめようとした。しかしハイネグリフは仰け反って避け、眉間にしわも寄せて嫌悪感を露わにした。
「気色悪い」
低い声で一言。弟に邪険に扱われるなんて可哀想だ。ちょっとだけ同情する。
「ひどいですね~。心に穴が開きました! それはもう大きな穴が! これはこれは誰かに埋めてもらうしかありません! レオ!」
今度はばっと両腕を広げてレオの方へつま先を向けるサンダーさん。レオは「げぇ」という声を上げて素早くソファの後ろに回り込んだ。
「やや!? 逃げられちゃいましたね! ほうほう、残ったのは……貴方ですねホノカ!」
「ひぃ!?」
サンダーさんが傍観者になっていたアタシの方に向いた! 腕を広げ、にっこり笑った顔で近づいてくる。怖い! 妙ににこにこした顔も怖いけど、サンダーさん大きいから腕を広げると視界がほとんど遮られて怖い!
「ほらほらホノカ~。私の隣が空いてますよ~。何なら膝の上に座っても良いですよ~」
甘ったるい声に肌がぞわっとした。二人が嫌がった理由が分かった気がした。
「嫌です! ハイネグリフの隣に座ります!」
アタシは迫りくる腕を避けてハイネグリフの隣に収まった。
「じゃ、オレはその隣」
レオがアタシの右隣に座る。サンダーさんは残念そうな顔をして「なんとなんと一人になっちゃいましたね!」と言ってから大人しく一人掛けのソファに腰を下ろした。サンダーさんの左隣の一人掛けのソファが空いているにも関わらず、三人が肩を寄せ合って大きなソファに座っているのはアンバランスだ。アタシもレオも移動する気はないけれど。
「では話を始めよう。詳細はすでに聞いているが、共通認識の確認と整理するためにももう一度何があったか話してほしい」
「分かりました。代表して私が話します」
そう言ってハイネグリフは説明をし始めた。
主軸は言わずもがなアタシのご主人様が二人いることだった。それに加えて赤の吸血鬼デインがアタシに接触して探ってきたことや、レオがローザンヌに追いかけ回されたことも話した。ただアタシがアイゼンバーグに拒否されたことは、フェリックスさんの前でも黙っていてくれた。その気遣いが嬉しかった。
ハイネグリフの話が終わって最初に口を開いたのはサンダーさんだった。
「ふむふむ。ホノカのマスターは黒の王と青の王の二人だということですが、勘違いではないのですか? 二人が同時に現れたので感覚が混ざってしまったのでは?」
サンダーさんは顎に手を当てながらアタシに話を振った。こうして真面目な話をしている限りでは、顔がカッコイイこともあって良い男に見える。
「たぶんないと思います。確かにアタシはその時、二人とも大切だって思ったんです。二人のことを心と身体が求めていました」
「ほうほう。見かけによらず大胆ですねぇホノカ。同時に二人の男を求めるなんて、なかなか欲深いですねぇ。そういうプレイがお好みですか?」
「そういうことじゃないです!」
こいつ、このサンダーさんめ! 前言撤回! こいつは良い男でも何でもない!
「ふふふふ。冗談ですよ、冗談。冗談みたいな事実ですからね。しかし、本当にホノカのマスターが黒の王と青の王の二人であるならば、一体全体どうすれば良いんですかね。まさかまさか、二人とも契約しないといけないのでしょうか」
サンダーさんはフェリックスさんに視線を流す。フェリックスさんは足に肘を突き、前のめりになった状態で組んだ手に唇を当てている。何かを考えている様子だ。
「……吸血鬼の主従契約は如何なるものかという根底に関わる事象だ」
ややあって開かれた口から言葉が滑り出て来た。




