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B×B×Vampire(ビービーヴァンパイア)  作者: あまがみ
第2章 B×B×Vampire

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Master×King×Vampire02

 それからしばらく無言で上下運動を繰り返し、再びレオは声をかけてきた。


「オレはね、ちょっと寂しいよ。ホノカがちゃんとした青の吸血鬼になったら、たぶん、ホノカは青の王サマと一緒にどっか行っちゃうでしょ。吸血鬼にはナワバリがあるから、あんまり別の吸血鬼で同じところに集まることってないらしいもん」


 そう、か。そっか、アタシが青の吸血鬼になったらレオとはこんなにも一緒にいられなくなるのか。他の吸血鬼に追いかけられて逃げなきゃいけないなら、この先ずっと、何年も何十年も会えなくなってしまうのかもしれない。追いかけて来る吸血鬼がレオなら別だけど、たぶん黄の吸血鬼がアイゼンバーグを追いかけているのは彼が日本にいるからだ。アイゼンバーグが日本を離れれば、フェリックスさんは追わせようとしないだろう。


 レオと一緒にいられる時間はもうそんなに長くないのか。胸がぎゅっと締め付けられる。


「……レオ」


 呼ぶとレオは振り返ってくれた。


「レオ、ごめんね」


 レオは少し目を大きくした。どうして謝るんだ、という顔だ。


「さっき、あの、レオがお姉さんの血を吸っていた時に、レオを傷つけちゃったから。この先あんまり一緒にいられないなら、このまま謝る機会を逃すかもしれないと思って」


「あー、あれね。いいよ。そんなに気にしてない。あの瞬間はちょっとまずったって思ったけど、ホノカが平気そうだからいい」


 ハイネグリフのアドバイスが効いた。どんな反応をされるのかドキドキだったけれど、案外レオは軽い返事をした。アタシの考えすぎだったみたいだ。


「というか、忠告したのにハイネの傍を離れた方が問題だよ」


「うっ申し訳ございません」


 それについては弁明のしようがない。頭にカッと血が昇って言いたいことを吐き出して喧嘩して二人の気遣いを無駄にした。しかも単独でデインに遭遇するという大失態つきだ。ハイネグリフが来てくれて追い払ってくれたから良かったものの、もう少し彼の登場が遅かったらいろいろバレてしまっていたかもしれない。すでに何か勘ぐられているだろうけど。


「気持ちは分かる。ハイネの言い方、ムカつくんだよね。オレなら取っ組み合いの喧嘩何度かしそうだもん。でもホノカ仲良くなってたよね。なんで? 耐性ついた?」


「耐性なのかは分からないけど、副音声が聞こえるようになった」


「副音声?」


 レオは不思議そうな顔をした。


「そう。ハイネグリフって、口が悪かったりあれだけお喋りなくせして肝心なことは言わなかったりで分かりにくい。けど、ホントは優しいんじゃないかと思ったら言外の副音声が聞こえるようになったの」


「それって幻聴? ホノカの妄想ってこと? ヤバくない?」


 あながち間違っていないから否定できない。でも肯定もしたくない。何か良い返しはないかと考えていると、レオが「まぁ、分かるけど」と呟いた。分かるんだ。


「前にさ、同じ種類の吸血鬼なら何となく気持ちが分かるって言ったでしょ?」


 覚えているので「うん」と返事をした。それを聞いて心を読めるものと勘違いしたやつだ。


「本当は分かりたくもないんだけど、そのおかげで分かっちゃうんだよね。ハイネは冷たい合理主義なヤツと見せかけて、ただのお節介ってことが。アイツ、意外と他人のためになることを考えてるヤツなんだよ。気の良いヤツの振りして腹の内では何考えてるか分かんないサンダーよりずぅっとマシ。何か企んでこっちに来たのかなって思ったけど、やっぱただのお節介だったか」


