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B×B×Vampire(ビービーヴァンパイア)  作者: あまがみ
第2章 B×B×Vampire

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Hot×Cold×Vampire05


 ハイネグリフと別れたアタシはレオを探していた。そこはハイネグリフの言う通り、アタシ一人では危険だと判断したからだ。それにレオは善意でアタシに力を貸してくれていることを知っているので頼りやすいというのもある。レオはいつも見返りを求めずに手を差し伸べてくれるからその手を取りやすい。アタシが出会った中で一番人間らしい思いやりを持った吸血鬼だ。レオなら絶対ハイネグリフのように情や人なんて捨てればいいなどとは言わない。あんなに優しい人が近くにいるのに、どうしてハイネグリフはあんなにも他人に興味がないのだろうか。吸血鬼になる前に何かあったのだろうか。それにしたってあの態度はない。あぁ、もう。彼のことを考えるともやもやしてくる。


 やめよう。彼のことを考えるのは。アタシは軽く頭を振って切り替えることにした。


 今はレオを探すことに集中しよう。アタシは眼下を見渡した。


 工場の煙突の縁に立ち、高いところから深夜に近い街中を見下ろす。吸血鬼もどきになって肝が据わったのか、もう高いところが怖いとは思わない。それに吸血鬼もどきになったアタシの目はどんなに暗くても、どんなに遠くても鮮明に世界を映し出せる。何かを探すにはうってつけの場所だった。


 たぶんレオはここからアタシが見渡せる範囲にいると思う。そう遠くないところにいるのではないか。デインがレオを見かけたみたいなことを言っていたから。


「あ!」


 黒髪を下の方で一つにまとめたレオっぽい姿を見つけた! やった! 吸血鬼の目ってすごい! アタシってすごい!


 沈んでいた気分が一気に上がった。アタシはわくわくした気分で煙突から飛び降り、家々を一気に飛び越え、地面に着地すると周りを気にせずに走った。レオを見つけたあたりで速度を人間と同じくらいにする。レオがいたのはほとんどシャッターの閉まった商店街で、人間の気配があったからだ。深夜に近いというのにちらほらと人がいる。歩いている人もいれば、地面に座っている人もいる。見える範囲で十人前後だが、アイゼンバーグたちがあの死闘を繰り広げるには人が多すぎるように思えてならなかった。それに建物も密集している。アタシの覚えている限り、彼らはよく相手をふっ飛ばしたりして建物を壊していた。そんな彼らが戦いの場所にこの辺りを選ぶとは思えない。レオはどうしてこんなところにいるのだろうか。


 夜のアーケードにはどこか異様な雰囲気がある。ここがどうかは知らないが、アタシの知る昼間のアーケードはもっと華やかだ。昼間は賑わっている場所だと知っている分、こうして閑散としていると別世界に迷い込んだような気さえする。


 比較的広い通りを歩いていてもレオを見つけられなかったので脇道に入った。


 少しメイン通りを外れただけでぐっと街灯が減る。路地は一段と薄暗い。それだけで不安になる。暗くてどこから何が現れるのか分からないからだ。それから、街灯がないということはそれだけ人の手が加えられていない場所、つまり無法地帯だという気がしてならないからだ。狭くて暗い、人の寄り付かないところを選んで建っているお店にも警戒してしまう。ほとんどの店が閉まっている時間帯に開いているというのも警戒心を刺激する。まぁアタシは吸血鬼もどきだから、これくらいの暗さならはっきり物を認識できてしまうのだけれど。雰囲気には飲まれそうになる。


 注意深く辺りを見渡しながらいくつか角を曲がった。すると、十何箇所目の角でレオらしき髪型の人影を見つけた。


 レオだ! アタシは確信した。


 見た目には正直自信がない。特にレオは目立つ見た目でもないからいくらでも見間違えそうだ。でも、分かる。あれはレオだ。だって、気配が人間とは全く違っていたから。


 人間と吸血鬼の気配は違う。吸血鬼の気配は背中がピリッとするというか、異質なものがあるという感じがする。対して人間は柔らかいというか、温かいというか、そういう感じがするのだった。感覚的なものだから上手くは言い表せないけれど、とりあえず、今の私は吸血鬼と人間をある程度近付きさえすれば判別できるようになっていた。


 でも、何だろう。人間の気配もする。それから香水、だろうか。レオの消えた方からさわやかなような甘いような香がする。これはレオの匂いじゃない。一体全体誰の匂いだろうか。


 考えながらレオが入っていった曲がり角を覗き込んだ。


「レオ? わっ!?」


 しまった、最悪だ。アタシ、完全にタイミングを間違えた!


