Yellow×Rose×Vampire01
フェリックスさんのお屋敷に帰ってきて半日余りが過ぎようとしていた。車の中で一度朝を迎えた空は、もう暗くなり始めている。
あれからお屋敷に戻ってくると、フェリックスさんは眠りについていた。純系吸血鬼である王様は陽の光を浴びると灰になってしまうそうで、陽が出ている間は眠りにつくのだと言う。眠っている間は太陽の光を浴びても大丈夫だそうだ。
眠る必要のないサンダーさんはハイネグリフの様子を見に行った。最近の陽の出ている時間はハイネグリフのところかフェリックスさんのところで時を過ごしているんだそうだ。レオが言っていた。
レオはというと、いつもはふらふら出かけるらしいのだが、今回はそうはいかなかったので部屋で休んでいる。王様以外の吸血鬼は眠る必要がないらしいけど、身体が弱っているときは例外なようで、休息が必要なんだそうだ。レオは十年ぶりくらいにゆっくり寝られそう、と言って眠りについた。
アタシはというと、レオにまた新しい服を借りて着替えてからは思考の海に溺れていた。少しだけハイネグリフの顔を見に行こうかとも思ったのだが、兄弟の会合を邪魔しては悪いと思って遠慮した。
「アタシ、どうしたら良かったんだろう……」
お屋敷の庭に植えられているバラの植え込みの前で座りながら、独りごちる。
レオとサンダーさんと別れてからずっとこうして考えている。……フェリックスさんたちがどのタイミングで帰ったのかは聞いていない。なんだか聞くのが怖かったからだ。けど、サンダーさんが迎えに来てくれたのだから見捨てられたわけではないんだと思っている。
「はぁ……」
アタシはため息を吐き、足と足の間に顔を入れてうなだれた。人は一人になると無駄に考えてしまうものだ。アタシは化け物だけどそれは変わらなかった。
「ホノカ、元気ないね」
後ろから話しかけられて顔を上げた。レオが黒のパーカーの袖で口元を隠してアタシを見下ろしていた。グレーのズボンをはいて二本足で立っている。
「レオ、もう立てるようになったの?」
驚いて問いかけるとレオは「そ」と言いながらアタシの隣に座った。
「まだ走れないけどね。血を飲めば早く治るんだけど、オレ、あんまり血飲みたくないんだよね。味は嫌いじゃないんだけど。積極的に飲もうとは思わない」
「そうなの?」
「そうなの」
レオはアタシの言葉を繰り返した。吸血鬼はみんな血を飲むのが好きだと思っていたんだけど、そうではないようだ。そういえばブランは美味しそうに飲んでいたけど、フェリックスさんもブランのお屋敷で出された血を飲むのを断っていた。
「もしかして、レオたちはあまり血を飲まない吸血鬼なの?」
ブランは血を飲むのが好きそうだったから、種類によって違うのかと思った。
「そ。オレたち黄の吸血鬼は血への耐性があるんだよ。他の吸血鬼は血の匂いを嗅いだだけで襲いかかったりするんだけど、オレたちは制御できる。それから他の吸血鬼は毎日血を飲まなきゃいけないけど、オレたちは三日に一回くらいでいいんだよね。だからご主人サマと長時間離れても大丈夫。他の吸血鬼はご主人サマの血を一週間に一度は飲まなきゃいけないけど、オレたち黄の吸血鬼は一カ月に一度くらいで大丈夫ってわけ」
その代わり傷の治りは遅いんだけどね、とレオは付け加えた。アタシは十時間くらいで粉々になった骨をくっつけて歩いているヤツが何を言っているんだ、と思ったのだが、確かにとも思った。あの日、追いかけっこに巻き込まれた日、何人か骨を折られたり致命傷ではないかという傷を負ったりしていてもすぐに追いかけてきていた。それを思えばレオは確かに傷が治るのが遅い。
「ふぅん……」
アタシは膝を抱えた。
「……アタシも黄の吸血鬼が良かったなぁ」
ぼそりと呟くとレオはなんでと聞き返してきた。
「だってアタシも血、飲みたくないもん」
血なんか飲みたくない。ゴブレットに入った血、それからあの男の子の流した血を思い出してアタシは身震いした。あんなもの、飲みたいと思えない。
「ふぅん。ま、赤の吸血鬼じゃないみたいだからそれは良かったんじゃない? もうあんなの着なくて良いでしょ」
レオを睨んでやるとレオはにんまりと笑った。
どうやらアタシは赤の吸血鬼ではないらしい。よく分からないけど、もし赤の吸血鬼ならブランの傍を離れようとは思わないらしいのだ。アタシはあの場から逃げ出してきたから赤の吸血鬼ではないだろうとサンダーさんは言った。確かにネグリジェを着せられるのはもう嫌だったのでそれで良かったと思う。
「それがホノカの悩みなの?」
「え?」
小首を傾げるレオと同じようにアタシも小首を傾げた。悩み?
「ホノカ元気ないでしょ。悩んでいるのかと思って。自分のご主人サマのこととか、血を飲みたくないのにこれから飲まなきゃいけないから悩んでいるのかなーって思って」
なるほどそういうことか。アタシは納得した。
「それもあるけど、さっきのはちょっと違うかな」
小さな声で言うと、レオはふぅんと言った。
「じゃ、なんで元気ないの?」
結構ぐいぐい来る……。何となく話したくないと思ったんだけど、じっと見ているレオに気づいて諦めることにした。たぶんこの感じだとレオはアタシからホントの悩みを聞きだすまで粘るつもりだ。
「……アタシは正しかったのかな、と思っただけ」
「どういうこと?」
それだけで話を終わらせようと思ったんだけど、無理そうだった。アタシは抱えた膝の上に顎を乗せた。
「アタシの目の前で男の子が殺された。それからアタシが戻る選択をした所為であのお屋敷のメイドさんが何人か……死んだでしょう? それがね、結構辛くて。アタシの所為でみんな、死んじゃったから。アタシの選択は正しかったのかなって思ったの」
声が震えてきた。言葉にするとその事実が重たくて、涙が零れそうになった。