 レオってサンダーさんのことあまり好きじゃないのかな。そういえばサンダーさんに対して結構当たりが強いというか、投げやりなところがあった気がする。もしかしたらレオもアタシと同じようにサンダーさんに言いくるめられて苦い思いをしたことがあるのかもしれない。


「アタシ、レオやフェリックスさんやハイネグリフに会えて良かった。もちろん、ちょっと怖いけど、サンダーさんにも会えて良かったと思っているよ。だって、こんなにも協力してくれる人たち、他にいないと思う。黄の吸血鬼はみんなお節介なのかもしれないよ」


「そうかもね。何だかんだサンダーも協力するもんね。ご主人サマが誰でも友達っていう器の大きい人だから、そうなるのかも」


「すごいよね、フェリックスさん。ホントに尊敬する。それからみんなのことも」


 アタシにはレオもハイネグリフもサンダーさんもみんなすごい人に見える。アタシも誰かが困っていたらみんなを見習って助けてあげたい。この、見ず知らずの人たちに助けられた経験は、アタシの中で生き続けるのだ。そう思うと身体が熱くなってきて、腹の底が震えて何かが込み上げてきた。


「レオ、アタシも寂しいよ。みんなと過ごした時間は短いけれど、一生忘れられない。もう会えなくなっちゃうかもしれないと思うと寂しい。でも、きっとまた会えるよ。会っちゃいけない理由なんてないんだから」


 寂しいけれど、今生の別れではないことが分かっているから悲観することはない。まだこうして一緒にいるのに次に会えることが楽しみとさえ感じている。レオもそう思ってくれているのだろうか。


「うん、そうだね。幸いオレは頻繁にご主人サマの血を飲まなくても大丈夫な吸血鬼だから、会おうと思えば遠くたって会えそう。寂しいけど、寂しくないかも」


 そう言って優しく笑ってくれた。レオもアタシと同じ気持ちなんて嬉しい。


「アタシもレオに会いに行くよ。二人で半分ずつお互いの距離を埋められれば早く会えるでしょ」


 突然レオが足をついたビルの屋上で立ち止まった。アタシも足を止めると、レオは振り向いてアタシをじっと見つめた。どうしたんだろう、何かあったのだろうかと不安になりながら様子を伺う。するとレオは小首を傾げて呟いた。


「ねぇホノカ。ぎゅってしてもいい?」


 小さい子みたいに可愛くおねだりするレオ。なんだ、そんなことかとアタシは両手を広げた。


「来い!」


「あはは、ホノカ男前ー」


 にこりと笑ってレオはアタシを抱きしめた。腕が身体に巻き付く。アタシも同じようにレオの身体に腕を巻き付けた。


「あー勿体ない。こぉんな可愛い妹分、そうそういないのになー」


 レオはそう呟いてアタシの頭に頬をくっつけた。良い匂いがする。お日様のようだけど、どこか魅惑的な夜の匂いもする、レオの匂いだ。


「アタシもレオみたいなお兄ちゃんほしいな」


 弟っぽさもあるけれど、レオは十分頼れるお兄ちゃんだ。こんなにアタシのために頑張ってくれて、面倒見が良くて、それも頼りがいのあるお兄ちゃんがいてくれたら嬉しい。アタシは長子だから、前々からお兄ちゃんかお姉ちゃんが欲しいと思っていた。


「なんでホノカは黄の吸血鬼じゃないんだろ。もう少し早く会っていて、オレの血を飲んでいれば……ホノカはオレの眷族になったのかな」


 ぼそりと呟いたレオの声が、霧散しずにアタシの頭の中でぐるぐる回った。


 あの時飲んだ血がハイネグリフの血だけだったなら。もしくはあの時、何も飲まされず、あの廃墟に人間として放置されていたら、レオと出会って吸血鬼になっていたかもしれない。あるいはもっともっと、全く違う出会い方をして……。胸が苦しくなってきた。


