Lonely×Blue×Vampire01
走って、走って、走って……。
真っ暗闇の中。何の光もない世界。アタシはどうすればいいのか、どこに行けばいいのか分からない状態だ。それでもじっとしていられず、やみくもに走り続けている。どこに行きつくか分からなくても、足を止めてしまったらもう動けなくなってしまうかもしれないから止まれない。
悲しくて辛くて足を止めそうになったこともあった。けれど、背中を押してもらって、手を引いてもらってなんとか再び足を動かすことが出来た。そうしてようやく求め続けたものに手が届くかと思ったのに。
ダメだった。
拒否された。
こんなにも。こんなにも、君のことを求めているのに。
目を開いた。目尻から一筋の涙が流れていたことに気づき、指で払った。
ずっと大した休みを取ることなく彼を求めて走り続けて、追いうちのように二人を追いかけ回したからか身体が疲れていたようだ。ベッドに倒れ込んでそのまま寝てしまったらしい。変な夢も見た。吸血鬼も夢を見るんだな。
どのくらい経ったのだろう。今は何時だろうか。
視線を窓の外に投げる。まだ空は明るい。次に備え付けの壁掛け時計に目をやると、五時少し前だった。たぶん午後だ。もうじきフェリックスさんたちもここに着く頃だろう。その前に目覚めの悪いこの気分を洗い流すつもりで風呂に入ることにした。
何着か用意しておいた服を掴み、大浴場へ向かった。手早く服を脱いで身体を洗い、湯船に浸かることなく出て来た。
さっぱりした。服もチェックのミニスカートと黒いTシャツに着替えて気分転換を図った。でも気分は思ったより晴れず、思わずため息を吐いた。
「ホーノカ。浮かない顔だね。気分は晴れなかった?」
廊下を歩いていると、どこからともなく現れたレオが隣についた。殴ってやろうという気持ちにはなれなくて、ただ苦笑いした。
「そうみたい。思ったより……」
ショックを受けているみたい、と返そうと思ったけれどやめておいた。レオはアタシがあの後アイゼンバーグと話したことを知らない。アタシが彼に拒否されたことを知らない。話した方が良い気もするのだが、今はまだ話したくない。
「言いたくなったら言うんだよ。オレはいつでも励ましてあげるよ」
パーカーの裾から出た指をアタシの指に絡めるレオ。今回はしつこく聞いてこないみたいだ。アタシの様子から察してくれたのかもしれない。嬉しい気持ちとちょっと恥ずかしい気持ちもあって顔が熱くなった。
「ありがとう。レオの弟っぽいところも好きだけど、そういうお兄ちゃんっぽいところも好き」
応えるように指に力を入れて握るとレオは口元を隠しながらにこっと笑った。
「ようやくオレの魅力に気づいた?」
「レオは最初から魅力的だよ」
「ホノカってさぁ……」
レオは何かを言おうとして言葉を切った。気になって「何?」と聞いてみたけれど、「別に何でもなーい」と言って話してくれなかった。たぶんどうでも良いことだったのだろう。
「そうそう。ちょうどご主人サマたちが着いたみたいだから呼びに来たんだ。地下に行くと思うから、一緒に行こう」
「地下なんてあるんだ」
このお屋敷に地下があったなんて知らなかった。とはいえ間取りを全部教えてもらったわけではないので、アタシの知らない部屋があっても別に驚かない。
「車庫とちょっとした談話室や物置があるんだよ。吸血鬼って王サマじゃなくても陽の光で弱体化するんだ。特にサンダーはわりと苦手みたいで、何事もなければ地下にいることが多いよ。王サマなら陽の光は厳禁だしね。陽の光の届かない地下は吸血鬼にとって安息の場所だから、どのお屋敷にもあるよ」
「そっか、確かに」
なるほど。地下なら太陽の光が届かないので安心だ。そういえばブランのお屋敷にもあった。最初に閉じ込められていた部屋がたぶん地下だった。それにしても、血が薄ければ太陽の下にも出られると聞いていて、実際に出ても何ともないから大丈夫かと思っていたけれど一応弱体化しているんだ。知らなかった。念頭に置いておこう。
レオに歩調を合わせて廊下を真っ直ぐに進む。行き止まりにあった木製の扉をレオが開けると、地下に続く階段があった。階段は途中で曲がっているようで、踊り場が見える。
レオは先に階段を降りていった。アタシもその後に続いて階段を降りていく。階段を降りたところにも扉があって、もう一度レオが扉を開けてくれた。
キィ
するとまた地上と同じような赤い絨毯の敷かれた廊下が続いていた。そのまま廊下を歩いていくつか扉の前を通り過ぎた。そうして行きついたのは、コンクリートで固められた車庫だった。車庫にはハイネグリフがいて、すでに黒くて長いリムジンも停まっていた。ちら、とハイネグリフがこちらを振り向き、すぐに視線を違うところに向ける。彼の視線を追うと、調度サンダーさんが運転席から降りて来るところだった。
サンダーさんの姿に気づいた瞬間、胸がぎゅっと締め付けられた。サンダーさんに言われたことに納得して飛び出したのに、結局お世話になってしまったのが申し訳ない。しかもアタシがポンコツな所為で。
顔を合わせるのが忍びなくてさりげなくレオの後ろに隠れた。レオはアタシの気持ちに気づいているのかいないのか、アタシを背中に隠したまま車に近付いていった。アタシもそれについていく。
「思ったより速かったね。随分とばしたんでしょ?」
「えぇえぇ! 出来るだけ早くつくようにとの指示でしたから! それはもう急ぎましたよそれはもう!」
相変わらず声が大きい。地下だからか無駄に反響して聞こえる。サンダーさんはいつも通り、今日も元気なようだ。
「ハイ、それにレオ、本当に本当に無事で何よりです! それからホノカ! 貴方も!」
「!」
レオの後ろにいたアタシをわざわざ覗き込み、サンダーさんはにっこりと笑った顔を見せた。
「お、おかげさまで……」
驚いて小さな悲鳴を上げそうになったけれど何とか耐えることが出来て良かった。サンダーさんの言動は心臓に悪い。
「ご主人サマは? 起きてるの?」
さりげなくレオはアタシの手を取って移動し、サンダーさんから遠ざけながら言った。
「起きていると思いますよ! 全然寝ていても問題ないと言ったのですが、早々に話をしたいから起きているとおっしゃっていたので!」
サンダーさんはアタシの左隣にくっついてくる。ちょっと気が気じゃないのだが、それよりも気になったことがあったので警戒しつつレオの袖を引っ張った。
「ねぇ、王様って昼間は寝ているんじゃないの? 夕方だけど、まだ太陽は出ているでしょ?」
王様は太陽の下に出られないから眠ると聞いていた。しかし今の話の内容では、フェリックスさんは起きていることになる。まだ姿は見えないが。
「強制的に眠るわけじゃないから、起きていられるよ。あまりにリスクが高いから眠るだけ。ただ、オレたちとは違って一度眠ったら完全な夜になるまで眠り続けるんだ。叩いても起きないし、眠っている間は太陽の光も銀も効かない最強の状態になるんだよ」
「へぇ」
それはすごい。また吸血鬼について一つ賢くなった。
「それで、フェリックスさんはどこにいるの? 車の中?」
窓から車の中を見つめてみたけれど、それらしい姿はない。
「えぇえぇ! マスターは車の中です! 今降ろして差し上げましょう今!!」
サンダーさんは素早くリムジンの後ろに回り込み、ドアを上げた。後ろが開くなんて、リムジンにしては珍しい造りだなと思いながら眺めていると、中から大きな箱のようなものが滑り出て来た。




