Hot×Cold×Vampire10
「アンタなんか変人でしょうが! 空気読めない! 独り言多すぎ! 顔怖すぎ!」
「馬鹿 無能 頓馬 間抜け 阿呆 愚鈍」
「!? すっとこどっこい! 不愛想! いじわる!」
「不用心。隙だらけ。油断しすぎ。脇が甘い。自分が狙われていることぐらい気づきなさい。自分の身ぐらい自分で守る努力をしなさい!」
「してるけど!」
「デインに誘拐されそうになっていながら何を言っているんですか! 私が来なかったら貴方は今頃赤の王のところですよ! もう貴方に残された時間はほとんどないんです。今赤の王に拘束されたらそこで灰になるしかないんですよ!? 分かっているんですか!?」
「分かってるよ! だからこれ以上近付いてくるなら殴ってやろうとしてた!」
「遅いんですよ! 先手を打ちなさい! 近付かれる前に牽制しなさい! 貴方はどうしてそう他人をすぐ信用するんですか! 無防備にも程があります!」
「無防備じゃないってば!!」
「どの口がっ!」
「うぎゃっ!?」
突然ハイネグリフの長い足が内側からアタシの左足を刈り取った! そのままバランスを崩したアタシの襟元を押してくる! た、倒される!!
「言うんですかっ!!」
「うにゃっ!?」
襟元を押していた手が反対に服を掴んで引っ張ったので倒れずに済んだ。ただ身体は大きく揺さぶられ、足払いをされたので足の裏は地についていない。アタシの身体はハイネグリフの腕一本で支えられている状態である。
「びびび、びっくりさせんじゃないよ!!」
心臓がバクバク鳴っている。
どうして突然こんなことをするんだ! アタシはハイネグリフを睨んでやった。
「どこが無防備じゃないんですか。こうしてすぐ倒されるくせに!」
「それはだってハイネグリフが柔道みたいなことしてきたからでしょうが! 会話の途中に! 避けられるわけないでしょ!? そういうところが空気読めない!」
「倒される方が悪いんですよ! 組み敷かれて逃げられなくなっても知りませんからね!」
「理不尽! いいでしょもう! 困るのはアタシだけなんだから!! アタシが倒されようが組み敷かれようがハイネグリフは何も困らないからいいでしょ!!」
「困るから言っているんでしょう!」
「何で困るのよ!」
「借りを返すことが出来ないからですよ!」
え?
「……借りを返す?」
頭が噴火しそうなくらいの怒りが一気にしぼんでいった。借りを返すって、それは一体、どういうことだ?
ハイネグリフは彼にしては珍しく、しまったという顔をしてアタシから目をそらした。言い合いが白熱して思わず口をついて出てしまったようだ。
「何の借り?」
もう一度聞き返す。アタシの空耳でなければ、ハイネグリフの口から飛び出した単語だ。
ハイネグリフはしばらくどこかを睨んだまま黙っていたが、観念したのか小さく口を開いてため息を吐いた。
「助けてもらったお返しですよ。放っておかれてもいずれ回復したでしょうが、貴方にはその血を分けてもらったという借りがあります。そのお返しですよ」
「えっ。ハイネグリフってそういうのお返しするような人なんだ」
「失礼ですね貴方」
「どの口が言うか」
さっき言われた台詞を返してやるとハイネグリフは仏頂面になった。
「うわっ」
ドッと尻餅をついてしまった。ハイネグリフがアタシの服を持っていた手を離したからだ。
ちくしょうまたやられた。ちょっと悔しくて下から睨んでやる。
この人、一応敬語を使っているけれど内容は少しも丁寧じゃないうえ、人の扱いも雑だ。話さなければ女性と見まごう容姿の綺麗さや敬語らしきものを使っているところに騙されちゃいけない。
「誰かに借りを作るのは嫌いなんですよ。落ち着かないんです。……ただそれだけのことです。レオはきっと下心のない恩返しでしょうけど」
「レオが恩返し?」
ハイネグリフは馬鹿にしているような顔をした。もうこの顔もお馴染だな。最初はムカついたけどもう慣れてきた。
「貴方レオを助けたんでしょう。私でさえ借りを返そうとするんです。あの人間寄りの吸血猫が考えないわけがありません」
「なるほど、そういうことか」
吸血猫という言葉に引っかかったが軽く流すことにした。
レオが言っていたお返しってそういうことだったのか。アタシに助けられたお礼にフェリックスさんやサンダーさんを説得してアタシを助けてくれているのか。なんだ。そんなこと気にしなくても良かったのに。そもそも助けられて恩返ししなきゃいけないのはアタシの方だ。ハイネグリフだって、アタシがやりたくてやったことなんだから気にしなくても良かったのに。
「律儀だなぁ」
レオもハイネグリフも。吸血鬼はそういう義理人情なんて気にしないと思っていたけれど、結構気にするんだな。人によりそうだけど。人間と同じで吸血鬼だからってひとくくりにしてはいけないんだなぁ。
「律儀も何も、私は私の利益のためにやっているだけです。間違っても義理堅いなどという勘違いをしないように」
ふん、と鼻を鳴らしたハイネグリフが「別にアンタのためじゃないんだからね」と言ってそっぽを向くツンデレヒロインに見えた。見えてしまった。
「そっか。うん、分かった」
ここで無理に何かを言うとまたハイネグリフの機嫌が悪くなりそうだったからやめておいた。素直にお礼だけ言って立ち上がろうとする。するとハイネグリフはアタシの二の腕を掴んで引っ張ってくれた。ちょっと雑だけど、手を貸してはくれるんだな。
「ありがとう。……あー、なんかスッキリした」
アタシはお礼を言ってから背筋を伸ばした。
レオやハイネグリフがどうしてアタシを助けてくれるのか分かってスッキリした。それにハイネグリフと言い合って、欝々と溜まっていたストレスが発散されたというのもある。しかも面白い副産物も得た。ハイネグリフがツンデレかもしれないという見解だ。なんだか面白くなってきた。
「礼を言われる筋合いはありません」
たぶん、こうだな。『別にあんたのためなんかじゃないんだからね』
「アタシが言いたかっただけだよ。ハイネグリフが自分勝手にやっているのなら、アタシだって勝手に感謝してもいいでしょ?」
「軽々しく感謝を口にするのはやめなさい。私はむしろこれをどう手玉に取って利用してやろうか考えますからね」
これは『そういう風に考える奴もいるから気をつけてね』ということだな。
「ふふ。いいよ別に。ハイネグリフならなんか大丈夫そう」
アタシが笑ったからか、ハイネグリフは眉間にしわを寄せた。
「何を根拠に言っているんですか。先程も言いましたが、貴方は他人をすぐに信用しすぎです。私は以前貴方に銃口を向けたんですよ。今は状況が違いますがね。しかしその考え方ではこれから通用しませんよ」
副音声『状況が違うからもう自分が襲うつもりはないけど、違う人には襲われちゃうから油断しないようにね』
「OKOK大丈夫。ハイネグリフって優しいね~」
思わずにやけてしまう。なぁんだ。表情は怒っているか仏頂面だし、小姑みたいなことばっかり言うから鬱陶しいなと思っていたけど、ただお節介なだけなんだハイネグリフって。優しいじゃないの。