 穏やかで幸せな未来が簡単に想像出来る。自分が黄の吸血鬼なら、ハイネグリフの眷族なら、レオの眷族なら、きっとアタシの望みである穏やかな生活を手に入れられる。運命というものは残酷だ。現実はその幸せな未来を全て否定している。


 それでも何故か、アタシはこれでいいと思っていた。きっとあの日、あの真っ暗な空の下で出会った青い目が、アタシの何かを決めてしまったのだ。


 レオの腕がゆっくりと解かれた。


「勿体ないけど、青の王サマのところにお姫サマを届けないとね。早く届けてあげないと、魔法が解けちゃう」


 いつものように袖で口元を隠してレオは笑った。


「さ、ホノカ頑張って。もうちょっとだよ」


「うん、ありがとうレオ」


 お礼を言うとレオは嬉しそうな顔をした。そうして再び夜の闇に飛び出したので、アタシもその背を追って飛び出した。


 レオがいなかったらアタシは何も分からず灰になって死んでいたかもしれない。アタシを見つけてくれてありがとう。アタシに世話を焼いてくれてありがとう、レオ。アタシは何度も心の中でお礼を言いながら走った。


 心臓の鼓動が大きくなっていることに気づいて胸を押さえた。抱きしめられたからだろうか。男の人に抱きしめられるなんて、高校生をしている時は無縁だった。もしかしたら人生最大のモテキが来ているのかもしれないと思うとちょっと嬉しくなったけど、すぐに冷めた。モテキが来たって好きな人に振り向いてもらえなければ意味がない。


 そんなことを考えながら二つ分の建物を越えると、突然背中にビリリと電気が走った。


 バクバク心臓が鼓動するのに合わせて頭がぎゅっと締め付けられる。


 何だ、この感覚は。変な感じだ。高揚感でもなければ緊張感でもない。何かと問われると難しいが、焦燥感に似ている気がした。


 自然と足に力がこもる。強く屋根を蹴ってより遠くへ飛ぶ。速く足を動かして進む。そうしなければいけない気がしていた。早く、早く、と気持ちが急く。


「ホノカ、どうしたの?」


 アタシの異変に気づいたレオが斜め後ろから声をかけてきた。いつの間にか先導してくれていたレオを抜いていた。


 でも分かる。自分が向かわなきゃいけない方向が分かる。


「レオ、向こうに、何かっ」


 アタシを呼んでいるものがある。


「ホノカのご主人サマがいるんだね。分かった。急ごう」


 アタシが全部を言い切る前にレオは察して加速した。アタシも加速する。


 心臓が早鐘を打っている。息が荒くなってくる。走っているからではない。吸血鬼に呼吸はいらないから。興奮しているのだ。


 あぁ、感じる。もうすぐそこだ。すぐそこにアタシが求めているものがある。いる。そこにいるのが分かる。一際大きなビルの屋上。あそこだ。見えていなくても感じる。ようやく会えるんだ!


 不思議だ。どうしてこんなにも気持ちが昂るのだろう。これが吸血鬼の主従関係? ご主人様が分かるって、こういうことなの? こんな気持ちになるなんて思わなかった。未だかつてこんなにも何かを求めたことはない。夢中になったことはない。確かにすごい反応だ。化学変化も目じゃないくらい。


 早く。早く会いたい! 早くアタシの存在に気づいてもらいたい!


 あともう少し。あと数十メートル。あと、数メートル!


 アタシは一際高く大きなビルの屋上に降り立った。


 あぁ、あぁ……なんてことだ。


 向かい側の端に、あの吸血鬼が立っている。白い髪に青い目をしたあの吸血鬼が、全身を真っ赤に染めた彼が、こちらを凝視している。その隣には真っ赤な長髪をした黒い目の吸血鬼が立っていた。


 涙が頬を伝った。


「ホノカ?」


 レオが隣で心配そうな声を出す。


「レオ、アタシ、どうしよう……」


 アタシの頭は混乱していた。


「アタシ、自分のご主人様が分からない。どっちがアタシのご主人様なのか分からない……!!」

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