 レオは黒髪の女の人を壁に押しつけ、首筋に顔を埋めていた。


 ぼっと一気に顔が熱くなった。最悪だ。アタシ、空気の読めない最悪なやつだ。女物の香水って気づけよ私! そして察しろよ私!! ホント、間が悪すぎる!


 慌ててその場を去ろうとした。アタシには他人のそういう場面を観察する趣味はない! 断じて! ちょっと気になるなんて思ってない!


「ホノカ……? なんで、ここに」


 名前を呼ばれて思わず振り返ってしまった。


 振り返って、後悔した。


 ひどく綺麗で、恐ろしい光景だった。


 レオの唇がグロスを塗ったかのように赤く艶めいている。ギラリと光った金色の目と、どこか上気した頬。はぁ、と銀色の牙から漏れた呼気には鉄の錆びたような匂いが……。


「っ!」


 思わず悲鳴が弾けそうになって両手で口を押えた。


 女の人はレオに寄りかかったまま動かない。心臓の音がするから死んではいない、けど、全然動かない。


 ぞくっと背中が泡立った。


「……怖い?」


 少し後ろめたそうな顔でレオは首を傾げた。


 答えられない。口を開いたら悲鳴が出てきてしまいそう。


「絶対ホノカ怖がると思って別行動にしたんだけど……来ちゃったのか。何? ハイネと喧嘩でもしたの?」


 レオは優しい笑みを浮かべて一歩近づいてきた。するとレオが腕に抱えていた女の人の身体が力なく翻った。


 だらりと下がった腕に折れ曲がった足。目の閉じられた顔は青ざめていて、首には二つの小さな穴が空いていた。


「ひっ」


 歯の隙間から漏れたアタシの悲鳴を聞いた瞬間、レオは悲しそうに笑った。


 頭を何かで殴られたような衝撃が走った。ズクンと胸の奥が痛む。あぁ、アタシってホントに馬鹿。どうして気づかなかったのだろう。レオが女の人の首に顔を埋めている時点で気づくべきだったのに。


 いや、違う。もっと前に……ハイネグリフがレオと別行動にしようと提案した時に察するべきだった。わざわざアタシをレオから遠ざけ、ハイネグリフがアタシのお守をすると言った時にレオがアタシから離された理由を考えるべきだった。二人は吸血行動が苦手なアタシのことを考え、怖がらせないようにしてくれていたのだ。


 アタシは二人の気づかいを反故にした。最悪だ。ハイネグリフに説教する筋合いなんてなかった。ホントにアタシは馬鹿で、世間知らずで、考えが足りない。


 アタシってひどいヤツ。


「怖がらせちゃってごめんね?」


 悲しい笑顔を向けるレオの顔が見られない。


「ホノカ大丈夫?」


 優しい声をかけてくれるレオに答えられない。


「……ホノカ」


 レオが一歩を踏み出したのでアタシは思わず後ずさりしてしまった。どうして後ずさりなんてしたんだ。相手はレオなのに。


 自分でも驚いて見開いた目に、ショックを受けた顔をしているレオの表情が映った。


 これ以上ここにいてもレオを傷つけることにしかならない。これ以上レオみたいに優しい人を傷つけたくない。


 アタシは無言で踵を返し、すぐに走り出した。


「ホノカ待って!」


 後ろからレオの大きな声が聞こえたけれど、足を止めなかった。減速もしなかった。近くに人間がいるかもしれないということも忘れ、一心不乱に足を動かした。


 ダメだ。ダメだダメだダメだ。今のアタシはレオの前にいられない。


 レオを怖いと思ってしまった。あんなにも優しい人のことを、怖いと思ってしまった。レオの優しさは分かっているのに、どうして、アタシはそんなことを思ってしまったのだろう。どうしてアタシは彼を悲しませるようなことをしてしまったのだろう。アタシは救いようのない馬鹿だ。


 自分のことを罵りながら走り続けた。


 サンダーさんに言われてお屋敷から飛び出した時とは違う。お屋敷から飛び出した時は、とにかくこういう状況になってしまったことを呪った。そうして無理矢理自分を納得させる言葉を探し続けた。でも今回はずっと自分を罵倒し続けた。「でも」や「だって」を使って言い訳をしそうになる気持ちを押さえつけ、ダメだと一刀両断した。


 馬鹿で無知で考えの浅い自分が嫌だ。直したい。どうにかしたい。でも今更どうにもならないんじゃないか。頭の良さなんて持って生まれたものだろうし、後付け出来るとしてももう遅い気がする。もっと、小学生とか中学生の間に気づいていれば変われたかもしれないけど、アタシは高校生。高校生って、もうだいぶ大人だ。何が悪いかの判断がついて当たり前で、世の中のシステムについて理解したり考えたりするのも当たり前の歳だ。そんな大人が今更何かを変えられるのだろうか。アタシ、変われるのだろうか。

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